注射用水(WFI)とは?精製水と何が違い、規格に合格すれば使ってよいのか

注射用水(WFI)注射剤の調製などに用いる高度に精製された水。専用の設備で製造し、水質を厳しく管理する。詳しく →とは、注射剤の薬液を作る水や容器を最後にすすぐ水に使う製薬用水で、体に直接入る薬に微生物や発熱を起こす物質を持ち込まないよう、最も厳しく管理した水です。水システムを設計する人、水質の規格を決める品質保証の担当者、毎日の試験結果を読む人の仕事に関わります。
ただし、規格の試験に合格したというだけでは、その水を安心して使えるとは言えません。微生物の結果は数日遅れて出るため、使う時点の水質は、作り方と、貯めて配る間の管理で守ります。
この記事では、注射用水が何を守るのか、精製水経口剤など非注射用途に使う製薬用水で、導電率とTOCで管理されるが、日本薬局方・米国薬局方ではエンドトキシン規格は設けられていない(欧州薬局方では一部規定あり)。詳しく →との違い、規格で測る項目、試験に合格すれば使ってよいのか、作り方を順に説明します。後半では、貯留タンクと循環ループの管理と、水システムを決める順番を取り上げます。
- 注射用水とは:注射剤の製造や容器の最終すすぎに使う製薬用水です。精製水と違い、エンドトキシンの規格があり、微生物の管理も厳しく置かれています。
- 規格で測るもの:導電率、全有機炭素(TOC)、エンドトキシンの3つで合否を決め、微生物は USP〈1231〉が示す上限の目安をもとに、各社が決めた線で傾向を見ます。
- 合格すれば使ってよいか:それだけでは足りません。微生物の結果は数日遅れるため、水質は作り方と、貯めて配る間の管理で守ります。
1. 注射用水は、何を守るために要るのか
注射剤は血管や筋肉などに直接入るため、薬を溶かす水や容器を最後にすすぐ水に、微生物やエンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →を持ち込めません。そのために最も厳しく管理した製薬用水の等級が、注射用水(water for injection、WFI)です。
エンドトキシンは、グラム陰性菌外膜をもつ細菌の分類。大腸菌が代表で、比較的壊しやすく外膜にエンドトキシンをもつ。詳しく →(細菌の大きなグループの1つ)の細胞壁の成分であるリポ多糖で、血液中に入るとごく微量でも発熱を起こします。菌が死んだ後も残るため、菌を殺すだけでは取り除けない点が、生きた菌と違います。
注射用水は、精製水か、適切な前処理をした常水を、蒸留か、蒸留と同等の方法でさらに精製した水です。使い道は次の3つです。
- 注射剤の製造:薬液の調製など、製品に入る水として使います。
- 容器の最終すすぎ:洗浄の最後に、製品に触れる容器や部品をすすぎます。
- 純蒸気の原水:設備や容器を滅菌する、不純物を抑えた蒸気(純蒸気)の原料にします。

注射用水の知識を使うのは、水システムを設計するとき(どの水をどれだけ作り、どう配るか)、規格を決めるとき(どの薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく →の値に合わせるか)、毎日の試験結果を読むとき(どの値が合否で、どの値が傾向か)です。
このように、注射用水は「きれいな水」一般ではなく、注射剤に持ち込めないものを決めて管理する水です。では、経口剤などに使う精製水とは、何が違うのか。
2. 精製水とは何が違うのか
米国薬局方米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →(USP)では、化学的な純度の上限は精製水と同じで、違うのはエンドトキシンの規格と、微生物の管理の厳しさです。 製薬用水は、用途に応じて、不純物と微生物をどこまで管理するかで区分されます。
下の表の値は USP のものです。導電率とTOCは化学的な純度を見る項目です。エンドトキシンはエンドトキシン単位(EU)で、微生物は培地で育った菌の集まりの数(CFU、colony forming unit培養した際に1つのコロニー(集落)を形成する微生物の単位で、生菌数を表す際に用いられる。詳しく →)で表します。
| 水の種類 | 主な用途 | 導電率液のイオン強度の目安となる電気の通りやすさ。バッファ調製やクロマト制御で監視する。詳しく →・TOC(USP) | エンドトキシン | 微生物(USP〈1231〉が示す上限の目安) |
|---|---|---|---|---|
