AAVの残留DNAとは?粒子の外は落とせて、中は落とせない理由

ヌクレアーゼ核酸を分解する酵素です。製造では培養由来の残存DNA/RNAを分解・除去して製品の純度を高める目的で使い、ベンゾナーゼが代表例です。詳しく →を十分に加え、精製を重ねても、AAVの残留DNA生物製品の製造工程に由来し、最終製品中に微量残存する宿主または鋳型由来のDNA不純物。詳しく →が思うように下がらないことがあります。酵素が届かない場所に、DNAが入っているからです。
AAVの殻(カプシドウイルスの遺伝物質を包むタンパク質の殻。AAVでは直径数十ナノメートルの正二十面体の構造をとる。詳しく →)には、目的の遺伝子のほかに、プラスミドの骨格や宿主細胞のDNAの断片が、間違って詰め込まれることがあります。ある研究では、精製したカプシドの中のDNAの0.69〜3.27%がプラスミド由来で、その98%超は、目的の遺伝子を載せたプラスミドの骨格でした。
そこで残留DNAは、粒子の外と中に分けて考えます。外は工程で落とせます。中は精製では落とせないので、入りにくくなるよう上流で設計します。
どこから来るのか ― 宿主、プラスミド、殻の中
混入するDNAは、由来で三つに分かれます。
一つ目は、産生細胞のゲノムです。三重トランスフェクションではHEK293ヒト胎児腎由来の細胞株。アデノウイルスのE1機能を持ち、AAV産生の三重トランスフェクションで広く使われる。詳しく →のような細胞を使い、培養の後半には、壊れた細胞から大量のDNAが液に出ます。
二つ目は、使ったプラスミド大腸菌の中で複製・増幅させる環状DNA。核酸医薬やベクター製造の伝統的な出発材料。詳しく →です。導入遺伝子ベクターで細胞に運んで働かせる目的の遺伝子。詳しく →、カプシドとレプリカーゼ(rep/cap)、アデノウイルスのヘルパー機能と、三種類を同時に入れるので、どれも混入の候補です。とくに導入遺伝子プラスミドの骨格には、大腸菌で増やすための配列や薬剤耐性遺伝子があり、細菌由来の配列として気にされます。
三つ目が、殻の中に入ったDNAです。産生細胞のゲノム断片やプラスミドの骨格が、目的の遺伝子と一緒にカプシドに包まれます。外から加えた酵素も、クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →の担体カラムに充填する多孔質ビーズ。表面のリガンドと成分の相互作用差で目的物と不純物を分離する。詳しく →も、殻の内側には届きません。
三つ目がAAV遺伝子治療で遺伝子を運ぶウイルスベクター。血清型によって集まりやすい組織が異なる。詳しく →に固有の問題です。外のDNAは工程で動かせても、中のDNAは粒子ができた時点で決まっています。
10 ngをそのまま当てられない理由 ― 用量が桁違い
抗体医薬の残存DNAには、1回の投与あたり10 ng、断片は約200 bpという目安があります。出どころと読み方は宿主細胞DNAの規格に書きました。この数字はもともとワクチン用の細胞基材医薬品の製造に用いる細胞株そのもの。腫瘍原性などのリスク評価が残存DNA規格に効く。詳しく →のガイダンスにあったもので、遺伝子治療には、それを当てはめてきた経緯があります。
AAVに当てはめにくいのは、用量が桁違いだからです。全身に投与するAAVの用量は、ゲノムコピー数で体重1 kgあたり10の13乗から14乗の桁です。10の14乗の桁なら、乳児でも、ベクターのDNAだけでミリグラムの桁になる計算です。仮にその1%が目的外のDNAでも、10マイクログラムを超え、10 ngの千倍以上です。
だから遺伝子治療では、10 ngを機械的に当てるのではなく、製品ごとのリスク評価にもとづいて、残存DNAの量と断片の長さの許容範囲を、製造者が自社で決め、その根拠を説明します。
AAVでは、10 ngを守れたかより、何が、どれだけの長さで、どこに入っているかを説明できるかが問われます。
粒子の外のDNAを落とす工程 ― 酵素、捕捉、イオン交換
外のDNAには、手段がひととおり揃っています。
最初は、ヌクレアーゼ処理DNAを分解する酵素で残存DNAを短く切る処理。断片サイズを下げて理論的リスクを減らす。詳しく →です。ベンゾナーゼのような酵素で、遊離のDNAを切ります。EDTAや高い塩濃度で酵素が働かなくなる失敗があるので、条件はエンドヌクレアーゼ処理で確かめてください。切っただけでは断片は液に残ります。除くのは後ろの工程の役目です。
次が、アフィニティ捕捉です。AAVだけを樹脂に捕まえ、DNAは素通りさせて流し去ります。続く陰イオン交換による空実分離でも、負電荷の強い遊離DNAは樹脂に強く結合するので、目的の粒子とは別に外れます。限外ろ過では、小さな断片が透過側へ抜けます。
