抗体の機能的キャラクタリゼーション:細胞で効き方を測る

同じアミノ酸配列の抗体を、違う細胞で作っただけで、がん細胞を殺す力(ADCC抗体FcがNK細胞などのFcγRIIIaに結合し、そのエフェクター細胞に標的細胞を傷害させる作用。詳しく →)が50倍以上違った例があります(Shinkawa ら、2003年)。標的に結合する部分は同じなので、精製した標的への結合を測る試験だけでは、この差は捉えにくく、免疫細胞を使う ADCC の試験ではっきり見えるものです。
結合を測る試験と、細胞を使う試験は、別の問いに答えます。前者は分子どうしの相性を、後者は、細胞の上で結合するか、結合したあとに何が起きるか、その試験が毎回同じ数字を出せるかを見ます。精製した標的への結合は、表面プラズモン共鳴(SPR)標的を固定した表面に分子を流し、結合による質量変化を光学的に、ラベルなしで検出する測定手法。詳しく →で結合と解離の速さまで読めますが(結合速度論)、それは製品が働く場そのものではありません。
報告書に「結合は規格内、ADCC は規格外試験結果が規格の範囲を外れること。原因調査の対象になる。詳しく →」と並んだとき、疑う場所は、抗体の糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。詳しく →なのか、試験に使った細胞の状態なのかに分かれます。切り分けの手がかりは、細胞を使う試験が何に答えているかを知っていることです。
細胞の上で測る意味 ― 精製した標的との違い
理由は、抗原が置かれている状況の違いにあります。
精製した抗原をセンサーに固定すると、分子は溶液の中で自由に振る舞い、向きも均一に近く、邪魔をするものもありません。ここで測った結合は、その抗体と抗原の純粋な相性です。
細胞の表面は違います。抗原は膜を貫いた向きで固定され、動ける範囲が限られ、細胞ごとの量も違います。糖鎖が付いていれば、抗体が認識する部位(エピトープ)の一部が覆われていることもあります。逆に、抗原が近くに並んでいれば、抗体は2本の腕で同時に結合でき、見かけの結合の強さ(アビディティ複数の結合点による見かけの結合力の高まり。多価化で強まる。詳しく →)が大きく上がります。
さらに、結合したあとに何が起きるかは、結合の強さだけでは決まりません。ADCC は、抗体の根もと(Fc 領域)が免疫細胞の受容体をつかんで始まるので、標的に結合する部分だけを測る試験には現れません(ADCC・CDCとは?)。Fc の糖鎖からフコースを外すだけで ADCC が大きく動く話は、アフコシル化の記事で解説しています。
物性の評価は分子どうしの関係を測り、細胞の評価は製品が働く場での関係を測ります。両方そろって初めて、分子の性格が見えます。
細胞の上での結合 ― フローサイトメトリーと抗原密度
まず確かめるのは、細胞の表面にある標的に、実際に結合するかです。
抗体を蛍光で標識するか、二次抗体で検出して、細胞ごとの蛍光の強さを読むのがフローサイトメトリー細胞を一つずつ測定し、表面マーカーや性質を調べる手法です。細胞の種類・純度・活性の確認に使います。詳しく →です。濃度を振って測れば、細胞の上での見かけの結合の強さが出ます。精製した標的で測った値と並べると、どれだけずれるかが分かります。
同時に、もう一つの情報が手に入ります。標的の抗原が、細胞あたりどれだけあるかです。既知の分子数をもつ定量ビーズを一緒に測れば、蛍光の強さを分子の数に換算できます。ADCC も CDC抗体Fcに補体C1qが結合してカスケードが進み、膜侵襲複合体が標的細胞の膜を破壊する作用。詳しく → も、抗原が細胞の表面に十分な密度で出ていなければ立ち上がりにくく、CDC はとくに密度に左右されます。この値を押さえずに機能の評価だけを進めると、良い値が出ても悪い値が出ても、解釈に困ります。
選択性の確認にも使えます。標的を出している細胞と出していない細胞を並べ、後者に結合しないことを示します。精製した抗原では見えない交差反応ある抗原に対して生じた抗体が、構造の類似した別の抗原にも結合・反応する現象。詳しく →が、細胞では見えることがあります。
