遺伝子治療基礎知識・製造工程

AAVのトリプルトランスフェクション:比をどう決めるか

トリプルトランスフェクションのプロトコルを開くと、三つのプラスミドは等モルで混ぜると書いてあります。1対1対1。取っかかりとしては分かりやすい数字ですが、最適値ではありません。実験計画法パラメータを変えたときCQAがどう応答するかを効率よく調べる実験計画法。詳しく →で比を振った検討では、AAV2の最適な比は pHelper に対して pRepCap が 3.52、導入遺伝子のプラスミド大腸菌の中で複製・増幅させる環状DNA。核酸医薬やベクター製造の伝統的な出発材料。詳しく →が 0.50 でした。AAV9では 1.44 と 0.27。同じ細胞、同じ試薬で、血清型AAVのカプシドの種類による分類。組織指向性が異なり、狙う臓器や細胞に応じて選び分けられる。詳しく →を変えただけで最適点がここまで離れます。

#AAV#トリプルトランスフェクション#HEK293#遺伝子治療
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AAVのトリプルトランスフェクション:比をどう決めるか

核心は一点です。この比は、力価と空カプシドゲノムを内包しないAAVの殻。治療効果に寄与せず、必要な量を届けるための総投与カプシド量を押し上げる不純物として扱われる。詳しく →の比を同時に動かします。最適化した条件では、標準の 1対1対1 に対してゲノム力価試料中のベクターゲノム(vg)の数を表す力価。実カプシドの量の目安になり、カプシド力価との比で空実比を求める。詳しく →が 2.23倍 と 2.26倍 になり、空カプシドウイルスの遺伝物質を包むタンパク質の殻。AAVでは直径数十ナノメートルの正二十面体の構造をとる。詳しく →の相対的な割合は 26% と 25% 減りました。上流のプラスミドの配合が、下流で空カプシドを分離する工程の負荷をそのまま決めているということです。精製で挽回する前に、ここで作らせない余地があります。

この記事では、比がなぜここまで効くのかを三つのプラスミドの役割から確かめたうえで、PEI正電荷を持つカチオン性試薬。負電荷のDNAと複合体を作り細胞へ導入するトランスフェクションに使う。詳しく →で運ぶ複合体の作り方、細胞密度と収穫のタイミング、空カプシドが決まる場所、そして代替の産生系を順に整理します。工程全体の位置づけはAAVの製造工程に置いてあります。最後に、条件を詰める順序を並べます。

この記事の要点
  • 最適なプラスミド比はAAV2で 1:3.52:0.50、AAV9で 1:1.44:0.27 と、血清型で変わります。
  • 最適化でゲノム力価は 2.2倍、空カプシドの相対比は 25% 前後 下がりました。
  • ITRに挟める配列は 4.7 kb が上限で、これが導入遺伝子の設計を縛ります。

1対1対1 は出発点にすぎない ― 血清型で変わる最適比

まず、最適化でどれだけ動くのかを見ておきます。

実験計画法でプラスミドの比を系統的に振った検討では、AAV2について pHelper を 1 としたとき pRepCap が 3.52、導入遺伝子ベクターで細胞に運んで働かせる目的の遺伝子。詳しく →を載せたプラスミドが 0.50 という比が選ばれました。AAV9では同じ手順で 1.44 と 0.27。どちらもヘルパーに対して rep/cap を多めに入れ、導入遺伝子のプラスミドは少なめにする方向ですが、その度合いが倍以上違います。

結果として得られた改善は二つあります。ゲノム力価が標準の 1対1対1 に対して 2.23倍 と 2.26倍。そして空カプシドの相対的な割合が、それぞれ 26% と 25% 下がりました。力価と純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →が同時に良くなるという、珍しい部類の最適化です。

ただし、ここには但し書きが付きます。最適な比は細胞株、血清型、載せる遺伝子によって動くので、この数字をそのまま自社の系へ持ち込んでも同じ結果は出ません。⁠移せるのは値ではなく、比を実験計画法で振るという手順の側です。

三つのプラスミドが分けているもの

なぜ三つに分けてあるのかを押さえておきます。

一つ目が、導入遺伝子を二つのITRで挟んだプラスミドです。ITRはAAVのゲノムの両端にある繰り返し配列で、ここに挟まれた部分だけがカプシドに詰め込まれます。挟める長さの上限がおよそ 4.7 kb で、プロモーターRNAポリメラーゼが結合して転写を開始するDNA上の特定の塩基配列領域。詳しく →ポリA配列mRNAの3′末端に並ぶアデニンの連なりで、翻訳効率と相関するとされる。詳しく →もこの中に収める必要があります。大きな遺伝子を運べないという制約は、ここから来ています。

