マイクロキャリア培養とは?付着細胞を撹拌槽で増やす難しさ

マイクロキャリア培養液中に浮遊させる微小なビーズで、その表面に接着細胞を付着させ、撹拌培養で大量に増やすための担体です。詳しく →培養とは、何かに貼り付かないと増えない付着細胞を、直径0.2 mmほどの小さなビーズの表面に貼り付け、そのビーズを培養液に浮かべて撹拌槽で増やす方法です。ワクチンを作る細胞や、細胞治療生きた細胞そのものを有効成分とする医薬。CAR-Tなどが代表。詳しく →に使う間葉系幹細胞(MSC)を大量に増やすときに使われます。
ただし、フラスコを並べる代わりに槽を1つ大きくすれば済む、というほど単純ではありません。細胞がビーズに付くかどうかは確率で決まり、撹拌が弱すぎても強すぎても細胞が増えず、最後にビーズから細胞をはがす工程も加わります。
フラスコで足りない理由、担体の選び方、播種・撹拌・回収で何が起きるか、担体を比べる前に何を決めるかを、順に説明します。
- マイクロキャリア培養とは:付着細胞をビーズに貼り付け、撹拌槽で増やす方法です。フラスコ数百本分の操作を、槽の運転1回に置き換えます。
- 難しくなる所:播種で空のビーズが残ること、ビーズを沈めない下限と細胞を傷めない上限の間で撹拌すること、回収です。
- 担体を選ぶ前に:細胞そのものが製品か、ウイルスなどを作るための中間体かを決め、製品なら回収の条件から逆算します。
1. マイクロキャリア培養は、付着細胞をどうやって撹拌槽で増やすのか
細胞が貼り付ける足場を小さなビーズとして液の中に浮かべ、ビーズごと撹拌して、液に浮いた状態で付着細胞を増やします。
抗体を作るチャイニーズハムスター卵巣(CHO抗体など組換えタンパク質の生産に広く使われる、チャイニーズハムスター卵巣由来の培養細胞です。詳しく →)細胞のように液の中に浮いたまま増える細胞と違い、ワクチン製造の Vero 細胞や細胞治療の MSC は、何かに貼り付かないと増えません。そこで、貼り付く面をビーズの表面として用意し、そのビーズを培養液に浮かべます。米国の不活化ポリオワクチンの添付文書にも、ウイルスを増やす Vero 細胞を「マイクロキャリアの上で培養する」と書かれています。

ビーズの表面積は小さな体積に多く詰まっていて、デキストラン製の代表的な担体では、乾燥重量1 gで175 cm² のフラスコ約25本分の培養面があります。
2. フラスコを並べるのでは、なぜ足りないのか
フラスコでは、必要な面積に比例して培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →交換・観察・回収の操作の回数が増えるからです。
フラスコが数百本あれば、培地交換も観察も回収も数百回で、操作のたびに取り違えや汚染の機会も増えます。マイクロキャリアなら、その操作が槽の運転1回に置き換わります。マイクロキャリアが解いているのは、面積の不足というより、面積に比例して増えていく操作の数です。
この技術は、ワクチンを大量に作るという要求から生まれました。1967年に Nature に出た短い報告は、正に帯電したデキストランのビーズを培養液に浮かべ、その上で株化細胞やヒトの二倍体細胞、ウサギ腎臓の初代細胞を育てました。この系でポリオウイルスを増やすと、ふつうの単層培養と変わらない増え方を示しています。
ほかの手段との比べ方もあります。多層のフラスコを使えば操作の回数は減らせ、細胞を固定した床に培地を流す方式もあります。容器全体の選び方は付着細胞の大量培養と容器の選び方で説明しています。
3. 担体は、何で選び分けるのか
担体は、表面の性質で「細胞が付くかどうか」を、ビーズの構造で「細胞を守れるか、取り出せるか」を選び分けます。
表面は、付くかどうかを決める
正の電荷を持たせたデキストランの汎用品、表面をコラーゲン(豚皮由来のゼラチン)で覆ったもの、ポリスチレン製のもの、合成ペプチドで表面を覆ったものがあります。動物由来の成分を避けたい用途では、ポリスチレンや合成ペプチドの担体を選びます。
構造は、守れるか・取り出せるかを決める
表面だけに細胞が付く固形のビーズは、顕微鏡で様子が見え、はがすのも比較的楽です。内部にすき間のある多孔性のビーズは、中に入った細胞が液の流れから守られる一方で、外から見えず、はがす酵素も届きにくくなります。
3つ目は、溶ける担体です。カルシウムでつないだ多糖でできた担体は、回収のときにカルシウムを抜く薬剤(EDTA)と多糖を分解する酵素を加えると担体そのものが溶け、ビーズと細胞をふるい分ける工程が要りません。
4. 撹拌槽で増やすと、フラスコには無い何が起きるのか
細胞がビーズに付くかが確率で決まることと、撹拌の強さに上下両方の限界があることです。
播種では、空のビーズが残る
細胞はビーズへ偶然に振り分けられるため、1ビーズあたり平均3個の細胞を播いても、計算上はおよそ20個に1個のビーズに細胞が1個も付きません。空のビーズは最後まで空のまま回るので、その分の面積は使われません。植えた直後の数時間は、液量を減らしたり、撹拌を止めては短く回すことを繰り返したりして、細胞とビーズが出会う機会を増やします。
撹拌は、下限と上限の間で運転する
ビーズは培地よりわずかに重く、撹拌が弱いと底に沈んで固まり、酸素も栄養も届きません。英国の研究グループは、ビーズがちょうど全部浮く最小の回転数で MSC を育てる方法を、小型の槽から大きめの槽まで複数の装置で確かめています。
上限は、細胞が傷まない範囲で決まります。ビーズに貼り付いた細胞は、液のせん断や気泡に加えて、ビーズどうしの衝突も受けます。下限と上限の間は浮遊培養細胞を容器壁に付着させず液中に浮遊させて増やす培養。バイオリアクターでの大容量化に向く。詳しく →より狭く、そこに酸素を足りるだけ送る条件が重なります。酸素の送り方は溶存酸素とkLaで説明しています。
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- 5. 回収と細胞の数え方は、培養を始める前に決める
- 6. 担体を比べる前に、細胞が製品か中間体かを決める
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ほかの会員向けの記事を見る →参考文献
- van Wezel AL. Growth of cell-strains and primary cells on micro-carriers in homogeneous culture. Nature. 1967;216:64-65.
- Sanofi Pasteur, IPOL (Poliovirus Vaccine Inactivated) Package Insert(Vero 細胞をマイクロキャリアで培養する旨の記載)
- Cytiva, Cytodex 1 製品仕様(表面積 約0.44 m²/g 乾燥重量、平均粒径 約190 µm)
- Nienow AW, Rafiq QA, Coopman K, Hewitt CJ. A potentially scalable method for the harvesting of hMSCs from microcarriers. Biochem Eng J. 2014;85:79-88.
- Nienow AW, et al. Agitation conditions for the culture and detachment of hMSCs from microcarriers in multiple bioreactor platforms. Biochem Eng J. 2016;108:24-29.
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