TIL療法の製造とは?腫瘍検体から急速拡大培養まで

TIL療法の製造とは、患者から切り出した腫瘍のかけらに入り込んでいるT細胞(TIL、腫瘍浸潤リンパ球)を取り出し、二段の培養で体外で増やす工程です。かけらの中に何個のT細胞がいるかは開けてみるまで数えられないため、工程は決まった量を作る設計ではなく、取れただけ増やす設計です。
ただし、出発材料のばらつきは用量規格の幅にそのまま表れ、検体の受け入れ、フィーダー細胞の調達、力価試験細胞や生体分子に実際に作用させ、医薬品の生物活性(どれだけ効くか)を数値化する試験。詳しく →の3か所では、ほかの細胞治療生きた細胞そのものを有効成分とする医薬。CAR-Tなどが代表。詳しく →とは違う管理が要ります。
この記事では、用量の幅の出どころ、検体の受け入れ、フィーダー細胞と原材料、力価試験、投与の側の負担、確かめる点を順に説明します。
1. 用量の幅の出どころ
TIL療法は、腫瘍から取り出して増やしたT細胞を、点滴で患者に戻す治療です。2024年2月にFDAが悪性黒色腫向けのAmtagvi(lifileucel)を加速承認し、腫瘍由来のT細胞を使う最初の薬になりました。
この承認品の添付文書は、用量を生細胞として7.5×10⁹から72×10⁹個と書いていて、下限と上限で10倍近い開きがあります。CAR-T患者や健常ドナーのT細胞にCAR(キメラ抗原受容体)を導入し、がん細胞を攻撃させる細胞治療。詳しく →のアキシカブタゲン シロルユーセルが、体重1 kgあたり2×10⁶個、総量の上限2×10⁸個と絞り込まれているのとは対照的です。
幅を持たせているのは、原料を選べないからです。用量の規格の幅は、腫瘍のかけらに含まれるT細胞の数の変動を受け止めています。
工程は二段構えで、合わせて22日ほどかかります。
前半は初期培養(pre-REP)です。腫瘍のかけらを細かく切り、高濃度のIL-2(T細胞を増やすサイトカイン細胞が放出する免疫の情報伝達物質。細胞治療では効果と安全性のリードアウトになる。詳しく →)を入れた培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →に置いて、中にいるT細胞を選んで増やします。
後半が急速拡大培養(REP)です。放射線を当てて増えなくした他人の末梢血単核球(フィーダー細胞NK細胞の増殖を助けるために一緒に加える支持細胞です。刺激因子を提示してNK細胞を増やす役目を持ち、あらかじめ放射線処理して自らは増えないようにします。詳しく →)と、T細胞に刺激を渡す抗CD3抗体(OKT3)、IL-2を加え、一気に数を増やします。FDAの審査資料は、承認品の工程が22日であることを示しています。
どちらの段も増え方には幅があり、腫瘍の質で初期培養の収量が振れ、その結果を受けた拡大培養の増え方がまた振れます。
二つの振れが掛け算で効くので、最終的な細胞数の幅は、各段の幅よりずっと広くなります。用量規格の10倍の幅は、設計の甘さではなく、この変動を規格の側で受け止めた結果です。
それでも作れない場合はあり、Iovanceが2022年に発表したところでは、臨床試験で仕様内の製品を作れた患者は約95%でした。残りの5%ほどは、仕様内に収まりませんでした。
用量の幅は工程の精度の問題ではなく、出発材料のばらつきを、どこまで規格が引き受けるかの表明です。
2. 検体の受け入れ
原料の質は、製造する側が決められません。
手に入るのは、手術や生検で切り出した腫瘍組織です。大きさは部位と術式で変わり、壊死した部分が多ければ生きたT細胞は少なくなります。前の治療で免疫が抑えられていれば、腫瘍の中のT細胞の数そのものが減っています。
Amtagviの臨床試験の計画書は、転移した腫瘍から直径1.5 cm以上の組織を切除することを求めています。切り出した組織は、保存液に入れて製造施設へ送られます。
組織をほぐす方法には、次の2つがあります。
- 刻んだかけらをそのまま培養する方法:細胞への扱いは穏やかですが、取れる量が読めません。
- 酵素で消化する方法:回収率を上げやすい一方で、細胞の表面の分子を傷めて、後の表現型の測定に影響する場合があります。
