複製可能ウイルス試験(RCL/RCR/RCA)とは?なぜ必要か

複製可能ウイルス試験ウイルスベクター製品に、増殖する能力を持つウイルスが生じていないか調べる安全性試験です。混入がないことを確認します。詳しく →は、増えないように作った遺伝子治療のウイルスベクター治療用の遺伝子を細胞へ運ぶために改変したウイルス。AAVやレンチウイルスが代表で、遺伝子・細胞治療に使う。詳しく →が、製造中の組換え(DNAが切れてつなぎ替わる現象)で増殖能を取り戻していないかを確かめる安全性試験です。複製可能ウイルス(RCV)試験とも呼ばれます。
ただし、実際に増えるウイルスが見つかることはほとんどありません。それでもベクターのロットごとに試験するのは、陽性だったときの結果が重く、投与したあとでは取り返せないためです。
この記事では、増殖能が戻る仕組み、RCL・RCR・RCA・rcAAV製造工程中に生じる可能性がある、宿主細胞内で自律的に増殖できる能力を持つ組換えAAVの不純物。の違い、増やしてから探す試験のしくみ、試験の対象と検体の量、明日から確かめる点を順に説明します。
1. 増殖能が戻る仕組みと試験の原点
ウイルスベクターは、ウイルスの増える部品をわざと抜いて作ります。複製可能ウイルスは、その部品が製造中に元通りになってしまったものです。
第三世代のレンチウイルスベクター宿主ゲノムに組み込まれる遺伝子導入ウイルス。長期発現できるが挿入変異のリスクが伴う。詳しく →は、ウイルスに必要な遺伝子を4本前後のプラスミド大腸菌の中で複製・増幅させる環状DNA。核酸医薬やベクター製造の伝統的な出発材料。詳しく →(細胞に遺伝子を運ぶ環状のDNA)に分けて細胞に入れ、1本だけでは完成品が組み上がらないようにしてあります。
それでも同じ細胞の中では、DNAが切れてつながる組換えが起こりえて、部品がつながると増殖できる完成品が1つできます。レトロウイルス系では、ベクターを作る細胞自身が持つウイルス由来の配列も部品になりえます。
1992年のサルの実験は、これが実害につながることを示しました。マウス白血病ウイルス由来のベクターでアカゲザルの造血幹細胞血液細胞のもとになる幹細胞。採取して体外で遺伝子を編集し、体内に戻す治療に使う。詳しく →に遺伝子を入れて移植したところ、使ったベクターの調製品に微量の複製可能ウイルスが混ざっていて、サルの一部がT細胞性の腫瘍を発症しました。
腫瘍の細胞から見つかったのは複製可能ウイルスで、導入したベクターの遺伝子ではありませんでした。ベクターを作る細胞株が、組換えで本物のウイルスも少し作っていたためです。
その後、ベクターの設計は大きく変わり、成果は数字に出ています。米国の研究チームが26の臨床試験で使われたレンチウイルス導入T細胞製品460本を調べたところ、すべて複製可能レンチウイルス増殖能を持つように偶発的に生じうるウイルス。製品に存在しないことの確認が最重要の安全性項目。詳しく →陰性でした。
レトロウイルス系でも、NIHが支える遺伝子ベクターのバイオリポジトリに集まった60の臨床試験、737人の患者の投与後血液1,595検体から、複製可能レトロウイルスは見つかっていません。
それでも、ベクターのロットでは試験を省けません。細胞製品には、陰性の実績がたまれば試験を減らせる道があり、後の節で触れます。
組み込み型のベクターそのものが起こす挿入変異(がん遺伝子本来は細胞増殖を促す正常遺伝子だが、活性化するとがん化のきっかけになりうる遺伝子。詳しく →の近くに入って細胞ががん化する危険)は、増えなくても起こる別の問題で、遺伝子治療の挿入変異リスクで扱っています。複製可能ウイルスは、増えるたびに組み込みを積み増すことで、その危険を大きくします。
品質管理原料・資材・中間体・製品を規格に照らして試験し、使ってよいか、出荷してよいかの合否を決める仕事です。GMPでは製造部門から独立させます。詳しく →の全体像は遺伝子治療の品質管理にまとめています。
複製可能ウイルス試験は、ほぼ必ず陰性で終わる試験です。それでもベクターのロットごとに行うのは、陽性だった場合の結果が重く、陰性を示すことが投与の前提だからです。
2. RCL・RCR・RCA・rcAAVの違い
呼び名はベクターの種類で決まります。探すウイルスが違うので、取り違えると探す相手が変わります。
| 呼び名 | 対象のベクター | 起きること | 探し方の基本 |
|---|---|---|---|
| RCR | γレトロウイルス分裂中の細胞にのみ遺伝子を組み込めるレトロウイルスベクター。安定産生株を作りやすい。詳しく →などレトロウイルス系 | 製造中の組換えで、増える力のあるレトロウイルスができる | 許容細胞(そのウイルスが増えられる細胞)で増やし、感染が広がるかを見る |
| RCL | レンチウイルス分裂していない細胞にも遺伝子を組み込めるレトロウイルスベクター。CAR-Tで広く使われる。詳しく → | RCRと同じ。ただし部品が複数に分かれているので、組換えが何度も要る | T細胞株で増やし、PCRも併用する |
| RCA | アデノウイルス | 増殖に必要な遺伝子(E1)を抜いたベクターに、製造中にその遺伝子が戻る | ベクターが増えられない細胞で増やし、細胞が壊れるかやPCRで見る |
