製薬用水システムの選び方:蒸留か膜か、高温か常温か

製薬用水システムは、注射用水(WFI)注射剤の調製などに用いる高度に精製された水。専用の設備で製造し、水質を厳しく管理する。詳しく →や精製水経口剤など非注射用途に使う製薬用水で、導電率とTOCで管理されるが、日本薬局方・米国薬局方ではエンドトキシン規格は設けられていない(欧州薬局方では一部規定あり)。詳しく →を作り、貯めて、使用点まで配る設備です。選ぶ軸は、水を作る方式(蒸留か膜法か)、配る温度(高温か常温か)、配管の作り、監視と消毒の組み方の4つです。
ただし、品質が崩れやすいのは作る装置よりも、作った水を貯めて使用点へ配る配管です。
この記事では、システムの構成、蒸留と膜法および高温ループと常温ループの違い、4つの判断軸、よくある失敗、発注前に確かめる点を順に説明します。
1. 水システムの構成 ― 作る部分と配る部分
水は、原水から前処理、精製(RO、電気脱イオンのEDI)、WFIをつくる装置(蒸留または膜)、貯留タンク、循環ループ、使用点の順に流れます。
実際の配置は設計で変わり、注射剤の処方や容器の最終すすぎ、純蒸気の原水に使うWFIまで作る場合と、経口剤や溶解用の精製水までで足りる場合とで、装置の構成が違います。水の等級と規格は注射用水(WFI)とは?に、純蒸気・圧縮空気・窒素はクリーンユーティリティにあります。
作る部分と配る部分を別々に考える理由は、水が貯まる場所と配管の壁にあります。栄養の乏しい水でも、菌は配管の内壁に居着き、バイオフィルム微生物が配管や装置の表面に付着して形成する薄い膜状の集合体で、除去が困難で製薬用水の汚染源となりうる。詳しく →という膜を作ります。
良い水を作っても、貯めて配る間に壁で菌が増えれば、水質は崩れます(バイオフィルムとデッドレグ)。
2. 蒸留と膜法、高温ループと常温ループ
作る方式は、蒸留と膜法の2つです。
| 蒸留 | 膜法 | |
|---|---|---|
| 仕組み | 水を沸かして蒸気だけを取り出し、不純物を釜に残す | ROで大半を除き、EDIや限外ろ過(UF)を重ねる |
| 強み | 熱で、微生物とエンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →を断つ裏づけがしやすい | 加熱が要らず、省エネルギー。常温で作れる |
| 注意 | 蒸気と冷却水が要る | 前処理が命。膜の完全性とエンドトキシン除去の裏づけが要る |
| 装置の形 | 多重効用式(MED)、蒸気圧縮式(VC) | 一段または二段のRO |
蒸留は、不揮発性の不純物もエンドトキシンも微生物も、沸いた釜に置いていきます。
欧州では2017年4月まで、WFIは蒸留でしか作れませんでした。同年4月1日に発効した欧州薬局方のモノグラフ薬局方に収載された個々の医薬品・原料の品質規格(試験法・基準値など)をまとめた公式の規格文書。詳しく →の改訂で、逆浸透半透膜に高圧をかけてイオンや微粒子を除去する膜分離技術で、製薬用水の製造にも利用される。詳しく →(RO)を核にした膜法でも作れるようになり、実施の前に所管当局へ届け出る手順が付きます(EDQM)。
「同等」とは規格値を満たすだけでなく、方法の頑健さも含めて見られます。膜法で効くのは膜そのものより前処理で、硬度、塩素、有機物を先に落とさないと、RO膜はすぐ目詰まり微粒子や凝集体、タンパク層が膜の孔を塞いでろ過が落ちる現象。プレフィルターでの前段保護が効く。詳しく →します。
配る温度には、高温ループと常温ループの2つがあります。
- 高温ループ:WFIを高温(多くは80℃前後)で循環させ、熱で菌の増殖を抑えます。
- 常温ループ:膜法で作った水を常温のまま配る方式で、熱のエネルギーも排水も減らせます。熱で菌の増殖を抑えられないため、オゾンなどの消毒を別に組みます。
オゾンは温度が上がると効きが落ちるため、使用前に紫外線で分解して残留を断ちます。配る温度は、設計の段階で作る方式と一緒に決めます。
作る方式と配る温度は独立に選べるので、膜法で作った水を高温ループで回す構成もあります。
BWT は膜法と蒸留の両方を扱い、MECO は蒸気圧縮式の蒸留と膜法を長く手がけ、国内ではオルガノが多重効用式の DWV シリーズを供給しています。蒸留と膜法の両方を扱うメーカーに、同じ条件で見積もりを取ると、方式の違いを比べやすくなります。
3. 選ぶときの4つの判断軸
1つ目は、水種と使用量です。必要な水がWFIか精製水か、日量だけでなく、同時に使うピークの量を決めます。
貯留タンクの容量とループの流量は、ここから決まります。
2つ目は、原水と前処理です。原水の硬度、塩素、有機物が、前処理の構成とRO膜の寿命を決めます。
原水は季節で変わるため、水システムの性能適格性は、数週間の2段階のあと、約1年かけて季節変動をまたいで確かめます(設備の適格性評価(IQ/OQ/PQ))。導入の計画には、年単位の見込みを入れます。
3つ目は、配管の作りです。行き止まりの配管(デッドレグ配管などで液がよどむ袋小路。洗いにくく、洗浄バリデーションのワーストケース箇所になりやすい。詳しく →)を残さず、水が自然に抜ける勾配をつけ、使用点は本管から短く分岐させます。
デッドレグの長さは、配管径に対する倍率で考えます。ASME BPE は2倍以下を目標値としていますが、絶対の要件ではなく、系によっては届かない場合があるとも書いています。
高温で長く運転するステンレス配管では、内面にルージュと呼ぶ腐食皮膜ができることがあるため、長期の管理項目品質に影響しうる要素を、規格や手順で規定し・実行し・記録し・検証する対象として管理するもの。GMPでは原材料から出荷判定まで多岐にわたります。詳しく →に入れておきます。
4つ目は、監視と消毒です。導電率液のイオン強度の目安となる電気の通りやすさ。バッファ調製やクロマト制御で監視する。詳しく →とTOCは、生成側と使用点側にオンラインの計器を置いて連続で測り、微生物とエンドトキシンは使用点で定期的に試験します。
