低分子研究・DMPK

Caco-2 透過性のPappとは? 算出式と高/低透過性の判定基準

Caco-2細胞は、ヒト大腸がん由来の細胞株です。培養インサート上で数週間かけて単層を作らせると、小腸上皮に近い性質を示します。細胞間はタイトジャンクションで閉じ、頂端側(apical=管腔側)と基底側(basolateral=血管側)に極性ができ、排出トランスポーターや代謝酵素も一部発現します。この単層をモデルに、化合物が腸から吸収される見込みを試験管内で測るのが、Caco-2透過性アッセイです。

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Caco-2 透過性のPappとは? 算出式と高/低透過性の判定基準

測定の中心になる指標が、見かけの透過係数 Papp(apparent permeability coefficient)です。ドナー側(薬物を入れる側)に化合物を加え、レシーバー側(受け取る側)へ時間とともに移った量から、単位面積・単位濃度あたりの透過速度を求めます。値の大小で高透過性か低透過性かを見分け、参照物質と突き合わせて判定します。

本稿では、Pappの算出式、参照物質を使った高/低の目安、A→BとB→Aから求めるefflux ratioによるP-gp基質の見分け方、そしてTEERとLucifer Yellowという品質基準を整理します。最後に、これらがBCS分類やICHのバイオウェーバーとどうつながるかまで触れます。

Pappの算出式

Pappは、レシーバー側に現れる化合物量の増え方を、単層の面積と初濃度で割って求めます。基本の式は次のとおりです。

Papp = (dQ ÷ dt)÷ (A × C0)

  • dQ ÷ dt:レシーバー側の化合物量が時間とともに増える速さ(累積量の傾き)。単位はたとえば pmol/秒。
  • A:細胞単層の面積(cm²)。使うインサートの面積を入れます。
  • C0:ドナー側の初濃度。実験開始時にドナー側へ加えた濃度です。

単位をそろえると、Pappは cm/秒で表されます。実測値は小さいため、10のマイナス6乗 cm/秒(×10⁻⁶ cm/s)を単位に使うのが一般的です。式そのものは単純ですが、dQ ÷ dt を正しく取るには、レシーバー側の濃度が時間に対してほぼ直線で増える範囲(シンク条件が保てている初期)で傾きを読む必要があります。Pappは「単位面積・単位濃度あたりに、単層をどれだけの速さで透過するか」を一つの数字にまとめた指標 です。

POINT

Pappの式は「レシーバーへ移る速さ ÷(面積 × 初濃度)」です。傾き dQ/dt は、濃度が直線的に増える初期の範囲で取るのが前提になります。

高透過性・低透過性の目安と参照物質

Pappの絶対値は、細胞ロットや培養条件、装置で動きます。そのため単独の数値だけで判断せず、同じ系で測った参照物質と比べて相対的に読みます。目安として、次のような区分が使われることがあります。

区分Pappの概ねの範囲(×10⁻⁶ cm/s)
低透過性概ね 1 未満
中程度概ね 1〜10
高透過性概ね 10 超

この区分はあくまで一例で、施設ごとに閾値は異なります。より確実なのは、既知の高透過性物質と低透過性物質を毎回いっしょに測り、被験物質がどちら寄りかを見ることです。参照物質としては、高透過性の代表にプロプラノロール、低透過性の代表にアテノロール がよく使われます。プロプラノロールは受動拡散で速く透過し、アテノロールは親水性が高く単層をほとんど通りません。この二つの間のどこに被験物質が入るかで、吸収の見込みをおおまかに位置づけられます。

代謝側の評価を組み合わせると絵がさらに揃います。腸で吸収されても肝臓で速く代謝される化合物は、経口での曝露が伸びにくいためです。肝クリアランスの見積もりは、肝ミクロソームによる固有クリアランス測定で扱っています。

efflux ratioでP-gp基質を見分ける

Caco-2単層は排出トランスポーター、とくにP-糖タンパク質(P-gp)を発現します。P-gpは頂端側の膜にあり、細胞内に入った化合物を管腔側へ汲み出します。これが効くと、吸収方向(A→B)の透過が抑えられ、逆方向(B→A)が見かけ上速くなります。この非対称性をとらえるのが efflux ratio(排出比)です。

efflux ratio = Papp(B→A)÷ Papp(A→B)

