CYP reaction phenotypingとは? 寄与率fmの算出と3つのアプローチ
CYP reaction phenotyping(代謝酵素の同定・寄与率評価)は、ある化合物の代謝クリアランスを、どのCYP分子種がどれだけ担っているかを調べる非臨床試験です。その結果を一つの数字にまとめたものが、寄与率 fm(fraction metabolized)です。fmは「特定の酵素が、その化合物の代謝のうち何割を担うか」を表し、分子種と基質の組み合わせごとに決まります。

なぜこの数字にこだわるかというと、fmは薬物間相互作用(DDI=Drug-Drug Interaction)のリスクを見積もる土台になるからです。ある化合物のfmがCYP3Aで大きければ、CYP3Aを強く阻害・誘導する併用薬によって血中濃度が大きく動きうる、という予測が立ちます。逆にfmが複数の分子種に分散していれば、一つの阻害剤の影響は薄まります。
fmの算出には主に三つのアプローチがあります。選択的化学阻害剤法、組換えCYP(rCYP)にISEF(分子種間活性差係数)を掛ける方法、そして相対存在量に基づく方法です。それぞれ長所と落とし穴が違い、規制当局は複数のアプローチを組み合わせて整合を確認することを求めています。本稿では、この三つの求め方と、fmがDDI評価に効く理由を整理します。
寄与率fmとは何か
fmは、ヒト肝での総代謝クリアランスに対する、ある分子種の寄与の割合です。すべての分子種のfmを足すと1(100%)になるように定義します。たとえばCYP3Aのfmがおおむねゼロコンマ7、CYP2D6が0.2、残りが他の分子種、というかたちで内訳を表します。
この割合は、代謝そのものが化合物の消失にどれだけ効くか(消失全体に占める肝代謝の割合)とは別の話です。腎排泄が主体の化合物なら、CYPのfmが高くても全身クリアランスへの影響は限られます。fmはあくまで「代謝の中の内訳」であり、DDIの大きさを見るときは、代謝が消失に占める割合とあわせて読む必要があります。
reaction phenotypingでは、まずCYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A(CYP3A4/3A5)といった主要分子種を対象に据えるのが一般的です。 fmは分子種と基質ごとに固有の値であり、単一の絶対値ではなく複数手法の整合として確からしさを担保するものです。
fmは「代謝全体に占める、その分子種の割合」です。腎排泄など代謝以外の消失経路がある場合、fmが高くても全身への影響が同じ割合で出るとは限りません。代謝が消失に占める割合とセットで読みます。
アプローチ1:選択的化学阻害剤法
ヒト肝ミクロソーム(HLM)や肝細胞に、分子種を狙って効く阻害剤を加え、代謝がどれだけ抑えられるかからfmを推定する方法です。たとえばCYP2D6にはキニジン、CYP3Aにはケトコナゾールやアザムリンといった選択的阻害剤が使われます。阻害剤の存在下で代謝が落ちた割合が、その分子種のfmの目安になります。
この方法の利点は、HLMという生理に近い系で、複数分子種が同時に働く実態のまま測れる点です。一方で難しいのは阻害剤の選択性です。ケトコナゾールはCYP3Aを強く阻害しますが、濃度を上げると他の分子種にも効いてしまうことが知られ、単一濃度では選択性が濃度依存で崩れます。狙った分子種だけを止めきれず、他の経路まで巻き込むと、fmが過大評価されます。
対策として、単一濃度ではなく阻害曲線(濃度を振って完全阻害まで見る)を取り、非選択的な効きを差し引く工夫が使われます。 化学阻害剤法は生理に近い系で測れる強みがある一方、阻害剤の選択性が濃度依存で崩れる点に注意が要ります。
アプローチ2:組換えCYP(rCYP)+ISEF
もう一つは、分子種を一種類ずつ発現させた組換えCYP(rCYP)を使う方法です。各rCYPで化合物の固有クリアランスを個別に測れば、どの分子種が代謝しうるかを分子種ごとに切り分けられます。ただし、rCYPの発現量や補酵素タンパクの環境はヒト肝と違うため、そのままの数字を足してもヒト肝の内訳にはなりません。
そこを橋渡しするのが ISEF(Inter-System Extrapolation Factor=分子種間活性差係数)です。ISEFは、組換え系とヒト肝の間で、酵素の内在活性や補助タンパクの発現差をまとめて補正する係数です。プローブ基質(分子種ごとの代表的な指標反応)を使って、あらかじめ分子種ごとにISEFを求めておきます。rCYPで測った固有クリアランスにISEFと肝ミクロソーム中の各分子種の存在量を掛け合わせて、ヒト肝でのクリアランスに換算し、その内訳からfmを出します。
概念としては、次のような掛け合わせでヒト肝クリアランスを組み立てます。
