ICH Q7(原薬GMP)とは?API製造の品質基準
原薬のGMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく →で最初に決まらないと何も進まない論点があります。どの工程から GMP を適用するか、という一点です。たとえば合成が十段あるとして、一段目から適用するのか、それとも七段目からで足りるのか。この線をどこに引くかで、必要な設備も、作る文書の量も、やる試験の数も変わってきます。原価にも直結します。

核心は一点です。ICH Q7原薬(API)製造へのGMP適用を国際調和したICHの指針。出発物質の定義や工程管理、バリデーションなどを示す。詳しく → は、GMP を「守るか守らないか」の二択では描いていません。工程が原薬に近づくほど管理を厳しくしていく、段階的な考え方を取っています。出発物質を投入する段では基本的な管理で足り、最終の精製や結晶化溶液中の目的物質を固体の結晶として析出・単離する精製操作で、不純物の除去にも利用される。詳しく →に近づくにつれて、工程管理も文書も試験も重くなる。だから議論の中心は「GMPを守るかどうか」ではなく、「どこから、どの重さで守るのか」のほうに置かれます。
この記事では、Q7 が何に答えている文書なのかを確かめてから、最大の勘所である出発物質の定め方、工程管理の考え方、バリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。詳しく →、そして逸脱と変更管理工程・設備・手順などの変更を評価・承認し、品質への影響とともに記録する仕組み。詳しく →の順に解説します。GMPそのものの枠組みはGMPとはにまとめてありますので、あわせて読んでください。最後に、適用範囲を決める順序を並べます。
- Q7 の中心は、GMPをどこから適用するかという適用開始点の設定にあります。
- 出発物質は「重要な構造断片として原薬に組み込まれる」ものと定義されています。
- 「連続3ロット」は FDA ではなく ICH Q7 に由来する目安で、しかも固定の要件ではありません。
Q7 が答えていること ― どこから、どの重さで
ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q7 は、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →の製造に向けたGMPの手引きです。
製剤のGMPと同じ枠組みを原薬にそのまま当てると、無理が出ます。原薬の製造には化学合成も発酵も抽出もあり、工程の長さも設備も製剤とは違うからです。そこで Q7 は、品質マネジメントから人員、建物、設備、文書、原材料、製造と工程管理、包装、保管と流通、試験室管理、バリデーション、変更管理、不合格品の扱い、苦情と回収、受託製造製造をCDMOやCMOなど外部の製造所へ委託すること。委託しても品質への最終的な責任は委託者に残る。詳しく →、仲介業者、発酵由来の原薬、治験用原薬まで、章を分けて示しています。
構成そのものより重要なのが、冒頭に置かれた適用範囲の考え方です。工程を段階に分け、原薬に近づくほど GMP の水準を上げていく。合成なら、出発物質を投入する段、中間体ゲノムを途中までしか積んでいないAAVカプシド。空でも実でもない中間的な粒子で、測定時にどちらへ数えるかで比率が動く。詳しく →を作る段、最終中間体を作る段、精製する段、物理的処理と包装の段。後ろの段ほど、文書化も工程管理も試験も厳しくなります。
この考え方は、GMP省令や PIC/S の枠組みとも整合しています。Q7 が与えたのは規則の一覧ではなく、どこまで遡って管理するかを議論するための共通の物差しです。
出発物質 ― 重要な構造断片という基準
適用開始点を決めるのが、出発物質の定義です。
Q7 は、原薬出発物質最終原薬に構造の重要な部分として取り込まれる原材料。ここを起点に原薬工程へのGMP適用が始まる。を「重要な構造断片として原薬の構造に組み込まれる、原料、中間体、または原薬」と定義しています。つまり、反応して消えてしまう試薬や溶媒ではなく、最終的な分子の骨格の一部として残るものを指します。
この定義が実務で難しいのは、「重要な」の解釈に幅があるからです。分子の大部分を占める断片なら誰も異論を挟みませんが、小さな置換基ひとつだけを持ち込む原料はどうか。線を手前に引けばGMP下の工程が増えて費用がかさみ、奥に引けば不純物や異性体の管理が規制当局の目の外に出ます。ここは当局との議論になりやすい論点で、ICH Q11原薬の開発・製造を扱い、原薬側の管理戦略の作り込みを示すICHのガイドライン。詳しく → が原薬の開発と製造の文脈で判断の考え方を補足しています。
判断のとき効いてくるのが、不純物の由来です。出発物質より前の工程で生じた不純物が最終原薬まで残るなら、その工程は管理下に置く必要があります。とくに変異原性不純物に関わる場合、ICH M7医薬品中のDNA反応性(変異原性)不純物を評価・管理し、発がんリスクを抑えるためのガイドライン。詳しく → の評価は出発物質の前まで遡ります。線を引く位置は、化学構造だけでなく、不純物が追える範囲で決まります。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる工程管理 ― 途中で作り込む
Q7 の考え方は、最終試験に頼らない方向を向いています。
原薬の品質は、最後に測って確かめるものではなく、工程の各段で作り込むものだという前提です。だから工程内試験反応終点や中間体の純度など工程の重要地点で行う確認。最終規格の前倒しでなく途中で品質を作り込む仕組み。詳しく →が重視されます。反応の進行を追って終点を判定する、中間体の純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →を確かめてから次へ進む、結晶化の条件を記録する。それぞれの段で、次へ進んでよいかを判断する基準を置きます。