ただし、空と実を分ける工程は、殻にDNAが入っているかを見る工程です。入っているDNAが目的の遺伝子かどうかまでは、見分けにくくなります。プラスミドの骨格を詰めた粒子も、中身の入った粒子として、目的の粒子と一緒に出てきます。

各段でDNAがどれだけ落ちたかを測っておくと、規格を外したときに、どの工程を疑うかが決まります。
外のDNAは、工程の性能として管理できます。各段の寄与を測っておけば、値が動いたときに原因を追えます。
粒子の中のDNA ― 精製ではなく上流の設計
中のDNAに対して、精製で打てる手はほとんどありません。入れないようにするのが基本です。
プラスミドの設計では、骨格を短くして、不要な細菌由来の配列を減らします。三つのプラスミドの比も効きます。比を調整すると、空カプシドゲノムを内包しないAAVの殻。治療効果に寄与せず、必要な量を届けるための総投与カプシド量を押し上げる不純物として扱われる。詳しく →の割合が下がった例があり、プラスミド比の決め方で解説しています。配列どうしの相同性を減らす設計や、プラスミドを毎回入れない安定産生細胞株という選択肢もあります。
昆虫細胞(Sf9)とバキュロウイルス昆虫細胞に感染するウイルス。AAV遺伝子を組み込んでSf9を感染させ、ベクターを産生させる。詳しく →の系でも、考え方は同じです。BioMarinは、この系で作ったrAAVアデノ随伴ウイルスを改変して治療用遺伝子を細胞へ運ぶために用いる、非病原性の遺伝子導入用ウイルス粒子。詳しく →の残存DNAの性質を調べた結果を、学会のポスターで報告しています。
受託先やプラスミドの供給元を変えるときは、残留DNAの内訳が変わるかもしれません。何が中に入っているかは、変更のたびに取り直します。
中のDNAは精製の問題ではなく、設計の問題です。工程開発の早い段階で手を付けるほど効きます。
外と中を分けて測る
外と中は、前処理で分けます。
DNaseで処理した液を測ると、殻に守られていたDNAが分かります。処理しない液と比べると、外にあったDNAが分かります。さらに、DNaseのあとに殻を壊して中身を出せば、中に入っていた配列の種類を調べられます。DNaseが十分に働かなかったときは、外のDNAが中のDNAに数えられるので、酵素が働いた根拠を確かめます。
どの配列を測るかも決めておきます。宿主のゲノムには、反復して現れる配列を狙うと感度が出ます。HEK293のDNAを、18S rRNA遺伝子を標的に二つの長さで測る方法が報告されていて、AAVに加えたHEK293のDNAの回収は88.6〜97.9%でした。プラスミドの骨格なら薬剤耐性遺伝子、ヘルパー由来なら特徴的な配列に、それぞれ専用の系を組みます。想定していない配列を探すには、次世代シーケンサー膨大な数の断片を並列に読み取り、ゲノムや遺伝子の配列を大量・高速に解読する手法です。変異や混入配列の網羅的な確認に使います。詳しく →が使われます。
PCRで測る場合は、標的がつながったまま残る配列だけが数に入ります。細かく切れたDNAは数え落とされるので、量だけでなく断片の長さも合わせて見ます(qPCRが数えるもの)。装置の使い分けはddPCRによるゲノム力価、前処理の回収率は残存DNAとは?にあります。
値が動いたとき、原因が工程か前処理かを切り分けられるように、外と中の測り方を先に決めておきます。
明日から確かめられること
受託先の報告書か、自社の試験成績を開いて、次の点を見てみてください。
- 残留DNAが、粒子の外と中に分けて報告されているか。DNaseで処理した液を測っているか
- DNaseが十分に働いた根拠(未処理との比較、酵素の条件)はあるか
- 測っている配列は、宿主、プラスミドの骨格(薬剤耐性遺伝子)、rep/cap、ヘルパーのうちどれか
- 量に加えて、断片の長さをどう確かめているか
- 規格の数字は、10 ngをそのまま当てたものか、リスク評価で決めたものか。その根拠は書面にあるか
- ヌクレアーゼ、アフィニティ、陰イオン交換のそれぞれで、どれだけ落ちたかを測っているか
- プラスミドの設計や産生系を変えるとき、内訳を取り直す計画があるか
候補になる製品は、製品データベースのヌクレアーゼ(ベンゾナーゼ等)、AAV用アフィニティ樹脂、AEXレジン、デジタルPCRで比べられます。AAV製造の全体像はAAVベクターの製造工程にあります。
参考文献
- FDA, Chemistry, Manufacturing, and Control (CMC) Information for Human Gene Therapy Investigational New Drug Applications (INDs)(2020年1月。遺伝子治療の治験用製品に求めるCMC医薬品の化学・製造・品質管理に関する申請資料。原薬と製剤で章立てが分かれる。詳しく →情報)