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| rCYP固有クリアランス | 組換え酵素1単位あたりの代謝活性 |
| ISEF | 組換え系とヒト肝の活性差を補正する係数 |
| 肝中の分子種存在量 | ヒト肝ミクロソーム中の各CYPの量 |
| = ヒト肝クリアランス寄与 | 上記の積。全分子種で合計しfmを算出 |
注意したいのは、ISEFが基質によってばらつくと報告されている点です。CYP3A4では、指標に使うプローブ基質によってISEFが数倍規模で変動したという報告があり、一つの係数を使い回すと寄与率がずれます。 rCYP+ISEFは分子種ごとに切り分けられる強みがある一方、ISEFの基質依存性が結果を左右するため、単独では確定させにくい方法です。
アプローチ3:相対存在量と整合の取り方
三つ目は、各分子種の肝ミクロソーム中の存在量(相対存在量)を重みとして使う考え方です。rCYPで得た活性に、実際の肝にどれだけその分子種が存在するかを掛けて内訳を作ります。RAF(Relative Activity Factor=相対活性係数)と呼ばれる、指標反応の活性比で組換え系と肝を橋渡しする補正も、同じ系統の考え方です。ISEFとRAFはいずれも「組換え系の数字をヒト肝に読み替える」ための係数で、換算の立て方が違います。
実務では、これら三つを別々に走らせ、答えが揃うかを確認するのが要点です。当局のガイダンスも、化学阻害剤法とrCYPの少なくとも二つのアプローチを併用し、結果の整合を確かめることを求めています。三法が食い違うときの読み解き方の例を挙げます。
| 状況 | 起こりうる原因 | 対応の方向 |
|---|---|---|
| rCYPだけ特定分子種が高い | ISEF/存在量の補正不足、発現系の過大活性 | 阻害剤法と突き合わせ、補正係数を再検討 |
| 阻害剤法だけfmが高い | 阻害剤の選択性不足で他経路も抑制 | 阻害曲線で非選択成分を差し引く |
| 三法とも同じ分子種を指す | 寄与の確からしさが高い | fmを確定へ、DDI試験の設計に進む |
実際に、rCYPだけではCYP2C8/2C9/2D6が主に見えたのに、HLM+阻害剤ではCYP3Aが主経路と分かり、そちらが臨床データと一致した、という報告もあります。単一手法に頼らないのは、こうした取り違えを避けるためです。
fmがDDIリスク評価に効く理由
fmが効いてくるのは、DDIの大きさが「阻害される経路が代謝全体に占める割合」で決まるからです。ある分子種のfmが大きいほど、その分子種を止める併用薬による血中濃度の上昇幅は大きくなります。fmが小さければ、その経路を完全に止めても影響は限定的です。
当局の運用では、ある分子種の寄与が代謝の概ね25%(fmがおよそ0.25以上)を超える場合、その分子種の強力な阻害剤・誘導剤を用いた臨床DDI試験を検討する、という目安が示されています。逆にfmが単一分子種で概ね0.9を超えるような化合物は、その一経路にDDIリスクが集中するため、注意して評価します。
fmは非臨床の肝ミクロソーム固有クリアランスから積み上げた消失像の一部でもあります。代謝が消失に占める割合と、その中のfmの内訳が揃って初めて、DDIの臨床的な意味が見えてきます。 fmはDDI試験を組むかどうかの判断基準そのものであり、寄与率の確からしさが臨床試験の設計を左右します。
まとめ
CYP reaction phenotypingの目的は、各CYP分子種の寄与率fmを、確からしいかたちで求めることにあります。選択的化学阻害剤法、rCYP+ISEF、相対存在量法の三つはそれぞれ前提と弱点が違い、単独では取り違えが起こりえます。だからこそ複数手法を併用し、整合を確認する手順が要になります。求めたfmは、代謝が消失に占める割合とあわせて読むことで、臨床DDI試験を組むかどうかの判断につながります。
参考文献
- FDA, In Vitro Drug Interaction Studies — Cytochrome P450 Enzyme- and Transporter-Mediated Drug Interactions Guidance for Industry
- ICH M12, Drug Interaction Studies
- EMA, ICH M12 on drug interaction studies — Scientific guideline
- FDA, Clinical Drug Interaction Studies — Cytochrome P450 Enzyme- and Transporter-Mediated Drug Interactions Guidance for Industry