抗体のアフコシル化とは?ADCCを高める3つの作り方と選び方

抗体のアフコシル化とは、抗体の Fc 領域の糖鎖からコアフコースを除き、免疫細胞の受容体 FcγRIIIa への結合を強めて ADCC(抗体依存性細胞傷害)を高める改変です。糖鎖を設計して抗体の効き方を作り込むこの種の技術を、グライコエンジニアリング細胞株や酵素で糖鎖の構造を制御し、ADCCなどの性質を作り込む技術。詳しく →と呼びます。
ただし、フコースを減らす作り方は三つあり、どれを選ぶかで、あとから比率を調整できるか、ロットごとに値が揺れないかが変わります。
この記事では、フコース1個で結合が変わる理由、三つの作り方、強く効かせる代償、培養で比率を保つ管理、確かめる点を順に説明します。
1. フコース1個で結合が変わる理由 ― 受容体の糖鎖とぶつかる
同じアミノ酸配列の抗体から糖を1個外すだけで、免疫細胞(NK細胞)の受容体 FcγRIIIa への結合が最大で約50倍に強まったと報告されています(Shields ら、2002年)。外す糖はフコースで、結合が強まった結果、ADCC(抗体依存性細胞傷害抗体FcがNK細胞などのFcγRIIIaに結合し、そのエフェクター細胞に標的細胞を傷害させる作用。詳しく →、抗体が結合したがん細胞などを免疫細胞が傷害する働き)が上がります。
この性質を狙って設計された薬は、すでに使われています。抗CCR4抗体のモガムリズマブ、抗CD20抗体のオビヌツズマブ、ぜんそくに使う抗IL-5受容体α抗体のベンラリズマブです。
結合が変わる理由は、受け取る側の受容体にも糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。詳しく →が付いていることにあります。
抗体の Fc 領域(免疫細胞の受容体が結合する、根もとの部分)には、Asn297 というアミノ酸にN型糖鎖が付いています。一方、NK細胞の FcγRIIIaNK細胞などが持つ活性化型のFc受容体。抗体Fcとの結合でADCCの引き金になる。詳しく → にも Asn162 に糖鎖があり、抗体が結合するとき、この2本の糖鎖が近づきます。
抗体側の糖鎖にコアフコースIgGのFc糖鎖の根元に付くフコース。これがあるとFcγRIIIaへの結合が下がり、ADCCが弱まる。詳しく →があると、そこで立体的にぶつかって結合が弱まります。フコースを外すと立体障害分子が近接して結合したとき、かさばりによって互いの結合を妨げ合う現象。競合として現れる。詳しく →がなくなり、糖鎖どうしが直接触れ合って、結合が強まります(Ferrara ら、2011年)。
この違いは、細胞での ADCC にも大きく現れます。フコースの少ない YB2/0 細胞で作った抗体は、CHO 細胞で作った同じ抗体より ADCC が50倍以上高く、糖の組成を調べると、差を生んでいたのはフコースの少なさでした。ガラクトース細胞表面の糖鎖に含まれる単糖の一種で、一部のAAV血清型が細胞へ付着する際に認識する分子。詳しく →の有無や、二分岐 GlcNAc(バイセクティング GlcNAc)の付加では、同じ規模の差は出ていません(Shinkawa ら、2003年)。
患者側の要因も関わります。FcγR免疫細胞側にある抗体Fcの受け皿となる受容体。活性化型と抑制型があり、両者のバランスが効く。詳しく →IIIa には158番目のアミノ酸がバリン(V)かフェニルアラニン(F)かという個人差があり、V型は IgG1 に強く結合します。
F型の人では通常の抗体の ADCC が弱く出やすいところ、アフコシル化した抗体は結合が強いぶん、この差が縮まるとされます。なお、フコースの有無で動くのは ADCC で、補体で細胞を壊す CDC(補体依存性細胞傷害抗体Fcに補体C1qが結合してカスケードが進み、膜侵襲複合体が標的細胞の膜を破壊する作用。詳しく →)はほとんど動きません。両者の違いはADCC・CDCとは?で解説しています。
フコースを外すことは、ADCC を強めるだけでなく、受容体の型による個人差を縮める方向にも働きます。
2. 三つの作り方 ― 酵素を壊す、別の酵素を足す、材料を止める
フコースを減らす方法は、糖鎖にフコースが付くまでの流れのどこを押さえるかで、三つに分かれます。
糖鎖にフコースを付けるのは、ゴルジ体にある酵素 FUT8 で、材料には GDP-フコースを使います。この酵素を壊すか、別の酵素を使って FUT8 の反応を妨げるか、材料の合成を止めるかが、三つの作り方に対応します。
