膜フラックス(LMH)とTMPとは? 圧力を上げても透過が速くならない理由

TFF(タンジェンシャルフローろ過)の運転中に、ろ過が遅いからと圧力を上げたとします。ところが、ある点を超えると、圧力を2倍にしてもパーミエートはほとんど増えません。むしろ膜がファウリング細胞や破片、製品成分が膜面や細孔に溜まって透過抵抗が上がる現象。回収率低下を招く。(目詰まり微粒子や凝集体、タンパク層が膜の孔を塞いでろ過が落ちる現象。プレフィルターでの前段保護が効く。詳しく →)しやすくなり、抗体を損傷することもあります。
ろ過の速さを表す数値がフラックス膜を単位時間・単位面積あたり透過していく流れの量。粘度に反比例し、高濃度で大きく低下する。詳しく →(flux)で、単位は LMH、つまり膜1 m²を1時間に透過する液量(L/m²/h)です。膜の両側の圧力差がTMP膜をはさんだ供給側と透過側の圧力差。UF/DF(TFF)の運転を左右する主要パラメータ。(膜間差圧)。この2つに、膜1 m²あたり何gの抗体を処理するかという負荷量を加えた3つで、必要な膜面積が決まります。
装置を提案する営業、膜を発注する購買、運転記録を確認する品質保証のいずれにとっても、見積の「膜面積」や記録の「LMH」が何を表すかを知っておくと、話が早く進みます。
1. フラックス(LMH)とは? なぜ膜面積で割って表すのか
膜面積で割っておくと、大きさの違う装置どうしを同じ指標で比べられ、小スケールの結果から実機の膜面積を見積もれるからです。
「毎時100リットル通った」と言われても、10 m²の膜で通したのか1 m²の膜で通したのかで、膜の性能はまったく違います。10 LMH なら、1 m²の膜が1時間に10 L透過させるという意味。10 m²の膜なら1時間に100 Lです。
膜カセットは、枚数を増やして面積を広げるのが一般的です。その場合、液が膜面に沿って流れる距離(流路長)は変わりません。そのため、小型で得た結果が大型装置に当てはまりやすくなります。流路長の違う膜に替えると、この前提が崩れます。
TFF運転条件の計算ツールを使うと、圧力とパーミエート量からフラックスとTMPを計算できます。
2. 重要:TMPを上げても、どこから速くならないのか?(圧力依存領域と圧力非依存領域)
フラックスが頭打ちになる屈曲点から先です。膜を透過できない抗体が膜表面に高濃度で蓄積し(濃度分極ろ過で膜面に目的物が局所的に溜まる現象。クロスフローのせん断で掃き流して抑える。詳しく →)、加えた圧力の効果を打ち消すからです。
TMP(膜間差圧)は、膜の供給側と透過側の圧力差です。TFFでは供給側の入口と出口で圧力が異なるので、その平均と透過側の圧力との差を使います。単位は bar が一般的です。
| 領域 | TMPを上げたときのフラックス | フラックスを決めているもの |
|---|---|---|
| 圧力依存領域 | 圧力に比例して増える | 膜そのものの透過抵抗 |
| 圧力非依存領域TMPを上げてもフラックスがほとんど増えなくなる運転領域。境界層が締め固まった状態を指す。 | ほとんど増えない | 膜表面に蓄積した高濃度の抗体の層 |
圧力を上げるほど蓄積する量も増え、この高濃度の層が厚く密になります。この層の仕組みはUF/DFとは?で詳しく解説しています。

圧力非依存領域の奥で運転しても、処理は速くなりません。抗体を膜に押し付けるだけで、ファウリングと目的物の損失が増えます。そのため運転圧は、フラックスが頭打ちになる屈曲点の手前に設定します。
屈曲点の位置は、抗体濃度や液の組成で変わります。理論だけでは決められないので、実機を運転する前に、小型のデバイスと実際の工程液で圧力とフラックスの関係を測定して確かめます。
フラックスが伸びないときは、圧力を上げる前に、膜面に沿った流れ(クロスフロー)と液の濃度を疑います。
3. 透過係数と正規化透水量(NWP)は、何を切り分けるのか?
フラックスの低下が、膜のファウリングによるものか、単に圧力が下がったためかを切り分けます。
フラックスだけを見ていても、この2つは区別できません。そこで透過係数(permeability)を使います。単位圧力あたりの透過量を示す値で、フラックスをTMPで割って求めます(LMH/bar)。圧力の影響が除かれるので、膜の透過性だけを比べられます。
- 透過係数が下がっている:膜の側の問題。
- 透過係数が変わっていない:運転条件の問題。
膜を繰り返し使う工程では、洗浄後に純水で測った透過係数(正規化透水量、NWP)が新品時の値にどれだけ戻ったかで、膜を継続使用してよいかを判断します。この下限値は、膜や洗浄方法で変わります。毎回の値を記録してトレンドを見る考え方は、レジンの結合容量担体が結合できる目的物の量。大きな粒子は樹脂ビーズの細孔に入りにくく、結合容量を稼ぎにくい。詳しく →の推移を追うProtein Aレジンの寿命管理と同じです。
受託先に「洗浄後の透水量が何割を下回ったら膜を交換しますか」と聞くと、その工程の管理の考え方が分かります。
4. 膜面積と負荷量は、何から決めるのか?
