セマグルチドのSPPS製造とスケールアップとは?
GLP-1受容体作動薬GLP-1受容体に結合してインスリン分泌促進などの作用を示す薬剤の総称で、2型糖尿病や肥満症の治療に用いられる。の需要拡大にともない、セマグルチドのような脂肪酸側鎖付きペプチドをどう大量に、かつ高い品質で作るかが製造現場の中心課題になっています。セマグルチドはGLP-1(7-37)を土台にした31残基の骨格に、非天然アミノ酸Aib(2-アミノイソ酪酸α炭素に二つのメチル基をもつ非天然アミノ酸で、DPP-4などのプロテアーゼによる切断に対する耐性を高めるために置換に用いられる。)と、リシン側鎖から伸びる脂肪酸側鎖を組み合わせた分子です。この脂肪酸側鎖が血中アルブミン血漿タンパクの約6割を占め、結合容量は大きいが親和性は高くない受け皿。との結合を高めて分解と排泄を遅らせ、週1回という投与間隔を可能にしています。

作り方には大きく二つの道があります。アミノ酸を一つずつ化学的につなぐ全合成(固相合成化学合成でRNAの鎖を作り、2本を組み合わせて(アニーリング)二本鎖siRNAに仕上げる工程です。固相合成で1塩基ずつ鎖を伸ばしていきます。詳しく →=SPPS不溶性の固体樹脂上でアミノ酸を順次縮合してペプチド鎖を伸長する化学合成法。)と、酵母などで骨格前駆体を発現させてから側鎖を化学的に付ける半合成です。本稿では、ペプチド医薬の固相合成(SPPS)の基本を踏まえたうえで、セマグルチドをSPPSで作るときにスケールアップで顕在化する課題——カップリング効率固相ペプチド合成においてアミノ酸が前段の鎖末端と反応・結合する割合で、低いと欠損配列が増加する。と欠損配列ペプチド合成時に特定のアミノ酸が取り込まれなかったために生じる、目的配列より短い不純物ペプチド。、脂肪酸側鎖の導入位置と直交原理(物差しの向き)の異なる手法を重ねて品質を評価する考え方。単一手法の死角を減らす。保護、膨大な溶媒使用量とグリーンケミストリー、そして分取精製——を実務目線で整理します。
セマグルチドは規制上、低分子と生物学的製剤の中間に位置づけられるペプチドです。全合成品を先発の組換え由来品と同等とみなせるかという同等性の論点は、工程設計そのものを左右します。分子の構造から製造ルート、スケールアップ小型培養で確立した条件を、より大きなバイオリアクターへ拡大する取り組みです。酸素供給の指標kLaなどを揃え、性能を再現します。詳しく →の壁、精製、規格までを順にたどっていきます。
セマグルチドという分子:GLP-1骨格・Aib・脂肪酸側鎖
セマグルチドの設計は、天然のGLP-1が抱える二つの弱点——酵素DPP-4血中に存在するプロテアーゼで、GLP-1のN末端側を切断して不活性化する酵素。による速やかな分解と、腎排泄による短い滞留——を、三つの改変で克服する発想でできています。改変の狙いを押さえておくと、後の工程課題が理解しやすくなります。
第一に、N末端近くのAla8を非天然アミノ酸通常の20種類には含まれない人工的なアミノ酸で、タンパク質の狙った位置に導入して部位特異的な修飾や結合の足場にします。詳しく →Aib(2-アミノイソ酪酸)に置換します。Aibはα炭素にメチル基が二つ付いた立体的にかさ高い残基で、DPP-4による切断に抵抗させる役割を担います。第二に、34位のリシンをアルギニン分子どうしの会合による凝集を抑え、高濃度処方では粘度を下げる働きも知られるアミノ酸。に置換します(Lys34→Arg)。これは後述する脂肪酸側鎖のアシル化ペプチドや薬物分子に脂肪酸などの脂質部分を共有結合で導入する化学修飾技術。を、狙った26位のリシンだけに一義的に向けるための設計です。第三に、その26位のリシン側鎖に脂肪酸側鎖を導入します。