判定の目安は次のとおりです。

efflux ratio解釈の目安
概ね 2 未満能動的な排出は目立たない
概ね 2 以上排出が起きている可能性が高い(P-gp等の関与を疑う)

efflux ratioが2以上でも、それだけではP-gpと断定できません。確かめるには、P-gp阻害剤を加えた条件でもう一度測ります。阻害剤の存在下でefflux ratioが下がり、方向差が消える(概ね1に近づく)なら、その排出がP-gp由来だと支持されます。efflux ratioが概ね2以上で、かつP-gp阻害剤でその比が明確に下がるとき、その化合物はP-gp基質と判断されます 。P-gp基質かどうかは、脳移行性や薬物相互作用の見立てに関わるため、早い段階で押さえておく意味があります。

TEERとLucifer Yellowの品質基準

Pappやefflux ratioは、単層がきちんと閉じていて初めて意味を持ちます。単層に隙間があると、化合物が細胞間を素通りしてしまい、透過性を過大評価します。そこで、単層の健全性を二つの指標で確認します。

  • TEER(経上皮電気抵抗):単層の電気抵抗を測る指標です。タイトジャンクションが閉じているほど抵抗は高くなります。実務では概ね数百 Ω・cm²(たとえば 300〜500 Ω・cm² 程度)を許容の目安に置く例があります。基準を下回れば、単層に損傷や孔があると考え、そのウェルのデータは採用しません。
  • Lucifer Yellow(ルシファーイエロー)透過:細胞間隙(傍細胞経路)を通る蛍光色素で、単層の漏れを直接見ます。被験物質といっしょに加え、実験後にどれだけ漏れたかを測ります。あらかじめ決めた許容値(施設ごとに設定する漏れ量の上限)を超えたウェルは、漏れありとして除外します。

この二つは狙いが少し違います。TEERは測定前に単層の抵抗で健全性を見る指標、Lucifer Yellowは測定と同時に実際の漏れを確認する指標です。両方をそろえると、「電気的にも物理的にも閉じていた」ことを裏づけられます。TEERとLucifer Yellowは、単層が閉じていたことを保証する品質ゲートで、これを満たさないデータは透過性の判定に使えません

POINT

Pappが低く出ても、単層が漏れていれば数値は信用できません。TEERとLucifer Yellowで単層の健全性を確認してから、透過性を判定します。

BCS分類・バイオウェーバーとの接続

Caco-2で得た透過性は、製剤開発の下流でBCS(Biopharmaceutics Classification System)分類につながります。BCSは、経口固形製剤の原薬を「溶解性」と「腸管透過性」の高低で四つに分ける枠組みです。

クラス溶解性透過性
I
II
III
IV

透過性の「高」は、ヒトでの吸収割合(吸収率)を基準に定義されます。ICH M9(BCSに基づくバイオウェーバー)では、投与量の概ね85%以上が吸収される(あるいは絶対バイオアベイラビリティが概ね85%以上)ことをもって高透過性と結論できる、とされています。この判定は、既知の高吸収化合物を並べて測る in vitro 透過性モデルでも支持でき、Caco-2はその選択肢の一つに位置づけられます。

BCSクラスIやIIIの一部では、条件を満たせば生物学的同等性試験を溶出試験で代替できるバイオウェーバーが検討されます。ここでCaco-2の透過性データが、透過性区分を裏づける根拠の一部になり得ます。ただし、in vitro モデルを分類の根拠に使うには、系のバリデーションや参照物質の設定など、ガイドラインが求める要件を満たす必要があります。Caco-2のPappは創薬初期のスクリーニング指標であると同時に、要件を満たせばBCSの透過性区分を支える証拠にもなり得ます

まとめ

Caco-2透過性アッセイは、腸吸収の見込みを試験管内で見積もる基本的な評価系です。中心指標のPappは「レシーバーへ移る速さ ÷(面積 × 初濃度)」で求め、参照物質(高透過性のプロプラノロール、低透過性のアテノロール)と比べて高/低を読みます。A→BとB→Aから求めるefflux ratioが概ね2以上で、P-gp阻害剤でその比が下がれば、P-gp基質と判断できます。どの数値も、TEERとLucifer Yellowで単層の健全性を確認できて初めて意味を持ちます。得られた透過性は、要件を満たせばBCS分類やICH M9のバイオウェーバーの根拠にもつながります。式と閾値は単純でも、条件依存の面が多いアッセイなので、参照物質と品質基準をそろえて読むことが欠かせません。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、低分子に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。
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