| rcAAV | AAV遺伝子治療で遺伝子を運ぶウイルスベクター。血清型によって集まりやすい組織が異なる。詳しく → | 抜いてあった増殖に関わる遺伝子が戻る | ヘルパーのアデノウイルスと一緒に細胞で増やし、PCRで見る |
RCLはRCRの仲間です。レンチウイルスはレトロウイルス科に属するので、FDAのガイダンスはレトロウイルスベクター宿主ゲノムに組み込まれる遺伝子導入ウイルス。初期の治療で挿入変異による白血病が報告された。詳しく →向けの文書ですが、レンチウイルス製品にもその考え方が使われます。
AAVはもともと単独では増えず、アデノウイルスなどのヘルパーウイルスがいるときだけ増えます。治療に使うAAVベクターアデノ随伴ウイルスを改変して治療用遺伝子を細胞へ運ぶために用いる、非病原性の遺伝子導入用ウイルス粒子。詳しく →は、増えるための遺伝子(rep/cap)を抜いてあるので、ヘルパーがいても増えません。
rcAAVは、その遺伝子を取り戻して、ヘルパーがいれば増えるようになってしまったものです。名前の近いRCAはアデノウイルス、rcAAVはAAVを指すので、別のウイルスです。
各ベクターの作り方は、レンチウイルスの製造工程、AAVベクターの製造工程、アデノウイルスベクターの製造工程で解説しています。CAR-T患者や健常ドナーのT細胞にCAR(キメラ抗原受容体)を導入し、がん細胞を攻撃させる細胞治療。詳しく →でレンチとレトロのどちらを選ぶかは、CAR-Tのベクター選択が詳しいです。
依頼書に書く呼び名が、そのまま「何を探す試験か」を決めます。ベクターの種類から、探すウイルスを先に決めておくことが出発点です。
3. 増やしてから探す試験のしくみ
見つけたいウイルスは、いたとしてもごく少量です。そのまま測っても検出限界検出できる最小量。分析法の性能を示すバリデーション項目の一つ。詳しく →を下回るので、先に増やします。
基準とされるのは培養法です。無菌試験製品や細胞に細菌・真菌の汚染がないかを確認する試験。薬局方に準拠して行う。詳しく →が検体を培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →に入れて菌が増えるのを待つのと同じ考え方で、検体を許容細胞に加え、継代増殖した細胞を定期的に希釈・移植して培養を維持する操作で、回数が増えると細胞の性質が変化するリスクがある。詳しく →(新しい培地に移して育て続けること)を重ねます。
レンチウイルスなら、C8166というT細胞株で3週間ほど増やし、新しい細胞に移して1週間ほど、感染が続くかを確かめます。複製可能ウイルスが混ざっていれば、この間に増えて検出できる量に届きますが、届くかどうかは、試験に回した量と、陽性対照で確かめた感度で決まります。
見落としていないことを示すために、既知の複製可能ウイルスをごく少量加えた陽性対照も、同じ手順で流します。陽性対照が検出できなければ、陰性の結果に意味がありません。
公表されている手順では、増幅に3週間、判定まで含めて4〜6週間ほどかかります。
もう一つの探し方がPCRで、レンチウイルスでは、ウイルスの殻に使うVSV-G水疱性口内炎ウイルス由来の外被糖タンパク質。多くの細胞に感染でき、レンチウイルスのシュードタイプに広く使われる。詳しく →(水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質)の遺伝子を標的にします。
Bio-RadとQIAGENは、デジタルPCR反応液を無数の微小区画に分けて増幅し、陽性区画の数から核酸の量を絶対値で数える装置です。ごく微量の検出や定量に強みがあります。詳しく →でVSV-Gを数えるRCL検出キットを出しています。このうちBio-Radは2024年にキットを出し、2026年7月には装置QX700に対応する検証済みの品質管理キット群にもRCL検出を加えました。
メーカーは、数週間かかる培養と比べて短い時間で結果が出るとしています。ベクターの力価(感染できる粒子がどれだけあるか)の測り方は、ウイルスベクターの力価測定で解説しています。
PCRが見つけるのは配列で、増える力そのものではありません。VSV-Gの配列は、製造に使ったプラスミドの残りにも含まれます。PCRが陽性でも、複製可能ウイルスがいるのか、プラスミドのDNAが残っているだけなのかは、PCRだけでは区別できません。陽性が出たときに培養法で確かめる手順を、試験を始める前に決めておきます。
新鮮なまま投与する細胞製品は、数週間の培養法の結果を待てません。FDAの2020年のガイダンスは、ex vivo患者やドナーから取り出した細胞を体外(生体外)で操作すること。編集や加工の後に体内へ戻す。詳しく →で作る細胞製品の出荷判定製造したロットを規格に照らして出荷の可否を決める判断。有効期間の短い製品では時間との戦いになる。詳しく →に、培養法の代わりに別の方法を使えるとしています。
