ADCC・CDCとFcエフェクター機能:抗体が細胞を殺すしくみと評価
抗体が抗原に結合しただけでは、多くの場合、何も起きません。受容体を塞いで信号を止めるタイプなら結合で完結しますが、がん細胞を殺すことを狙う抗体は違います。結合したあと、免疫系の別の部隊を現場に呼ぶ必要がある。その呼び出しを担うのが Fc 領域です。可変領域抗体の抗原を認識する先端部分。CDRとフレームワーク領域からなり、標的にフィットするかで結合が決まる。詳しく →が標的を決め、Fc が起きることを決める、という分業になっています。

核心は一点です。Fc が引くことのできる引き金は三つあり、それぞれ別の細胞と別の分子を使います。NK細胞FcγRIIIaを持つリンパ球。パーフォリンやグランザイムで標的を傷害するADCCの主役。詳しく →を呼んで標的を攻撃させる経路、マクロファージを呼んで丸ごと飲み込ませる経路、そして補体を呼んで膜に穴を開ける経路。同じ IgG1 でも、どの引き金がどれだけ引かれるかは標的の性質と抗体の設計で変わります。作用機序薬が効果を発揮する仕組み。抗体医薬ではADCCやCDCなどが該当し、アッセイで裏づける。詳しく →を決めるということは、この三つの配分を決めるということです。
この記事では、三つの引き金を整理してから、NK細胞を呼ぶ仕組み、補体が必要とする条件、糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。詳しく →が効く部分、そして評価法の順に解説します。糖鎖そのものの設計はアフコシル化にまとめてあります。最後に、Fc を設計する順序を並べます。
- Fc が引く引き金は三つあり、NK細胞、マクロファージ、補体という別々の部隊を動かします。
- 補体を働かせるには、抗体が細胞表面で六つ集まって台を作る必要があります。
- レポーター細胞を使う評価は再現性が高く、初代細胞の系はドナー差で 30〜50% 振れます。
三つの引き金 ― 誰を呼ぶのか
Fc が呼べる相手は、大きく三種類です。
一つ目が NK細胞で、表面の FcγRIIIa が抗体の Fc をつかみます。つかまれた NK細胞は活性化し、パーフォリンとグランザイムを放出して標的細胞を殺す。これが抗体依存性細胞傷害抗体FcがNK細胞などのFcγRIIIaに結合し、そのエフェクター細胞に標的細胞を傷害させる作用。詳しく →、いわゆる ADCC です。
二つ目がマクロファージと単球で、こちらは FcγRIIa や FcγRI を使います。標的を丸ごと飲み込んで分解するので、抗体依存性細胞貪食マクロファージなどの貪食細胞が、抗体で覆われた標的細胞をFcγRを介して丸ごと取り込む作用。と呼ばれます。固形がんの微小環境では NK細胞より数が多いことがあり、実際の効き目への寄与が見直されてきた経路です。
三つ目が補体です。血中の C1q が抗体の Fc をつかむと、そこから連鎖反応が始まり、最終的に標的細胞の膜に穴を開けます。これが補体依存性細胞傷害抗体Fcに補体C1qが結合してカスケードが進み、膜侵襲複合体が標的細胞の膜を破壊する作用。詳しく →です。細胞を呼ぶ必要がなく、血中の分子だけで完結する点が他の二つと違います。
サブクラスヒトIgGのIgG1〜IgG4という分類。エフェクター機能や補体活性化の強弱がそれぞれ異なる。詳しく →によって、引ける引き金が変わります。IgG1 は三つすべてを強く引けますが、IgG2 は弱く、IgG4 はほとんど引きません。血中の半減期薬の血中濃度が半分に下がるまでの時間。抗体フラグメントでは短く、延長の工夫が要る。詳しく →はどのサブクラスも 21日間 前後で似通っているのに、呼べる部隊だけがはっきり違います。抗体のサブクラスを選ぶということは、どの部隊を呼べるかを選ぶということです。
ADCC ― NK細胞を呼ぶ条件
ADCC が成立するには、いくつかの条件がそろう必要があります。
まず、標的抗原が細胞表面に十分な密度で出ていること。細胞あたり 10⁴ から 10⁵ の桁が一つの目安で、これを下回ると反応が立ち上がりません。次に、抗体がその抗原に結合して Fc を外側に向けていること。そして、NK細胞が現場に到達していること。実験系では標的細胞に対して 10対1 ほどの比で NK細胞を加え、4時間 前後で細胞死を測るのが標準的な組み方です。抗体の濃度は 0.001〜10 µg/mL の範囲を振って用量反応曲線濃度を振ったときの応答の変化を表す曲線で、ここからIC50やEC50を導く。詳しく →を引きます。
患者側の要因も効きます。FcγRIIIaNK細胞などが持つ活性化型のFc受容体。抗体Fcとの結合でADCCの引き金になる。詳しく → の 158番目のアミノ酸にはバリンとフェニルアラニンの多型があり、バリン型のほうが Fc を強くつかみます。臨床でリツキシマブの効果とこの多型の関連が報告されたことから、Fc の結合を強める設計が真剣に検討されるようになりました。
