CYP寄与率fmはどう測る?DDI試験を組む基準
CYP reaction phenotypingある化合物の代謝クリアランスを、どのCYP分子種がどれだけ担っているかを調べる非臨床試験。の結果が出ると、報告書にはfm(fraction metabolizedある分子種がその化合物の代謝のうち何割を担うかを表す割合。全分子種の合計が1になるよう定義する。詳しく →、寄与率)の値が一つ並びます。CYP3Aがfm 0.7、CYP2D6が0.2というように数字は一見きれいに並び、担当者はつい、この数字をそのままDDI(薬物間相互作用併用薬が代謝酵素を阻害・誘導し合い、血中濃度が変動する現象。fmはこのリスク評価の土台になる。詳しく →)リスクの答えとして読みたくなります。

けれども、その数字がどの手法で出たかを見ないと判断を誤ります。選択的化学阻害剤法分子種を狙って効く阻害剤を加え、代謝がどれだけ抑えられるかからfmを推定する方法。だけで出したfmと、組換えCYP分子種を一種類ずつ発現させた酵素。個別に固有クリアランスを測れるがヒト肝とは環境が違う。(rCYP分子種を一種類ずつ発現させた酵素。個別に固有クリアランスを測れるがヒト肝とは環境が違う。)だけで出したfmは、同じ化合物でも違う分子種を主経路として指すことがあります。だからこそ、数字が一致するとは限りません。核心は一点です。fmは単一の実験値ではなく、複数の手法が指し示す先が一致して初めて確からしくなる数字だということです。
軸は2つあります。どの手法で測ったfmかということと、そのfmの大きさがどの閾値を超えているかということで、どちらも単一の実験値だけを見ていては分かりません。実験を組む前に、この2つを押さえておく必要があります。本稿では、選択的化学阻害剤法の落とし穴から、組換えCYP+ISEF組換え系とヒト肝の酵素活性差を補正する分子種間活性差係数。基質依存でばらつく点に注意する。法、相対存在量による整合の取り方、fmの閾値がDDI試験の要否をどう分けるか、そして実験を組む順番まで、順に整理します。
- fmは単一手法の値ではなく、選択的阻害剤法・rCYP+ISEF・相対存在量という3手法が一致して初めて確からしくなります。
- ケトコナゾールやキニジンのようなCYP選択的阻害剤も、基質と濃度によってKi値が数倍から10倍近く動きます。
- ICH M12はfmが25%を超える経路に追加の評価を求め、AUC比の1.25倍・2倍・5倍という閾値でDDIの強さを分類します。
fmとは何か ― 代謝の中の内訳
fmは、ヒト肝での総代謝クリアランスに対する、ある分子種の寄与の割合です。
すべての分子種のfmを足すと1になるように定義します。ICH M12薬物相互作用試験の判断基準を日米欧で揃えた国際整合ガイドライン。in vitroから臨床試験の要否を判断する。詳しく →はCYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3Aという主要な7分子種を、reaction phenotypingで日常的に評価するよう求めています。ただしfmは、代謝そのものが化合物の消失に占める割合とは別の話で、腎排泄が主体の化合物ならCYP肝臓に多く存在する代表的な薬物代謝酵素群。多くの低分子医薬の代謝を担う。詳しく →のfmが高くても全身クリアランスへの影響は限られます。ここを混同するとリスクを過大にも過小にも見積もることになり、分子種ごとの内訳と消失経路全体での重みは、別の軸なのです。
fmは代謝の中の内訳であり、代謝が消失全体に占める割合とセットで読んで初めて意味を持ちます。
選択的化学阻害剤法とKiの落とし穴
ヒト肝ミクロソーム肝細胞から調製した代謝酵素を含む画分。複数分子種が同時に働く実態のまま代謝を測れる。(HLM肝細胞から調製した代謝酵素を含む画分。複数分子種が同時に働く実態のまま代謝を測れる。)に、分子種を狙って効く阻害剤トランスポーターの働きをふさぐ薬。他の基質薬の輸送を妨げ、短期間で濃度を変える。詳しく →を加え、代謝がどれだけ抑えられるかからfmを推定する方法です。
CYP3Aにはケトコナゾール、CYP2D6にはキニジンが定番の選択的阻害剤として使われますが、この選択性は絶対ではなく、ここに落とし穴があります。ケトコナゾールのCYP3A4腸と肝に多く存在し多くの薬を代謝する酵素。その基質は初回通過で削られやすい。詳しく →に対するKi値は、基質にテストステロンを使うと0.17µM前後、ミダゾラムを使うと1.5µM前後という報告があります。同じ阻害剤でも、基質を変えるだけで10倍近く動くのです。キニジンのCYP2D6に対するKi値も、報告によって0.13µMから0.18µM、系によっては0.027µMまで幅があります。濃度を上げれば選択性目的物と不純物を、溶出位置をどれだけ離して分けられるかの度合い。分離の分解能を左右する。詳しく →はさらに崩れ、狙った分子種以外まで止めてしまいます。メーカーに聞くべきは、Ki値の数字そのものではなく、その値がどの基質とどの濃度域で測られたかです。
選択的阻害剤法は生理に近い系で測れる強みがある一方、Kiが基質と濃度で動く前提を外すと、fmを過大評価します。
組換えCYP+ISEF法 ― rCYPの数字は足すだけでは使えない
分子種を一種類ずつ発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。詳しく →させた組換えCYP(rCYP)を使う方法もあります。
