遺伝子治療基礎知識・製造工程

ex vivoとin vivoの遺伝子治療とは?体の外で直すか、体の中で直すか

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ex vivoとin vivoの遺伝子治療とは?体の外で直すか、体の中で直すか
この記事の要点
  • ex vivo型は細胞を体外に取り出して遺伝子を入れ、戻します。製品は細胞そのもので、ベクターは製造に使う原材料になります。
  • in vivo型はベクターを直接投与し、体内で遺伝子を届けます。製品はベクターそのものです。
  • どちらかによって、製造の単位(患者ごとかロットごとか)、品質管理の的、スケールの意味がすべて変わります。

分岐点は「どこで遺伝子を入れるか」

遺伝子治療をどう作るかという話は、最初のひと言でほぼ決まります。⁠遺伝子を細胞に入れる場所が、体の外か中かです。

  • ex vivo患者やドナーから取り出した細胞を体外(生体外)で操作すること。編集や加工の後に体内へ戻す。(体外):患者や提供者から細胞を取り出し、体外で遺伝子を導入し、増やして、体に戻す。
  • in vivo生きた動物の体内で試験を行うこと。物質が吸収・代謝を受けた実際の状態での影響を見られる。(体内):遺伝子を運ぶベクターを患者に投与し、体内の細胞に取り込ませる。

言葉としては単純ですが、この違いは工程・設備・品質管理遺伝子治療製品の品質・安全性・有効性を保証するために製造・出荷の各段階で実施する試験・管理の総体。・コスト構造のすべてに波及します。同じ「遺伝子治療」という言葉で括られていても、作る現場から見ればほとんど別の産業です。

POINT

ex vivoでは製品は「細胞」、in vivoでは製品は「ベクター」。何を出荷するかが違うので、規格も試験も工場の姿も変わります。

ex vivo型:製品は細胞、ベクターは原材料

代表例はCAR-T細胞療法と、遺伝子改変造血幹細胞を用いる治療です。工程は大まかに次の流れをとります。

  1. 採取⁠:アフェレーシス血液成分を分離して目的の細胞(単核球など)を採取する手法。細胞治療の出発材料の採取に使う。で患者の血液から目的の細胞を集める
  2. 選択・活性化T細胞を抗原刺激や人工的な刺激試薬で活性化し、増殖・機能発揮できる状態に誘導する操作。⁠:目的の細胞集団を分離し、増殖できる状態にする
  3. 遺伝子導入⁠:レンチウイルスベクター電気穿孔細胞に電気パルスをかけて一時的に膜に孔をあけ、遺伝子などを内部へ導入する非ウイルス法。などで遺伝子を入れる
  4. 拡大培養遺伝子改変したT細胞を投与に必要な数まで増やす工程。増やしすぎると細胞が疲弊する。⁠:必要な細胞数まで増やす
  5. 洗浄・製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。化・凍結⁠:投与できる形に整える

ここで重要なのは、⁠ベクターは製品ではなく原材料製造の起点となる原料で、その品質や持ち込む不純物が最終製品の品質に影響しうるため、規格管理が重視される物質。だという点です。ベクターの品質は最終製品の品質に影響しますが、出荷判定製造したロットを規格に照らして出荷の可否を決める判断。有効期間の短い製品では時間との戦いになる。の対象は細胞のほうです。ベクターの製造は、しばしば専門のCDMOに委託されます。

品質管理の的も細胞側に集まります。生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。、目的の細胞集団の割合、ベクターコピー数(VCN)複製可能ウイルスの否定、無菌性、そして機能を示す力価。加えて、自家製品では1ロット=1患者なので、ロットの大きさは患者ひとり分から動きません。

この構造が、スケールの意味を変えます。1バッチを大きくして単価を下げるという通常のやり方が使えず、⁠同じ小さいバッチを並列に、失敗なく、多数回まわす方向にしか伸ばせません。設備投資も工程設計も、スループット一定時間に処理できる検体数。自動パッチクランプはマニュアル法より桁違いに多くの化合物を測れる。と確実性のほうを向くことになります。

in vivo型:製品はベクターそのもの

代表例は、AAVベクターアデノ随伴ウイルスを改変して治療用遺伝子を細胞へ運ぶために用いる、非病原性の遺伝子導入用ウイルス粒子。を用いた治療と、脂質ナノ粒子(LNP)に核酸を封入して投与する治療です。工程は一般的な生物学的製剤抗体など生き物由来の医薬品で、NOAEL起点の換算だけでは危ういことがある。の製造に近い形をとります。

