低エンドトキシン回収(LER)とは?置くと測れなくなる理由と確かめ方

エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →を加えた直後の製剤は、試験できちんと測れます。ところが、数日置いてから測り直すと、加えたはずの量のほとんどが測れない製剤があります。
これが低エンドトキシン回収(LER:Low Endotoxin Recovery界面活性剤とキレート剤を含む製剤で、時間経過とともに添加エンドトキシンが検出できなくなる現象。詳しく →)です。多くの抗体医薬の処方に入っているポリソルベートタンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →(界面活性剤)と、クエン酸やリン酸(緩衝剤)の組み合わせで起きやすく、水で薄めても解消しません。エンドトキシンが消えたと考えるのは危険です。試験で測れなくなった試料が、ウサギの発熱試験では発熱を起こしたという報告があります。
エンドトキシンそのものの基本はエンドトキシンとは?に任せ、この記事はLERに絞ります。起きる仕組み、起きやすい製剤、ホールドタイム試験の組み方、見つかったときの手を順に扱います。
何が起きているのか ― 測れなくなるだけで、消えてはいない
製剤に既知の量のエンドトキシンを加え(添加)、置いたあとに回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →を測ると、時間とともに下がっていく。加えた量の50%を超えて回収できない状態を、LERと呼びます。
2013年、PDA(注射剤の専門家団体)の年次大会で、Genentech の Joseph Chen 氏が、一部のバイオ医薬品抗体や組換えタンパク質など、生きた細胞や微生物に作らせる医薬品の総称です。細胞治療・遺伝子治療の製品を含めて呼ぶこともあります。化学合成で作る核酸医薬やペプチドは、ふつう含めません。詳しく →の製剤で、添加したエンドトキシンが回収されないと報告したのが始まりです。最初に注目されたのは、ポリソルベートにクエン酸またはリン酸を組み合わせた処方でした。
仕組みは、次のように考えられています。エンドトキシン(リポ多糖、LPS)は、水の中で分子が集まった塊を作り、その塊をマグネシウムやカルシウムが支えています。クエン酸やリン酸は、この金属を奪います。そこへポリソルベートが働くと、LPSの塊の状態が変わり、試験試薬が最初に結びつく相手(第一因子 Factor CLAL試験の反応で最初に働くセリンプロテアーゼの前駆体(C因子)です。エンドトキシン(LPS)が結合すると活性化します。β-グルカンは別の経路のG因子を活性化するもので、C因子は反応しません。詳しく →)に結合しにくくなります。結合できなければ、試薬の反応が先に進まず、測定値が下がります。荷物に包装がかぶさって、バーコードが読み取れなくなる状態に近く、荷物そのものは中にあります。
この変化は一瞬では起きません。数時間から数日かけて進み、温度が高いほど速いという報告があります。そして、ふつうの添加回収試験は、加えた直後に測ります。公定書のBET(エンドトキシン試験微生物そのものでなく、グラム陰性菌由来の発熱性物質エンドトキシンの量を測る試験。詳しく →)の適格性確認には、試料をどう保管するかの決まりがないので、LERは通常の手順では見つかりにくいのです。

加えた直後の回収が良くても、置いたあとの回収は別に確かめます。
起きやすい製剤 ― 定番の処方ほど要注意
LERを起こす処方は、特殊ではありません。バイオ医薬品で30年近く使われてきた、ポリソルベートとキレート性の緩衝剤の組み合わせです。ポリソルベートはタンパク質の凝集を防ぎ、クエン酸やリン酸は pH を保ちます。どちらも製剤の安定を支える成分で、外せばよいという話ではありません(抗体医薬の製剤設計)。
処方の中身を見るだけでは、起きるかどうかは予測できません。リン酸の濃度によって、測れなくなるまでの時間が変わった報告があります。加えるエンドトキシンの種類や由来でも、結果は変わります。精製した標準品のエンドトキシンでは回収が落ちるのに、天然のエンドトキシンでは落ち方が穏やかだった例があります。一方で、天然のエンドトキシンでも、由来によっては落ちた報告があります。だから、起きやすい処方かどうかを組成から決めず、自分たちの製剤で測って確かめます。
規制当局もそう考えています。FDAは2012年の「発熱性物質体内に入ると発熱反応を起こす物質。パイロジェンとも呼び、エンドトキシンが代表格。詳しく →とエンドトキシン試験のQ&A」指針で、検体の保管と取り扱いの手順を試験データに基づいて決めるよう示し、精製した標準品と天然のエンドトキシンでは反応が違いうることにも触れていました(2026年3月に改訂版が出ています)。EMAも、エンドトキシンのマスキングLPSの会合状態が変化し、発熱性の中心が試薬に認識されなくなる状態。LERの正体。を調べる試験が必要になる場合を、バイオ医薬品向けのQ&Aで示しています。
起きやすい処方かどうかは、組成だけでは決まりません。自分たちの製剤を、置いて測って確かめます。
確かめ方 ― ホールドタイム試験の組み方
LERの有無は、ホールドタイム試験(保持時間試験)で確かめます。組み方は単純です。