ADCC は抗体単独の性質ではなく、抗体と NK細胞と抗原密度の三者で決まる現象です。
CDC ― 六量体という条件
補体の経路には、他の二つにない特殊な条件があります。
C1q補体反応の引き金となるタンパク質。標的上に密に並んだ抗体Fcに結合してCDCのカスケードを開始する。 は六本の腕を持つ分子で、複数の Fc を同時につかんで初めて安定に結合します。つまり、抗体が細胞表面でばらばらに座っていても補体は働きません。結合した抗体どうしが横に集まり、六つで台を作る。六つ集まってはじめて、C1q が乗って連鎖が始まります。単量体としての C1q と Fc の親和性抗体が抗原に結合する強さ。解離定数などで表し、値が小さいほど強く結合することを示す。詳しく →は µM の桁と弱く、集合によって見かけの結合力を稼いでいる形です。
だから CDC の強さは、抗原の密度や、抗原が膜のどこにあるかに強く依存します。同じ抗体でも、抗原が密に並ぶ細胞では強く効き、まばらな細胞ではまったく効かない。抗原の細胞膜からの距離、いわゆるエピトープ抗原の表面で抗体が実際に結合する一角のこと。抗原決定基とも呼ばれ、抗体ごとに認識する場所が異なる。詳しく →の高さも効きます。
この仕組みが分かったことで、六量体インスリンが亜鉛イオンを介して6分子集合した会合体で、製剤中や貯蔵時に分子を安定に保つ形態。詳しく →化を助ける変異を Fc に入れる設計が生まれました。抗体どうしの横の相互作用を強める置換で、CDC を大きく高められます。逆に、C1q が結合する部位の残基を変えれば CDC だけを消すこともできます。
CDC は抗原密度に強く依存するので、細胞株を使った評価と患者の腫瘍細胞での実際の効き目が乖離しやすい経路です。評価に使う細胞の抗原密度を実測しておかないと、良い値が出ても解釈できません。密度を測ったうえで、低密度の細胞株でも確かめておくと、後で説明に困りません。
糖鎖が動かす部分
三つの引き金のうち、糖鎖がいちばん効くのは ADCC です。
Fc の Asn297IgGのFc領域で各重鎖にN型糖鎖が1本付く、決まったアスパラギン残基の位置。糖鎖修飾の起点になる。詳しく → に付く N 型糖鎖のうち、コアのフコースを外すと FcγR免疫細胞側にある抗体Fcの受け皿となる受容体。活性化型と抑制型があり、両者のバランスが効く。詳しく →IIIa への結合が大きく強まります。報告されている改善幅は最大 50倍 で、ADCC もそれに応じて上がる。受容体側にも糖鎖があり、抗体側のフコースが立体的に邪魔をしていたためです。
一方、CDC への糖鎖の影響は限定的です。C1q の結合部位は糖鎖から離れたところにあり、フコースの有無では大きく動きません。ただし、糖鎖を完全に外して Fc の立体構造が崩れると、三つとも失われます。
通常の CHO 由来の抗体でも、アフコシル体コアフコースを欠く糖鎖を持つ抗体。FcγRIIIaへの結合が強まりADCC活性が増強する。詳しく →は 2〜8% 混ざっていて、主要な糖鎖である G0Fコアフコースを持ちガラクトースを欠くIgGの糖鎖種。CHO産生抗体で主成分になりやすい。詳しく → と G1F が全体の 8割 前後を占めます。この比率がロット間で動けば ADCC も動くので、糖鎖プロファイルは重要品質特性製品の有効性や安全性に直結し、規格で管理すべき品質特性。空実比や純度、凝集体などが該当する。詳しく →として管理されます。糖鎖は ADCC の強さを決める変数であって、CDC の変数ではありません。
測り方 ― レポーターか、初代細胞か
評価法は二系統に分かれ、目的で使い分けます。
初代細胞を使う系は、生理的な状況に近い。健常人の血液から NK細胞を分離し、標的細胞と混ぜて細胞死を測ります。ただしドナーによって NK細胞の数も活性も FcγRIIIa の多型も違うため、結果が 30〜50% の幅で振れることも珍しくありません。レポーター系なら 15% 以下に収まります。規格試験としては扱いづらい。
そこで、レポーター細胞を使う系が実務では主流でした。FcγRIIIa と転写因子応答性のレポーター遺伝子遺伝子発現を蛍光や発光などで検出可能にするために導入する標識用の遺伝子。詳しく →を組み込んだ細胞株を使い、Fc が結合したときの信号を発光で読みます。Promega のアッセイが代表的で、細胞死そのものは測っていませんが、再現性が高く、力価試験細胞や生体分子に実際に作用させ、医薬品の生物活性(どれだけ効くか)を数値化する試験。詳しく →に使える水準のばらつきに収まります。多型についても、バリン型とフェニルアラニン型の両方の細胞株が用意されています。測定は 6〜24時間 で終わり、96穴の形式で多検体を回せます。