Corningの組換えCYP試薬や、Thermo Fisher Scientificが展開する組換えCYPを使ったVivid CYP450スクリーニング系、Promegaが提供するP450-Glo系の発光アッセイが、この用途で使われています。各rCYPで固有クリアランスを個別に測ることで、どの分子種が代謝しうるかを切り分けられます。ただし、rCYPの発現量や補酵素タンパクの環境はヒト肝と異なるため、そのままの数字を足してもヒト肝の内訳にはなりません。そこを橋渡しするのがISEF(分子種間活性差係数組換え系とヒト肝の酵素活性差を補正する分子種間活性差係数。基質依存でばらつく点に注意する。)で、プローブ基質ごとにISEFを求め、rCYPの固有クリアランス酵素そのものの代謝能力を表すクリアランス。組換えCYPで分子種ごとに測り、換算の元にする。詳しく →に掛け合わせて換算します。rCYPだけで出た数字を、そのままヒト肝の内訳として読み違えるのが、この手法でいちばん多い誤読です。CYP3A4では、指標に使うプローブ基質分子種ごとの代表的な指標反応を測るための基質。ISEFやRAFを求めるのに使う。によってISEFが数倍規模で変動したという報告もあります。
相対存在量と三法の整合
三つ目の考え方は、肝ミクロソーム肝細胞をすりつぶして得た小胞体由来の画分。CYPなどの代謝酵素が濃縮され、代謝安定性の評価に使う。詳しく →中の各分子種の相対存在量を重みとして使う方法です。これも単独では使わず、他の二法と組み合わせて確からしさを確かめる材料にします。
RAF(相対活性係数指標反応の活性比で組換え系とヒト肝を橋渡しする相対活性係数。ISEFと同系統の換算補正。詳しく →)と呼ばれる指標反応の活性比で、組換え系と肝を橋渡しします。ISEFとRAFは、どちらも組換え系の数字をヒト肝に読み替えるための係数であり、立て方が違うだけです。実務の要点は、三つの手法を別々に走らせ、答えが揃うかどうかを確認することにあります。当局のガイダンスも、化学阻害剤法とrCYP法の少なくとも2つを併用し、整合を確かめることを求めています。どちらの手法が正しいという話ではありません。三法がどこまで同じ分子種を指すかで、fmの確からしさが決まります。実際に、rCYPだけではある分子種が主に見えたのに、HLM+阻害剤では別の分子種が主経路と分かり、そちらが臨床データと一致したという報告もあります。
fmの閾値がDDI試験を決める
fmが効いてくるのは、DDIの大きさが「阻害される経路が代謝全体に占める割合」で決まる、単純な理屈があるからです。
ICH M12とFDAのガイダンスは、ある分子種が総消失の25%以上を占める場合、その分子種の強い阻害剤・誘導剤を使った臨床DDI試験の検討を求めており、この25%が一つの境界です。臨床試験に進んだあとの評価も、数字で分かれます。FDAの分類では、併用薬がAUC遠心中の試料の沈み方を光で測り、分子の大きさや会合状態を調べる分析装置です。純度や凝集の評価に使います。詳しく →を1.25倍から2倍未満に上げるものを弱い阻害剤、2倍から5倍未満を中程度、5倍以上を強い阻害剤とします。時間依存性阻害(TDI)を起こす併用薬についても、ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → M12は目安となる濃度条件下で阻害の程度が1.25倍を超えないことを、相互作用を除外する基準に置いています。fmが単一分子種で0.9に近いような化合物は、この一本の経路にリスクが集中するため、とくに注意して評価します。
fmが25%という一線を超えるかどうかが、追加の臨床DDI試験を組むかどうかの分かれ目です。
代謝物のfmも忘れない
見落とされやすいのが、代謝物側のfmです。親化合物だけを見て安心してはいけません。
親化合物だけでなく、代謝物にも阻害・誘導のリスクがあります。ICH M12は、代謝物のAUCが親化合物のAUCの25%以上あり、かつ体内に存在する薬物関連物質主に低分子医薬で、目的物質に構造が似た不純物や分解物を分離・定量する分析です。純度や安定性を確認します。詳しく →全体の10%以上を占める場合、その代謝物についてもCYPと輸送体への阻害・誘導能を検討するよう求めています。代謝物のfmを無視すると、親化合物だけを見て安全と判断してしまう場面が出てきます。
主要代謝物の量がこの2つの閾値を超えるなら、親化合物と同じ重さでreaction phenotypingの対象に加えます。忘れがちな一手間です。
fmの実験を組む順番
最後に、確認の順番を整理します。順番を守ることが、遠回りを防ぎます。
まず、選択的化学阻害剤法とrCYP+ISEF法の両方で初期のfmを出し、片方だけで確定させません。次に、二つの結果が同じ分子種を主経路として指しているかを確認します。ずれがあれば、阻害剤の選択性が濃度依存で崩れていないか、ISEFの基質依存性が影響していないかを洗い出します。そのうえで、相対存在量による重み付けを加え、三法の整合を取ります。最後に、確定したfmが25%の一線を超えるかどうかで、追加の臨床DDI試験を組むかを判断します。超えていれば、代謝物側のfmも同じ手順で確認します。ここまで終えて初めて、報告書の一つの数字に意味が出てきます。
参考文献
- FDA, In Vitro Drug Interaction Studies — Cytochrome P450 Enzyme- and Transporter-Mediated Drug Interactions Guidance for Industry.
- ICH M12, Drug Interaction Studies(Step 4 Guideline, 2024).
- FDA, Clinical Drug Interaction Studies — Cytochrome P450 Enzyme- and Transporter-Mediated Drug Interactions Guidance for Industry(2020).
- EMA, Guideline on the Investigation of Drug Interactions(Revision 1).
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