プラスミドDNAの発酵から精製まで:ねじれを守る装置と資材の選び方

プラスミド大腸菌の中で複製・増幅させる環状DNA。核酸医薬やベクター製造の伝統的な出発材料。詳しく →DNAの製造では、環状DNAが負にねじれた閉環状の二本鎖、スーパーコイル体(supercoiled、ccc)の割合が品質の中心です。片方の鎖に切れ目が入って緩んだオープンサーキュラー体(OC体)や、直鎖体は不純物として扱われます。
ただし、大腸菌がよく育ってもスーパーコイル体の割合が規格に届かないことがあり、発酵、アルカリ溶菌、クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →のどの工程でもねじれはほどけます。
この記事では、宿主株と骨格の選び方、発酵で見る条件、アルカリ溶菌の混合、クロマトグラフィーの樹脂の数字の読み方を順に説明します。
1. 宿主株と骨格 ― endA/recA欠損と、抗生物質を使わない選択
宿主には、DH5αのような大腸菌の実験室株がよく使われます。効いてくるのは、endAとrecAの変異です。
endA遺伝子は、精製の途中でプラスミドに切れ目を入れる酵素(エンドヌクレアーゼI)をつくります。これを欠いた株は、スーパーコイル体がOC体に変わるのを抑えられます。recAを欠いた株は、DNAの組み換えが起こりにくく、AAVプラスミドの両端にある折り返し配列(ITRAAVゲノムの両端にある逆位末端反復配列。複製とパッケージングのシグナルとして働き、この間の配列がカプシドに詰め込まれる。詳しく →)のように、欠けやすい構造が保たれます。

骨格の側では、選択マーカーの決め方が論点です。研究用なら抗生物質の耐性遺伝子で足りますが、医薬品用では、耐性遺伝子や抗生物質の残りを避ける設計が望まれます。
AldevronのNanoplasmidは、抗生物質ではなく小さなRNAで選択する方式と、500 bp未満に小型化した骨格を組み合わせた製品です。会社は同じ配列を自社の系へ載せ替えて、研究用からGMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく →まで製造すると説明しています。
選択マーカーは規制対応に直結するため、開発の早い段階で方針を決めます。
宿主株の選び方は、「よく育つ株」ではなく「スーパーコイル体を壊さず、配列を保つ株」です。endA欠損は精製中の切れ目を、recA欠損は反復配列の組み換えによる欠失や多量体化を抑えます。
2. 発酵 ― 菌を増やす槽ではなく、ねじれを守る培養
発酵の目的は、プラスミドを高いコピー数で、ねじれを保ったまま、多くの菌体に蓄えさせることです。収量と品質は、しばしば反対を向きます。
基本は高密度の流加培養培養の途中で栄養(フィード)を追加しながら細胞を高密度まで育てる培養方式。詳しく →で、炭素源をいちどに入れすぎると酢酸がたまり、増殖もプラスミドの維持も妨げます(高密度発酵と酸素供給、発酵培地とフィード設計)。菌をあまり速く増やすと、菌1個あたりのプラスミドが減る傾向があります。
そこで、増殖を抑えて菌体を育て、あとからプラスミドを増やす二段階の考え方が使われます。Nature Technology社の特許と論文に示された例では、30 ℃で増殖を絞って菌体を育てたあと、高コピーのpUC系の複製起点が高温でコピー数を増やす性質を使って、42 ℃に切り替えています。
この例では1 Lあたり1.5〜2.1 gのプラスミドが得られ、96%以上がスーパーコイル体だったとされます(開発した会社の結果です)。
槽を選ぶときに見るのは、総容量の数字ではなく酸素です。大腸菌の高密度培養菌体を高い密度まで増やして、容積あたりの生産性を高める培養。詳しく →は酸素の要求が大きく、槽の酸素移動能力(kLa)が先に限界に達します。酸素の供給が揺れると、プラスミドが不安定になるとの報告もあります。
もう一つ、槽は満量では使わないので、どこまで少ない液量で運転できるか(ターンダウン比)で、実際に使える範囲が決まります。小さい仕込み量での酸素移動や混合は、満量のカタログ値とは別の値です。ステンレスの多回使用機とシングルユース使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →機は、どちらが正しいという話ではなく、初期投資と洗浄・滅菌の手間を取るか、汚染リスクの低さを取るかで決まります(シングルユースとステンレスの比較)。
