低分子医薬基礎知識・規制

元素不純物の管理(ICH Q3D):PDEとリスク評価

元素不純物医薬品中に金属など元素の形で残る望ましくない微量成分。触媒残留や重金属が代表。詳しく →の管理が、他の不純物と違うところがあります。作ろうとして作ったものが一つもない点です。触媒として意図的に使った金属はまだしも、装置から削れた鉄、容器から溶け出した鉛、原料の鉱物に最初から混ざっていた微量元素。どれも製品の設計図には載っておらず、それでいて規格には載ります。

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元素不純物の管理(ICH Q3D):PDEとリスク評価

核心は一点です。ICH Q3D元素不純物をどの元素・投与経路でどこまで管理するかを、毒性データに基づき国際的に定めたガイドライン。詳しく → の管理は、分析ではなくリスク評価工程や製品に潜在するリスクの種類・発生可能性・影響度を系統的に特定・分析し、優先的に管理すべき項目を決定する手続き。詳しく →から始まります。全部の元素を全部の製品で測るのは現実的でないため、まず流入しうる経路を工程表の上で洗い出し、そのうえで測るべきものだけを測る。しかも許容量は投与経路で桁が変わるので、同じ元素であっても、経口製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →と注射剤ではまったく別の話になってしまいます。

この記事では、元素がどこから入るのかを整理してから、三つのクラス分類、投与経路ごとの許容一日曝露量許容一日曝露量。その量まで毎日摂っても生涯健康影響が出ないとされる量。無毒性量から不確実係数で導く。詳しく →、評価の四つの選択肢、そして測定の前処理細胞移植の前に患者へ行う処置。生着の場を空けるために既存の骨髄細胞を減らす目的で実施される。詳しく →の順に解説します。有機の不純物については不純物の分類と遺伝毒性不純物にまとめてあります。最後に、評価を組む順序を並べます。

この記事の要点
  • 許容一日曝露量は投与経路で桁が変わり、水銀なら経口 30 µg/day に対し吸入は 1 µg/day です。
  • 管理は分析からではなく、流入経路を工程表の上で洗い出すリスク評価から始まります。
  • 許容量の 30% を管理閾値とし、これを下回るなら追加の管理は不要と判断できます。

どこから来るか ― 四つの経路

流入の経路は、おおむね四つに整理できます。

一つ目が、意図的に使った金属です。水素化やカップリング露出した5'水酸基に次の塩基のアミダイトを結合させ、鎖を1塩基伸ばす工程。詳しく →で使うパラジウム、白金、ロジウムといった触媒は、反応後に除去しても残留します。ここは最初から測る対象です。

二つ目が原料からの持ち込みです。賦形剤有効成分以外の添加剤。鉱物由来のものは元素不純物の由来として注目される。詳しく →には鉱物由来のものが多く、タルクやステアリン酸マグネシウム、二酸化チタンには産地に応じた微量元素が含まれます。合成原料でも、製造に使われた触媒が持ち込まれることがあります。

三つ目が装置からの寄与で、反応槽や配管の材質から、鉄、ニッケル、クロムが削れて入ります。酸性の条件や研磨工程では寄与が大きくなります。四つ目が容器と包装で、ガラス容器からの溶出や、ゴム栓に含まれる元素が移行します。⁠四つの経路のうち、意図的に使ったもの以外は設計書に現れないので、工程表とは別に洗い出す作業が要ります。

三つのクラス ― 毒性と存在確率で分ける

ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q3D は、元素を三つのクラスに分けています。

第1類はヒトへの毒性が明確な元素で、医薬品への使用が通常は避けられる元素です。カドミウム、鉛、ヒ素、水銀の四つで、原料に由来して混入しうるため、どの経路であっても評価の対象に入ります。

第2類は、投与経路によって毒性が変わる元素です。これはさらに二つに分かれていて、2A は製剤に存在する確率が比較的高い元素で、コバルト、ニッケル、バナジウムが入ります。ここも全経路で評価します。2B は存在確率が低い元素で、銀、金、パラジウム、白金、セレン、タリウムなど。意図的に使っていなければ、評価を省ける場合があります。

第3類は経口での毒性が比較的低い元素で、バリウム、クロム、銅、リチウム、モリブデン、アンチモン、スズが入ります。経口製剤では意図的に加えた場合だけ評価すればよく、注射剤や吸入剤では閾値を超える可能性があるときに評価します。⁠クラスは毒性だけでなく、「そこにある確率」も織り込んで作られています。

PDE ― 投与経路で桁が変わる

許容一日曝露量は、経路ごとに別の値が置かれています。

たとえば水銀なら、経口が 30 µg/day、注射が 3 µg/day、吸入が 1 µg/day。経口と吸入で 30倍 の開きがあります。ヒ素は経口と注射がどちらも 15 µg/day ですが、吸入は 2 µg/day。カドミウムは経口 5 µg/day、注射 2 µg/day、吸入 3 µg/day。鉛はどの経路も 5 µg/day です。