| FUT8 ノックアウト遺伝子を機能破壊する編集。切断後のNHEJで生じるインデルが読み枠をずらして機能を失わせる。詳しく → | GnTIII の過剰発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。詳しく → | フコース類似体の添加 | |
|---|---|---|---|
| 押さえる場所 | 酵素そのものを壊す | 別の酵素で先に二分岐 GlcNAc を付ける | 培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →に入れて材料の合成を止める |
| フコースの残り | ほぼなくなる | 一部は残る | 添加量で変わる |
| 細胞株 | 専用の株が要る | 専用の株が要る | 既存の株で試せる |
| 後から比率を変える | できない | 発現量細胞が目的のタンパク質を作る量。低いと必要量の確保に手間がかかり、製造コストが上がる。詳しく →で調整できる | 濃度で振れる |
1つ目は、FUT8 そのものを壊す方法です。FUT8 を欠損させた CHO抗体など組換えタンパク質の生産に広く使われる、チャイニーズハムスター卵巣由来の培養細胞です。詳しく → 細胞では、フコースの付いた糖鎖がほとんど出てきません。
FUT8 を欠損させていない CHO 細胞で作るとフコースのない糖鎖は数%ですが、この株では100%近くまで上げられます(Yamane-Ohnuki ら、2004年)。細胞株が固定されるので、ロット間のばらつきも小さく収まります。
モガムリズマブは2012年に日本で承認され、のちにアメリカでも承認されました。ベンラリズマブも、フコースを減らした抗体です。
2つ目は、別の酵素 GnTIII を足して競合させる方法です。GnTIII が先に二分岐 GlcNAc を付けると、FUT8 がフコースを付けにくくなります(Umaña ら、1999年)。
この方法ではフコースが完全にはなくならず、オビヌツズマブではフコースが約半分残り、二分岐 GlcNAc が8割を超えて付いています。二分岐 GlcNAc にも結合を強める働きがあるとされ、オビヌツズマブは二つの効果を重ねた設計で、2013年に承認されています。
3つ目は、材料の側を止める方法です。2-フルオロフコースのようなフコース類似体を培地に加えると、細胞の中でフコースの材料である GDP-フコースが作られにくくなり、フコースの付いた糖鎖が減ります(Okeley ら、2013年)。
細胞株を作り直さずに試せる反面、添加物が原材料製造の起点となる原料で、その品質や持ち込む不純物が最終製品の品質に影響しうるため、規格管理が重視される物質。詳しく →としての管理対象になり、製品への残り方も評価する必要があります。
三つに加えて、4つ目の方法も出てきました。フコースの原料をゴルジ体へ運ぶ GDP-フコーストランスポーター(GFT)を壊す方法で、2026年には、この方法で作った抗体が中国で承認されています。
GnTIII 型の先行品と機能まで比べた論文の読み方は、オビヌツズマブは作り方でどこまで変わるかにあります。フコースを下げきる力では GFT ノックアウトが上回りましたが、糖鎖の均一性や熱安定性抗体が熱に対して立体構造を保つ性質。融解温度(Tm)などで評価する。詳しく →は単純に優劣が付きませんでした。
三つの作り方は、後戻りのしやすさが違います。FUT8 ノックアウトは細胞株そのものが変わるので、あとから比率を調整できません。GnTIII なら発現量、培地への添加なら濃度で振れますが、後者は原材料として管理する項目が増えます。臨床で必要な比率が固まる前なら、調整できる手段を残しておく判断もあります。
3. 強く効かせる代償 ― 作用機序の確認と、投与時の反応
アフコシル化Fc糖鎖の根元のフコース(コアフコース)を欠いた状態。FcγRIIIaへの結合が強まりADCCが増強する。詳しく →は、どの抗体でも効き目を高める改変ではありません。
最初に確かめるのは、その抗体の作用機序薬が効果を発揮する仕組み。抗体医薬ではADCCやCDCなどが該当し、アッセイで裏づける。詳しく →に ADCC が含まれているかです。標的に結合して働きを止める中和低pH条件で溶出されたサンプルに緩衝液を加えてpHを中性付近に戻し、製品へのダメージを防ぐ操作。詳しく →が主な作用の抗体なら、ADCC を強めても効き目は上がらず、作りにくさだけが残ります。
モガムリズマブは CCR4 を出す腫瘍細胞を、ベンラリズマブは IL-5 受容体を出す好酸球を、ADCC で取り除く薬で、アフコシル化が目的に合っています。
