バイオアベイラビリティと初回通過効果:経口薬がなぜ「全部は効かない」のか
100mgの錠剤を飲んだのに、血中の未変化体から逆算した「全身に届いた量」が36mgしかない——DMPKの現場では、こういう食い違いにたびたび出くわします。同じ化合物を静脈注射したときとくらべると、経口では曝露が半分以下、ときには数パーセントまで落ちることがあります。飲んだ量と効く量がここまでずれるのは、途中で薬が「削られている」からです。

この「飲んだ量のうち、どれだけが未変化のまま全身に届くか」を表す指標が、バイオアベイラビリティ(生物学的利用能、bioavailability)です。削られる場所は、大きく二つに分かれます。一つは、そもそも腸から吸収されずに便として出ていく分。もう一つは、吸収されても腸壁や肝臓を最初に通り抜ける段階で代謝されてしまう分です。後者は全身をめぐる前に「初回通過」で削られることから、初回通過効果(first-pass effect)と呼ばれます。静脈注射ならこの二つをどちらも回避できるため、経口と注射で効き方が大きく違う薬があるのはこのためです。
では、冒頭の「100mgのうち36mg」はどう説明できるのか。経口バイオアベイラビリティ F は、腸管吸収率 Fa、腸壁通過率 Fg、肝通過率 Fh という三つの通過率の掛け算に分解できます。36mgという数字は、この三つがそれぞれどこかで薬を削った結果の積であって、Fが低いといっても吸収が悪いのか初回通過で代謝されるのかで打ち手はまるで変わります。絶対BAと相対BAの違い、BCS分類、食事や種による差、そしてプロドラッグや製剤といった改善策も、突き詰めればこの掛け算のどの項を動かすのかという話に行き着きます。
まず「何を測っているか」をそろえる
「利用能」というと難しく聞こえますが、中身は割合の話です。飲んだ100の量のうち、効き目に使える形で血流に届いたのが40なら、Fは0.4(40%)ということになります。ここで大切なのは、投与した薬のうち未変化体として全身循環に到達した割合と速さをFが表している、という点です。腸壁や肝臓で別の物質に変わってしまった分は、たとえ吸収されていても、元の薬としては数えません。
Fには「どれだけ届いたか(量)」に加えて「どれくらいの速さで届いたか(速度)」の側面もあります。量は血中濃度‐時間曲線の下の面積 AUC(area under the curve)で、速度は最高血中濃度 Cmax やそれに達する時間 Tmax で見ます。同じ量が届いても、ゆっくり届くのか一気に届くのかで効き方や副作用の出方が変わるため、両方を押さえます。
Fは「未変化体が全身循環にどれだけ届いたか」の割合です。腸や肝で代謝された分は、吸収されていてもFには数えません。
冒頭の「36mg」を式で追う
経口薬が全身にたどり着くまでには、順に三つの関門があります。それぞれを「通り抜けられた割合」として書くと、全体は次の積になります。
F = Fa × Fg × Fh
- Fa(吸収率、fraction absorbed):消化管の管腔から腸上皮の細胞内へ取り込まれた割合。溶けきらない、あるいは膜を通れないと、ここで削られます。
- Fg(腸管アベイラビリティ、gut availability):腸壁を通過する間に腸の代謝酵素や排出トランスポーターにやられずに済んだ割合。腸上皮にはCYP3A4などの代謝酵素とP-糖タンパク質(P-gp)などの排出ポンプがあります。
- Fh(肝アベイラビリティ、hepatic availability):門脈を通って肝臓を初めて通過する間に、肝代謝を免れて全身循環へ抜けた割合。Fh = 1 −(肝抽出率 Eh)で表せます。
三つとも「割合」なので、それぞれが1に近いほどロスが小さく、一つでも小さいと全体が引き下げられます。冒頭の化合物にあてはめると、Fa=0.9、Fg=0.8、Fh=0.5なら、F=0.9×0.8×0.5=0.36で、約36%です。吸収は良くても肝抽出が高ければ、経口Fは半分以下に落ちうる——これがあの食い違いの正体です。「よく吸収されているのになぜか曝露が低い」という現場の困りごとは、Faが良くてもFgかFhで削られている、という形で読み解けます。腸からの取り込み(Fa)を試験管内で見積もる評価系については、Caco-2透過性のPappで扱っています。