代謝の状態は、排ガスの酸素と二酸化炭素から追えます。発泡を抑える消泡剤培養や撹拌で生じる泡を抑えるために加える添加剤で、泡による酸素供給の低下やあふれを防ぎます。詳しく →は、種類によって酸素移動を妨げる度合いが違うため、泡の立ち方だけでなく酸素移動への影響も併せて見ます。
「限界まで濃く、長く育てる」ことが良品に直結するとは限りません。コピー数の増幅と、ねじれの維持がちょうど両立する収穫のタイミングを、自社の株で見極めます。
3. アルカリ溶菌 ― 混ぜ方が品質を決める
菌を集めたあと、プラスミドを取り出す最初の一歩がアルカリ溶菌です。ねじれが壊れるかどうかが最初に決まる、いちばん繊細な工程です。
水酸化ナトリウムとSDSで菌を壊すと、長大な宿主のゲノムDNAは二本鎖がほどけて変性しますが、閉環状のプラスミドは絡み合ったまま離れきりません。酢酸カリウムなどで中和すると、ゲノムDNAとタンパク質は沈殿し、プラスミドだけが溶けて残ります。
難しいのは、アルカリに触れる時間を、均一に、短く保つことです。混ぜ方が乱暴だと、ゲノムDNAが細かく切れてプラスミドと性質が近づき、あとの工程で分けにくくなります。
規模が大きくなるほど、均一でやさしい混合は難しくなります。流路の中で液を連続して混ぜる方式や、せん断の小さい混合槽(シングルユースミキサーの駆動方式と最小液量)が使われます。聞くのは、アルカリへの接触時間、pH、混合の時間を、量産の規模で管理した実績があるかです。
アルカリ溶菌で壊れたねじれは、あとの精製では取り返せません。pH、時間、混合を、小さな規模ではなく、量産の規模で確かめます。
4. クロマトグラフィー ― 樹脂の数字は、プラスミドで測り直す
溶菌後の液には、目的のプラスミドのほか、大量のRNA、断片になったゲノムDNA、宿主のタンパク質、エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →が入っています。これらを段階的に落としながら、スーパーコイル体とOC体を分けるのが、クロマトグラフィーの役割です。
DNAは強く負に帯電しているので、陰イオン交換(AEX)が捕捉の中心です。エンドトキシンも負に帯電していてAEXだけでは分けきれないため、疎水性相互作用(HIC)分子の疎水性の違いで分離するクロマトグラフィー。抗体の凝集体除去などのポリッシュに使う。を組み合わせます(微生物のエンドトキシン除去、微生物ダウンストリーム精製)。
見落としやすいのが、樹脂の結合容量の数字です。カタログの動的結合容量(DBC)実際の流速で溶液を流したときに樹脂が現実に捕まえられる目的物の量。負荷量設計の基準になります。は、ほとんどがタンパク質で測った値のため、分子の大きさで値が変わります。
Tosohの Toyopearl GigaCap Q-650Mは、小さなウシ血清アルブミン血漿中に最も多く存在するタンパク質で、脂肪酸などの疎水性分子を可逆的に結合・運搬する機能をもつ。詳しく →では175 g/Lですが、大きなサイログロブリンでは49 g/Lまで下がります。
プラスミドはそれよりはるかに大きな分子で、孔の小さな樹脂では粒子の表面にしか結合できず、使える容量は大きく下がるとされます。孔の大きな樹脂や、貫通孔を持つメンブレンが選ばれるのは、このためです。
樹脂メーカーに聞くのは、公表されたDBC実際に液を流しながら測る、担体が破過するまでに結合できるタンパク質量。樹脂の使い切りの指標。詳しく →の大きさではなく、どの分子で測った値か、そしてプラスミドで実測したデータがあるかです。
5. 明日から確かめられること
発酵槽大腸菌や酵母などの微生物を高密度で培養する培養槽で、高い酸素供給や蒸気滅菌に対応した発酵用の設備です。詳しく →、溶菌の装置、樹脂の提案を受けたら、次の順に確かめます。
- 後工程が求めるグレードと規格:後工程(AAV、レンチウイルス分裂していない細胞にも遺伝子を組み込めるレトロウイルスベクター。CAR-Tで広く使われる。詳しく →、mRNAの鋳型、DNAワクチン抗原タンパク質をコードするDNAを体内に投与し、宿主細胞内で抗原を発現させて免疫応答を誘導するワクチン。詳しく →)が求めるグレードと規格を先に決めます。スーパーコイル体の割合をどの試験法で測るか、ゲノムDNA、RNA、タンパク質、エンドトキシンの規格をどう置くかも、ここで決めます。
