注射用水(WFI)とは?製薬用水のグレードと品質規格

製薬用水にはグレードがある
製薬用水は、「水」とひとくくりにできません。用途に応じてグレード(等級)が分かれ、求められる品質が段階的に上がります。中でも注射剤に使う最高グレードが、注射用水(WFI注射剤などに使う高純度の水(注射用水・精製水)を、蒸留やろ過などでつくる装置です。詳しく →:Water for Injection)です。
代表的なグレードを整理すると、次のようになります。
| グレード | 主な用途 | エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →管理 |
|---|---|---|
| 精製水(PW:Purified Water経口剤など非注射用途に使う製薬用水で、導電率とTOCで管理されるが、日本薬局方・米国薬局方ではエンドトキシン規格は設けられていない(欧州薬局方では一部規定あり)。) | 非経口以外(経口剤など) | 規定なし |
| 注射用水(WFI:Water for Injection) | 注射剤の製造・最終すすぎ | 規定あり(≤0.25 EU/mL) |
大きな分かれ目はエンドトキシンです。精製水は導電率液のイオン強度の目安となる電気の通りやすさ。バッファ調製やクロマト制御で監視する。とTOC総有機炭素。残留する有機物をまとめて炭素量として測る指標で、洗浄評価に使う。(全有機炭素)で管理しますが、エンドトキシンの規格はありません。一方、体内に直接入る注射剤に使うWFIは、精製水経口剤など非注射用途に使う製薬用水で、導電率とTOCで管理されるが、日本薬局方・米国薬局方ではエンドトキシン規格は設けられていない(欧州薬局方では一部規定あり)。の要件に加えてエンドトキシンの上限(0.25 EU/mL以下)が課されます。ここが両者を分ける決定的な違いです。なお欧州薬局方欧州医薬品品質局(EDQM)が発行する、医薬品の品質基準を定めた公定書で、署名国・加盟国の規制に法的効力を持つ。には、蒸留以外の方法で作るWFI相当の水として高度精製水欧州薬局方に設けられた区分で、逆浸透や電気脱イオンなど蒸留以外の処理によりWFI相当の品質を持つとされる製薬用水。(HPW欧州薬局方に設けられた区分で、逆浸透や電気脱イオンなど蒸留以外の処理によりWFI相当の品質を持つとされる製薬用水。)という区分も設けられてきました。
精製水とWFIの決定的な違いはエンドトキシン。導電率・TOCで水の「きれいさ」を測るのは共通でも、注射剤に使うWFIだけは発熱性物質であるエンドトキシンの上限が課されます。だからWFIは、製法も配管も微生物・エンドトキシン管理を前提に設計されます。
WFIの品質規格
WFIに求められる主な品質項目は、次のとおりです(薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。で国際的に調和されています)。
- 導電率:段階的な判定で、目安として25℃で1.3 µS/cm以下。イオン性の不純物の少なさを見ます。
- TOC(全有機炭素):500 ppb(0.5 mg/L)以下。有機物の少なさを見ます。
- エンドトキシン:0.25 EU/mL以下。発熱性物質体内に入ると発熱反応を起こす物質。パイロジェンとも呼び、エンドトキシンが代表格。の管理。エンドトキシンとはで扱う注射剤の要件です。
- 微生物:一般に100 mLあたり10 CFU以下がアクションレベル超えたら是正措置が必要となる基準。グレードごとの上限を踏まえて設定する。とされます。バイオバーデンの管理。
導電率とTOCで化学的な純度を、エンドトキシンと微生物で生物学的な清浄度を見る——この二本立てが製薬用水の品質管理遺伝子治療製品の品質・安全性・有効性を保証するために製造・出荷の各段階で実施する試験・管理の総体。の骨格です。エンドトキシンを工程で下げる考え方はエンドトキシンの除去もあわせて参照してください。
製法:蒸留から膜法へ
WFIは伝統的に蒸留で作られてきました。加熱して蒸気にし、凝縮させることで、不揮発性の不純物・微生物・エンドトキシンを確実に置いていける——熱を使う分、微生物・エンドトキシンの面で安心感が大きいためです。
転機は2017年でした。欧州薬局方(Ph. Eur.欧州医薬品品質局(EDQM)が発行する、医薬品の品質基準を定めた公定書で、署名国・加盟国の規制に法的効力を持つ。 のWFIモノグラフ薬局方に収載された個々の医薬品・原料の品質規格(試験法・基準値など)をまとめた公式の規格文書。)が改訂され、蒸留と同等の品質が保証できるなら、逆浸透半透膜に高圧をかけてイオンや微粒子を除去する膜分離技術で、製薬用水の製造にも利用される。(RO)膜を核とする膜法でもWFIを製造してよいとされました。これにより、すでにROを認めていた米国薬局方米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。(USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。)との方向性がそろいました。ただし膜法は熱をかけない分、連続的なモニタリングやバイオフィルム微生物が配管や装置の表面に付着して形成する薄い膜状の集合体で、除去が困難で製薬用水の汚染源となりうる。(微生物膜)対策など、追加の管理が前提になります。膜法・蒸留のいずれを採るにせよ、設備の適格性評価(IQ/OQ/PQ)で製法と装置が意図どおり動くことを確かめてから使います。
配管・貯留でも管理は続く
作ったWFIは、貯めて配る過程でも品質が落ちないように管理します。よく採られるのが、高温(おおむね65〜80℃以上)で循環させ続ける方式です。水が滞留するとバイオフィルムが育ちやすいため、常に動かし、高温を保つことで微生物の増殖を抑えます。導電率やTOCはオンラインで連続監視するのが一般的で、こうした水システム全体が汚染管理戦略(CCS)の重要な一部を成します。
まとめ
- 製薬用水はグレード制。注射剤に使う最高グレードがWFI(注射用水)で、精製水との決定的な違いはエンドトキシン規格の有無。
- WFIの主な規格は、導電率(25℃で1.3 µS/cm以下が目安)・TOC(500 ppb以下)・エンドトキシン(0.25 EU/mL以下)・微生物(100 mLあたり10 CFU培養した際に1つのコロニー(集落)を形成する微生物の単位で、生菌数を表す際に用いられる。以下)。
- 伝統的な蒸留に加え、2017年の欧州薬局方改訂で逆浸透膜による製造も認められた。膜法は連続監視・バイオフィルム対策など追加管理が前提。