削られる現場:腸壁と肝臓の二段構え
では、Fg・Fhでのロスは体内のどこで起きているのでしょうか。消化管で吸収された薬は、いきなり全身へ回るわけではありません。腸から吸収された血液は、まず門脈という血管に集められて肝臓に運ばれ、肝臓を通ってから全身循環に合流します。この経路のおかげで、薬は「腸壁 → 肝臓」という順で、全身に出る前に二度、代謝の場を通ることになります。これが初回通過効果です。
- 腸管初回通過:腸上皮のCYP3A4などが、通り抜けようとする薬を代謝します。ここでのロスがFgの低下として表れます。
- 肝初回通過:門脈血に乗って肝臓に入った薬が、肝代謝酵素で処理されます。ここでのロスがFhの低下です。
初回通過効果が大きい薬は、経口の効きが注射に比べて弱く、また個人差も出やすくなります。CYP3A4は腸にも肝にもあるため、その基質はFgとFhの両方で削られやすく、Fが低くなりがちです。逆に、静脈内投与ではこの門脈‐肝の経路を通らずに全身へ入るので、初回通過を受けません。経口と静注でFが大きく食い違う薬は、初回通過効果の寄与が大きいサインといえます。
数値化するには基準がいる:絶対BAと相対BA
「Fは0.36」と言うためには、そもそも何とくらべた0.36なのか、比較の基準を決めておく必要があります。基準の取り方で二種類に分かれます。
絶対バイオアベイラビリティ(absolute BA)は、静脈内投与を基準にします。静注ではF=1(100%全身に届く)とみなせるので、同じ人に経口と静注を(用量をそろえて)投与し、AUCの比を取ります。
絶対BA =(AUC経口 ÷ 用量経口)÷(AUC静注 ÷ 用量静注)
相対バイオアベイラビリティ(relative BA)は、静注ではなく別の経口製剤や別の投与経路を基準にします。たとえば新しい錠剤を既存の錠剤と比べる場合で、後発品の生物学的同等性(バイオイクイバレンス)の評価はこの考え方に沿います。
相対BA =(AUC評価製剤 ÷ 用量評価製剤)÷(AUC基準製剤 ÷ 用量基準製剤)
絶対BAは「そもそもどれだけ全身に届くか」という化合物の性質を、相対BAは「製剤や条件を変えたときにどれだけ届き方が変わるか」を見る指標、と整理すると分かりやすいです。
「溶けない」か「通れない」か——BCS分類
入口のFaが下がるとき、その原因をたどると、多くは「溶けない」か「膜を通れない」のどちらかに行き着きます。この二軸で経口固形製剤の原薬を分類するのが、BCS(Biopharmaceutics Classification System、生物薬剤学的分類システム)です。
| クラス | 溶解性 | 透過性 | 吸収の律速になりやすい点 |
|---|---|---|---|
| I | 高 | 高 | 吸収されやすい |
| II | 低 | 高 | 溶解が律速 |
| III | 高 | 低 | 透過が律速 |
| IV | 低 | 低 | 溶解・透過の両方 |
クラスIは溶けやすく膜も通りやすいので、吸収の面では扱いやすい部類です。クラスIIは溶けにくさが、クラスIIIは膜の通りにくさが、それぞれFaの頭打ちを招きます。クラスIVは両方が壁になり、経口で十分な曝露を得るのが難しくなります。
ICH M9では、条件を満たすクラスIやIIIの一部で、生物学的同等性試験を溶出試験で代替できるバイオウェーバーが検討されます。透過性の「高」は、投与量の概ね85%以上が吸収される(あるいは絶対BAが概ね85%以上)ことを目安に定義されます。ここでのBCSはFaを支配する要因の整理であり、初回通過(Fg・Fh)は別の軸である点は押さえておきます。
同じ薬でも数字が動く:食事と種差
ここまでFをFa・Fg・Fhへと分けてきましたが、注意したいのは、これらが化合物固有の一定値ではないことです。「食後に飲んだら効きが強すぎた」「マウスでは高かったFがヒトで再現しない」——こうした場面は、飲む条件や測る生き物でFが動くことの表れです。
食事の影響は薬によってさまざまです。脂溶性の高い薬では、食後の胆汁分泌が溶解を助けてFaが上がり、曝露が増えることがあります。一方で、食事によって胃内容排出が遅れたり、食品成分と結合して吸収が妨げられたりして、Fが下がる薬もあります。だからこそ添付文書には「食後」「空腹時」といった服用条件が明記されます。食事の有無で曝露が大きく動く薬は、食事の影響(food effect)を臨床試験で確認します。