二つ目が rep と cap を載せたプラスミドです。rep はゲノムの複製と詰め込みを担い、cap はカプシドを構成する三つのタンパク質を作ります。血清型を決めているのは cap の配列で、ここを差し替えれば同じ工程で別の血清型が作れます。

三つ目がヘルパーです。AAV遺伝子治療で遺伝子を運ぶウイルスベクター。血清型によって集まりやすい組織が異なる。詳しく →は単独では増えず、アデノウイルスなどの手助けが要ります。その必要な機能だけをプラスミドに載せ、ウイルスそのものは使わない設計です。⁠もともと一つのウイルスにあった機能を三つに割ってあるのは、野生型が再生する確率を下げるためです。

PEIで運ぶ ― 複合体の作り方

プラスミドを細胞へ入れるのは、化学的な工程です。

もっとも広く使われるのがポリエチレンイミン(PEI)で、正電荷を持つ高分子が負電荷のDNAと静電的に結びつき、細胞に取り込まれる複合体を作ります。報告されている設定の一つは、培養液あたりの総DNA量を 1.37 µg/mL とし、PEIをDNAに対して 1.52 µL/µg 加えるというものです。別の手順では PEI とDNAを重量比 2対1 で使い、DNAを 1 µg/mL に固定します。細胞あたりで見ると 1.6 µg/10⁶ cells あたりという設定もあります。

試薬は製品として供給されています。Polyplus / Sartorius の PEIpro と FectoVIR-AAV、Thermo Fisher Scientific の AAV-MAX、Mirus Bio の TransIT-VirusGEN、Polysciences の PEI MAX。いずれもGMPグレード医薬品の製造品質管理基準(GMP)に適合した製造管理と品質試験のもとで製造・出荷された試薬・原料の品質区分。詳しく →の系列を持っていて、開発から製造まで同じ試薬で通せます。

複合体を作る段階の条件も効きます。混ぜる順序、置く時間、その間の培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →の組成。複合体が大きくなりすぎると取り込まれず、小さすぎると安定しません。⁠PEIとDNAの比は、取り込み効率と細胞毒性物質が細胞の生存や増殖を障害する性質のことで、過剰な細胞毒性条件下では偽陽性の遺伝毒性シグナルが生じやすくなる。詳しく →のあいだの綱引きです。

POINT

プラスミドの比とPEIの比は、独立に決められません。rep/cap を増やせば総DNA量が変わり、同じPEI比なら加えるPEIの絶対量も変わります。PEIは細胞にとって毒性があるので、比の最適化でDNAを増やした結果、細胞の生存率が落ちて収量が下がることがある。実験計画法で振るなら、プラスミドの比とPEI比と総DNA量を同じ計画の中に入れておくほうが、後で辻褄が合います。

細胞密度と収穫のタイミング

入れる相手の状態も、収量を決めます。

多くの手順は、細胞密度が 2×10⁶ cells/mL を下回る条件でトランスフェクション培養細胞に外来の核酸を導入する操作。ウイルスベクターの一過性の産生などに用いられる。詳しく →を行います。密度を上げれば単位容積あたりの細胞が増えるので収量も増えそうに見えますが、そう単純にはいきません。高い密度では細胞あたりの取り込み効率が落ちるので、総量はかえって伸び悩みます。

収穫は導入から 48時間 ほど後です。この時点で、細胞あたり 1×10⁵ vg を超える、培養液あたり 1×10¹⁴ vg/L を超える産生が報告されています。早すぎれば組み立てが終わっておらず、遅すぎれば細胞が壊れて宿主のDNAが増えます。

密度の制約を外す試みも進んでいます。灌流で培地を入れ替えながら高い密度まで持っていき、その状態でトランスフェクションする設計です。培地の消費は増えますが、同じ槽から取れる量は上がります。⁠細胞密度の上限は生物学的な限界ではなく、培地が使い切られる速さの問題です。

空カプシドがどこで決まるか

空カプシドは、工程のどこかで混入するものではありません。

カプシドの組み立てとゲノムの詰め込みは、別々の速度で進みます。cap から作られたタンパク質は自動的に二十面体を組み上げますが、その中にゲノムを入れるには rep の働きが要ります。カプシドが先にできて、詰め込みが追いつかなければ、空のまま残る。だから rep/cap プラスミドの量と、導入遺伝子プラスミドの量の比が、空と充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。詳しく →の比を動かします。