もう一度手術して腫瘍を取るという選択肢は現実には乏しいため、検体の段階で失敗するとやり直しがききません。
外科の側と決めておくのは、検体の大きさだけでなく、採取から搬入までの上限時間と保存の条件です。受け入れ規格に組織の重さだけを書くと、この時間の管理が抜けます。
1患者1ロットという制約は、規模の経済の話である以上に、失敗が取り返せないという話です。
3. フィーダー細胞と原材料
拡大培養を支えているのは、他人の細胞です。
フィーダー細胞に使うのは、健常なドナーから採って放射線を当てた末梢血単核球末梢血から分離した単核の免疫細胞。初代細胞アッセイのエフェクター源として使われる。詳しく →です。増えはしませんが、OKT3で架橋されるとT細胞に刺激を渡し、サイトカインも供給します。目的のTILに対して、フィーダーの細胞数は何百倍も多くなります。
ここが管理上の負担で、ドナーの適格性、感染症のスクリーニング、照射の線量とその検証、ロット間のばらつきを管理します。患者本人の細胞を使う製品なのに、他家の原材料が工程の真ん中に入る構図です。
同じドナーから継続して調達できるとも限らないので、供給が切れたときの代替まで決めておく必要があります。
IL-2や抗CD3抗体も、GMPグレード医薬品の製造品質管理基準(GMP)に適合した製造管理と品質試験のもとで製造・出荷された試薬・原料の品質区分。詳しく →(医薬品の製造基準を満たす品質)をそろえます。
フィーダー細胞の代替として、人工の抗原提示細胞取り込んだ抗原をT細胞に提示して免疫応答の引き金を引く細胞。樹状細胞がその代表格。詳しく →を使う設計も検討されています。細胞株に刺激の分子を出させておけば、バンクにして供給を安定させられるからです。
培養の器は、開放操作流路や容器を外気に触れさせて行う操作。その回数が無菌操作品における汚染確率の主な原因になる。詳しく →を減らす閉鎖系外気と触れずに培地交換やサンプリングを行う閉鎖された流路。無菌を保ち汚染を防ぐ。詳しく →の装置への移行が進んでいて、汚染の危険と作業者の負担が同時に下がります。刺激の試薬はT細胞活性化試薬、培地はT細胞・CAR-T培養培地、装置は自動細胞培養装置の製品ガイドで比べられます。
フィーダーの調達は、TILの製造では培養条件の話ではなく、原材料の話です。
4. 力価試験:腫瘍反応性は測れるか
何を規格にするかで、TILにはほかの細胞治療にない難しさがあります。
生存率と細胞数は、どの細胞治療でも測ります。CD8とCD4の比、分化の段階、活性化や疲弊を示す分子の表現型も測れます(細胞治療の品質管理(CQA))。ここまでは、他の製品と同じです。
問題は腫瘍反応性です。この薬の効き目は、患者自身の腫瘍を認識するT細胞が入っていることで決まります。
ところが、それを直接測るには患者の腫瘍細胞を培養して用意する必要があり、多くの場合それができません。細胞株を相手にした試験では、その患者の腫瘍への反応は映りません。そこで、刺激に応じたIFN-γの産生のような代替の指標を置きます(細胞治療の効力試験)。
この力価試験は、実際に申請を遅らせました。Iovanceは2020年10月、力価試験の内容で当局と合意できていないとして、承認申請の提出を延ばすと発表しました。
その後も試験の検証に関する当局の指摘が続き、申請の提出を終えたのは2023年3月、承認は2024年2月でした。FDAは2023年12月に、細胞・遺伝子治療の力価保証に関するガイダンス案を公表しています。
測りたいものが測れないときは、代替の指標が何を映していないかまで、規格の根拠として書いておきます。
5. 投与の側の重さ
製品が届いても、それだけでは治療になりません。
投与の前には、リンパ球を減らす前処置として、抗がん剤のシクロホスファミドを2日、続いてフルダラビンを5日投与します。投与したTILが増える余地を作るためで、骨髄抑制と感染の危険を伴います。
投与後には高用量のIL-2を、最大6回投与します。Amtagviの添付文書は、集中治療に対応できる入院施設での投与を求め、治療に関連した死亡や、重い感染などの警告を載せています。
