BCS分類(生物薬剤学分類)とは?溶解度と膜透過性で分ける4クラス
後発医薬品を開発するとき、ヒトで血中濃度を比べる試験を、試験管の中の溶出データで代えられることがあります。その入り口になる条件の1つは、薬の最高用量が、コップ1杯ほどの 250 mL の水に溶けきるかどうかです。

この線引きを支えているのが、BCS分類(Biopharmaceutics Classification System溶解性と腸管透過性で経口薬を4クラスに分ける枠組み。詳しく →、生物薬剤学分類)です。飲み薬が効くには、まず消化管の液に溶け、次に腸の壁を通り抜けなければなりません。BCS は、原薬の溶けやすさ(溶解度)と、腸の壁の通りやすさ(膜透過性化合物が細胞膜を透過する速さの指標。経口薬の吸収性の評価に使われる。詳しく →)の2軸で原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →を4つのクラスに分けます。どのクラスかが分かれば、吸収のどこで詰まりやすいか、製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →で何を工夫すべきか、ヒトの試験を省けるかの見当がつきます。
BCS分類の2つの軸 ― 溶解度と膜透過性
BCS は、1995年に Amidon らが提唱した枠組みです。いまは ICH M9(2019年)が、バイオウェーバー条件を満たせば生物学的同等性試験を溶出試験で代替できる制度。BCSに基づき検討される。詳しく →のための判定基準として定めています。
溶解度の軸では、原薬の最高用量が、pH 1.2〜6.8 の水性の液 250 mL 以下に溶けきれば「高溶解度」とします。250 mL は薬と一緒に飲むコップ1杯の水、pH 1.2〜6.8 は胃から小腸までの酸性度を想定した値です。ここで見るのは錠剤1錠の含量製品にどれだけの目的物質が含まれるか(含量)や、その生物学的な効き目の強さ(活性)を示す指標です。培養液中の産生量を指す場合もあります。詳しく →ではなく、1回に飲む最高用量です。同じ原薬でも、高い用量の製品があれば判定が変わることがあります。
膜透過性の軸では、飲んだ量の 85% 以上が吸収されれば「高透過性」とします。根拠は、ヒトでの絶対バイオアベイラビリティ静脈内投与(F=1)を基準に、経口などのAUC比から求めるバイオアベイラビリティ。詳しく →や、尿に回収される量です。ヒト大腸がん由来の Caco-2ヒト大腸がん由来の細胞株。単層が小腸上皮に近く、腸吸収の見込みを試験管内で測るのに使う。詳しく → 細胞を使った透過試験で裏づけることもできます。その測り方はCaco-2透過性のPappで、計算はCaco-2 Papp計算ツールで試せます。
注意したいのは、BCS が見ているのは腸の壁に取り込まれるところまで、という点です。吸収されたあとに腸や肝臓で代謝されて減る分(初回通過効果吸収された薬が全身に回る前に腸壁や肝臓で最初に代謝され、量が削られる現象。詳しく →)は、BCS原薬を溶解性と透過性の高低で四つに分ける分類。経口吸収の律速要因を整理するのに使う。詳しく → の外にあります。溶けやすく膜も通りやすい薬なのに血中濃度が低いなら、まず疑うのは吸収より代謝です。この切り分けはバイオアベイラビリティと初回通過効果で扱っています。
BCS のクラスは、吸収の入り口でどこが詰まりやすいかを示すもので、血中濃度そのものを予測するものではありません。
4つのクラスと製剤の打ち手
2軸の高い・低いを組み合わせると、原薬は4つのクラスに分かれます。
製剤の工夫がもっとも効くのは、クラスIIです。膜は通れるのに溶けきらないので、溶けさえすれば吸収が伸びます。塩の形を変える、結晶を細かく砕く、結晶でない状態(非晶質)にして固体分散体難溶性薬物を高分子担体中に分子レベルで分散させ、溶解速度・溶解量を改善した製剤技術。詳しく →にする、といった手が使えます。非晶質化の考え方は非晶質固体分散体、固体分散体をつくる代表的な工程は噴霧乾燥の工程設計にまとめています。
クラスIIIは逆です。溶けているのに、膜を通りにくい原薬です。溶解度をいくら上げても、通れる量は頭打ちのままです。脂溶性を調整したり、膜を通りやすい形に変えて体内で元に戻るプロドラッグ体内で代謝されて初めて活性を示す形にした薬。膜透過性を高めて吸収させる工夫などに使う。詳しく →にしたりと、分子の側からの手当てが中心です。クラスIVは両方の対策が要り、投与経路そのものを見直すこともあります。
製剤の工夫に予算と時間をかける価値があるかは、その原薬がクラスIIか、IIIかでほぼ決まります。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べるバイオウェーバーの条件 ― ICH M9
後発品の承認や、承認後の製剤の変更では、ふつうヒトで生物学的同等性二つの製剤が同程度に全身へ届くことを示すこと。後発品の評価などで用いる。詳しく →試験を行います。新しい製剤と基準の製剤を飲んでもらい、血中濃度が同じように推移することを示す試験です。