脂肪酸側鎖は、リシン側鎖のアミノ基から、γ-グルタミン酸グルタミン酸のγ位カルボキシル基を介して結合するアミノ酸で、リピデーションのスペーサー構成要素として用いられる。スペーサーと二つの短いPEG様リンカー(OEG/AEEA)を介して、C18の二酸(オクタデカン二酸)型の脂肪酸へとつながる構造です。この側鎖がアルブミンと可逆的に結合することで、見かけの分子サイズを大きくし、分解と排泄を遅らせます。同じGLP-1系のリラグルチドが炭素鎖の短い脂肪酸を単純なスペーサーで付けて1日1回投与であるのに対し、セマグルチドは二酸型の脂肪酸と長いリンカーでアルブミン結合薬物が血中の主要輸送タンパク質であるアルブミンと可逆的に結合することで、見かけの分子サイズが増し腎排泄が遅延する現象。を強め、週1回投与を実現しています。
| 構造上の改変 | 内容 | 主な狙い |
|---|---|---|
| Aib8置換 | 8位のAlaを非天然アミノ酸Aibα炭素に二つのメチル基をもつ非天然アミノ酸で、DPP-4などのプロテアーゼによる切断に対する耐性を高めるために置換に用いられる。に | DPP-4による分解への抵抗 |
| Lys34→Arg置換 | 34位のリシンをアルギニンに | アシル化を26位リシンに一義化 |
| 脂肪酸側鎖(26位) | γ-Gluグルタミン酸のγ位カルボキシル基を介して結合するアミノ酸で、リピデーションのスペーサー構成要素として用いられる。+OEG短いエチレングリコール鎖を繰り返し単位とする親水性スペーサーで、脂質部分をペプチド表面から適切な距離に配置するために使われる。×2を介したC18二酸型脂肪酸 | アルブミン結合による持効化 |
| 骨格 | GLP-1(7-37)ベースの31残基 | 受容体作動活性の土台 |
この分子設計は薬理学的には巧みですが、製造から見ると「非天然アミノ酸Aibという難カップリング露出した5'水酸基に次の塩基のアミダイトを結合させ、鎖を1塩基伸ばす工程。残基」と「側鎖を選択的に導入する直交保護の要求」という二つの難所を最初から抱えていることを意味します。脂肪酸側鎖の設計思想そのものは脂肪酸側鎖の導入(リピデーション)で詳しく扱いますが、ここでは「側鎖の付け方が工程の難易度を決める」という点を押さえておきます。
製造ルートの選択:全合成SPPSと半合成の分かれ道
セマグルチドのペプチド複数のアミノ酸がペプチド結合でつながった中分子化合物で、タンパク質より鎖が短いものを指す。骨格の作り方には、大きく二つのルートがあります。一つはアミノ酸を一残基ずつ化学的につないでいく全合成(SPPS)。もう一つは、酵母などの宿主で骨格の前駆体を組換え発現させ、そこへ脂肪酸側鎖を化学的に導入する半合成(セミシンセシス)です。どちらを選ぶかで、生じる不純物の種類も、規制上の扱いも変わってきます。
全合成SPPSは、専用の設備で試薬を順番に流す化学プロセスとして完結し、宿主細胞由来の不純物(HCPやDNA)を持ち込まない点が利点です。一方で、後述するように残基数が増えるほど欠損配列が積み上がり、Aibのような難配列でカップリングが停滞します。半合成は、骨格を生物学的に作るぶん配列の忠実度は高くなりやすい反面、発酵・回収・精製の一連の生物プロセスと、その後の化学修飾核酸の糖・骨格・末端に施し、安定性・結合力・免疫原性を整える改変。を接続する複雑さが加わります。この合成ルートと組換えルートの使い分けは、規模・コスト・不純物プロファイル製造プロセスに由来する類縁物質・分解物・プロセス関連不純物の種類と量を包括的に把握した品質情報の集合体。・知財を総合して決まります。
近年は需要規模が大きいこともあり、GLP-1受容体作動薬の製造ルートは多様化しています。フラグメントを別々に合成して溶液中でつなぐハイブリッド合成長い鎖を扱いやすい部分ペプチドに分けて別々に作り、溶液中でつなぎ合わせる合成法。や、SPPSと液相合成フラグメントの縮合や特定残基の導入を、樹脂を使わず溶液中で行うペプチド合成。(LPPSフラグメントの縮合や特定残基の導入を、樹脂を使わず溶液中で行うペプチド合成。)を組み合わせる設計も、大スケールでは有力な選択肢です。本稿はこのうち全合成SPPSに焦点を当て、そのスケールアップで何が問題になるかを掘り下げます。