先の最適化で rep/cap を厚めにする方向へ動いたのは、この律速を緩めたということです。同時に導入遺伝子のプラスミドを減らしているのは、カプシドの供給に対して詰め込むゲノムの量を揃えにいった結果と読めます。

下流から見ると、ここが効いてきます。空・充填カプシドの分離は境目の画分を捨てる工程なので、持ち込む比が良いほど同じ収率で高い純度に届く。⁠上流で 25% 減らせたということは、下流で捨てる量を減らせたということです。

代替の産生系

三重トランスフェクションHEK293系細胞に3種のプラスミドを同時導入し、一過性にAAVを産生させる代表的な手法。詳しく →以外の道もあります。

一つが昆虫細胞を使う系です。Sf9細胞に、rep と cap を載せたバキュロウイルス昆虫細胞に感染するウイルス。AAV遺伝子を組み込んでSf9を感染させ、ベクターを産生させる。詳しく →と、ITRに挟んだ導入遺伝子を載せたバキュロウイルスを感染させます。プラスミドを大量に用意する必要がなく、スケールアップ小型培養で確立した条件を、より大きなバイオリアクターへ拡大する取り組みです。酸素供給の指標kLaなどを揃え、性能を再現します。詳しく →は発酵の延長で組める。代わりに、カプシドの翻訳後修飾タンパク質が作られた後に受ける糖鎖付加や酸化などの修飾。抗体の品質特性の比較で確認する対象になる。詳しく →がヒト細胞由来のものと同じにならないことがあり、生体内での挙動に差が出る可能性が指摘されています。

もう一つがプロデューサー細胞株パッケージングの機能に加え、目的遺伝子を載せた移入ベクターまで組み込んだ細胞株。導入操作なしで産生できる。です。rep/cap と導入遺伝子をあらかじめ染色体に組み込んだ細胞を作っておき、ヘルパーを与えて産生させます。ロットごとのトランスフェクションが不要になるので再現性は上がりますが、細胞株を作る工程そのものに時間がかかり、品目ごとに作り直しです。

どれを選ぶかは、品目の数と規模で決まります。多品種を少量ずつ作るなら三重トランスフェクション、単一の品目を大量に作るならプロデューサー細胞Rep/Capや目的遺伝子をあらかじめ組み込んだ細胞。トランスフェクション不要でスケール再現性に優れる産生系。詳しく →株。⁠プラスミドの調達量が現実の制約になる規模かどうかが、実務上の分かれ目です。

条件を詰める順序

トリプルトランスフェクションの条件を決めるとき、次の順で判断します。

一番目は、血清型と導入遺伝子を確定させることです。 最適なプラスミド比は血清型ごとに違い、載せる遺伝子でも動きます。ここが固まる前に比を詰めても、やり直しです。ITRAAVゲノムの両端にある逆位末端反復配列。複製とパッケージングのシグナルとして働き、この間の配列がカプシドに詰め込まれる。詳しく →に挟む配列が 4.7 kb に収まるかも、この段階で確かめておきます。

二番目に、プラスミド比、PEI比、総DNA量を一つの実験計画の中で振ります。三つは独立ではないので、別々に振ると最適点を外します。応答としては、ゲノム力価だけでなく空カプシドの比と細胞の生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。詳しく →も同時に取ります。三番目が細胞密度と収穫時期です。2×10⁶ cells/mL 前後を中心に振り、48時間 の前後で収量と宿主DNAの量を見ます。

四番目に、得られた条件を規模を上げて確かめます。複合体の形成は混合の条件に依存するので、小型の振とう培養で詰めた条件が槽でそのまま出るとは限りません。⁠最後に、空カプシドの比を下流と突き合わせます。 上流で 25% 減らせたとき、下流の分離工程で何が楽になるのか。担体カラムに充填する多孔質ビーズ。表面のリガンドと成分の相互作用差で目的物と不純物を分離する。詳しく →の本数が減るのか、プールの範囲を広げて収率を上げられるのか。この換算をしておかないと、上流の最適化が工程全体の改善につながりません。

参考文献

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  1. 出発原料・細胞バンク1工程
  2. 培養・産生1工程
  3. 回収・清澄化3工程
  4. 精製5工程
  5. 製剤・充填1工程
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  7. 直鎖状DNA①2工程
  8. ほか2区分別ルート
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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、遺伝子治療に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。