BCS に基づくバイオウェーバー(生物学的同等性試験の免除)は、この試験を、試験管の中の溶出試験で代える仕組みです。ICH M9BCSに基づくバイオウェーバーの考え方を示すICHガイドライン。詳しく → で対象になるのは、高溶解度のクラスIとクラスIIIだけです。溶けやすく、溶けることが吸収の壁にならない原薬なら、試験管の中で同じように溶けることが、体の中でも同じように吸収されることの根拠になるからです。
条件は、溶出の速さと添加剤に付きます。溶出は、15分以内に 85% 以上溶ければ「非常に速い」、30分以内に 85% 以上なら「速い」と呼びます。クラスIは、新旧の製剤がどちらも非常に速いか、どちらも速くて溶け方が似ていれば対象です。クラスIIIは、どちらも非常に速いことが求められ、添加剤も基準の製剤と同じ種類で、量もほぼ同じにそろえる必要があります。膜を通りにくい薬では、添加剤のわずかな違いが吸収を動かしうるからです。
対象は、全身に届けるための即放性の飲み薬に限られます。効く量と害の出る量の幅が狭い薬(治療域の狭い薬)は、高溶解度でも対象から外れます。

低溶解度のクラスIIとIVは、バイオウェーバーの対象になりません。溶け方のわずかな差が、そのまま吸収の差になりうるためです。
BCSとBDDCSの違い
BCS とよく似た名前の枠組みに、BDDCS(Biopharmaceutics Drug Disposition Classification System)があります。2005年に Wu と Benet が提唱したもので、溶解度の軸は BCS と同じです。違うのはもう一方の軸で、膜透過性の代わりに「どれだけ代謝されるか」を置きます。高透過性の薬ほど肝臓でよく代謝される、という観察が出発点です。透過性を直接測るより、代謝の程度のほうがデータをそろえやすい場面があります。
使い道も違います。BCS は主に吸収の見通しとバイオウェーバーの判断に使い、BDDCS はトランスポーター細胞膜にあり薬を細胞外へ汲み出したり内へ引き込んだりして、体内濃度を左右するタンパク質。詳しく →(薬を細胞に出し入れする輸送体)の影響や、体からの消え方の見通しに使います。名前が似ているので、会議の資料でどちらのクラスの話かを取り違えないようにします。代謝反応の種類は薬物代謝の第I相・第II相反応、体からの消え方は半減期とクリアランスが次の1本です。
BCSの判定で確かめる点
BCS のクラスやバイオウェーバーの話が出たら、手元の資料で次の点を確かめておくと、判断の取り違えを防げます。
- 溶解度の判定が、錠剤1錠の含量ではなく、1回の最高用量で行われているか
- 溶解度を pH 1.2〜6.8 の範囲の複数の条件で測っているか
- 高透過性の根拠が、ヒトでの吸収データか、Caco-2 などの細胞試験か
- 対象の製品が、全身に届ける即放性の飲み薬か。治療域の狭い薬に当たらないか
- クラスIIIの場合、添加剤の種類が基準の製剤と同じで、量もほぼ同じか
- 新旧の製剤の溶出が、15分で 85%(非常に速い)または30分で 85%(速い)に届いているか
- 「BCS クラス」と「BDDCS クラス」のどちらの話か
血中濃度の指標そのものの読み方は、AUC・Cmax・Tmaxで解説しています。吸収から排泄までを数式モデルで予測する方法は、PBPKモデリングに進んでください。
参考文献
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → M9: Biopharmaceutics Classification System-Based Biowaivers(Step 4, 2019年11月). ICH 多分野ガイドライン一覧(高溶解度・高透過性の定義、クラスI・IIIの溶出と添加剤の条件、治療域の狭い薬の除外)
- FDA, M9 Biopharmaceutics Classification System-Based Biowaivers(FDAガイダンス文書検索)
- Amidon GL, Lennernäs H, Shah VP, Crison JR. A theoretical basis for a biopharmaceutic drug classification: the correlation of in vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。詳しく → drug product dissolution and in vivo生きた動物の体内で試験を行うこと。物質が吸収・代謝を受けた実際の状態での影響を見られる。詳しく → bioavailability. Pharm Res. 1995;12(3):413-420.
- Wu CY, Benet LZ. Predicting drug disposition via application of BCS: transport/absorption/elimination interplay and development of a biopharmaceutics drug disposition classification system. Pharm Res. 2005;22(1):11-23.
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/bcs-classification-oral-absorption