ペプチド医薬の類縁物質プロファイリング:純度の読み方と読み違い

ペプチド原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →の試験成績書に「HPLC純度99%」とあれば、合格と思いたくなります。けれども、残りの1%が何なのかは、この数字からは分かりません。ペプチドでは、その1%が本体と質量まで同じ分子であることもあるからです。
類縁物質(related substances医薬品原薬や製剤中に含まれる、主成分以外の化学物質や主成分の分解・変換によって生じる物質の総称。詳しく →)は、本体によく似て非なる不純物の総称です。ペプチドは、合成の途中でも保存中でも、アミノ酸が1つ抜ける、向きが反転する、酸化されるといった小さな変化を起こします。質量や疎水性(水をはじく性質)のわずかな差を頼りに分けて正体を確かめるため、見落としの起きやすい分野です。
原薬の供給元や合成ルートを変えるとき、後発品を開発するとき、この顔ぶれの違いが判断を左右します。
本体に似て非なるもの ― ペプチド特有の類縁物質
類縁物質は、どこで生まれるかで3つに分けると見通しが良くなります。
1つ目は、合成で生まれるものです。固相ペプチド合成(SPPS)は、アミノ酸を1つずつ鎖に足していく工程を繰り返します。どこかの回で反応が完全に進まないと、その残基が抜けた鎖(欠損配列)が残り、逆に余分に入れば挿入配列と呼ばれます。アミノ酸を活性化する段階では、とくにシステインやヒスチジンで立体が反転するエピマー化(ラセミ化)が起こり、本体と同じ質量の分子(ジアステレオマー)が混じります。Asp-Xという並びでは、環をつくる副反応(アスパルチミド形成アスパラギン酸を含む配列で隣の骨格が環を巻き、五員環になる副反応。)も知られています。組換えで作るルートでは、これに宿主細胞由来の不純物が加わります。
2つ目は、保存やストレスで生まれるものです。メチオニン・トリプトファン・システインの酸化、アスパラギンやグルタミンの脱アミド、末端の切断、ジスルフィド結合システイン残基どうしが作るS-S結合。タンパク質の立体構造を留める橋になる。詳しく →の架け違いが典型です。どの条件でどこまで進むかは、強制分解試験で先に洗い出します。
3つ目は、会合です。疎水性の高いペプチドや高濃度の製剤では、二量体やオリゴマーができます。
| 類縁物質 | 何が起きるか | 質量 |
|---|---|---|
| 欠損配列・挿入配列 | アミノ酸が1つ抜ける、余分に入る | 変わる |
| エピマー | アミノ酸1つの立体が反転する | 変わらない |
| 酸化体 | メチオニンなどに酸素が付く | わずかに増える |
| 脱アミド体 | アスパラギンなどがアミドを失う | ほとんど変わらない |
| 切断体 | 末端などが削れる | 減る |
| ジスルフィド異性体 | S-S結合の相手が違う | 変わらない |
| 二量体・凝集体 | 分子が会合する | 倍数で増える |
脂肪酸の側鎖をつけたGLP-1のような分子では、側鎖がつかなかった分子や、つく位置が違う分子が加わり、骨格だけのペプチドより一段複雑です。側鎖の位置がなぜ重要かは、GLP-1ペプチドの脂質化の記事にあります。
類縁物質は「質量で見分けられるか」で分かれ、そこで使う分析法が決まります。
分けるのはRP-HPLC、正体を決めるのはLC-MS
純度試験の主役は逆相HPLC(RP-HPLC)で、正体の同定はLC-MS液体クロマトグラフで成分を分離したうえで質量分析計にかけ、分子量を測って物質の同定や定量を行う手法です。詳しく →が担います。
RP-HPLCは、疎水性のわずかな差でペプチドを分けます。欠損配列ペプチド合成時に特定のアミノ酸が取り込まれなかったために生じる、目的配列より短い不純物ペプチド。詳しく →、エピマー、酸化体といった本体に近い不純物を、出てくる時間の差として分けられるので、純度試験の第一選択です。ペプチド結合が吸収する紫外光で検出し、ピークの面積の割合から、純度と各不純物の量を出します。
LC-MSは、分けたピークをそのまま質量分析分子をイオンにして、質量と電荷の比で分け、分子の質量を精密に測る手法です。タンパク質の同定、修飾の位置の特定、不純物の確認などに使い、液体クロマトグラフと組み合わせることが多くあります。詳しく →に送り、精密な質量から何が変わったかを読み取ります。酸素1個分重ければ酸化、というように質量差が変化の種類を示し、酵素で刻んでから調べるペプチドマッピングで、どの残基が変わったかまで特定できます。質量が動かないエピマーは、RP-HPLCで出てくる時間の差と、必要に応じたキラル分析(鏡像の関係を見分ける分析)や、分解したアミノ酸の分析で裏づけます。
1つの分離条件だけでは、別々の不純物が同じ時間に出てくる共溶出を見落とします。移動相のpHやカラムの種類、分離の原理そのものを替えた直交法異なる原理の手法で同じ対象を測り、結果を突き合わせて検証し合う分析の組み方。詳しく →を併用して、ピークが本当に1つかを確かめます。脱アミドのように電荷が動く変化は、電荷バリアントの分析が別の角度から映します。装置と消耗品は、LC-MSと逆相HPLCカラムの製品ページで比べられます。
RP-HPLCは分けて量り、LC-MSは正体を決めます。質量が同じものは、分ける側の情報に頼ります。
規格と規制 ― ICH Q3Aの外側にある事情
低分子医薬の不純物には、ICH Q3A新有効成分を含む原薬中の不純物管理に関する国際的な規制ガイドラインで、報告・同定(構造決定)・資格付与(安全性確認)の各閾値を規定する。詳しく →/Q3Bが報告・同定・安全性確認の閾値を定めています。ところが合成ペプチドは、ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q3A/Q3B、Q6A/Q6B、M7の対象から全体または一部が外れています。EMAが、合成ペプチド専用のガイドラインが必要だと説明した理由です。