- 宿主株と骨格:宿主株がendA/recA欠損かを確かめます。選択マーカーが抗生物質か、抗生物質を使わない方式かも確かめます。
- 発酵槽の酸素供給と収穫の時点:発酵槽の酸素移動能力が、実際に仕込む最小の液量と、最も高い菌体密度で実測した値かを確かめます。収穫のタイミングを、コピー数とスーパーコイル体の割合の両方で決めたデータがあるかも見ます。
- アルカリ溶菌の混合方式:量産の規模で、接触時間とpHを管理した実績があるかを確かめます。
- 樹脂の結合容量担体が結合できる目的物の量。大きな粒子は樹脂ビーズの細孔に入りにくく、結合容量を稼ぎにくい。詳しく →:どの分子で測った値かを確かめ、プラスミドでの実測があるかを聞きます。
規格の値は用途で変わります。同じ配列でも、研究用とGMPでは規格の厚みが違うため、後工程が求める品質から逆算して決めます。
後工程の必要量も、グレードを決める材料です。AAVのトリプルトランスフェクションAAV製造で、必要な3種類のプラスミドを同時に細胞へ導入してベクターを作らせる手法です。ウイルスを使わず遺伝子だけで産生します。詳しく →では、培養液1 Lあたり1〜2 mgのプラスミドを使い、200 Lなら200〜400 mgが要ります。GMP級のpDNAの生産能力が、同時に前へ進められる開発プログラムの数を左右するという指摘もあります(ニュース)。
調達とグレードの選び方はプラスミドDNAの製造工程にまとめています。エンドトキシンはLAL試験や組換え試薬(rFC凝固カスケード最上流のFactor Cだけを組換えで再現した非動物由来試薬。グルカン干渉を受けにくい。詳しく →)でロットごとに確かめます(エンドトキシン試験のLALとrFC)。
内製か外注かはウイルスベクターCDMOの選び方とGMPプラスミドDNA供給(受託製造)の一覧で、mRNAの鋳型としての使い方はプラスミド直鎖化とIVTとdbDNA/ceDNAという選択肢で読めます。装置は微生物発酵用バイオリアクター、樹脂はAEXレジンとHICレジンで比べられます。
参考文献
- E. coli plasmid DNA production(Nature Technology Corporation の特許ファミリー。US 9017966 B2 ほか)(30 ℃で増殖を抑えて培養し、42 ℃へ切り替える二段階の培養。開発した会社の結果)
- Carnes AE, Hodgson CP, Williams JA. Inducible Escherichia coli fermentation for increased plasmid DNA production. Biotechnol Appl Biochem. 2006.(二段階培養の収量。同じ会社の報告)
- Tarmann C, Jungbauer A. Adsorption of plasmid DNA on anion exchange chromatography media. J Sep Sci. 2008.(孔の小さな陰イオン交換樹脂正の電荷を帯びたクロマト担体で、負に帯電した分子を静電的に吸着して分離します。タンパク質精製や、DNA・不純物の除去に使われます。詳しく →ではプラスミドの結合容量が小さいこと)
- Aldevron, Nanoplasmid FAQ(RNA-OUTによる抗生物質を使わない選択と、小型化した骨格。会社の説明)
- Drug Discovery News, Scaling the unscalable: manufacturing cell, gene and mRNA therapies(GMP級pDNAの生産能力の制約)
- ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく →「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定」
- FDA Guidance for Industry "Considerations for Plasmid DNA Vaccines for Infectious Disease Indications"
- WHO "Guidelines for assuring the quality and nonclinical safety evaluation of DNA vaccines"
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