細胞を使う試験では、使う細胞株の性質が結果を決めます。抗原の発現量は継代を重ねると変わることがあり、株によっては細胞ごとにばらつきます。試験を組む前に抗原の密度を実測して記録に残しておくと、数か月後に値が動いたとき、抗体の問題か細胞の問題かを切り分けられます。
結合のあとを測る ― 殺す、止める、出す
結合のあとに何が起きるかは、作用機序薬が効果を発揮する仕組み。抗体医薬ではADCCやCDCなどが該当し、アッセイで裏づける。詳しく →ごとに、測る試験が違います。
殺す力を測るのが、ADCC の試験です。健常人の血液から NK 細胞を分けて標的細胞と混ぜる方法は、体内に近い反面、ドナーごとに細胞の数も活性も受容体の型も違うため、ばらつきが大きくなります。ADCC のレポーター系を開発した Parekh らも、従来の試験は複雑でばらつきが大きく、品質管理原料・資材・中間体・製品を規格に照らして試験し、使ってよいか、出荷してよいかの合否を決める仕事です。GMPでは製造部門から独立させます。詳しく →の現場に入れにくかったと述べています。そこで規格試験には、受容体を組み込んだ光る細胞を使う系が選ばれています。仕組みと落とし穴はレポーターアッセイにまとめています。糖鎖のフコースの割合が違うロットは、この ADCC の試験に先に現れます。
止める力を測るのが、中和などの機能アッセイ結合ではなく標的の働きを止める・動かすといった生物学的効果のほうを測る評価。詳しく →です。受容体を塞ぐ設計の抗体なら、下流の信号が止まることを確かめます。逆に、受容体を活性化する設計なら、信号が立ち上がることを見ます。結合が強いことと中和が強いことは別で、その読み方は中和活性・機能アッセイで解説しています。
細胞が出すサイトカインは、免疫を動かす抗体の反応を読む指標です。複数のサイトカインを同時に測る系を使うと、標的の信号だけが動いたのか、広く炎症性の反応が立ち上がったのかが分かります。二重特異性抗体2つの異なる標的に同時に結合する抗体。T細胞と標的細胞を橋渡しする用途などがある。詳しく →や免疫を活性化する抗体では、後者が安全性の懸念に直結します。2006年に英国で、TGN1412初回ヒト投与でサイトカイン放出の重篤な反応を起こした抗CD28抗体で、MABEL普及の契機。詳しく → という抗体を初めて人に投与した試験で、投与された6人全員が命に関わる全身の炎症反応を起こしました。人の免疫細胞に抗体を培養液へ溶かして加える方法では、この反応が見えませんでした。条件の組み方で結果が変わるため、詳しくはサイトカイン放出試験にあります。
測る時点も、試験の設計の一部です。数時間で立ち上がる信号もあれば、増殖を伴う反応は数日かかります。ADC標的を選ぶ抗体に、細胞傷害性の薬物(ペイロード)をリンカーでつないだ分子。詳しく → では、結合した標的が抗体ごと細胞の中に取り込まれるかどうかが設計を左右するので、蛍光で標識した抗体を顕微鏡で追います。
一つの時点、一つの指標だけを見ても、反応の形は分かりません。
細胞を使う試験が崩れる場面 ― 細胞数、継代、標準品
細胞を使う試験の再現性は、抗体の側より、細胞の側の管理で決まることが多くあります。
一つ目は、播く細胞の数と生存率です。数がずれれば、反応の大きさそのものが動き、用量反応の曲線がずれます。生存率が低い細胞を使えば、結果は読めません。数と生存率をそろえてから試験に入るのが前提で、数え方の違いが日による差になることもあります(自動細胞計数)。
二つ目は、継代を重ねた細胞です。継代を重ねると、応答性や抗原の発現が変わることがあります。使える継代数の上限を決め、セルバンク目的物質を作る細胞をあらかじめ大量に凍結保存し、製造のたびに同じ素性の細胞を使えるようにした細胞の在庫(MCB/WCB)のことです。詳しく →で管理する理由はここにあります(MCBとWCB)。
三つ目は、絶対値で比べてしまうことです。細胞を使う試験は日によって揺れるので、同じプレートに標準品を置き、標準品に対する相対力価検体の力価を標準品と比べて表す値。生物系の日間変動を比で打ち消せる。詳しく →で表します(バイオアッセイと相対力価)。