SPPSスケールアップの壁:カップリング効率と欠損配列
SPPSの純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →は、各カップリングサイクルがどれだけ完全に進むかに強く依存します。ここが、ラボスケールでは見えにくく、スケールアップで顕在化する最大の壁です。理由は単純で、全長体の割合が「1サイクルあたりの反応率の累乗」で効いてくるからです。31残基を組むということは、それだけの回数サイクルを回すということであり、1サイクルあたりのわずかな取りこぼしが最終的な全長体の割合をじわじわと押し下げます。
セマグルチドで特に問題になるのが、非天然アミノ酸Aibです。Aibはα炭素が二置換されて立体的にかさ高いため、Aibへカップリングする工程も、Aibの直後の残基をカップリングする工程も反応が遅くなりがちです。この難所でカップリングが不完全に終わると、その残基が抜けた欠損体(n-1全長より1塩基短い欠失体で、全長との差が小さく精製でもっとも分離しにくい不純物。相当の欠失配列)が生じます。欠損体は全長体と構造がよく似ているため、後段の精製でもっとも分離しにくい不純物になります。
副反応も配列依存で現れます。N末端側のヒスチジンは、カップリング時に立体配置が反転するエピマー化(ラセミ化)を起こしやすい残基です。また、Asp残基を含む配列では、隣接する骨格が環を巻くアスパルチミド形成アスパラギン酸を含む配列で隣の骨格が環を巻き、五員環になる副反応。が、Fmocα-アミノ基を塩基で外し、側鎖保護と樹脂からの切り出しを酸で行う、現在主流のペプチド合成法。脱保護合成した核酸を担体から切り出し、保護基を外して純粋な鎖にする工程。の塩基条件や最終切り出しのTFA処理で進みやすく、環が開くときに異性体やエピマー体を伴う複数の不純物を生みます。これらは保護基や脱保護条件の選び方で抑え込みます。
| スケールアップで顕在化する課題 | 起こること | 主な対応の方向 |
|---|---|---|
| カップリング効率の累積 | 全長体割合がサイクル効率の累乗で低下 | 過剰量・反応時間・温度の最適化、二重カップリング |
| Aibまわりの難カップリング | Aibへの/Aib直後の残基の停滞→欠損体 | 縮合剤の選択、加温、モニタリング |
| エピマー化 | His等でL体にD体が混入 | 温和な活性化条件、添加剤の選択 |
| アスパルチミド形成 | Asp配列で異性体・エピマー体を副生 | 脱保護塩基・保護基の見直し |
| 溶媒・試薬の使用量 | スケールに比例して膨大化 | 過剰量の削減、溶媒回収、代替溶媒 |
SPPSの純度は各サイクルの完結度の累乗で決まるため、31残基のセマグルチドではわずかな取りこぼしが全長体割合を押し下げます。特に非天然アミノ酸Aibはかさ高く、Aibへの/Aib直後のカップリングが停滞しやすい難所です。欠損体・エピマー体・アスパルチミド由来物はいずれも全長体と似て精製で除きにくく、スケールアップでは「上流のサイクルで作り込まない」ことが最終純度を左右します。
脂肪酸側鎖の導入位置と直交保護
セマグルチド固有の工程が、26位リシン側鎖への脂肪酸側鎖の導入です。ここで鍵になるのが、どの位置に、どうやって選択的に付けるかという「導入位置の制御」です。前述のとおり34位をアルギニンに置換して反応点となるリシンを26位の一つに絞り込む設計は、この選択性を担保するための前提になっています。
導入位置を制御するもう一つの仕掛けが、直交保護です。骨格を組む際、26位リシンの側鎖アミノ基だけは、他の残基のα-アミノ基の脱保護(Fmoc法では塩基)や側鎖保護(酸で最後に外す)とは別の条件で外せる保護基で塞いでおきます。代表的にはMtt(薄いTFAで外す)、ivDde/Dde(ヒドラジンで外す)、Alloc(パラジウムで外す)といった直交性のある保護基が用いられます。骨格の伸長が済んだ段階で、この26位リシンの保護基だけを選択的に外し、露出したアミノ基に脂肪酸側鎖を導入します。