| 常水 | 精製水・注射用水の原水 | 飲料水の水質基準 | 規定なし | 飲料水の水質基準 |
| 精製水 | 経口剤の製造、原料の溶解、容器の一次すすぎ | 1.3 µS/cm以下(25℃・1段階)/500 ppb以下 | 規定なし | 100 CFU/mL |
| 注射用水 | 注射剤の製造、容器の最終すすぎ、純蒸気の原水 | 1.3 µS/cm以下(25℃・1段階)/500 ppb以下 | 0.25 EU/mL以下 | 10 CFU/100 mL |
| 純蒸気 | 設備・容器の滅菌 | 凝縮水がバルク水の要件(〈645〉〈643〉)に適合 | 凝縮水が0.25 EU/mL未満(注射剤の製造に使う場合) | 規定なし(Annex 1無菌医薬品の製造に関するEU GMPの付属書。汚染管理戦略などを求める無菌製造の基準。詳しく → も凝縮水の微生物試験を必須としない) |
常水は、飲料水の水質基準を満たす原水で、そのまま医薬品の製造には使いません。精製水は、常水からイオン交換、逆浸透半透膜に高圧をかけてイオンや微粒子を除去する膜分離技術で、製薬用水の製造にも利用される。詳しく →、蒸留などで不純物を除いた水です。
純蒸気について、EU GMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく → の Annex 1 は、製品接触面を直接滅菌する蒸気の凝縮水が注射用水の薬局方の規格を満たすよう求めています(6.17)。乾き度などの蒸気としての品質は、クリーンユーティリティで扱っています。
つまり、精製水と注射用水を分けるのは、化学的な純度より、エンドトキシンと微生物をどこまで抑えるかです。では、注射用水の規格では、具体的に何を測るのか。
3. 注射用水の規格では、何を測るのか
測るのは、導電率・TOC・エンドトキシン・微生物の4項目で、薬局方の規格として合否を決めるのは前の3つです。 微生物は薬局方の合否の項目ではなく、USP〈1231〉が示す上限の目安をもとに、各社がアクションレベル(超えたら原因を調べ、対策をとる水準)などの線を決めます。
化学的な清浄度:導電率とTOC
導電率は、水中のイオンの量を電気の通しやすさで見る指標で、USP〈645〉は次の3段階で判定します。
- 1段階目:温度補償をかけない測定値を、温度ごとの限度の表と照らします(25℃なら1.3 µS/cm以下)。
- 2段階目:1段階目で外れたら、試料をかき混ぜて空気中の二酸化炭素と平衡にしたうえで、25℃で2.1 µS/cm以下かを見ます。
- 3段階目:2段階目も外れたら、pH に応じた限度で判定します。
TOC は、水中の有機物の量を炭素量で表す指標です。USP の注射用水と精製水の各条は0.50 mg/L(500 ppb)以下を求めており、試験法は〈643〉です。
生物由来の汚染:エンドトキシンと微生物
エンドトキシンは、カブトガニの血球抽出物(LAL)を使う試験法〈85〉で測り、注射用水の上限は0.25 EU/mL です。USP は2026年9月に、組換え試薬を使う〈86〉も使えるようにする改訂を公表し、2027年4月1日に公式となります(限度値は変わりません)。試験法の違いはエンドトキシン試験の実務で解説しています。
この上限の厳しさは、投与量からの計算例と比べると分かります。USP〈85〉の係数(体重1 kg・1時間あたり5 EU)で、体重70 kgの患者に1時間で1 Lを点滴する例を計算すると0.35 EU/mL で、注射用水の上限はこれより低い値です。製品そのものの限度値は、投与量と係数から製品ごとに求めます。
微生物の10 CFU/100 mL は USP〈1231〉が示す注射用水の上限の目安で、精製水は100 CFU/mL です。
薬局方による違い
TOC(0.50 mg/L)とエンドトキシン(0.25 EU/mL)は3つの薬局方でほぼそろっており、差が出るのは導電率です。
- 欧州薬局方欧州医薬品品質局(EDQM)が発行する、医薬品の品質基準を定めた公定書で、署名国・加盟国の規制に法的効力を持つ。詳しく →の注射用水(0169):USP と同じ考え方の温度ごとの表を使い、20℃で1.1 µS/cm以下です。25℃に直すと、USP と同じ1.3 µS/cm です。
- 欧州薬局方のバルクの精製水(0008):別の表を使い、20℃で4.3 µS/cm以下、25℃で5.1 µS/cm以下と、注射用水より緩い値です。
