フローサイトメーターの通常型とスペクトラル型をどう選ぶか
CAR-T製品の免疫表現型解析で、パネルに色を1つ足したいのに、既存の装置の検出器がすでに埋まっている。フローサイトメーター細胞を一つずつ流路に通し、レーザーで散乱光や蛍光を測って種類・数・状態を調べる手法です。細胞の集団を素早く分析できます。詳しく →を選び直そうとカタログを開くと、まず比べるのはレーザー数と検出器の数です。Sony ID7000は最大7レーザー、186検出器という数字を掲げます。Cytek Auroraも67の検出チャンネルをうたいます。数字の大きさだけを見れば、検出器の多い機種を選べば色数の悩みは解決しそうに見えます。

しかし実際にパネル設計を左右するのは、この検出器の数ではありません。効いてくるのは1つの分かれ道です。色をどう読み取るか、という検出の原理です。固定フィルターで蛍光色素ごとに1つの検出器を割り当てるコンベンショナル型か、波長全体を連続的に読み取ってから計算で色を分離するスペクトラル型か。前者は色を増やすたびにフィルターの組み合わせと補正(コンペンセーション)を作り直す必要があります。後者は色素の組み合わせを変えても、装置の構成そのものは変える必要がありません。検出器の数は、この検出原理が決まったあとに読む数字にすぎません。
本稿では、コンベンショナル型とスペクトラル型がそれぞれ色をどう分離するかから、実機の構成、自家蛍光への強さ、そしてパネル設計の自由度まで、順に整理します。最後に、選ぶ順番を並べます。
- 検出器の数より、固定フィルターで読むかスペクトラル全体を読むかという検出原理が、実際のパネル設計を左右します。
- スペクトラル型は色素の組み合わせを変えても装置の再構成が要らず、自家蛍光そのものも1つの成分として分離できます。
- コンベンショナル型は色数が少ないルーチン解析で扱いやすく、色数を増やすほどスペクトラル型との差が開きます。
色をどう読み取るか ― 固定フィルターか全波長か
コンベンショナル型は、蛍光色素ごとに専用の光学フィルターとPMT(光電子増倍管)を割り当てます。
Beckman CoulterのCytoFLEXは、405 nm・488 nm・561 nm・638 nmの4レーザーと15検出器の構成で、13色を同時に測定できます。上位のCytoFLEX LXになると、最大6レーザーで21のカラーパラメータまで拡張されます。BDのFACSLyricは3レーザーを基本に、4色から12色まで構成を選びます。12色構成では14検出器を使います。色を増やすほど、検出器とフィルターの組み合わせが複雑になっていきます。
スペクトラル型は違います。1つの蛍光色素が出す光を、単一の波長だけでなく、その色素固有の発光スペクトル全体として捉えます。Cytek Auroraは5レーザー構成で67の検出チャンネルを持ち、そのうち64が蛍光検出用です。スペクトラル型では、検出したスペクトルを既知の色素ごとの参照スペクトルと照合し、計算でそれぞれの色素の寄与分に分離します。この計算処理を「アンミキシング」と呼びます。色を増やしても、装置のハードウェア構成そのものは変わりません。
アンミキシングが自家蛍光まで分離する ― 骨髄系細胞で効く差
スペクトラル型の強みが際立つのは、自家蛍光の強いサンプルです。
自家蛍光とは、細胞そのものが持つ蛍光です。色素を入れなくても光を発してしまう性質です。コンベンショナル型では、この自家蛍光はノイズとして補正で差し引くしかありません。骨髄系細胞のように自家蛍光が強い検体では、暗い陽性集団と自家蛍光の区別がつきにくくなります。
スペクトラル型は、自家蛍光そのものを1つの「色素」として扱います。ノイズではなく成分の1つです。他の色素と同じように、スペクトルの参照ライブラリに登録できます。SonyのID7000は、360 nmから920 nmという広い範囲を32チャンネルのPMTアレイで検出します。約10 nmの分解能で、スペクトル全体を切れ目なく捉えます。800 nmを超える信号は、専用のInGaAs PMTで補っています。自家蛍光を計算上の1色として切り出せることが、コンベンショナル型との実務上の差です。
BD FACSymphony A5 SEに見る、両方式の橋渡し
両方式の境目を示す実機が、BDのFACSymphony A5 SEです。
この機種は5レーザー構成で、355 nm・405 nm・488 nm・561 nm・637 nmを備えます。レーザーごとの励起出力は60 mWから200 mWまで幅があります。検出器は合計48個です。紫外・紫・青・黄緑・赤の各レーザーに、9個から14個が割り当てられています。この装置はコンベンショナルな解析とスペクトラル解析の両方に対応しています。公表されているパラメータの上限は30です。48という検出器の数と、30というパラメータの上限は、別の数字です。