処理液量、許容される処理時間、小型で実測したフラックスから決めます。現場では、これを扱いやすくした負荷量(膜1 m²あたり何gの抗体を処理するか)で考えます。
負荷量に決まった値はなく、抗体濃度、膜の種類、許容される処理時間で変わります。負荷量を下げれば膜面積が大きくなり、処理時間は短くなります。
- せん断(流れによって液に加わる力)に弱い分子:膜面積を広げて負荷量を下げ、ポンプや流路にさらす時間を短くする方法がある。
- 膜面積や費用に制約がある:負荷量を上げて処理時間を延ばす。
小型のデバイスで得た負荷量を保ったまま、バッチの量に合わせて膜面積を増やす。これがスケールアップの基本です。
ただし、面積は大きいほどよいわけではありません。面積が増えるほど、膜への吸着による損失、装置内に残る液(ホールドアップろ過後もフィルターや配管に残る液量。高濃度では残液がそのまま高価な原薬の損失になる。詳しく →)、回収時の押し出し(フラッシュ)に使うバッファが増えます。回収率と費用の面から、面積には上限があります。
膜面積は大きいほど処理が早く終わる一方、回収率を下げます。そのため、負荷量を基準に妥当な面積を決めます。
5. 濃縮・バッファ交換・無菌ろ過で、フラックスはどう動くのか?
濃縮(UF)では終盤ほど下がり、バッファ交換(DF)では比較的安定します。無菌ろ過細菌を止めることを実証したフィルターに液を通し、無菌のろ液を得る工程です。除菌ろ過・ろ過滅菌とも呼び、菌の数を下げるだけのバイオバーデン低減ろ過とは区別します。0.22µm前後の膜が広く使われます。詳しく →はフラックスではなく、処理できる液量で設計します。
| 工程 | フラックスの動き | 設計の考え方 |
|---|---|---|
| 限外ろ過半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →による濃縮(UF) | 濃度が上がるほど液の粘度が上がり、下がる | 終盤ほど遅くなる前提で処理時間を見積もる |
| バッファ交換(DF) | 濃度を保ったままバッファを入れ替えるため、比較的安定 | 濃縮と続けて1台で行うなら、後半ほど遅くなる前提で全体の時間を組む |
| 無菌ろ過などの全量ろ過(デッドエンドろ過液の全量を膜にまっすぐ押し当てて通す方式のろ過。最終除菌ろ過で用いられ、流れは粘度に反比例する。詳しく →) | ろ過が進むほどファウリングする | TFFとは別の指標で考え、1つのフィルターで処理できる液量で設計する |
全量ろ過は、液を膜に垂直に通すろ過です。高い濃度まで濃縮するときの膜選びは、高濃度UF/DFの膜と装置の選び方にあります。
6. 膜の運転では、どこでつまずくのか?
多いのは、小型と実機の膜の違い、濃縮終盤の低下、純水の値の使い方、洗浄後の記録です。
- 1つめ:小型で得た結果が実機に当てはまらない。小型のデバイスと実機で膜の種類や流路長が違うと、フラックスの値がずれます。
- 2つめ:濃縮終盤のフラックス低下を見込んでいない。濃縮の最後には、フラックスが運転初期より大きく下がります。初期の値で時間を計算すると、予定時間内に終わりません。
- 3つめ:純水で測った値で運転条件を決める。純水の透過係数は膜の状態を見る指標で、実際の抗体液のフラックスとは別物です。
- 4つめ:洗浄後の確認を記録に残していない。透過係数が回復しないまま次のロットに使うと、フラックスが上がらず、運転時間が延びます。
7. 運転記録と膜メーカーには、何を確かめるのか?
圧力の使い方、負荷量、膜の条件、濃縮終盤、洗浄後の回復と交換の基準を、記録と資料で確かめます。
手元の運転記録と膜メーカーの資料で、次の点を確かめます。
- 圧力の使い方:運転記録に、圧力を上げてもフラックスが伸びていない区間がないか
- 負荷量:膜1 m²あたりの処理量を、小型の試験と実機で揃えているか
- 膜の条件:小型のデバイスと実機は、同じ膜で、流路長も同じか
- 濃縮終盤:フラックスを、初期の値と別に記録しているか
- 洗浄後の回復:膜を繰り返し使うなら、洗浄後の透過係数が回復したかを、ロットごとに記録しているか
- 交換の基準:洗浄後の透水量一定条件で膜を通る水の量を正規化した指標。洗浄後の回復度で膜の洗浄度や健全性を判定する。が何割を下回ったら膜を交換するか、基準が決まっているか
- メーカーへの質問:推奨の圧力とクロスフロー膜面に沿って平行に液を流す流れ。せん断力で膜面の堆積を掃き流し、濃度分極を抑える。詳しく →の範囲、ホールドアップ量、小型から実機へのスケールアップに使えるカセットの有無を聞いたか
膜カセットは毎バッチ使う消耗品なので、供給元と製造拠点も確認しておきます。たとえば Merck は、2026年にインドのベンガルールで Pellicon 2 限外ろ過カセットの製造を立ち上げています(ニュース)。装置はTFFシステム、運転中の圧力の記録は圧力モニタリング、膜と流路をシングルユース使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →にする構成はシングルユース流路で比べられます。DFの終点の決め方はUF/DFとは?、ふるい係数溶質が膜をどれだけ通り抜けるかを表す値。1なら自由に透過し、バッファ交換や濃縮の挙動を左右する。詳しく →の考え方はふるい係数とは?で解説しています。
参考文献
- Fernandez-Cerezo L, Rayat ACME, et al. The prediction of the operating conditions on the permeate flux and on protein aggregation during membrane processing of monoclonal antibodies. J Membr Sci. 2020. doi:10.1016/j.memsci.2019.117606(小型の装置と実機で、膜1 m²あたりの処理量を揃えて運転条件を予測する考え方)
- van Reis R, Zydney A. Bioprocess membrane technology. J Membr Sci. 2007;297(1-2):16-50. doi:10.1016/j.memsci.2007.02.045(TFFの仕組み、圧力依存領域と圧力非依存領域、濃度分極)
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