GLP-1受容体作動薬の製造ルートをどう選ぶか?分子ごとに違う理由

同じGLP-1受容体作動薬GLP-1受容体に結合してインスリン分泌促進などの作用を示す薬剤の総称で、2型糖尿病や肥満症の治療に用いられる。詳しく →なのに、骨格を作る場所が分子ごとに違うのはなぜでしょうか。リラグルチドは酵母、チルゼパチドは化学合成、デュラグルチドはCHO細胞抗体など組換えタンパク質の生産に広く使われる、チャイニーズハムスター卵巣由来の培養細胞です。詳しく →です。セマグルチドは、先発では酵母と化学合成の組み合わせで作られます。
分かれ目は二つあります。骨格に、生き物が作れない非天然アミノ酸のAib(2-アミノイソ酪酸α炭素に二つのメチル基をもつ非天然アミノ酸で、DPP-4などのプロテアーゼによる切断に対する耐性を高めるために置換に用いられる。詳しく →)が入っているか。そして、薬を長持ちさせる脂肪酸の側鎖があるか。この二点が、設備、原材料、管理する不純物、審査の経路まで決めます。製造や調達、品質保証を担当する人が、提案書の「ルート」を読み解くときの手がかりです。
四つの分子、四つの作り方 ― 骨格と側鎖の担い手
作り方は、骨格と側鎖を別々に考えると見通せます。
骨格を樹脂の上で一残基ずつ組むのが全合成、微生物や動物細胞に作らせるのが組換えです。脂肪酸の側鎖は、生き物には付けられません。アルブミンと結ぶための脂肪酸とリンカーは、組換えを選んでも化学の工程として乗ります。
| 分子 | 骨格の作り方 | 化学合成が残る部分 | 持効化の手段 | 分子量の目安 |
|---|---|---|---|---|
| リラグルチド | 酵母(組換え) | C16のパルミチン酸の側鎖 | 脂肪酸でアルブミンに結合 | 約3,750 |
| セマグルチド | 先発では、骨格の大部分を酵母で作る | Aibを含む末端と、C18二酸の側鎖 | 脂肪酸でアルブミンに結合 | 約4,110 |
| チルゼパチド | 化学合成(固相合成が基本。液相との併用も報告されている) | 骨格も側鎖もすべて | C20二酸の側鎖 | 約4,810 |
| デュラグルチド | CHO細胞(組換え) | なし | IgG4のFc断片との融合 | 約6万 |
似た桁のペプチドが、まったく別の設備で作られています。リラグルチドは26位のリシンにパルミチン酸をγ-グルタミン酸グルタミン酸のγ位カルボキシル基を介して結合するアミノ酸で、リピデーションのスペーサー構成要素として用いられる。詳しく →1段で付けた構造です。セマグルチドは31残基で、C18の二酸をγ-グルタミン酸とAEEA2段で伸ばします。チルゼパチドは39残基で、20位のリシンにC20の二酸を付け、C末端はアミド化されています。
ルートを分けているのは分子の大きさではなく、骨格の中身と、側鎖の有無です。
Aib ― 酵母が作れない建材
天然のGLP-1は、血中で2分ももちません。
DPP-4血中に存在するプロテアーゼで、GLP-1のN末端側を切断して不活性化する酵素。詳しく →という酵素が、N末端から2残基目を狙って切るからです。この切断を止める設計が、2残基目付近をかさ高くすることでした。セマグルチドは8位(GLP-1の番号づけで2残基目にあたる位置)のアラニンをAibに、チルゼパチドは2位と13位をAibに置き換えています。α炭素にメチル基が二つ付いた残基で、酵素の口に収まりません。
問題は、この残基を細胞が作れないことです。遺伝暗号は20種類のアミノ酸に割り当てられていて、Aibに対応するコドンはありません。非天然アミノ酸通常の20種類には含まれない人工的なアミノ酸で、タンパク質の狙った位置に導入して部位特異的な修飾や結合の足場にします。詳しく →を組み込む人工的な翻訳系は研究されていますが、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →の製造に載せられる段階ではありません。Aibを持つ骨格は、少なくともその部分を化学で組むしかありません。
この制約があるので、Aibを含むところは化学合成に頼るほかありません。先発のセマグルチドは、骨格の大部分を酵母の発酵で作り、Aibを含む末端と脂肪酸側鎖を固相合成でこしらえて、あとからつなぐ形だと紹介されています。後発を狙う側は、全合成で一本に通す道を選ぶことが多いとされます。Aibを1つ入れた判断が、そのまま工場の形を決めています。
