膜フラックスとLMHとは?TMPとの関係と、装置の大きさの決まり方

- フラックスは膜1m²が1時間に通す液量で、単位はLMH(L/m²/h)です。必要な膜面積はここから決まります。
- TMP(膜間差圧)を上げるとフラックスは増えますが、ある点から頭打ちになります。これが圧力非依存領域です。
- 透過係数(LMH/bar)はフラックスをTMPで割った値で、目詰まりの進行を圧力の影響を除いて追えます。
LMHは「膜1枚あたりの処理速度」
膜ろ過の議論では、流量をそのまま語らずフラックス膜を単位時間・単位面積あたり透過していく流れの量。粘度に反比例し、高濃度で大きく低下する。(flux)という量を使います。フラックスは膜の単位面積あたり・単位時間あたりに透過する液量で、単位は L/m²/h です。頭文字をとってLMHと読みます。
なぜ流量そのものではなく面積で割るのかというと、面積で割らないと膜どうしを比べられないからです。「毎時100リットル通った」と言われても、10m²の膜で通したのか1m²で通したのかで意味がまったく違います。面積で割っておけば、小型のデバイスで取ったデータをそのまま大きな装置の設計に使えます。
- 10 LMH = 1m²の膜が1時間に10リットル通す
- 100リットルの液を10m²の膜で処理し、10 LMHが出るなら、所要時間は1時間
フラックス(LMH)は面積あたりに正規化した速度なので、小型デバイスの実測から実機の膜面積を見積もれます。膜面積の設計は、この一点にかかっています。
TMPは膜を押す圧力
フラックスを生む駆動力がTMP(Transmembrane Pressure、膜間差圧膜の両側にかかる圧力の差。ろ過の流れを生む力で、上げても壁律速の領域では流量が増えなくなる。)です。膜を挟んだ供給側と透過側の圧力差を指します。
TFF(タンジェンシャルフローろ過)のように膜面に平行して液を流す方式では、入口と出口で供給側の圧力が違うため、両者の平均から透過側の圧力を引いて求めます。
TMP膜をはさんだ供給側と透過側の圧力差。UF/DF(TFF)の運転を左右する主要パラメータ。 =(入口圧 + 出口圧)÷ 2 − 透過側の圧力
TMPを上げれば、より強く液を押し込むのでフラックスは増えます。ただし、どこまでも増え続けるわけではありません。
圧力を上げてもフラックスが伸びなくなる
TMPを少しずつ上げながらフラックスを測ると、最初は比例して増えます。この領域を圧力依存領域と呼びます。膜そのものの通しにくさが律速になっている状態です。
ところがある点を超えると、TMPを上げてもフラックスがほとんど増えなくなります。これが圧力非依存領域TMPを上げてもフラックスがほとんど増えなくなる運転領域。境界層が締め固まった状態を指す。です。
理由は膜の表面で起きています。液を強く押し込むほど、膜を通れない成分(タンパク質など)が膜面に運ばれて濃く溜まります。この層を濃度分極ろ過で膜面に目的物が局所的に溜まる現象。クロスフローのせん断で掃き流して抑える。層(ゲル分極膜面の濃度分極層がゲル化濃度に達し、それ以上圧力を上げても透過流量が伸びなくなる状態。層)と呼びます。押す力を強くすると層も厚く密になり、増えた駆動力を相殺してしまいます。
ここに実務上の判断が生まれます。圧力非依存領域に深く入って運転しても、処理は速くならず、膜面に負担をかけ、目的物のロスと目詰まり微粒子や凝集体、タンパク層が膜の孔を塞いでろ過が落ちる現象。プレフィルターでの前段保護が効く。だけが増えます。 運転点は、フラックス対TMPの曲線が折れ曲がる手前に置くのが定石です。
このため実運用では、装置を回す前に小型デバイスで実液を使ったフラックス対TMP曲線を取ります。理論からは決まらず、液の組成と濃度で毎回変わるためです。
透過係数(LMH/bar)で目詰まりを追う
運転中にフラックスが落ちてきたとき、原因は2つ考えられます。膜が目詰まりしたのか、単にTMPが下がったのか。フラックスだけを見ていると区別できません。
