GLP-1ペプチドの脂質化とは?週1回投与を支える脂肪酸の側鎖

天然のGLP-1は、血中で1.5〜2分しかもちません。同じ受容体に働くセマグルチドが、週1回の注射で済むのはなぜでしょうか。
答えは、ペプチドに付けた脂肪酸の側鎖(脂質化、lipidationペプチドや薬物分子に脂肪酸などの脂質部分を共有結合で導入する化学修飾技術。詳しく →)にあります。脂肪酸が血中の運搬タンパク質であるアルブミンにゆるくつかまり、つかまっている間は腎臓にも酵素にも見つかりにくく、離れた分だけが働きます。半減期は約1週間(165時間)に延びました。天然の5,000倍前後です。
この側鎖は、骨格を発酵で作っても、化学で付けるしかありません。製造のルートも、原料の調達も、不純物の分析も、側鎖のあるペプチドは側鎖のないペプチドと扱いが変わります。開発だけでなく、品質保証や購買の人にも関わる話です。
2分で消える分子 ― 失われる二つの道
天然のGLP-1は、二つの道から体の外へ消えていきます。
一つは酵素による分解です。DPP-4血中に存在するプロテアーゼで、GLP-1のN末端側を切断して不活性化する酵素。詳しく →という酵素が、N末端から2残基を切り落とすと、GLP-1は受容体を活性化できなくなります。この切断は血中に出た直後から始まるので、半減期は1.5〜2分です。点滴で入れ続けるなら使えますが、注射1回で効かせることはできません。
もう一つは腎臓からの排泄です。GLP-1の分子量は3,000台で、腎臓の糸球体のふるいを素通りします。DPP-4を止めても、この道が残ります。切られない形にするだけでは足りないのは、そのためです。
そこで実際の製品は、二つの手を組み合わせています。切断される位置の付近を、天然にないアミノ酸のAib(2-アミノイソ酪酸α炭素に二つのメチル基をもつ非天然アミノ酸で、DPP-4などのプロテアーゼによる切断に対する耐性を高めるために置換に用いられる。詳しく →)に置き換えて酵素に切られにくくすること。そして、大きな運び屋につかまらせて、腎臓のふるいを通れなくすることです。後者が脂質化です。
半減期を延ばすには、分解を止める工夫と、排泄を遅らせる工夫の両方が要ります。
脂肪酸、スペーサー、付ける位置 ― 三つの部品
脂質化の設計は、三つの部品に分けると見通せます。
一つ目は脂肪酸そのものです。鎖が長いほどアルブミンに強く結合しますが、強すぎると受容体に届く遊離の分子が減ります。リラグルチドは炭素16個のパルミチン酸、セマグルチドは炭素18個の二酸、チルゼパチドは炭素20個の二酸です。二酸は、鎖の両端がカルボン酸になっている脂肪酸です。
二つ目は、脂肪酸とペプチド本体のあいだに挟むスペーサーです。脂肪酸を直接つなぐと、ペプチドの形や受容体への結合を邪魔します。リラグルチドはγ-グルタミン酸グルタミン酸のγ位カルボキシル基を介して結合するアミノ酸で、リピデーションのスペーサー構成要素として用いられる。詳しく →を1つ挟むだけですが、セマグルチドはその先にAEEA短いエチレングリコール鎖を繰り返し単位とする親水性スペーサーで、脂質部分をペプチド表面から適切な距離に配置するために使われる。詳しく →(ミニPEGと呼ばれる短い親水性の単位)を2つ足して、脂肪酸を本体から離しています。
三つ目が、側鎖を付ける位置です。天然のGLP-1にはリジンが26番と34番の二つあり、リラグルチドとセマグルチドは34番をアルギニンに置き換えて、側鎖が付くリジンを26番の1か所に絞っています。DPP-4を止めるAibは、セマグルチドでは8番に入っています。
アルブミンに強くつかまらせるほど半減期は延びますが、その分、受容体に届く分子は減ります。実際、セマグルチドの受容体への親和性は、リラグルチドの約3分の1です(Lauら, 2015)。そのかわりアルブミンへの親和性が高くなり、1週間もつ薬になりました。半減期と効力は、同じつまみの両端にあります。
アルブミンという貯蔵庫 ― 結合率99%超
結果として得られる差は、桁で見るのが分かりやすくなります。
リラグルチドの半減期は13時間で、投与は1日1回です。セマグルチドは約1週間で、週1回の投与が成り立ちます。チルゼパチドは約5日です。セマグルチドは血漿中の99%以上がアルブミンに結合していて、受容体に働けるのは、残りの1%に満たない遊離の分子だけです。使われて減った分は、つかまっている分子が離れて補います。貯蔵庫と供給路を兼ねた設計です。
同じ発想は、インスリンでも使われています。インスリンデグルデクは、B29のリジンに炭素16個の二酸をγ-グルタミン酸経由で付けた分子で、半減期は約25時間です。インスリン側の設計の違いはインスリンアナログの設計と製造で解説しています。
アルブミン結合薬物が血中の主要輸送タンパク質であるアルブミンと可逆的に結合することで、見かけの分子サイズが増し腎排泄が遅延する現象。詳しく →による半減期の延長は、GLP-1に限らず、ペプチド複数のアミノ酸がペプチド結合でつながった中分子化合物で、タンパク質より鎖が短いものを指す。詳しく →医薬全般に使える設計です。
側鎖は化学で付ける ― 製法と不純物への跳ね返り
側鎖が付いていると、骨格をどこで作るかにかかわらず、化学の工程が残ります。