受容体への結合そのものは、表面プラズモン共鳴やバイオレイヤー干渉法センサー先端に結合した分子の膜厚変化を光の干渉で捉え、抗体などの結合・解離のしやすさ(親和性)をリアルタイムで測る手法です。詳しく →で測ります。Cytiva や Sartorius の装置に ACROBiosystems のような供給元から入手した FcγR を固定し、結合と解離を追う。CDC は人血清を補体源として 5〜20% の濃度で加え、標的細胞の生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。詳しく →で評価します。
初代細胞は特性解析規格試験より高い分解能で製品の品質特性を詳しく調べること。比較可能性の評価などで用いる。詳しく →に、レポーターは規格試験に。役割を分けておくと、ロットごとのばらつきの原因を切り分けられます。
Fc を設計する順序
Fc の設計に入るとき、次の順で決めると迷いが減ります。
一番目は、エフェクター機能抗体が免疫系を動かして標的細胞を排除する働き。ADCCやCDCなどがある。詳しく →が要るかどうかを決めることです。 受容体を塞ぐことが作用機序なら、むしろ機能を消したほうが安全です。この判断を飛ばしてサブクラスを選ぶと、後から不要な毒性の説明に追われます。二番目に、要るとしてどの引き金かを決めます。標的が血液細胞なら ADCC と CDC の両方が効きますが、固形がんの微小環境では貪食の寄与が大きい場合があります。
三番目に、標的抗原の密度を測ります。CDC は密度に強く依存するので、この値が低ければ CDC を狙う設計は成立しません。四番目が具体的な改変です。ADCC を上げるならフコースを外すか、FcγRIIIa への親和性を 10〜100倍 高める置換を入れる。CDC を上げるなら六量体化を助ける置換を選ぶ。消すなら、FcγR と C1q の結合部位をまとめて潰す置換を使います。
最後に、評価系を組みます。規格試験に使う系と、機序を確かめる系を分けて設計しておく。ここを一本で済ませようとすると、再現性か生理的な意味か、どちらかを捨てる結果を招きます。ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく → が求める力価試験は、作用機序を反映していることが前提です。
参考文献
- Shields RL, Lai J, Keck R, et al. Lack of fucose on human IgG1 N-linked oligosaccharide improves binding to human FcγRIII and antibody-dependent cellular toxicity. J Biol Chem. 2002;277(30):26733-26740. PubMed: 11986321
- Reusch D, Tejada ML. Fc glycans of therapeutic antibodies as critical quality attributes. Glycobiology. 2015;25(12):1325-1334. doi:10.1093/glycob/cwv065
- Saunders KO. Conceptual Approaches to Modulating Antibody Effector Functions and Circulation Half-Life. Front Immunol. 2019;10:1296. doi:10.3389/fimmu.2019.01296
- Parekh BS, Berger E, Sibley S, et al. Development and validation of an antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity-reporter gene assay医薬品中の有効成分が規格範囲内の量(含量)で存在するかを定量的に確認する試験。詳しく →. mAbs. 2012;4(3):310-318. doi:10.4161/mabs.19873
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q6B: Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products. database.ich.org
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