その空白を埋めるのが、EMAの「合成ペプチドの開発と製造に関するガイドライン」です。2025年12月にCHMPが採択し、2026年6月1日に発効しました。固相合成や断片縮合で作るペプチドの製造工程、特性解析、規格、分析管理を対象とし、組換えで作るペプチドは含みません。類縁物質を欠損・切断配列、立体異性体、凝集体などに分けて整理しています。組換え由来のペプチド(インスリンなど)は生物薬品として、ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく →の枠組みで規格をつくります。インスリンアナログの製造の記事にあるとおりです。
組換え由来の既承認品を参照して、合成ペプチドの後発品(ANDA)を申請する場面については、FDAが2021年5月に最終ガイダンスを出しています。対象に挙がるのは、グルカゴン、リラグルチド、ネシリチド、テリパラチド、テデュグルチドの5つです。ANDAで申請できる条件の中心は不純物で、参照品と共通する不純物は参照品の量以下、新しく現れる個別の不純物は原薬の0.5%以下であることを求めています。0.5%以下でも、一定の量を超えるものは同定して、安全性と有効性に影響しない理由を示す必要があります。
規格の組み立て方は、全部を同じ厳しさで管理するのではなく、リスクに応じてメリハリをつけます。量が多い、あるいは安全性や免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。詳しく →が気になる不純物ほど、同定と個別の規格を厳しくします。残りは、未同定不純物の上限と総量で縛ります。どの特性を重点管理するかはCQAごとの分析法の選び方に、本体と不純物の物差しになる標準品は標準品の設定にあります。分析法が不純物を見分けられること(特異性)は、ICH Q2(R2)分析法バリデーションのガイドライン。分析手順が妥当性を持つことを確認する枠組みを定める。詳しく →の枠組みで示します。
物差しが共通でない分、同定の深さと上限の根拠は、供給元ごとに確かめる必要があります。
よくある読み違い
いちばん多いのは「HPLC純度が高いから、よい原薬」という読み方です。HPLC純度は、検出されたペプチド成分のなかで本体が占める割合です。水分や、酢酸などの対イオンある成分の電荷を打ち消すために存在する反対電荷のイオン。高濃度製剤では浸透圧を押し上げる要因になる。詳しく →は、分母に入っていません。重量あたりのペプチド含量は別の数字なので、成績書では両方を見ます。
2つ目は「ピークが1本で、質量も合ったから同定できた」という読み方です。共溶出していれば、1本のピークに複数の不純物が隠れています。エピマーやジスルフィド異性体は、本体と質量が同じなので、質量が合っても区別できません。
3つ目は、分析中に出たピークを製品由来と取り違えることです。試料の調製や測定の最中に酸化や脱アミドが進むと、もとの試料にあった不純物と見分けがつきません。調製条件を手順として固定し、時間をおいて測っても変わらないことを確かめます。
4つ目は「総不純物が同じなら、供給元を変えても同じ品質」という考え方です。合成ルートが違えば、欠損配列やエピマーの種類と量が変わります。総量が同じでも、免疫原性や安全性に効く分子が混じるかどうかは別の話です。合成品を後発品とみなせるかが類縁物質の比較にかかるのは、このためです。ルートごとの違いは、組換えと合成の比較とGLP-1受容体作動薬の製造ルートで解説しています。
純度の数字の裏にある不純物の顔ぶれと、その調べ方まで読んで、はじめて品質を比べられます。
明日から確かめられること
供給元を変えるとき、後発品を開発するとき、受託先に純度試験を頼むとき、成績書や報告書で次の点を見てみてください。
- 純度と含量が、別々に書かれているか
- 主な不純物がピークごとに帰属され、ロット間で比べられる形になっているか
- 分離条件が1つだけでなく、pHやカラムを替えた直交法でも確かめているか
- 質量が同じ不純物(エピマー、ジスルフィド異性体)を、保持時間やキラル分析でどう扱っているか
- 不純物標準品があるか、強制分解試験熱・光・酸・塩基・酸化などの過酷条件を意図的に与えて薬物を分解させ、生成した分解物を分析法が適切に検出・分離できるかを確認する試験。詳しく →で分解物を洗い出してあるか
- 試料の調製条件が手順として固定され、分析中に酸化や脱アミドが進んでいないと確かめてあるか
- 合成ルートや供給元を変えたとき、不純物を比べ直す取り決めがあるか
参考文献
- EMA, Guideline on the development and manufacture of synthetic peptides(EMA/CHMP/CVMP/QWP/367182/2025。2025年12月1日CHMP採択、2026年6月1日発効。合成ペプチドの製造、特性解析規格試験より高い分解能で製品の品質特性を詳しく調べること。比較可能性の評価などで用いる。詳しく →、規格、分析管理)
- EMA, Concept paper on the establishment of a guideline on the development and manufacture of synthetic peptides(合成ペプチドがICH Q3A/Q3B、Q6A/Q6B、M7の対象から全体または一部外れるとの説明)
- FDA, ANDAs for Certain Highly Purified Synthetic Peptide Drug Products That Refer to Listed Drugs of rDNA Origin(2021年5月。対象の参照品5つと、不純物に関する条件)
- ICH Q3A(R2), Impurities in New Drug Substances(スコープで、ペプチドなどを対象外とする記述)
- ICH Q6B, Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products
- ICH Q2(R2), Validation of Analytical Procedures
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