工程内試験には二つの使い方があります。一つは、判定基準として使う場合。基準を満たさなければ次へ進めません。もう一つは、監視として使う場合で、工程が想定の範囲で動いているかを確かめるために記録します。この二つを取り違えると、逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →の扱いが混乱します。
設備の洗浄も同じ考え方です。前の品目の残留が次のロットに持ち越されないことを、洗浄バリデーション設備を洗浄した後、前の製品の残留がないことを検証し交叉汚染を管理する活動。詳しく →で示します。専用設備にするか共用にするかの判断も、ここに紐づきます。
工程内試験の基準を規格として設定すると、外れたときに逸脱として扱う義務が生じます。監視目的なら、傾向を見るための記録として位置づけておくほうが実務は回ります。設定の段階でどちらの性格を持たせるかを決めておかないと、後から性格を変えるのは難しくなります。
バリデーション ― 「連続3ロット」の出どころ
プロセスバリデーション決めた製造工程が、いつも安定して規格に合う製品を作れることを事前に実証し、その後も確認し続ける取り組みです。承認申請や品質保証の土台になります。詳しく →の話で必ず出るのが、3ロットという数字です。
この数字の出どころは、しばしば誤解されています。FDA の要件だと言われることがありますが、そうではありません。ICH Q7 が、バリデーションのロット数について「通常は連続3ロットが目安となる」という趣旨の記述を置いたのが起点です。しかも Q7 自身が、製造の複雑さや工程の理解の深さによって必要な回数は変わる、と付け加えています。
FDA の側は、2011年 のプロセスバリデーションのガイダンスで固定のロット数を示すのをやめ、工程の理解とリスクに基づいて必要な数を決める方向へ移りました。ヨーロッパの枠組みでは、連続3バッチが一般に受け入れられるとしつつ、その妥当性をリスク評価工程や製品に潜在するリスクの種類・発生可能性・影響度を系統的に特定・分析し、優先的に管理すべき項目を決定する手続き。詳しく →で示すことを求めています。
つまり、3ロットは「そうしなければならない数」ではなく「そのくらいが目安とされてきた数」です。プロセスバリデーションの設計では、この違いを踏まえて、なぜその回数なのかを説明できる形にしておく必要があります。数字を要件として引くのか、目安として引くのかで、当局への説明の組み立てが変わります。
逸脱と変更 ― 工程を動かし続ける仕組み
バリデーションが終わっても、工程は動き続けます。
原料の供給元が変わり、設備が更新され、規格が改訂される。これらを制御するのが変更管理です。Q7 は、変更を分類して、それぞれに必要な評価と承認の水準を定めることを求めています。品質に影響しうる変更なら、実施前に評価して承認を得る。影響の大きい変更なら、バリデーションのやり直しや当局への届出まで及びます。
想定外の事象が起きたときが逸脱です。調査して原因を特定し、影響範囲を評価し、再発防止の措置を取る。試験結果が規格を外れた場合は、測定の誤りなのか製品そのものの問題なのかを切り分ける手順が必要です。逸脱・OOS・変更管理に実務の流れをまとめています。
この仕組みを回す枠組みが、ICH Q10 の医薬品品質システム製品ライフサイクル全体で品質を維持・改善するマネジメント体制。逸脱・CAPA・変更管理を束ねる器。詳しく →です。Q7 が個々の要求を示し、Q10 がそれらを継続的改善の枠に載せ、ICH Q9リスクに基づいて品質を判断する、品質リスクマネジメントの考え方を示すICHのガイドライン。詳しく → がリスクに基づく優先順位づけを与える。三つは別々の文書ですが、実務では一つの仕組みとして組み立てます。
適用範囲を決める順序
Q7 を自社の工程に当てるとき、次の順で決めると議論が収束します。
一番目は、合成ルートを段に分けて並べることです。 各段で何が生じ、何が除かれるかを書き出します。この図がないと、適用開始点の議論そのものが始まりません。二番目に、出発物質の候補を選びます。重要な構造断片として残るものはどれか、市販品として入手できるか、複数の供給元があるか。
三番目に、不純物の追跡可能性を確かめます。候補より前の工程で生じた不純物が原薬まで残るなら、線を手前に引き直す必要があります。ICH M7 の評価対象があるなら、ここは厳しく見ます。四番目に、段ごとの管理の重さを割り当てます。後ろの段ほど文書と試験を厚くし、前の段は基本的な管理で足ります。
最後に、変更と逸脱の仕組みを設計します。適用範囲を決める作業は一度きりですが、そこに載せた工程は動き続けます。動かし方を決めずに範囲だけ決めると、最初の供給元変更で止まります。
参考文献
- ICH Q7, Good Manufacturing Practice Guide for Active Pharmaceutical Ingredients
- ICH Q10医薬品品質システムを定めた国際ガイドライン。ライフサイクルを通じた品質マネジメントの考え方を示す。詳しく →, Pharmaceutical Quality System
- ICH Q9(R1), Quality Risk Management
- ICH M7(R2), Assessment and Control of DNA Reactive (Mutagenic) Impurities in Pharmaceuticals to Limit Potential Carcinogenic Risk
- FDA, Q7 Good Manufacturing Practice Guidance for Active Pharmaceutical Ingredients — Guidance for Industry
- ICH Q5A(R2)細胞株由来のバイオ医薬品について、ウイルス安全性評価の枠組みを示すICHガイドライン。詳しく →, Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products Derived from Cell Lines of Human or Animal Origin
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