側鎖の付け方には、大きく二つの流儀があります。一つは、露出させた26位リシンの上で、γ-グルタミン酸、二つのOEG/AEEAリンカー、脂肪酸を一単位ずつ順にカップリングして側鎖を組み上げる方法です。もう一つは、あらかじめ側鎖部分(脂肪酸とリンカーを含む)を別に合成しておき、フラグメントとしてまとめて導入する方法です。前者は工程は増えますが試薬の設計が単純になり、後者は工程を短縮できる一方で側鎖フラグメントの品質管理が新たに必要になります。
脂肪酸側鎖の導入位置は、34位のArg置換で反応点を26位リシンに一義化し、その26位だけを直交保護(Mtt/ivDde/Allocなど)でマスクすることで制御します。骨格伸長後にこの保護基だけを選択的に外し、脂肪酸側鎖を一単位ずつ組み上げるか、あるいは側鎖フラグメントとしてまとめて導入します。「どこに」「どう選択的に」付けるかの設計が、正しい位置に一つだけ側鎖を持つ目的物の割合を決めます。
側鎖の導入が不完全だと、脂肪酸が付いていない体(デス-脂肪酸体)や、リンカーの長さが異なる体、位置異性体といった、活性や薬物動態に直結しうる不純物が生じます。これらは骨格の欠損体とは性質が異なり、脂肪酸に由来する疎水性・両親媒性の違いを利用して精製で分けることになります。
溶媒使用量とグリーンケミストリー
SPPSのスケールアップで、純度と並んで大きな論点になるのが溶媒と試薬の使用量です。SPPSは各工程のあいだに樹脂を溶媒で繰り返し洗う設計上、プロセス全体で消費される物質のほとんどが溶媒で占められます。GLP-1受容体作動薬のように大量に作る製品では、この溶媒消費が製造コストと環境負荷の両面で無視できない規模になります。
とりわけ課題とされるのが、カップリングや洗浄に多用される極性非プロトン性溶媒です。DMFやNMPはSPPSの主力溶媒ですが、生殖毒性などの懸念からREACHで高懸念物質(SVHC)に位置づけられており、より安全な代替溶媒への置き換えが強く求められています。加えて、Fmoc脱保護に用いるピペリジン、切り出しに用いるTFA、洗浄に用いるDCMなど、扱いに注意を要する試薬が工程全体に組み込まれています。
こうした背景から、ペプチド製造ではグリーンケミストリーの取り組みが進んでいます。代表的な打ち手を整理します。
- 代替溶媒への置き換え:DMF/NMPをより安全性プロファイルの良い溶媒や混合溶媒系に置き換える検討。カップリング効率や樹脂の膨潤性を損なわない範囲での最適化が要ります。
- 溶媒の回収・再利用:洗浄溶媒を蒸留などで回収して循環利用し、単位あたりの溶媒消費を下げる設計。
- 試薬過剰量の削減:カップリングで用いるアミノ酸・縮合剤の過剰量を、反応の進行をモニタリングしながら必要最小限に近づける。
- ハイブリッド化:大スケールに向く液相合成(LPPS)や、フラグメント縮合と組み合わせ、洗浄に依存する工程の比重を下げる。
これらは単なる環境配慮にとどまらず、大量生産の経済性と規制対応(残留溶媒の管理)に直結する実務課題です。スケールアップの設計は、純度・収率とグリーンケミストリーを同じテーブルで検討することが前提になりつつあります。
精製:分取RP-HPLCと難分離不純物
樹脂から切り出した粗ペプチドには、これまで見てきた欠損体・エピマー体・アスパルチミド由来物、そして側鎖の導入に由来する不純物が混ざっています。ここから全長・正配列・正しい側鎖を持つ目的物を取り出す精製の主役が、分取(プレパラティブ)逆相HPLC(RP-HPLC)です。
セマグルチドの精製で特徴的なのは、脂肪酸側鎖に由来する強い疎水性と両親媒性です。分子が会合してミセル様の挙動を示すことがあり、これがクロマトグラフィーの挙動に影響します。近縁不純物を分けるには、勾配のかけ方、カラム、移動相のpHや添加剤(イオンペア試薬など)を丁寧に選ぶ必要があります。工業スケールでは、分離の選択性を変えるために条件を替えた二段階の直交精製を組む設計が一般的で、この考え方は仕上げ(ポリッシング)クロマトグラフィーとも通じます。