希釈していない製剤に、既知の量のエンドトキシン標準品を加えます。決めた温度で一定の期間置き、途中の時点で一部を取り出して希釈してから測り、回収率の推移を追います。50%を下回れば、その製剤はLERを示すと判断します。2019年に出た PDA の技術報告書 No. 82 に、考え方と手順がまとまっています。
決めどころは三つです。一つめは温度で、室温と冷蔵の両方を見ます。二つめは期間で、製剤が製造や検査の途中で実際に置かれる時間を覆うように決めます。数日で終わらせる例も、数週間追う例もあります。三つめは何を加えるかで、標準品(CSE薬局方の参照標準(RSE)に対して校正して使用する、試験室内でのエンドトキシン標準品。、RSE)を使うのが一般的です。ただ、標準品と天然のエンドトキシンでは反応が違いうることを、FDAも指摘しています。天然のものは標準化されていません。
期間と温度は、その製剤が実際に置かれる条件を覆うように決めます。
社内で組むには時間がかかるため、受託の試験機関に依頼する選択肢もあります。試薬と受託先はエンドトキシン試験の製品ガイドにまとめています。
見つかったとき ― 処方を変えるか、扱い方を固めるか
LERが見つかると、薄めても直りません。選択肢は三つあります。
一つは処方を見直す手です。ポリソルベートやキレート性の緩衝剤の種類と量を変えますが、凝集や pH の安定とぶつかるので、製剤の担当と一緒に決めます。二つめは、試料の前処理でマスキングを解く手です。金属イオンや分散剤を加える、温めるといった方法が検討されます。効くかどうかは製剤ごとに実証が要ります。三つめは、検体の扱い方を決める手です。採取してから測るまでの時間と温度を手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →で固定し、決めた時間の中で測ります。
試験法を変える手もあります。ただ、組換え試薬(rFC凝固カスケード最上流のFactor Cだけを組換えで再現した非動物由来試薬。グルカン干渉を受けにくい。詳しく →)に替えてもLERが解決するとは限りません。切り替える場合は、あらためて確かめます(rFC(組換えC因子)とは?)。
LERは、見つかる前の過去のデータにも関わります。ポリソルベートと緩衝剤を含む試料を、冷蔵や凍結で保管してから測っていたなら、保管の間に値が下がっていた可能性があります。保管の時間が長い場合は、確かめる価値があります。
明日から確かめられること ― 製剤と試験の確認項目
担当する製剤の処方と、エンドトキシン試験の手順書、変更管理工程・設備・手順などの変更を評価・承認し、品質への影響とともに記録する仕組み。詳しく →の記録を開いて、次の点を確かめてください。
- 処方に、ポリソルベートと、クエン酸やリン酸などの緩衝剤が一緒に入っているか
- ホールドタイム試験の報告書があるか。希釈していない製剤に標準品を加えているか
- 保持の温度と時間が、実際の保管や試験の待ち時間を覆っているか
- 回収率が時点ごとに示され、50%を下回っていないか
- 検体を採ってから測るまでの時間と温度が、手順書で決まっているか
- 処方を変えるとき、LERの確認が変更管理の項目に入っているか
- 試験法をLALから組換え試薬に替えるとき、LERを確かめ直す計画があるか
LERは、エンドトキシンの管理を測定の側から支える考え方です。入り口や除去の側は、バイオバーデンとエンドトキシンの違いとエンドトキシンの除去で読めます。試験の組み方そのものはエンドトキシン試験の実務にあります。変更管理の仕組みは逸脱・OOS・CAPA・変更管理で整理しています。
参考文献
- FDA, Guidance for Industry: Pyrogen and Endotoxins Testing: Questions and Answers(2012年6月。2026年3月に改訂版)
- GMP-Compliance.org, EMA Q&A: When is Testing for Endotoxin Masking Effects necessary for biological Products?(EMAのQ&Aの解説)
- PDA, Technical Report No. 82: Low Endotoxin Recovery(2019年)
- Reich J, et al. Low Endotoxin Recovery: Masking of Naturally Occurring Endotoxin. Int J Mol Sci. 2019;20(4):838.
- Biophysical Analysis of Lipopolysaccharide Formulations for an Understanding of the Low Endotoxin Recovery (LER) Phenomenon(PMC)
- USP, General Chapter 〈85〉 Bacterial Endotoxins Test製品中のエンドトキシンを検出・定量するバクテリアエンドトキシン試験の総称。詳しく →、〈1085〉 Guidelines on the Endotoxins Test
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