エンドトキシン試験法とは?組換え試薬に替えれば、どの製品でも測れるのか

エンドトキシン試験微生物そのものでなく、グラム陰性菌由来の発熱性物質エンドトキシンの量を測る試験。詳しく →法は、注射剤や原薬に混じった細菌由来の発熱性物質(エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →)を、試薬の反応で測る方法です。品質試験の担当は、どの試薬でどう結果を読むかを製品ごとに決め、試験手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →に書きます。
ここ数年で、カブトガニの血に頼らない組換え試薬が薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく →に載りました。それでも、試薬を新しくすれば、どの製品でも測れるとは限りません。
試料の成分が反応を妨げる仕組みと、自社の製品で測れるかを何で見極めるのかが、読み終えたときに分かります。
- エンドトキシン試験法とは:試薬がエンドトキシンに反応して固まる・濁る・色が付く変化から、量を測る方法です。
- 組換え試薬なら測れるか:試料による反応の妨げ方は試薬ごとに違い、組換え試薬どうしでも測れない製剤があります。
- 何で決めるか:自社の製品に加えたエンドトキシンが、正しく戻るかで決めます。
1. エンドトキシン試験は、試薬のどんな反応を見ているのか
エンドトキシン試験(BET、Bacterial Endotoxins Test製品中のエンドトキシンを検出・定量するバクテリアエンドトキシン試験の総称。詳しく →)は、カブトガニの血球が細菌の成分に反応して固まる仕組みを、試験管の中で起こして量を測ります。
カブトガニの血球には、エンドトキシンに触れると酵素が順に働き、最後に液が固まる反応があります。この血球から作った抽出液が LAL(Limulus amebocyte lysate)で、長く試験の標準になってきました。
反応の結果をどう読むかで、方法は2つの系統に分かれます。
- ゲル化法エンドトキシンとLAL試薬を反応させ、ゲルの形成有無で合否を判定するシンプルな限度試験法。詳しく →:試薬が固まるかどうかを見ます。限度値を超えるかどうかの判定に使います。
- 比濁法LAL反応による溶液の濁度変化を光学的に測定し、エンドトキシン量を定量する方法。詳しく →と比色法LAL反応で活性化された酵素が発色基質を切断する吸光度変化を測定し、エンドトキシンを定量する方法。詳しく →:濁りの進み方や発色を測り、量を数値で出します。プレートリーダー多数の穴が並ぶプレートの各ウェルの吸光度や蛍光、発光をまとめて測る装置です。多数の検体や条件を一度に測定できます。詳しく →で自動化しやすく、工程の傾向を追うのに使われます。
どちらで読むかは、答えが「超えたかどうか」で足りるか、数値が要るかで決めます。では試薬のほうは、なぜ LAL のほかに選択肢ができたのでしょうか。
2. カブトガニを使わない組換え試薬は、何が違うのか
組換え試薬は、LAL の反応に関わるタンパク質を遺伝子組換えで作った試薬で、カブトガニの採血に頼らずに作れます。 中身によって2種類あります。
- rFC凝固カスケード最上流のFactor Cだけを組換えで再現した非動物由来試薬。グルカン干渉を受けにくい。詳しく →(組換え C 因子):反応の入口でエンドトキシンを受け取る C 因子だけを組換えで作り、蛍光で検出します。
- rCR(組換えカスケード試薬):反応の段をすべて組換えでそろえ、LAL と同じ流れを再現します。
LAL との違いの1つは、β-グルカン(植物やカビの細胞壁にある多糖)への反応です。LAL はβ-グルカンでも反応が進む経路を持つため、エンドトキシンが無くても高く出ることがあります。2010年の報告では、静注用免疫グロブリン製剤で値が高く出た原因が、セルロース製のろ過パッドから溶け出したβ-グルカンでした。
規制の上でも、組換え試薬は正式な選択肢になりました。欧州薬局方欧州医薬品品質局(EDQM)が発行する、医薬品の品質基準を定めた公定書で、署名国・加盟国の規制に法的効力を持つ。詳しく →は2021年1月から rFC の試験法(2.6.32)を正式な方法とし、米国薬局方米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →は2025年5月に組換え試薬の章〈86〉を正式にしました。FDA は2026年3月に試験の Q&A を改めましたが、組換え試薬を名指しした記述はなく、薬局方の方法に代わる方法の一般的な扱いを示すにとどまります。
こうして試薬を選べるようになりました。ただし、薬局方に載ったことは、自社の製品で測れることまでは意味しません。
3. 試薬を替えても、なぜ測れない製品が残るのか
測れるかどうかは、試薬の性能より先に、試料の成分が反応を妨げないかで決まるからです。 この妨げを干渉と呼びます。
干渉には向きが2つあり、重く見るのは低く出るほうです。
- 阻害:反応が弱まり、本当の値より低く出ます。限度値を超える製品が合格になりかねません。
- 増強:反応が強まり、高く出ます。合格すべき製品を出荷できなくなる損失で、患者の安全には直結しません。
原因になりやすいのは、試薬の酵素が働く範囲(おおむね pH 6〜8)から外れた pH や、マグネシウムなど二価の陽イオンの過不足です。マグネシウムを奪う EDTA(金属イオンをつかむ物質)や、タンパク質や脂質の多い試料も干渉を起こしやすくなります。
薄めて逃れるには、上限がある
干渉を避ける基本は、試料を薄めて妨げる成分の濃度を下げることです。ところが薄めすぎると、限度値ちょうどのエンドトキシンが入っていても試薬が検出できる下限を下回り、「検出されなかったので合格」に意味がなくなります。