難分離の不純物としては、全長体と性質の近いn-1欠損体やエピマー体に加え、アスパルチミド由来のβ体・異性体、そして脂肪酸側鎖が欠けたデス-脂肪酸体やリンカー長違いの側鎖不純物が挙げられます。個々の不純物を同定し、由来を工程にひも付けるペプチドの不純物プロファイリングは、精製条件の設計と規格づくりの土台になります。あわせて、合成に用いた試薬・溶媒に由来する残留溶媒や、反応で生じうる変異原性不純物・ニトロソアミンの管理も、化学合成ならではの論点として押さえておく必要があります。
精製後は、目的画分を回収し、塩交換・脱塩を経て、沈殿や凍結乾燥で原薬として単離します。全長体との差が小さい不純物を最終工程だけで除ききるのは容易ではなく、上流の合成でこれらを作り込まないことが、安定した精製と歩留まりの前提になる点は、ペプチド製造に共通する原則です。
規格と規制:合成ペプチドの同等性
セマグルチドを全合成で作る場合、避けて通れないのが「先発の組換え由来品と同等とみなせるか」という規制上の論点です。ペプチドは低分子と生物学的製剤の中間に位置づけられ、どちらの枠組みからも外れやすいため、合成ペプチド原薬に固有の考え方が整備されてきました。
FDAは、rDNA由来の先発品を参照する合成ペプチドのANDA(後発申請)について、合成品側の不純物プロファイルが先発品と比較して問題ないこと——新たな不純物が加わっていないか、加わっていても安全性上許容できることを示すよう求める考え方を示しています。全合成では宿主由来不純物は避けられる一方、化学合成に固有の欠損体・エピマー体・側鎖関連不純物が問題になるため、これらを同定・定量し、参照品と対比して評価することが求められます。ここで、一次構造と部位ごとの修飾を読み解くペプチドマッピングや質量分析が中心的な役割を果たします。
規格の組み立て方そのものは、生物薬品の規格枠組みを示すICH Q6Bの考え方に沿い、同一性・純度・不純物・力価といった品質特性ごとに試験と許容基準を定めます。各分析法の妥当性は、分析法バリデーションを示すICH Q2(R2)に沿って裏づけます。原薬の開発・製造という観点では、出発物質の設定や不純物管理を扱うICH Q11の枠組みが、合成ルートの正当化に関わってきます。標準品については、USPやPh. Eur.のモノグラフ・標準品が、規格判定の物差しを提供します。全合成ペプチドでは、宿主由来不純物を避けられる一方で、化学合成に固有の欠損体・エピマー体・側鎖関連不純物をこれらの枠組みのもとで管理する点が要点になります。
こうして見ると、セマグルチドのSPPS製造は、薬理学的に精緻な分子設計を、スケールアップ・精製・規制対応という三つの制約のなかで実現する営みだとわかります。カップリング効率と欠損配列、脂肪酸側鎖の導入位置と直交保護、溶媒使用量とグリーンケミストリー——これらを上流の合成設計から下流の精製・規格まで一体で組み立てることが、安定した原薬づくりの前提になります。
参考文献
- FDA, ANDAs for Certain Highly Purified Synthetic Peptide Drug Products That Refer to Listed Drugs of rDNA Origin(Guidance Documents 検索)
- ICH Q11, Development and Manufacture of Drug Substances(ICH Quality Guidelines)
- ICH Q6B, Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products
- ICH Q2(R2), Validation of Analytical Procedures
- USP, U.S. Pharmacopeia(ペプチド関連モノグラフ・一般試験法)
- Ph. Eur.(欧州薬局方)ペプチド関連モノグラフ