下流ウイルスろ過
精製後半で製品溶液からウイルスをサイズ排除する。
- 最終ウイルス除去
- LRV取得
ウイルス除去フィルターは、数十ナノメートルの孔径をもつ膜でウイルスをサイズ排除し、製品溶液から物理的に取り除くフィルターです。バイオ医薬品では、原料や細胞由来のウイルス混入リスクに備え、不活化と除去を組み合わせた多重のウイルスクリアランス戦略がとられます。ナノフィルトレーションはその中で、低pHや溶媒・界面活性剤処理では効きにくいノンエンベロープウイルスにも有効な、堅牢な除去ステップとして位置づけられます。
ウイルス除去フィルターは、抗体やタンパク質は通過させ、ウイルスは膜内に保持するサイズ排除を原理とします。一般にパルボウイルスなどの小型ウイルス(約18〜26nm)まで除去する小孔径グレード(20nm前後)と、レトロウイルスなどの大型ウイルス(約80〜100nm)を対象とする大孔径グレード(35nm前後)に分かれ、対象ウイルスとプロセス適合性に応じて使い分けます。性能はLRV(log10での対数除去率)で評価し、小型ウイルスでLRV4以上、大型ウイルスでLRV6以上を目安とすることが多くあります。
実運用では、ウイルス自体の保持に加え、製品凝集体や不純物による目詰まり(ファウリング)への対処が要点になります。多くの場合、ロード液をあらかじめ前処理フィルター(プレフィルター)で整えてから本体に通し、流量低下を抑えます。GMP工程では除去性能をウイルススパイク試験で検証し、ろ過後にはバブルポイント試験や金コロイド・拡散流などの完全性試験を行って、膜が健全であったことを確認します。これらはICH Q5A(R2)に沿ったウイルスバリデーションの一部として文書化されます。
基本的には、精製の後半でロード液の条件を整えてからウイルス除去フィルターに通し、ろ過後に完全性を確認します。
ウイルス除去フィルターは孔径によって対象ウイルスと処理性が変わります。どこまで小さいウイルスを除去するかで選定します。
CHOなどの哺乳類細胞由来製品では内在性レトロ様粒子が主な懸念となるため35nm系で足りる場面もありますが、ノンエンベロープのパルボウイルスまで除去保証したい抗体・組換えタンパク質では20nm系の小孔径フィルターが選ばれます。小孔径ほど安全余裕は大きい一方で流量・処理量は下がるため、必要LRVとプロセス処理性のバランスで決めます。
約35nm前後
約20nm前後
レトロウイルス等(約80〜100nm)
パルボ等の小型ウイルス(約18〜26nm)も対象
限定的(大型中心)
ノンエンベロープ小型ウイルスまで除去
大型ウイルスでLRV6以上を目安
小型ウイルスでLRV4以上を目安
比較的高く目詰まりしにくい
孔径が小さく流量・処理量が下がりやすい
比較的緩い
凝集体対策のプレフィルター併用が重要
レトロ様粒子が懸念される細胞由来製品
抗体・組換えタンパク質の最終ウイルス除去
大型ウイルス除去で十分な場合
小型ウイルスまで保証が必要な場合
ウイルスはサイズで除去可否が決まります。代表的なモデルウイルスと孔径の目安を整理します。
| ウイルス(例) | サイズの目安 | エンベロープ | 孔径グレードの目安 |
|---|---|---|---|
| MVM・パルボウイルス | 約18〜26nm | なし | 20nm系(小孔径) |
| PPV(ブタパルボ) | 約18〜26nm | なし | 20nm系(小孔径) |
| EMCV(脳心筋炎) | 約25〜30nm | なし | 20nm系(小孔径) |
| Reovirus(レオ) | 約60〜80nm | なし | 20nm系・35nm系 |
| X-MuLV・レトロ様粒子 | 約80〜110nm | あり | 35nm系(大孔径)でも除去可 |
| PRV(仮性狂犬病) | 約120〜200nm | あり | 35nm系(大孔径)でも除去可 |
| HSV・大型エンベロープ | 約120〜200nm | あり | 35nm系(大孔径)でも除去可 |
ウイルス除去フィルターの運用では、処理性の確保と膜の健全性確認が両輪になります。
| 観点 | 起こりうること | 対処・確認の方向性 |
|---|---|---|
| 流量低下(ファウリング) | 製品凝集体・不純物で差圧上昇・フラックス低下 | プレフィルターで前処理し凝集体を低減する |
| 処理量の頭打ち | 規定差圧到達で必要量を処理できない | 膜面積・グレード・ロード条件を見直す |
| 製品ロス | 膜やプレフィルターへの吸着で回収率低下 | ポストフラッシュ条件と回収率を確認する |
| 使用前完全性 | 湿潤不良・装着不良 | 湿潤後に完全性試験で初期健全性を確認する |
| 使用後完全性 | ろ過中の膜損傷の検出 | バブルポイント・拡散流・金コロイド等で確認する |
| 完全性と除去の対応 | 完全性試験と実際の除去性能の相関 | 各社規格に基づく試験法・判定値で運用する |
| スケール相関 | 小型デバイスと製造機の差 | Vmax/処理量試験でスケールアップを設計する |
| バリデーション | ウイルス除去能の根拠不足 | スパイク試験でLRVを取得しICH Q5Aで文書化 |
ウイルス除去フィルターは、対象ウイルス・処理性・規制対応・供給性の観点で選定します。
ウイルス除去フィルターは、下流精製の後半で最終的なウイルス安全性を確保する工程を中心に使われます。
精製後半で製品溶液からウイルスをサイズ排除する。
クロマト後の中間体・最終プールに対しウイルスろ過を行う。
本体の流量低下を防ぐため凝集体・不純物を前処理で低減する。
スパイク試験でLRVを取得し除去能を裏づける。
ろ過前後に膜の健全性を確認する。
血漿由来製剤のウイルス安全性確保にナノろ過を用いる。
バイオリアクター前で培地や原料のウイルスリスクを低減する。
差圧・フラックス・処理量を監視し運転状態を管理する。
ウイルス除去フィルターは、哺乳類細胞や生物由来材料を用いる多くのモダリティーで使われます。なお、AAVやレンチウイルスなどウイルスベクター製品ではウイルス自体が製品であり、ナノろ過による除去は適用しにくく対象外〜関連度は低くなります。