この薄められる上限が、最大有効希釈(MVD検出感度を下回らずに希釈できる上限。干渉を避けつつこの範囲内で希釈する。詳しく →、Maximum Valid Dilution)です。 MVD は、限度値、試料の濃さ、試薬の感度の3つで決まり、感度の高い試薬ほど上限は広がります。試験の希釈倍率は、干渉が消える倍率であり、かつ MVD の内側でなければなりません。
組換え試薬どうしでも、結果が分かれた
国内の研究(AMED、平成28年度)では、組換え試薬3製品で28品目の注射剤を、日本薬局方の反応干渉因子試験に従って測りました。反応の段をすべて組換えでそろえた試薬は、全品目を MVD 以下の希釈で測れました。一方、C 因子だけの2製品は、ヘパリンカルシウム製剤を MVD 以下の希釈では測れませんでした。

報告は、この差の原因を、試薬を作る因子の数や C 因子の作り方の違いと推察しています。28品目のうちの1製剤での差ですが、試薬の種類だけで測れるかを決められないことは、この結果から読み取れます。
4. 測れるかどうかは、加えたエンドトキシンが戻るかで決める
自社の製品を MVD の内側に薄め、既知の量のエンドトキシンを加えて、それが正しく測れるかで決めます。 この確認を添加回収既知量を添加して回収できるかで分析法の妥当性を確認する試験。添加回収ともいう。詳しく →(PPC、陽性対照)と呼びます。
定量法では、加えた量の50〜200%が戻れば干渉は無いとみなします。外れたら、MVD の範囲で薄め直す、pH を合わせる、マグネシウムを補うといった手で直します。それでも戻らなければ、感度の高い試薬で MVD を広げるか、別の試薬を試します。
高く出る疑いには別の手がかりがあります。希釈系列で結果が希釈倍率どおりに下がらないときはβ-グルカンを疑い、グルカンの反応を止める緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →か、β-グルカンに反応しない組換え試薬で確かめます。
加えてすぐは戻るのに、置いておくうちに測れなくなる現象があります。クエン酸やリン酸とポリソルベートを含む製剤で2013年に報告され、低エンドトキシン回収(LER)と呼ばれます。詳しくは低エンドトキシン回収(LER)とはで解説しています。
LAL から組換え試薬に替えるときも、考え方は同じです。FDA の Q&A は、別のエンドトキシン試験法に移るときは2つの方法を比べて同等性を確かめ、医薬品と生物製剤では切り替えを事前承認の変更申請で出すべきとしています。同じ試料を LAL と組換え試薬の両方で測り、添加回収と干渉の出方を比べたデータを、切り替えの根拠にします。
5. いまの試験法の記録で、まず確かめる3つ
最初に開くのは、試験手順書か受託先の報告書にある希釈倍率と、添加回収の記録です。 次の3つがそろっていれば、いまの数値を信じてよいかを判断できます。
- 希釈倍率は、薄められる上限(最大有効希釈、MVD)の内側か:限度値、試料の濃さ、試薬の感度から薄められる上限を引き直し、添加回収(PPC)が毎回の測定で(定量法なら)50〜200%に入っているかを見ます。外れたときの手順が決まっているかも確かめます。
- 低く出る疑いと高く出る疑いを確かめたか:クエン酸やリン酸とポリソルベートタンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →を含む製剤なら、保管時間を置いた回収を見たか。セルロース製のフィルターやろ過パッドを通る工程なら、β-グルカンの影響を見たかを確かめます。
- 組換え試薬に替えるなら、LAL(カブトガニ由来の試薬)と並べたデータがあるか:自社の製品で同じ試料を両方の試薬で測り、回収と干渉の出方を比べたかを確かめます。
1の引き直しで薄められる上限の内側に余裕がない製品から、試薬の感度や前処理を見直します。限度値そのものの決め方はエンドトキシンとはで、手元の数字での試算はエンドトキシン限度値の計算ツールでできます。
参考文献
- USP, Bacterial Endotoxins(USP〈85〉、PDG による調和)(MVD、添加回収)
- USP-NF, Bacterial Endotoxins Test Using Recombinant Reagents(USP〈86〉)(2025年5月に正式)
- EDQM, Recombinant factor C: new Ph. Eur. chapter available as of 1 July 2020(Ph. Eur. 2.6.32、2021年1月1日施行)
- FDA, Pyrogen and Endotoxins Testing: Questions and Answers(2026年3月 Edition 2。代替法と試験法の切り替え)
- Buchacher A, Krause D, Wiry G, Weinberger J. Elevated Endotoxin Levels in Human Intravenous Immunoglobulin Concentrates Caused by (1→3)-β-D-Glucans. PDA J Pharm Sci Technol. 2010;64(6):536-544.(セルロース製ろ過パッド由来のβ-グルカン)
- 日本医療研究開発機構(AMED), 医薬品の微生物学的品質確保のための試験法高度化に関する研究(平成28年度 委託研究開発成果報告書)(組換え試薬3製品と注射剤28品目の比較)
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