全合成 ― 建材の自由と、効率の代償
樹脂の上で組むなら、建材は何でも選べます。
Aibも、D体のアミノ酸も、脂肪酸を先に付けたリシン誘導体も、そのまま鎖に組み込めます。合成機はCEM、Biotage、Gyros Protein Technologiesが供給し、Fmoc-Aib-OHのような特殊な建材はIris BiotechやChem-Impexが扱っています。翻訳では作れない骨格を、設計図どおりに積めることが、このルートの本質です。
代わりに払うのが、アミノ酸をつなぐ縮合の回数の代償です。セマグルチドを全合成で通すと縮合は30回を超え、チルゼパチドは40回を超えます。1回ごとにわずかな取りこぼしが出ると、回数を重ねるほど目減りが積み上がります。1回の効率がほんの少し違うだけで、最後に残る全長の量は大きく変わります。取りこぼした鎖は、アミノ酸が1つ抜けた類縁物質として残り、全長と性質が近いので取り除きにくい不純物です。回数と効率の関係は収量・回収率の計算ツールで試せます。セマグルチドの具体例はセマグルチドの固相合成にあります。
もう一つの代償が溶媒です。ペプチドの固相合成は、原薬1 kgを作るのに、平均で約13,000 kgの物質を動かします(PMI)。低分子医薬の数十倍で、抗体などのバイオ医薬品抗体や組換えタンパク質など、生きた細胞や微生物に作らせる医薬品の総称です。細胞治療・遺伝子治療の製品を含めて呼ぶこともあります。化学合成で作る核酸医薬やペプチドは、ふつう含めません。詳しく →の約8,300 kgより大きい値です。
全合成は、配列の自由と引き換えに、効率の管理と溶媒の山を引き受けるルートです。
組換え ― 酵母のリラグルチドとCHOのデュラグルチド
リラグルチドの骨格は、発酵で作られています。
出芽酵母に、34位をアルギニンに置き換えたGLP-1(7-37)を発現させ、N末端の延長部分を外して前駆体を取り出します。天然のヒトGLP-1と97%が同じ配列です。ここまでが生物の仕事で、そのあと26位のリシンにパルミチン酸をアシル化します。骨格は発酵、側鎖は化学の組み合わせを、半合成と呼びます。34位をアルギニンにしてあるのは、リシンが二つあると側鎖が二か所に付いてしまうためで、26位だけに付けやすくする置換と説明されます。
組換えの取り分は、鎖が長くなっても配列由来の不純物が積み上がりにくいことです。リボソームは間違えにくいので、アミノ酸が抜けた類縁物質のような不純物は出にくくなります。発酵槽大腸菌や酵母などの微生物を高密度で培養する培養槽で、高い酸素供給や蒸気滅菌に対応した発酵用の設備です。詳しく →はSartorius、Eppendorf、INFORS HTが供給し、下流は微生物の下流精製の枠組みに乗ります。
デュラグルチドは、化学の工程を一つも使いません。GLP-1の類縁配列を、IgG4のFc断片に短いリンカーでつないだ融合タンパク質で、ジスルフィドで二量体を組み、分子量は約6万です。Fcが胎児性Fc受容体に拾われて再循環するので、脂肪酸を使わずに半減期4〜5日を得ています。作り方はCHO細胞の培養で、プロテインAによる捕捉や仕上げのクロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →、ウイルス除去まで、抗体医薬の流れです(抗体医薬の製造工程)。樹脂も装置も抗体の資産が使える代わりに、糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。詳しく →や電荷の不均一性という抗体医薬の課題を引き受けます。
持効化の手段を変えると、工場の種類ごと変わります。
ルートが決めるもの ― 不純物と審査の経路
ルートを選んだ時点で、監視する対象が決まります。
全合成なら、欠失体、エピマー体、脱保護が不完全な鎖、側鎖の付かなかったデス体です。どれも配列に由来する類縁物質で、全長と構造が近く、YMC、ダイセル(Daicel)、Phenomenexの分取カラムで分けます。ここに残留溶媒と残留試薬の管理が加わります。組換えなら、宿主細胞タンパク質医薬品を作る宿主細胞に由来するタンパク質の不純物です。安全性に関わるため、精製後の残存量を測ります。詳しく →、宿主DNA、エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →が前面に出ます。試験の組み方も分析機器も、担当する部署も変わります。どちらが軽いかではなく、自社がどちらを管理できるかが問われます(ペプチドの不純物プロファイリング、インスリン・GLP-1ペプチドの分析)。