そこで透過係数(permeability)を使います。フラックスをTMPで割った値で、単位は LMH/bar です。
透過係数 [LMH/bar] = フラックス [LMH] ÷ TMP [bar]
圧力の影響を割り算で除いてあるので、膜そのものの通しやすさが残ります。透過係数が下がっていれば膜側の問題、変わらないなら運転条件の問題、という切り分けができます。
再使用する膜では、この値が管理指標になります。洗浄後の純水での透過係数を毎回記録し、新品時からの低下率で交換時期を判断します。Protein A樹脂の寿命管理で結合容量担体が結合できる目的物の量。大きな粒子は樹脂ビーズの細孔に入りにくく、結合容量を稼ぎにくい。の推移を追うのと、発想は同じです。
膜面積はどう決まるか
必要な膜面積は、次の3つから決まります。
- 処理したい液量(バッチ量、濃縮なら濃縮倍率入口に対して何倍に濃くなるかを表す指標。SPTFFのモジュール性能などを示すのに使う。も)
- 許容できる運転時間(工程の時間割、液の安定性、ホールドタイムの制約)
- 実測したフラックス(小型デバイスで実液を流して得た値)
処理量を、フラックスと許容時間の積で割れば面積が出ます。ここに、ロット間のばらつきと運転中のフラックス低下を見込んだ余裕を掛けます。
ただし面積を大きくすれば良いというものでもありません。面積が増えるほど、膜に吸着して失われる量、装置内に残る液量(ホールドアップろ過後もフィルターや配管に残る液量。高濃度では残液がそのまま高価な原薬の損失になる。)、洗い出しに使うバッファ量が増えます。回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。とコストの側から上限が来ます。処理時間を短くしたい要求と、回収率を守りたい要求のあいだで着地点を探すことになります。
用途によって狙うフラックスは違う
同じ膜ろ過でも、工程によって典型的なフラックスの水準は大きく変わります。
- 無菌ろ過などのデッドエンドろ過液の全量を膜にまっすぐ押し当てて通す方式のろ過。最終除菌ろ過で用いられ、流れは粘度に反比例する。:膜を通り抜けるだけなので比較的高いフラックスが出ますが、ろ過が進むほど目詰まりして低下します。処理量の限界(Vmax)で設計します。
- 限外ろ過半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →による濃縮(UF):濃縮が進むほど液が濃くなり、粘度液体の流れにくさを表す物理的性質で、タンパク質濃度の上昇に伴い非線形に増大する。が上がってフラックスは下がります。終盤ほど遅くなる前提で時間を見積もります。
- ダイアフィルトレーション(DF):同体積を保ちながらバッファを置換するため、液の性状が比較的一定に保たれ、フラックスも安定しやすくなります。
濃縮とバッファ交換を1つの装置で連続して行う場合、後半になるほどフラックスが落ちる前提で全体の時間を組む必要があります。
まとめ
- フラックス(LMH)=膜1m²が1時間に通す液量。面積で正規化してあるので、小型デバイスの実測から実機の面積を見積もれる。
- TMPを上げてもある点からフラックスは伸びない。膜面の濃度分極層が増えた駆動力を相殺するため。折れ曲がりの手前で運転する。
- 透過係数(LMH/bar)はフラックスをTMPで割った値。圧力の影響を除けるので、膜の目詰まりを純粋に追える。
- 膜面積は処理量・許容時間・実測フラックスから決まる。ただし面積を増やすほど吸着とホールドアップで回収率が削られる。
参考文献
- 日本薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。 参考情報「生物薬品の製造に用いるろ過技術」(厚生労働省)
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