- 日本薬局方(第十九改正、2026年4月告示):精製水と注射用水は、試料を25±1℃で強くかき混ぜ、5分あたりの変化が0.1 µS/cm以下になった値を導電率とします。USP の2段階目に近い測り方で、限度はどちらも2.1 µS/cm以下(25℃)です。
日本薬局方の容器入りの水は、TOC の代わりに過マンガン酸カリウム還元性物質の試験を置き、導電率も内容量で分けています(10 mL以下で25 µS/cm以下、10 mL超で5 µS/cm以下)。
USP は精製水にも注射用水と同じ導電率の限度を当てますが、欧州薬局方のバルクの精製水は25℃で5.1 µS/cm です。「精製水の導電率はどの薬局方でも1.3」と考えると取り違えます。
つまり、規格値を引くときは、どの薬局方の、どの水の、どの温度と測り方の値かを添える必要があります。では、これらの試験に合格すれば、その水を使ってよいのか。
4. 規格の試験に合格すれば、その水を使ってよいのか
合格は前提ですが、それだけでは足りません。微生物の培養には数日かかり、結果が出るころには、その水はすでに使われているからです。 そのため微生物は、傾向を監視し、増える前に手を打つ対象として管理します。
一方で、導電率とTOCは、連続監視で使う前の水を見られます。Annex 1 は、採水して測るよりシステム全体の性能をよく示しうるため、注射用水のシステムにこれらの連続監視を組み込み、センサーの位置をリスクにもとづいて決めるよう求めています(6.15)。
微生物の監視では、アラートレベル規格内だが平常の変動を超えた兆候を示す内部基準。原因を注意して探る合図になる。詳しく →(いつもと違う兆しを知らせる水準)を、薬局方の値ではなく、初期の適格性評価のデータから決め、その後の監視データで定期的に見直します(6.13)。採水の計画には、すべての使用点を決めた間隔で含め、製造に使う水の代表試料を毎日少なくとも1つ含めます(6.13)。
つまり、注射用水では、試験の合否に加えて、水を作る段と配る段の設計と運転で水質を保つ必要があります。では、作る段では、蒸留でなければならないのか。
5. 注射用水は、蒸留でなければ作れないのか
いいえ。長く蒸留が中心でしたが、現在は、逆浸透を中心にした膜法も、蒸留と同等の方法として欧州・米国・日本の薬局方で認められています。
蒸留は、水を加熱して蒸気だけを取り出し、凝縮させる方法です。イオンなどの不揮発性の不純物、微生物、エンドトキシンは、蒸発させる側に残ります。装置には、多重効用式(MED)と蒸気圧縮式(VC)があります。
膜法は、水に圧力をかけて細かい膜に通し、膜を通れない不純物を除く方法です。逆浸透(RO)を1段か2段かけ、電気の力でイオンを除く電気脱イオン(EDI)や、限外ろ過(UF)を重ねる構成が基本です。
膜法の扱いは、薬局方と規制ごとに次のとおりです。
- 欧州薬局方:2017年4月1日の改訂(モノグラフ薬局方に収載された個々の医薬品・原料の品質規格(試験法・基準値など)をまとめた公式の規格文書。詳しく →0169)で、逆浸透に電気脱イオンや限外ろ過などを組み合わせた方法を、蒸留と同等と認めました。使い始める前に、所管の当局へ届け出ることも求めています。
- EU GMP Annex 1:2022年改訂で、同じ組み合わせを蒸留と同等の方法に挙げています(6.10)。
- USP:以前から、蒸留と同等以上の方法を認めています。
- 日本薬局方:蒸留か超ろ過(逆浸透膜や限外ろ過膜を使う方法)で作ると定め、超ろ過では製造システムの微生物汚染に特に注意し、蒸留と同等の水質をもつこととしています。
膜法は熱を使わない分エネルギーを抑えられますが、常温で運転するため、微生物が増えやすく、配管の壁に菌の膜(バイオフィルム微生物が配管や装置の表面に付着して形成する薄い膜状の集合体で、除去が困難で製薬用水の汚染源となりうる。詳しく →)もできやすくなります。性能を左右するのは前処理で、硬度成分、塩素、有機物を先に除かないと、逆浸透の膜の目詰まり微粒子や凝集体、タンパク層が膜の孔を塞いでろ過が落ちる現象。プレフィルターでの前段保護が効く。詳しく →や劣化が早まります。
つまり、蒸留か膜法かは、どちらが正しいかではなく、使用量、エネルギー、前処理と微生物管理にかけられる手間で選びます。選び方は製薬用水システムの選び方で扱っています。
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- 6. 作った水は、使う場所までどう保つのか
- 7. 自分の水システムでは、どの順番で決めるのか