- FDA, Characterization and Qualification of Cell Substrates and Other Biological Materials Used in the Production of Viral Vaccines for Infectious Disease Indications(2010年。10 ng/dose・約200 bpの出どころ)
- RegMedNet, Single or double? Uncovering the packaging of pesky DNA impurities in rAAV(精製したrAAVのカプシド内DNAの0.69〜3.27%がプラスミド由来、98%超が導入遺伝子プラスミドの骨格。研究の紹介記事)
- Cell and Gene Therapy Insights, Impurities in viral-based therapeutics: mastering residual hcDNA: a harmonized approach for AAV gene therapies(カプシド内のDNAは、数値の上限ではなくリスク評価で管理される)
- Higashiyama K, et al. Quantitation of Residual Host Cell DNA in Recombinant Adeno-Associated Virus Using Droplet Digital Polymerase Chain Reaction. Hum Gene Ther. 2023;34(11-12):578-585.(18S rRNA遺伝子を標的、HEK293 DNAのスパイク回収既知量を添加して回収できるかで分析法の妥当性を確認する試験。添加回収ともいう。詳しく →88.6〜97.9%)
- BioMarin, Characterization of Residual DNA in rAAV Made in the Baculovirus/Sf9 Platform(学会ポスター)
- 1遺伝子治療の品質管理とは?力価・空実比・複製可能ウイルスの見方
- 2ウイルスベクターの力価測定とは?どの数字が何を数えているか
- 3ddPCRによるAAVゲノム力価測定:qPCRとの違いと数字がずれる理由
- 4AAVの力価は3種類ある:ゲノム力価・感染力価・効力の違いと読み方
- 5レンチウイルスの力価測定:桁がずれる理由と読み分け方
- 6複製可能ウイルス試験(RCL/RCR/RCA)とは?なぜ必要か
- 7AAVの残留DNAとは?粒子の外は落とせて、中は落とせない理由いま読んだ記事
- 8エンドヌクレアーゼ処理とは?核酸を切っても除けない理由と選び方
- 9残存ヌクレアーゼのELISA測定とは?Benzonaseを定量する
- 10遺伝子治療がなぜ肝臓に負担を──AAV製造の不純物という盲点
次に読む
遺伝子治療/プラスミドDNAこの製造の全体像を、工程マップで見るこの記事に関連する工程
この分野の新着を、メールで受け取る
こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを毎週水曜の朝にお届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。
登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。閲覧の記録(どのページから、どの会社のサイトへ移ったか)を、ご案内のために使います。
目次・関連閉じる
- 1遺伝子治療の品質管理とは?力価・空実比・複製可能ウイルスの見方
- 2ウイルスベクターの力価測定とは?どの数字が何を数えているか
- 3ddPCRによるAAVゲノム力価測定:qPCRとの違いと数字がずれる理由
- 4AAVの力価は3種類ある:ゲノム力価・感染力価・効力の違いと読み方
- 5レンチウイルスの力価測定:桁がずれる理由と読み分け方
- 6複製可能ウイルス試験(RCL/RCR/RCA)とは?なぜ必要か
- 7AAVの残留DNAとは?粒子の外は落とせて、中は落とせない理由
- 8エンドヌクレアーゼ処理とは?核酸を切っても除けない理由と選び方
- 9残存ヌクレアーゼのELISA測定とは?Benzonaseを定量する
- 10遺伝子治療がなぜ肝臓に負担を──AAV製造の不純物という盲点
Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/aav-residual-dna-clearance