リラグルチドは、酵母で作った骨格の26番のリジンに、パルミチン酸を化学的に付けます。骨格は発酵、側鎖は化学の組み合わせです。セマグルチドの先発は、骨格の大部分を酵母で作り、酵母が作れないAibを含む末端と、脂肪酸の側鎖を固相合成で作って、あとからつなぐルートだと紹介されています。全合成で一本に通す道を選ぶのは、後発品を狙う側が多いとされます。チルゼパチドは、骨格も側鎖も化学合成が基本です。ルートごとの違いはGLP-1受容体作動薬の製造ルートに、全合成で通すときの詰まりどころはセマグルチドの固相合成に、組換えと化学合成の一般論はペプチド医薬の組換えと化学合成にあります。
付ける位置を間違えないことが、品質の肝です。リジンが複数あれば、アシル化はどのリジンにも起こりえます。固相合成なら、側鎖を付けるリジンだけが選んで外れる保護基を使い、骨格を組んだあとにその1か所へ乗せます。リラグルチドで34番をアルギニンに替えてあるのも、側鎖が付く場所を絞るための設計と説明されます。それでも、位置異性体目的とする修飾が狙いと異なる部位に付いた化合物で、医薬品の不純物(類縁物質)として管理対象となる。詳しく →や、立体が反転したエピマー体のような類縁物質は残りえます。USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →は、GLP-1の類縁体にはこうした異性体が含まれやすく、分けにくいうえに、受容体への結合や活性に影響しうると指摘しています。
分析では、脂肪酸が付いたぶんだけ疎水性が上がり、逆相クロマトグラフィー疎水性の差でペプチドやオリゴを分離する液体クロマトグラフィーのこと。詳しく →での保持時間が延びます。脂肪酸の鎖長とスペーサーが違えば、不純物の分かれ方も変わります。Watersの2024年の応用ノートは、リラグルチドとセマグルチドでは脂肪酸の鎖長とスペーサーが違うため、同じカラムでも不純物の分離が変わると報告しています。さらに、脂質化したペプチドは濃度が上がると集まりやすく、測定条件によって見かけの純度が動くことがあります(自己会合と製剤)。位置異性体の帰属にはペプチドマッピングが要り、全体の見方はペプチドの不純物プロファイリングとインスリン・GLP-1ペプチドの分析にあります。
審査の面でも、作り方が効きます。FDAは、組換えDNA由来の先発品を参照する高度精製合成ペプチドについて、合成品の側の類縁物質が先発品より増えていないか、増えているなら免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。詳しく →の懸念を高めないかを示すよう求めています。
側鎖のあるペプチドでは、ルートの選択も分析法の選択も、側鎖の位置と純度を軸に決まります。
明日から確かめられること
GLP-1系のペプチドの仕様書や、受託先の提案書を読むときの確認点です。
- 側鎖の構成は、脂肪酸の炭素数、二酸かどうか、スペーサーの種類まで書かれているか
- 側鎖が付いた位置を、何で確認しているか。位置異性体とエピマー体は規格の項目に入っているか
- 骨格の作り方(全合成、酵母と化学の組み合わせ)と、側鎖を付ける工程が、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →のどこにあるか
- 側鎖の原料は、脂肪酸とスペーサーを別々に調達するのか、側鎖付きのリジンとして入れるのか。その規格は
- 逆相の条件は、脂肪酸の鎖長とスペーサーに合わせて決めたものか。濃度を変えたときに純度の値が動かないか
- ルートや供給元を変えるとき、類縁物質を旧ルートと並べて比べる計画があるか
分取や分析に使う機器は、製品データベースの分取・逆相HPLCカラム、LC-MS、凍結乾燥機で比べられます。樹脂の上でペプチドを組む基本の繰り返しはペプチド医薬の固相合成で解説しています。
参考文献
- Lau J, et al. Discovery of the Once-Weekly Glucagon-Like Peptide-1 (GLP-1) Analogue Semaglutide. J Med Chem. 2015;58(18):7370-7380.(Aib8とArg34の置換、26番のリジンの修飾、受容体親和性がリラグルチドの約3分の1でアルブミン親和性が上がったこと)
- USP, GLP-1 Peptide Therapeutics(フライヤー)(位置異性体とエピマー体は分けにくく、活性に影響しうる)
- Waters, Column Selection for RPLC-UV Impurity Analysis of Fatty Acid-Modified GLP-1 Receptor Agonists(応用ノート, 2024)
- FDA, RYBELSUS (semaglutide) tablets 添付文書(アルブミン結合99%超、半減期約1週間)
- FDA, Tirzepatide (MOUNJARO) 添付文書(半減期約5日)
- FDA, ANDAs for Certain Highly Purified Synthetic Peptide Drug Products That Refer to Listed Drugs of rDNA Origin(合成ペプチドの類縁物質の比較)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/glp1-peptide-lipidation