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ほかの会員向けの記事を見る →参考文献
- USP, General Chapter 〈1231〉 Water for Pharmaceutical Purposes(製薬用水の設計・運転・監視とアクションレベルの考え方。本文は有償の USP-NF に収載)
- USP, General Chapter 〈643〉 Total Organic Carbon / 〈645〉 Water Conductivity(TOC 500 ppb、導電率 1段階25℃1.3 µS/cm・2段階2.1 µS/cm などの試験法。本文は有償の USP-NF に収載)
- USP, General Chapter 〈85〉 Bacterial Endotoxins Test製品中のエンドトキシンを検出・定量するバクテリアエンドトキシン試験の総称。詳しく →(エンドトキシン限度値製品に許されるエンドトキシンの上限です。K(体重1 kg・1時間あたりに許される量で、静脈内投与では5 EU/kg)を、1時間あたりの最大投与量(M)で割って求めます。詳しく →と係数 K の考え方。本文は有償の USP-NF に収載)
- USP, Monograph Pure Steam(凝縮水の TOC・導電率と、注射剤の製造に使う場合のエンドトキシン 0.25 EU/mL 未満。本文は有償の USP-NF に収載)
- ECA Academy (GMP Compliance), USP Revises the Pharmaceutical Water Monographs(2026年9月公表、2027年4月1日公式。エンドトキシン試験微生物そのものでなく、グラム陰性菌由来の発熱性物質エンドトキシンの量を測る試験。詳しく →に〈86〉を追加)
- EDQM, Ph. Eur. Monograph 0169 Water for injections(2017年4月1日発効の改訂で非蒸留法を許容。Supplement 9.1 収載)/ 0008 Purified water(バルクの導電率は温度ごとの表 0008.-2:20℃ 4.3 µS/cm、25℃ 5.1 µS/cm。本文は有償の欧州薬局方に収載)
- 第十九改正日本薬局方(2026年4月告示)各条「精製水」「精製水(容器入り)」「注射用水」「注射用水(容器入り)」(導電率〈2.51〉、有機体炭素〈2.59〉、エンドトキシン〈4.01〉)
- European Commission, EU GMP Annex 1: Manufacture of Sterile Medicinal Products(2022年8月公表・2023年8月適用)(6.8〜6.17 水システムと純蒸気)
- EMA GMP/GDP Inspectors Working Group, Questions and answers on production of water for injections by non-distillation methods – reverse osmosis and biofilms and control strategies(EMA/INS/GMP/443117/2017)
- FDA, Guide to Inspections of High Purity Water Systems(1993年7月)(65〜80℃の高温系、デッドレグの6倍の定義と65〜75℃の系での扱い、3段階のバリデーション)
- ECA Academy (GMP Compliance), The Truth about the 3D/6D Rule / Ozone Concentration during the Sanitization of PW and WFI Systems / Different Sanitation Strategies for Sections of a WFI Systems?
- ASME BPE, Bioprocessing Equipment Standard(デッドレグの L/D 目標値。本文は有償の規格に収載)
- 1精製水はどうやって作るのか?前処理・イオン交換・逆浸透・電気脱イオン
- 2注射用水(WFI)とは?精製水と何が違い、規格に合格すれば使ってよいのかいま読んだ記事
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