差が生まれるのは吸収率が違うからで、経口では消化管で吸収されるのは一部ですが、注射では全量が体内に入り、吸入では肺の局所影響も加わります。だから、同じ製剤を注射剤として開発し直すときには、元素不純物の評価をやり直す必要があります。経口での判定はそのまま使えません。

実務で効いてくるのが、管理閾値混入量を比較する基準で、一般にPDEの30%を目安とする。超えうる元素だけ管理する。という考え方です。許容量の 30% を下回る水準で管理できていれば、追加の管理は要らないとされます。分析のばらつきや原料ロット差を見込んだ余裕で、この 30% を超えるかどうかが、測り続けるか一度きりで済ませるかの分岐点です。

POINT

同じ処方でも、賦形剤の供給元を変えれば元素のプロファイルは変わります。鉱物由来の賦形剤はとくに産地差が大きいので、変更管理の対象として明示しておくほうが安全です。供給元を切り替えてから元素不純物の評価をやり直す、という順序になると、切り替え自体が止まります。

評価の四つの選択肢 ― どこで測るか

ICH Q3D は、評価の方法を四通り示しています。

一つ目が、製剤の1日摂取量を 10 g と仮定して、成分ごとの濃度上限を置く方法です。許容量を 10 g で割った値がそのまま濃度の目安になるので、カドミウムの経口なら 5 µg/day を 10 g で割って 0.5 µg/g。どの成分もこの濃度を下回っていれば、合計しても許容量を超えません。単純なぶん、判定も速く済みます。

二つ目と三つ目は、実際の1日摂取量を使う方法と、成分ごとの寄与を足し合わせる方法です。成分によって配合量が違うので、多く入る賦形剤には厳しく、微量しか入らない成分には緩い基準を当てられます。原料の実測値がそろっているなら、こちらのほうが現実的です。

四つ目が、最終製品を直接測る方法です。確実ですが、ロットごとに測り続ける負担を抱えます。⁠どれを選ぶかは、原料のデータがどれだけ揃っているかで決まります。データがあるなら計算で済み、無ければ測ることになる。

測り方 ― 前処理が七割

測定そのものは ICP-MS か ICP-OES高温プラズマで試料を原子化し、金属などの元素の種類と量を高感度に測る手法です。医薬品の元素不純物の管理に使われます。詳しく → で行います。

USP の一般試験法が手順を定めていて、感度が要るなら質量分析分子の質量を精密に測る手法。鎖の組み合わせ違いを分子量差として捉え純度評価に使う。詳しく →、濃度が高い元素なら発光分析、という使い分けをします。Agilent、Thermo Fisher Scientific、Shimadzu、Analytik Jena の装置が使われ、検量に用いる標準液は Inorganic Ventures のような供給元から入手します。

実務で手間がかかるのは、装置ではなく前処理です。有機物を含む試料をそのまま導入するわけにはいかないので、酸を加えてマイクロ波で分解し、金属を溶液にします。Milestone や CEM の分解装置が一般的です。ここで分解が不完全だと回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →が落ち、逆に揮発しやすい元素は分解中に失われます。水銀は蒸発しやすく、ヒ素は化学形態によって挙動が変わります。

だから、添加回収試験既知量のエンドトキシンをサンプルに添加し、期待値に対する回収率を測定して干渉の有無を確認する操作。で回収率を確かめる作業が要ります。⁠元素不純物の分析で失敗する原因の多くは検出器ではなく、分解と希釈のあいだにあります。

評価を組む順序

元素不純物の評価を組むとき、次の順で進めると手戻りが減ります。

一番目は、投与経路を確定させることです。 経口か注射か吸入かで許容量が桁で変わるので、ここが決まらないと何も置けません。経口から注射へ展開する計画があるなら、最初から厳しい側で見ておきます。二番目に、流入経路を洗い出します。触媒、原料、装置、容器。工程表と処方表を並べて、どの元素がどこから入りうるかを一覧にします。

三番目に、評価の方法を選びます。原料の元素プロファイルが手元にあるなら計算で済み、無ければ測ります。四番目が、管理閾値との比較です。許容量の 30% を下回るなら、定期的な測定は不要と判断できます。超えるなら、工程での除去か原料の変更か、規格での管理かを決めます。

最後に、分析法を組んで回収率を確かめます。⁠この順序のうち、いちばん抜けやすいのが二番目の洗い出しです。装置や容器からの寄与は処方表に現れないので、意識して探しにいかないと最後まで見つかりません。

参考文献

ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる
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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、低分子医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。