これは、検出器を増やすことと、実際に分離して読める色数を増やすことが、単純比例しないことを示しています。レーザーの数と出力、検出器の波長域の刻み方、そしてアンミキシングのアルゴリズムがそろって初めて、検出器の数が実際の色数に変換されます。カタログの検出器数だけを見てパネルの色数を見積もると、実際に組める色数を過大評価します。
パネル設計の自由度という代償 ― 組めることと分離できることの差
スペクトラル型にも代償はあります。
装置の構成を変えずに色を増やせる代わりに、色素の組み合わせが増えるほどアンミキシングの計算負荷は上がります。似たスペクトルを持つ色素同士は要注意です。同じパネルに入れると、分離の精度が落ちます。コンベンショナル型なら、そもそも検出器が足りずに組めないパネルがあります。スペクトラル型では、そのパネルが「組めるが分離が甘い」パネルとして通ってしまう場合があります。組めることと、正しく分離できることは別の話です。
MiltenyiのMACSQuant Analyzerのような、コンベンショナル型のベンチトップ機にも役割があります。決まった数色のパネルを、日常的に大量の検体で流すルーチン解析では、構成がシンプルな分だけ運用が安定します。パネルを増やす予定がないなら、スペクトラル型の計算負荷を引き受ける理由はありません。
メーカーに聞くべきこと
装置選びで聞くべきは、レーザー数や検出器数ではありません。
メーカーに聞くべきは「検出器は何個か」ではなく、「自社が組みたいパネル構成で、アンミキシング後の分離度クロマトグラフィーにおいて、隣り合う二つのピークが互いにどれだけ明確に分かれているかを示す無次元数値。詳しく →はどれだけ確保できるか」です。似た色素の組み合わせを実際のサンプルで流し、分離の程度を確かめてから導入を決めるほうが、カタログの検出器数を数えるより確実です。コンベンショナル型でも、コンペンセーションの行列は色数の2乗に近い勢いで複雑さを増します。パネルを1色増やすたびに、既存の色との組み合わせを全て見直す作業が発生する点は、事前に見積もっておく価値があります。
コンベンショナル型とスペクトラル型のどちらが優れているという話ではありません。決まった数色のパネルを大量に流すルーチン解析ならコンベンショナル型で足ります。自家蛍光の強い検体を扱う、あるいは色数を増やしていく予定があるならスペクトラル型が効いてきます。どちらの失敗が自社の解析で重いかで、選ぶべき方式が変わります。
選ぶ順番
最後に、決める順序を整理します。
まず、自社のパネルで想定する色数と、検体の自家蛍光の強さを見積もります。色数が少なく、自家蛍光も弱いならコンベンショナル型で十分です。次に、必要なレーザーの波長構成を確認します。355 nmや561 nmのような追加レーザーが要るかどうかで、候補の機種は絞られます。既存のパネルで使っている蛍光色素が、候補機種のレーザーで励起できるかも、ここで確かめておきます。
そのうえで、想定するパネルを実際のサンプルでアンミキシングし、分離の精度を確かめます。分離が甘ければ、色素の組み合わせを見直します。最後に、既存のデータ解析ソフトウェアや、他の装置で取得したデータとの互換性を確認します。過去のロットと同じ基準で判定を続けられるかどうかは、ここで決まります。検出器の数を最初に比べないことが、この順番のいちばんの要点です。
参考文献
- BD Biosciences, FACSymphony A5 SE Cell Analyzer 製品情報(レーザー構成と検出器数、パラメータ上限)
- Cytek Biosciences, Cytek Aurora 製品情報(5レーザー構成と検出チャンネル数)
- Sony Biotechnology, ID7000 Spectral Cell Analyzer Technical Specifications(レーザー構成と検出器の波長分解能)
- Beckman Coulter Life Sciences, CytoFLEX / CytoFLEX LX 製品情報(レーザー数と検出器構成)
- BD Biosciences, FACSLyric Technical Specifications(色数構成と検出器数)
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