Thermo Fisher Scientificの Gibco Efficient-Pro 培地とフィードについて、CHO-K1 および CHO-S 細胞での性能を示すデータが公開された。抗体などの組換えタンパク質生産で使われるフェドバッチ工程を対象にしたものである。
公開されている内容によれば、Efficient-Pro 培地を Feed 1 または Feed 2 と組み合わせた場合、他社培地との比較で最大238%の力価(titer)向上と、最大180%の比生産性向上が得られたとされる。あわせて、培養の健全性と細胞生存率の改善により、最長17日間の生産培養を維持できるとしている。培地とフィードは、従来手法に加えてマルチオミクスによるモデリングを用いて設計されたもので、化学組成既知(chemically defined)かつ動物由来成分不使用(animal origin-free)の成分で構成され、既存のフェドバッチ工程に組み込みやすいとされる。
「力価」と「比生産性」は別の話
数字を読むとき、この2つを混同しないことが大事になる。
力価は、培養液1Lあたりに最終的に何g(何mg)の目的タンパク質が得られたか。比生産性は、細胞1個が1日あたりどれだけ作るか。力価は「細胞数 × 比生産性 × 期間」で決まるので、力価が上がったとき、その原因が細胞をたくさん増やせたからなのか、1個あたりの働きが良くなったからなのか、長く回せたからなのかは、力価だけを見ても分からない。
今回のデータで両方の数字が並んでいるのは、この切り分けができる形になっているという意味である。加えて「最長17日間」という培養期間が示されているのも同じ理由で、期間が伸びれば力価は伸びる。3つの数字を揃えて初めて、何がどう効いたのかが読める。
比較の条件を確かめる
「他社培地との比較で最大238%」といった数値は、そのまま自社工程で再現される保証はない。培地の性能は、細胞株、目的タンパク質、フィード戦略、培養装置の条件と強く絡むためである。実務では次を確認したい。
- どの細胞株か:今回は CHO-K1 と CHO-S。自社が DG44 やその他の宿主を使っているなら、そのままは当てはまらない。
- 比較対象は何か:「他社培地」が具体的にどれで、その培地の条件が最適化されていたかどうか。
- どのスケールか:小スケールで得た差が、実生産のスケールで同じように出るとは限らない。
- 品質特性はどうか:力価が上がっても、糖鎖プロファイルや凝集体、宿主細胞由来タンパク質(HCP)の量が変われば、下流工程と製品規格に影響する。
とくに最後の点は、培地を替えるときに最も見落とされやすい。上流で稼いだ収量を、下流の除去負荷で失うという結果は珍しくない。
動物由来成分不使用という前提
化学組成既知・動物由来成分不使用という設計は、いまや商用製造の実質的な前提条件になっている。成分と濃度が規定されていればロット間の再現性を担保しやすく、動物由来成分を含まなければ外来性因子(ウイルス・TSE)に関する評価と原材料管理の負担が下がる。
規制当局への説明という観点でも、原材料の素性が明確であることは、工程の一貫性を主張する土台になる。上流の培地選定は、生産性の話であると同時に、原材料の品質管理の話でもある。
※ 本ページは公開情報(BioPharm International掲載の技術資料)をもとにしたProglenth編集部による整理です。数値は公開資料に示された条件下のものであり、詳細と適用条件は一次情報をご確認ください。