VSV-GのqPCR核酸を増幅しながら蛍光の増え方を追い、標的DNA・RNAの量を測る装置です。増幅の立ち上がりの早さから濃度を求めます。詳しく →は、そうした製品向けに報告されてきた迅速法従来より短時間で結果が出る試験法。有効期間の短い細胞製品の出荷判定に使い、従来法との同等性検証が前提。詳しく →です。代替法を使う場合は、事前に当局と相談する前提で進めます。
4. 試験の対象と検体の量
試験は最終製品だけでは終わらず、工程の途中と、投与後の患者にも及びます。試験の対象は、次の4か所です。
- ベクターそのもの:製造中の培養上清と、最終のベクター原液です。
- 産生細胞:ベクターを作り終えた時点の細胞(end-of-production cells、EOP細胞)です。
- 細胞製品:ベクターで遺伝子を導入した細胞です。
- 投与後の患者:血液などの検体を、投与の前後に調べます。
患者から取り出した細胞を体外で改変して戻す方式をex vivo、AAVのようにベクターを直接投与する方式をin vivo生きた動物の体内で試験を行うこと。物質が吸収・代謝を受けた実際の状態での影響を見られる。詳しく →と呼び、in vivoではベクターそのものの試験が中心です。違いはex vivoとin vivoの遺伝子治療で整理しています。
欧州では、EMAの講演資料が、増殖能を持たないウイルスベクターについて、ウイルスバンク、製造のたび、製品ロットごとにRCVを調べる必要があると説明しています。
日本の「遺伝子治療用製品等の品質及び安全性の確保に関する指針」(令和元年7月の通知の別添で、令和5年に一部改正)も、非増殖性のウイルスベクターについて、ベクターを作る細胞や遺伝子を導入した細胞の段階で増殖性ウイルスが出てこないかを評価し、使う検出方法が妥当か(検出感度を含む)も確かめるよう求めています。
検体の量にも考え方があります。FDAは、プールした産生細胞または導入後の細胞のうち、全体の1%か1億個の少ないほうを、許容細胞と一緒に培養して試験するよう示しています。ロットが大きくなっても、検体は際限なく増やさない設計です。
気をつけるのは、取り直せない検体があることです。産生を終えた時点の細胞は、製造が終われば同じ状態のものを後から用意できないため、製造記録に採取の指示が入っていなければ、試験したくても検体がありません。
細胞製品については、2020年版で変わった点があります。2006年版にあった、培養が短い細胞製品は試験を省けるという例外が外れ、遺伝子導入した細胞製品は原則として試験の対象です。
一方で、陰性の実績が十分にたまった製品は、当局に相談したうえで試験を減らせる道があります。その場合は、将来試験できるように製品の一部を保存しておくことが勧められています。
患者については、投与前と、投与後3か月、6か月、12か月に血液などの検体を調べるよう、FDAが示しています。1年目がすべて陰性なら、毎年の検体検査は不要になり、代わりに病歴の確認が続きます。
長期の追跡そのものは終わらず、遺伝子治療の長期フォローアップ(LTFU)の枠組みで、組み込み型のベクターでは最長15年に及びます。先の1,595検体の調査は、この検査の積み重ねの結果です。
試験の中心は製造ロットで、細胞に遺伝子を入れて戻す製品では、取り直せない検体の採取から患者の検体まで、一続きの計画に入ります。
5. 明日から確かめられること
依頼書や報告書を開いたら、次の順に確かめます。
- 試験名とベクターの対応:依頼書や仕様書にある試験名が、ベクターの種類と合っているかを見ます。レンチならRCL、アデノウイルスならRCA、AAVならrcAAVで、取り違えると別のウイルスを探す試験が走ります。
- 日程への反映:結果が出るまでの日数が、出荷や投与の日程に載っているかを確かめます。培養法は4〜6週間かかるので、検体の発送から結果の返却までを含めて数え、迅速法を使うなら当局への相談の記録も見ます。
- 取り直せない検体の採取:産生を終えた時点の細胞の採取と保管の指示が、製造記録に入っているかを確かめます。患者検体の保存の手順も同じように確かめます。
- 感度と陽性時の手順:受託先の報告書で、陽性対照でどこまで少ない量を検出できたかを見ます。PCRが陽性だったときに培養法で確かめる手順が、試験の前に取り決めてあるかもあわせて確認します。
- 発注先の対応範囲:自社が出す検体の種類が全部入っているかを、見積りの前に見比べます。
受託先の対応範囲は公表されていて、Charles River Laboratoriesは細胞バンクから産生終了時の細胞、ベクター原液、改変した患者細胞までを、TexcellはRCR・RCL・RCAの混入検出を、インディアナ大学のGTTL(遺伝子治療のラボ)はRCR/RCL試験と患者のフォローアップ検査を掲げています。
結果が出るまで数週間かかる試験なので、出荷の日程と受託先の選び方に直接影響します。
参考文献