TILは、製品の品質だけでは完結しない治療です。製造側がT細胞の活性化と拡大を工程の中で作り込み(T細胞の活性化と拡大)、投与施設の体制がそろって、はじめて治療が成り立ちます。
6. 明日から確かめられること
TIL療法の製造では、外科、製造、品質、購買の間で、次の点を確かめます。
- 検体の受け入れ規格:採取から搬入までの上限時間、保存温度、容器、部位と術式の記録を含めて、外科と決めます。
- 規格外試験結果が規格の範囲を外れること。原因調査の対象になる。詳しく →のロットの扱い:規格を満たせないロットが出たときの扱いを、再採取の可否、費用の分担、患者への連絡の手順を含めて、契約で決めます。
- フィーダー細胞と原材料:フィーダー細胞のドナー適格性健常ドナーの感染症検査などを行い、出発材料として使える適格性を判定すること。、照射の検証、供給が切れたときの代替を確かめます。IL-2や抗CD3抗体など、GMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく →グレードの原材料の調達先と、切り替えの手順も押さえます。
- 用量規格と力価試験:用量規格の下限と上限が何を根拠に引かれているかを聞き、力価試験で何を測り、何を映せていないかを文書で確認します。
- 日数と投与施設:検体が着いてから製品が返送されるまでの日数を実績で聞き、投与施設が前処置とIL-2の管理に対応できる体制を持つかを確かめます。
委託先を検討するときは、「検体が届いてから返送まで何日か、規格外になる割合はどれくらいか」を最初に尋ねると、製造の実績が分かります。品質試験では、細胞治療製品の力価・機能評価とELISpot/FluoroSpotが候補です。
凍結と輸送は細胞治療の凍結保存と輸送、取り違えの防止はChain of Identity / Chain of Custodyで解説しています。CAR-Tとの工程の違いはCAR-T細胞療法の製造工程と読み比べてください。
参考文献
- FDA, FDA approves first cellular therapy to treat patients with unresectable or metastatic melanoma(2024年2月16日)
- FDA, AMTAGVI(lifileucel)添付文書(用量7.5×10⁹〜72×10⁹個、前処置とIL-2の投与法、入院施設での投与)
- FDA, BLA 125773 AMTAGVI Clinical Review(22日の工程)
- Jin J, et al. Simplified Method of the Growth of Human Tumor Infiltrating Lymphocytes in Gas-Permeable Flasks to Numbers Needed for Patient Treatment. J Immunother. 2012;35(3):283-292(初期培養と拡大培養の方法)
- ClinicalTrials.gov, Study of Lifileucel (LN-144) in the Treatment of Patients With Metastatic Melanoma(NCT02360579)プロトコル(検体の条件、製造の流れ)
- Iovance Biotherapeutics, SITC 2022 発表(Cohort 2と4で、仕様内の製造94.7%)
- Fierce Biotech, Path cleared for Iovance's lead melanoma drug after FDA assay feedback. CGTLive, Lifileucel Melanoma BLA Delayed Until 2022(力価試験をめぐる申請の遅れ)
- FDA, Potency Assurance for Cellular and Gene Therapy Products(2023年12月、ガイダンス案)
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