細胞を使う試験が揺れたときは、抗体を疑う前に、細胞の数、継代増殖した細胞を定期的に希釈・移植して培養を維持する操作で、回数が増えると細胞の性質が変化するリスクがある。詳しく →、標準品の三つを見ます。
明日から確かめられること
評価を組むときは、まず作用機序を一文で書きます。何に結合して、何が起きて、なぜ効くのか。この一文が書けないと、どの試験が主でどれが従かが決まらず、規格に載せる試験も選べません。そのうえで、使う細胞と抗原密度を決め、結合の評価を精製系と細胞系の両方で取り、機能の評価を組みます。
報告書や受託先の提案を読むときは、次の点が確かめどころです。
- 作用機序が一文で書かれ、それに対応する機能試験があるか
- 結合を精製系と細胞系の両方で取り、ずれの理由を説明できるか
- 使う細胞の抗原密度を実測し、記録しているか
- ADCC の試験が初代細胞かレポーターか、規格試験と特性解析規格試験より高い分解能で製品の品質特性を詳しく調べること。比較可能性の評価などで用いる。詳しく →で役割が分かれているか
- 標準品力価の基準に定めた品。検体と同じアッセイで並べて測り、相対力価の基準にする。詳しく →を同じプレートに置き、相対力価で出しているか
- 細胞の継代数細胞を植え継いだ回数。培養履歴を表し、産生量や品質の再現性に影響する。詳しく →の上限と、播く細胞数・生存率の基準が決まっているか
製造方法を変えたときは、これらの値が前後でそろうかが同等性評価で問われます。再現性の高い試験を規格に、生理的な意味の濃い試験を特性解析に割り当てるのが、実務の組み方です。
結合の装置はSPRとBLI、細胞の上の結合はフローサイトメトリー、ADCC のレポーター細胞はレポーター遺伝子アッセイ、複数のサイトカイン細胞が放出する免疫の情報伝達物質。細胞治療では効果と安全性のリードアウトになる。詳しく →の測定はサイトカイン多重測定で比べられます。
参考文献
- Shinkawa T, Nakamura K, Yamane N, et al. The absence of fucose but not the presence of galactose or bisecting N-acetylglucosamine of human IgG1 complex-type oligosaccharides shows the critical role of enhancing antibody-dependent cellular cytotoxicity. J Biol Chem. 2003;278(5):3466-3473.(同じ配列の抗体で ADCC が50倍以上違った例)
- Parekh BS et al., Development and validation of an antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity-reporter gene assay. mAbs. 2012;4(3):310-318.(従来の ADCC 試験の課題と、レポーター系の性能)
- Suntharalingam G, et al. Cytokine storm in a phase 1 trial of the anti-CD28 monoclonal antibody TGN1412. N Engl J Med. 2006;355(10):1018-1028.
- ICH Q6B: Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products(生物活性の試験と規格)
- ICH Q5E: Comparability of Biotechnological/Biological Products Subject to Changes in Their Manufacturing Process(製造変更の前後の比較)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/antibody-functional-characterization-cell-based