強く効かせれば、体への作用も強くなりえます。CLL11 試験は、慢性リンパ性白血病の患者を対象に、オビヌツズマブとリツキシマブを同じ抗がん剤(クロラムブシル)に併用して比べた試験です。
この試験で、グレード3以上の重い投与時反応(インフュージョンリアクション)は、オビヌツズマブの併用群で20%、リツキシマブの併用群で4%でした(Goede ら、2014年)。
オビヌツズマブは糖鎖の改変に加えて、CD20 への結合の仕方もリツキシマブと違うため、この差を糖鎖だけの結果とは言えません。それでも、ADCC を強めた抗体では、投与時の反応を開発の早い段階から見ておく価値があります。
バイオシミラーでは、さらに別の難しさがあります。先行品のアフコシル体コアフコースを欠く糖鎖を持つ抗体。FcγRIIIaへの結合が強まりADCC活性が増強する。詳しく →が数%の抗体なら、後続品もその数%に合わせなければなりません。高くすれば効き目が上がるので良い、とはならず、先行品の範囲に収めることが求められます(バイオシミラーの開発と同等性)。
アフコシル化は、ADCC を「高くする技術」であると同時に、狙った値に「合わせる技術」でもあります。
4. 作ったあとに崩れない ― 培養で動く比率と、規格の置き方
細胞株を作り込んでも、比率が毎回同じに出るとは限りません。
糖鎖の分布は、培養条件で動きます。培地中のマンガンやヌクレオチド核酸を構成する単量体単位で、塩基・糖・リン酸から成り、DNAやRNAの最小構成要素。詳しく →糖の供給、アンモニアグルタミンの代謝と化学分解で生じる代謝副産物。蓄積すると増殖・生存を落とし、糖鎖の質にも影響する。詳しく →がたまることで起きるゴルジ体の pH の変化、溶存酸素培養液に溶けている酸素の濃度。細胞の呼吸を支えるため一定に保つ制御対象。詳しく →、温度、培養の日数が、どれも比率を揺らす要因です(CHO細胞のアンモニア対策、乳酸代謝の切り替わり、糖鎖と培養条件の関係)。
FUT8 を壊した系は、フコースを付ける酵素が無いので、比率は100%近くで安定し、揺れる心配が小さくなります。一方、GnTIII や培地への添加で作った系は、条件しだいで上下するため、設計で得た値を工程を通して再現し続けられるかが問われます。
そこで、細胞株の構築の段階で、培養条件を振ったときにアフコシル体の割合がどれだけ動くかを測っておきます。この実測の幅が、規格の範囲(ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく →)を置く根拠です。製造方法を変えたときの同等性評価(ICH Q5E製造工程の変更前後で製品が同等・比較可能かを評価する考え方を定めたガイドライン。詳しく →)で、前後を比べる土台でもあります。
比率は、糖鎖を切り出して標識し、HILIC親水性の担体で極性の高い分子を分離する手法です。抗体から切り出した糖鎖のプロファイル解析などに使われます。詳しく → で分けて測るのが基本です(N型糖鎖プロファイリング、糖鎖分析)。
ただし、比率が合っていても、活性が付いてくるとは限りません。細胞を使ってその効き方を測る試験は、細胞を使った機能評価とレポーターアッセイにまとめています。
設計値ではなく、工程が実際に収まる幅が規格を決めます。比率の測定と活性の測定は、並べて見ます。
5. 明日から確かめられること
アフコシル化を使った抗体の開発や調達に関わるなら、次の順に確かめます。
- 作用機序:その抗体の作用機序に、ADCC が含まれているかを確かめます。
- 作り方:フコースを減らす方法が三つのどれかと、後から比率を調整できる手段かを確かめます。
- 管理の位置づけ:アフコシル体の割合が、規格または重要品質特性製品の有効性や安全性に直結し、規格で管理すべき品質特性。空実比や純度、凝集体などが該当する。詳しく →として管理されているかを確かめます。
- 工程の幅と活性:培養条件を振ったときに比率がどれだけ動くかのデータがあり、比率の測定と、結合や ADCC の試験を並べて見ているかを確かめます。
- バイオシミラーの場合:先行品の比率の範囲に収めているかを確かめます。
細胞株の構築を受託先に任せるなら安定発現細胞株構築(受託)、ADCC のレポーター細胞やキットを探すならレポーター遺伝子アッセイが入口です。
参考文献