  1. 細胞培養⁠:産生細胞(HEK293ヒト胎児腎由来の細胞株。アデノウイルスのE1機能を持ち、AAV産生の三重トランスフェクションで広く使われる。Sf9ヨトウガ由来の昆虫細胞。バキュロウイルスと組み合わせ、懸濁培養でAAVを大容量に産生する系に使われる。など)を培養する
  2. 産生⁠:トランスフェクション培養細胞に外来の核酸を導入する操作。ウイルスベクターの一過性の産生などに用いられる。や感染でベクターを作らせる
  3. 回収・清澄化培養液から細胞や破片を取り除いて目的物質を含む上清を回収し、後工程に渡せる清澄な液にする工程です。詳しく →⁠:細胞と破片を除く
  4. 精製⁠:アフィニティー、イオン交換分子の電荷の違いを利用して分離するクロマトグラフィー。フラグメントなど定型ツールが効かない分子でも使える。限外ろ過半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →などで純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →を上げる
  5. 製剤化・充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。⁠:処方して容器に詰める

こちらは1バッチから多数の患者分がとれます⁠。バッチを大きくすればするほど単価が下がるという、通常のスケールメリットが効きます。

品質管理の的はベクターに集まります。力価と感染価空カプシドゲノムを内包しないAAVの殻。治療効果に寄与せず、必要な量を届けるための総投与カプシド量を押し上げる不純物として扱われる。実カプシド治療遺伝子のゲノムを内部に積んだAAVの粒子。細胞に運ばれ核内でゲノムを放出して治療効果を生む目的物にあたる。の比、残存DNA宿主細胞タンパク質、無菌性、エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →。細胞の状態を測る項目は、製品規格には出てきません(工程管理としては見ます)。

届く範囲と、届かない範囲

作りやすさだけを見ればin vivo型のほうが素直ですが、治療として成立するかは別の話です。

ex vivo型の強みは、遺伝子を入れる相手を確実に選べることです。目的の細胞だけを取り出して操作するので、狙っていない組織に遺伝子が入る心配がありません。導入できたかどうかを、投与前に測って確かめられるという点も大きい利点です。細胞が期待どおりに改変されていなければ、投与しないという選択ができます。

in vivo型の強みは、細胞を取り出せない臓器を狙えることです。網膜、中枢神経脳と脊髄のことで、安全性薬理では意識・運動・体温などへの急な影響を評価する対象。、肝臓、筋肉など、体外に出して戻すことが現実的でない組織が対象になります。患者から細胞を採る負担も、細胞を培養する数週間の待ち時間もありません。

in vivo型の難しさは、届け先を選ぶことに集約されます。全身に投与したベクターがどの臓器に行くかは、ベクターの性質(AAVでは血清型)と投与経路でおおむね決まります。狙った臓器以外への分布と、体がベクターに対して持つ免疫が、投与量の上限を作ります。既存の中和抗体過去のウイルス感染などにより治療前からすでに体内に存在する中和抗体。を持つ患者では効果が落ちることもあり、投与前の抗体検査が前提になる場合があります。

この「届け先を選ぶ」課題を解こうとする流れの一つが、体内でCAR-Tを作る試みです。ex vivoの細胞加工工程そのものをなくせるため、製造の姿が根本から変わりうる方向として注目されています。

選び方の順序

新しい対象を検討するとき、実務では次の順で絞ると見通しが良くなります。

  1. 標的細胞は体外に出せるか⁠:血液細胞や造血幹細胞血液細胞のもとになる幹細胞。採取して体外で遺伝子を編集し、体内に戻す治療に使う。なら選択肢は両方。網膜や中枢神経なら実質in vivo一択。
  2. 導入を投与前に確かめる必要があるか⁠:確認して初めて投与できる設計にしたいならex vivo。
  3. 必要な患者数と、1人あたりに許容できるコスト⁠:多数の患者を対象にするならin vivoのスケールメリットが効く。
  4. 持続性の要求⁠:分裂する細胞で長期の発現が要るなら、ゲノムに組み込む方式(レンチウイルス分裂していない細胞にも遺伝子を組み込めるレトロウイルスベクター。CAR-Tで広く使われる。など)が候補になる。分裂しない細胞なら、組み込まないAAV遺伝子治療で遺伝子を運ぶウイルスベクター。血清型によって集まりやすい組織が異なる。でも長期の発現が期待できる。

ベクターそのものの選び方は遺伝子治療のベクター選択にまとめています。

まとめ

  • ex vivo=体外で細胞に遺伝子を入れて戻す。製品は細胞、ベクターは原材料。1ロット=1患者になりやすい。
  • in vivo=ベクターを直接投与する。製品はベクター。1バッチが多数の患者分になり、通常のスケールメリットが効く。
  • ex vivoは導入先を確実に選べて投与前に確認できる。in vivoは細胞を取り出せない臓器を狙える。
  • 選択の起点は「標的細胞を体外に出せるか」。そこから確認の要否、患者数、持続性の要求で絞る。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、遺伝子治療に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。