- FDA. Testing of Retroviral Vector-Based Human Gene Therapy Products for Replication Competent Retrovirus During Product Manufacture and Patient Follow-up: Guidance for Industry. 2020年1月(2006年版を置き換え). https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/testing-retroviral-vector-based-human-gene-therapy-products-replication-competent-retrovirus-during
- FDA. Long Term Follow-Up After Administration of Human Gene Therapy Products: Guidance for Industry. 2020年1月. https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/long-term-follow-after-administration-human-gene-therapy-products
- EMA. Manufacturing of gene therapy products: common issues and advice(講演資料). https://www.ema.europa.eu/en/documents/presentation/presentation-manufacturing-gene-therapy-products-common-issues-and-advice_en.pdf
- 厚生労働省. 遺伝子治療用製品等の品質及び安全性の確保に関する指針(令和元年7月9日付 薬生機審発0709第2号の別添). https://www.pmda.go.jp/files/000230508.pdf 別添: https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc4403&dataType=1&pageNo=1
- 厚生労働省. 同指針の一部改正(令和5年10月23日付 医薬機審発1023002号). https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc8003&dataType=1&pageNo=1
- Indiana University. GTTL, Virus Assays(増幅21日とインジケーター細胞7日の培養法の公開プロトコル). https://iugttl.lab.iu.edu/virus-assays/index.html
- Donahue RE, Kessler SW, Bodine D, et al. Helper virus induced T cell lymphoma in nonhuman primates after retroviral mediated gene transfer. J Exp Med. 1992;176(4):1125-1135. https://rupress.org/jem/article-pdf/176/4/1125/1102932/1125.pdf
- Cornetta K, Duffy L, Turtle CJ, et al. Absence of replication-competent lentivirus in the clinic: analysis of infused T cell products. Mol Ther. 2018;26(1):280-288. https://scholarworks.iupui.edu/handle/1805/14480
- Cornetta K, et al. Replication competent retrovirus testing (RCR) in the National Gene Vector Biorepository: No evidence of RCR in 1,595 post-treatment peripheral blood samples obtained from 60 clinical trials. Mol Ther. 2023;31(3):801-809. https://www.cell.com/molecular-therapy-family/molecular-therapy/fulltext/S1525-0016(22)00710-9
- Skrdlant LM, Armstrong RJ, Keidaitis MM, et al. Detection of replication competent lentivirus using a qPCR assay医薬品中の有効成分が規格範囲内の量(含量)で存在するかを定量的に確認する試験。詳しく → for VSV-G. Mol Ther Methods Clin Dev. 2018;8:1-7(プローブ配列を訂正した正誤表あり: PMC5874327). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5633339
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