- Shields RL, Lai J, Keck R, et al. Lack of fucose on human IgG1 N-linked oligosaccharide improves binding to human FcγRIII and antibody-dependent cellular toxicity. J Biol Chem. 2002;277(30):26733-26740. PubMed: 11986321(FcγRIIIa への結合が最大で約50倍)
- Shinkawa T, Nakamura K, Yamane N, et al. The absence of fucose but not the presence of galactose or bisecting N-acetylglucosamine of human IgG1 complex-type oligosaccharides shows the critical role of enhancing antibody-dependent cellular cytotoxicity物質が細胞の生存や増殖を障害する性質のことで、過剰な細胞毒性条件下では偽陽性の遺伝毒性シグナルが生じやすくなる。詳しく →. J Biol Chem. 2003;278(5):3466-3473.(YB2/0 由来の抗体の ADCC が CHO 由来の50倍以上)
- Yamane-Ohnuki N, Kinoshita S, Inoue-Urakubo M, et al. Establishment of FUT8 knockout Chinese hamster ovary cells: an ideal host cell line for producing completely defucosylated antibodies with enhanced antibody-dependent cellular cytotoxicity. Biotechnol Bioeng. 2004;87(5):614-622.
- Umaña P, Jean-Mairet J, Moudry R, et al. Engineered glycoforms of an antineoplastic antibody having enhanced antibody-dependent cellular cytotoxicity activity. Nat Biotechnol. 1999;17(2):176-180.
- Ferrara C, Grau S, Jäger C, et al. Unique carbohydrate-carbohydrate interactions are required for high affinity binding between FcγRIII and antibodies lacking core fucose. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011;108(31):12669-12674.
- Okeley NM, Alley SC, Anderson ME, et al. Development of orally active inhibitors of protein and cellular fucosylation. Proc Natl Acad Sci U S A. 2013;110(14):5404-5409.(2-フルオロフコースがフコース化を阻害する仕組み)
- Goede V, Fischer K, Busch R, et al. Obinutuzumab plus chlorambucil in patients with CLL and coexisting conditions. N Engl J Med. 2014;370(12):1101-1110.(CLL11 試験。グレード3以上の投与時反応)
- ICH Q6B: Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products.
- ICH Q5E: Comparability of Biotechnological/Biological Products Subject to Changes in Their Manufacturing Process.
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/antibody-glycoengineering-afucosylation