微生物の「100 mLあたり10 CFU培養した際に1つのコロニー(集落)を形成する微生物の単位で、生菌数を表す際に用いられる。詳しく →」は、合否の線ではなく、USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →〈1231〉が示す推奨のアクションレベルです。超えたら調査に入る目安で、結果は培養に数日かかるため、傾向を追って増える前に手を打ちます。
消毒は、高温なら熱水や純蒸気、常温ならオゾンなどを使います。
作る装置は入れ替えられますが、配管の行き止まりは、設計に埋め込まれたまま運転に入ります。4つの軸のうち、配管の作りは図面の段階で最も念を入れます。
製造方式の選択は、水を作る装置の話に見えて、実際には「あとで説明できるか」の選択です。膜法なら膜の完全性とエンドトキシン除去の裏づけを、常温ループなら消毒の頻度と効果の確認を、設計の段階で用意しておきます。
4. よくある失敗
FDAが2026年3月にドイツの Simtra BioPharma Solutions の工場へ出した警告書(査察は2025年9月)は、注射用水システムの設計にデッドレグがあることと、微生物による汚染を挙げ、システムの全面的な見直しを求めたと伝えられています。
2019年の Torrent Pharma への警告書も、デッドレグとねじ込み式の配管の接続が挙がっていました。どちらも、水を採って検査した結果の良し悪しより前に、配管の設計が問われています。
見落としも、決まった形で起きます。
- 増設でできる行き止まり:既存のループに枝を足し、新しいデッドレグを作ってしまうことがあります。
- 前処理の軽視:硬度、塩素、有機物を落としきれず、RO膜が早く目詰まりすることがあります。
- 微生物の数字の読み違え:推奨のアクションレベルを合否の線と読むと、傾向を追う運用が抜け落ちます。
- 常温ループの消毒:常温ループを選んだのに、オゾンの運用と分解の確認を用意していない例があります。
いずれも、導入の時点で防げる項目です。
もう1つが、メーカーの実績と、自社の適格性を混ぜることです。メーカーが納入実績や水質のデータを示していることと、自社の原水と自社のループで性能適格性が通ることは、別の話です。
5. 発注前のチェックリスト
設備を設計する人だけでなく、水システムを調達する購買、立ち上げの適格性評価製造装置やユーティリティが意図どおりに据え付けられ、動き、性能を出せることを文書で裏づける活動。詳しく →を見る品質保証、見積もりを出す営業にとっても、4つの軸を知っているかどうかで仕様確認の質が変わります。発注の前に、次の順に決めます。
- 水種と使用量:必要な水種(精製水、WFI)と、日量、同時に使うピークの量を決めます。
- 原水と作る方式:原水の水質(硬度、塩素、有機物)と季節による変動を押さえ、作る方式(蒸留か膜法か)と、膜法なら当局への届出の要否を決めます。
- 配る温度と消毒:配る温度(高温か常温か)と消毒の手段を決め、必要なら残留の分解の確認も決めます。
- 配管と計器:配管の材質と内面の仕上げ、デッドレグの長さの目標、勾配、使用点の数と枝の長さを決めます。導電率計とTOC計を置く場所、微生物とエンドトキシンの採水点、貯留タンクの容量、ベントフィルタータンクやバイオリアクターの通気・排気ラインに付け、出入りする空気を除菌して内部の無菌を保つ疎水性フィルターです。詳しく →、洗浄の手段も決めておきます。
- 資料と分担:提出してもらう資料と、適格性評価(IQ/OQ/PQ)の分担、将来の増設の余地を確かめます。
製品の一覧は注射用水(WFI)・精製水製造装置のページで比べられます。周辺の計器や設備は、導電率計、ステンレスタンク、エンドトキシン試験が入口です。生物側の指標はバイオバーデンとエンドトキシンの違い、タンクや配管の洗浄と滅菌はCIP・SIP、無菌製造全体の考え方は改訂Annex 1にあります。
参考文献
- EDQM, Ph. Eur.欧州医薬品品質局(EDQM)が発行する、医薬品の品質基準を定めた公定書で、署名国・加盟国の規制に法的効力を持つ。詳しく → Monograph 0169 Water for injections(2017年4月1日発効の改訂で、蒸留と同等の精製工程を許容。本文は有償の欧州薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく →に収載)。解説は EDQM adopts revised monograph for WFI allowing non-distillation techniques(gmp-compliance.org)
- USP, FAQs: Water for Pharmaceutical and Analytical Purposes(USP〈1231〉ほか)
- European Commission, EU GMP Annex 1: Manufacture of Sterile Medicinal Products(2022)
- FDA, Warning Letter to Simtra BioPharma Solutions(2026年3月3日付。査察は2025年9月18日から26日)
- FDA, Warning Letter to Torrent Pharma(2019年10月)。バイオフィルムとデッドレグで詳しく解説
- ASME BPE, Bioprocessing Equipment Standard(デッドレグの L/D 目標値。本文は有償の規格に収載)
- 1精製水はどうやって作るのか?前処理・イオン交換・逆浸透・電気脱イオン
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/wfi-pharmaceutical-water