種差も無視できません。げっ歯類・イヌ・サル・ヒトでは、CYPなど代謝酵素の種類や量、腸のpHや通過時間、トランスポーターの発現が異なります。そのため、ある動物で高かったFがヒトでは低い(あるいはその逆)ということが起こります。前臨床のFをヒトへ外挿するときは、代謝経路の種差を踏まえて慎重に読みます。ICH M3(R2)などの非臨床の枠組みも、こうした種差を前提に組まれています。
Fは条件依存の指標です。食事条件や動物種を変えると、Fa・Fg・Fhのどれもが動きえます。数値を比べるときは、投与条件と対象をそろえて読みます。
Fが低かったとき、どこを直すか
Fが低いと分かったら、いきなり製剤をいじる前に、どの関門で削られているかを見極めるのが先決です。ボトルネックが分かれば、それに合った手が選べます。
- 溶解度が低い(クラスII/IVで多い):塩の形を変える、結晶を微粒子化・非晶質化する、可溶化剤や固体分散体を使うなど、製剤で溶けやすくしてFaを底上げします。
- 透過性が低い(クラスIII/IVで多い):分子の脂溶性や水素結合の数を設計段階で調整して膜透過を上げる、あるいはプロドラッグ化で膜を通りやすい形にして吸収させ、体内で元の薬へ戻す方法があります。
- 初回通過が大きい(Fg・Fhが低い):代謝を受けやすい部位を分子設計で守る、代謝の場を迂回する投与経路(舌下・経皮・注射など)に変える、といった選択肢があります。舌下や経皮は、消化管と門脈‐肝を通らずに全身へ入るため、肝初回通過を避けられます。
律速がどこかを、透過性アッセイや代謝安定性、門脈血の測定などで切り分けておくことが、この打ち手選びの前提になります。原因の見当がつかないまま製剤だけを工夫しても、律速が別の関門にあれば効果は限られます。
なお、こうした吸収・初回通過の課題は経口の低分子に特有のものです。点滴や皮下・筋注で投与される抗体、ADC、mRNA-LNP、AAV、siRNA/ASO、細胞治療といった注射・注入型のモダリティでは、そもそも消化管吸収と門脈‐肝の初回通過を経由しないため、経口Fの枠組みはあてはまりません。「経口で飲めること」自体が、低分子ならではの強みであると同時に、Fという固有の難所を抱える理由でもあります。
冒頭の「100mgのうち36mg」に戻れば、その0.36がどこで削られた結果なのか——Faか、Fgか、Fhか——を切り分けられて初めて、次の一手が決まります。式そのものは単純な掛け算でも、各項が条件で動くぶん、要因を分けて読むことが実務の勘所になります。
参考文献
- ICH M9, Biopharmaceutics Classification System-Based Biowaivers
- ICH M3(R2), Guidance on Nonclinical Safety Studies for the Conduct of Human Clinical Trials and Marketing Authorization for Pharmaceuticals
- FDA, Assessing the Effects of Food on Drugs in INDs and NDAs — Clinical Pharmacology Considerations
- FDA, Bioavailability Studies Submitted in NDAs or INDs — General Considerations
- EMA, Guideline on the Investigation of Bioequivalence
- Amidon GL, Lennernäs H, Shah VP, Crison JR. A theoretical basis for a biopharmaceutic drug classification: the correlation of in vitro drug product dissolution and in vivo bioavailability. Pharm Res. 1995;12(3):413-420. PMID: 7617530