審査の経路も、作り方に引きずられます。組換えで作る原薬は、同一性・純度・力価の規格をICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく →の考え方で示し、工程を変えたときの同等性も生物薬品の枠組みで語ります。化学合成の原薬は、ICH Q11原薬の開発・製造を扱い、原薬側の管理戦略の作り込みを示すICHのガイドライン。詳しく →と、類縁物質や残留溶媒の枠組みが土台です。
やっかいなのは、同じ配列を別の経路で作ったときです。FDAは、組換えDNA由来の先発品を参照する高度精製合成ペプチドについて、合成品側の類縁物質が先発品と比べて新しく増えていないか、増えているなら免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。詳しく →の懸念を高めないかを示すよう求めています。リラグルチドでは2024年に、FDAがビクトーザの後発品を承認しました。後発の競争はすでに始まっています。
工程を決めた時点で、どの不純物をどの分析で押さえ、どの枠組みで同等性を語るかまで決まっています。ルートを開発の遅い段階で動かすのは難しくなります。
明日から確かめられること ― ルートを選ぶ順番
開発、製造、購買、品質保証のどの立場でも、GLP-1受容体作動薬のルートの話が出たら、次の順に確かめます。
- 配列にAibのような非天然アミノ酸があるか。あれば、その部分は化学で組むしかなく、組換え単独の選択肢は消える
- 脂肪酸の側鎖があるか。あれば、どのルートを通っても化学の工程が後段に残る
- 全合成なら、縮合の回数はいくつか。40回を超えるなら、断片を別々に作ってつなぐ設計を検討する価値がある
- 年間に必要な原薬の量は桁でいくつか。桁が大きいほど、溶媒の調達と廃棄がコストの主役に変わり、組換えや酵素を使うルートが現実味を帯びる
- 自社や受託先が管理できるのは、配列由来の類縁物質と、宿主由来の不純物のどちらか
受託先の提案書では、ルートが先発と同じ組み合わせか全合成かを最初に読み、そのルートで主役になる不純物の管理が書かれているかを確かめます。営業の立場なら、顧客の分子にAibと側鎖があるかを先に聞くと、勧める合成機、樹脂、分析の範囲が見えます。
ペプチド複数のアミノ酸がペプチド結合でつながった中分子化合物で、タンパク質より鎖が短いものを指す。詳しく →医薬の組換えと化学合成の一般論はペプチド医薬の組換えと化学合成に、側鎖の役割はGLP-1ペプチドの脂質化に、樹脂の上での合成の基本はペプチド医薬の固相合成にまとめています。
参考文献
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q6B, Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products
- ICH Q11, Development and Manufacture of Drug Substances
- FDA, ANDAs for Certain Highly Purified Synthetic Peptide Drug Products That Refer to Listed Drugs of rDNA Origin
- FDA, FDA approves first generic of once-daily GLP-1 injection to lower blood sugar in patients with type 2 diabetes(リラグルチドの後発品の承認)
- Kekessie I, et al. Process Mass Intensity (PMI), J Org Chem. 2024;89(7):4261-4282
- FDA, Tirzepatide (MOUNJARO) 添付文書
- FDA, Dulaglutide (TRULICITY) 添付文書
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/glp1-receptor-agonist-manufacturing-routes