半減期とは?クリアランス・分布容積との関係と報告書の読み方
半減期薬の血中濃度が半分に下がるまでの時間。抗体フラグメントでは短く、延長の工夫が要る。詳しく →が長い薬は、体から抜けるのが遅い薬でしょうか。答えは、必ずしもそうではありません。
不整脈の薬アミオダロンは、米国の添付文書に、健康な人に1回投与した試験での終末相の半減期が平均58日(15〜142日)と載っています。ただ、この長さは除去の遅さだけで決まっているのではありません。体の脂肪や、肝臓・肺・脾臓などに大量に入り込む広がりの大きさも、半減期を押し上げています。添付文書には、分布容積薬が体内でどれだけ広い範囲に分布しているかを表す見かけの容積。抗体は小さく血漿周辺にとどまる。詳しく →が平均で体重1 kgあたり約60 Lと書かれています。

半減期は、薬を取り除く力(クリアランス)と、体の中での広がり(分布容積)から決まる結果の数字です。報告書で「t1/2」を見たら、どの半減期か、何が決めた数字かを先に確かめると、投与間隔や体内蓄積の読み違いを避けられます。
半減期の決まり方 ― クリアランスと分布容積
半減期は、血中濃度が半分に下がるまでの時間です。ただし、その長さを決めている原因は別にあります。浴槽の栓を抜く場面で考えます。排水口の大きさがクリアランス、浴槽の大きさが分布容積にあたります。同じ排水口なら、浴槽が大きいほど水位が半分になるまでに時間がかかります。浴槽が同じなら、排水口が大きいほど、早く半分まで下がります。半減期は、この二つの組み合わせから出てくる数字です。
クリアランス(CL)は、単位時間に薬をきれいにできる血液(血漿)の体積です。単位が mL/分や L/時と、量ではなく体積を時間で割った形で書かれるのは、除去される薬の量ではなく、処理の能力を表しているからです。肝臓や腎臓など、各臓器の処理能力を足し合わせたものが全身のクリアランスです。分布容積(Vd)は、薬が体のどこまで広がっているかを表す仮想の体積で、詳しくは分布容積(Vd)とはで解説しています。
クリアランスが同じでも、分布容積が大きい薬は半減期が長くなります。組織の奥に隠れている薬が多く、除去を担う臓器へ血流で運ばれてくる割合が小さいからです。アミオダロンの長い半減期には、この広がりの大きさが効いています。逆に言えば、半減期の長さだけからは、除去が遅いのか、広がりが大きいのかは分かりません。
クリアランスは「除去される薬の量」ではなく、「単位時間にきれいにできる血液の体積」です。半減期からクリアランスを直接読み取ることはできません。
報告書に載る半減期の種類
報告書に半減期が一つだけ載っていても、多くの薬の血中濃度は、投与直後に組織へ広がりながら急に下がり、そのあとゆっくり抜けるという、二つの段階を踏みます。

報告書に「t1/2」とあるものの多くは、後ろの段階(終末相)の傾きから求めた終末相の半減期です。最後の数点から推定するので、採血が早く終わっていたり、測定の下限が高くて後半の濃度が測れていなかったりすると、値が安定しません。
アミオダロンの添付文書は、この二つの段階を数字で示しています。長期投与をやめたあと、血中濃度が最初の半分になるまでは2.5〜10日ですが、そこから先の終末相は平均約53日(26〜107日)です。段階が違えば、半減期もまるで違います。
経口の薬では、クリアランスが「CL/F」と書かれていることがあります。F は飲んだ量のうち全身に届く割合(バイオアベイラビリティ投与した薬のうち、未変化のまま全身循環に到達する割合。静脈内投与を100%として比較する。詳しく →)で、これで割った見かけの値です。静脈内投与で得た値とは、そのまま並べて比べられません。割合の見積もりはバイオアベイラビリティと初回通過効果で整理しています。
申請書類(CTD)では、動物の試験の薬物動態投与した薬が体内で吸収・分布・代謝・排泄されていく挙動。ADCではDARが大きく影響する。詳しく →は2.6.4、ヒトの臨床薬理は2.7.2に要約が載ります。要約の表の数字は、元の報告書に戻れば、どの段階の値かを確かめられます。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる投与間隔と定常状態
前の薬が抜けきらないうちに次を入れると、薬は体の中に積み上がります。投与間隔が半減期と同じくらいなら、落ち着いたときの量はおおよそ2倍まで積み上がります。間隔が半減期より十分に長ければほとんど積み上がらず、短ければ大きく積み上がります。
落ち着く(定常状態に達する)までの時間は、半減期の4〜5倍が目安です。4倍で約94%、5倍で約97%に届きます。半減期が1日の薬なら数日で済みますが、約58日の薬では半年以上かかります。そのため半減期の長い薬では、最初だけ多めに入れて早く目標の濃度に乗せる負荷投与(ローディングドーズ目標の血中濃度に素早く到達させるための初回の投与量。目標濃度とVdの積で見積もる。)が使われます。この量は分布容積から見積もります。
一方、落ち着いたときの平均の高さを決めるのは、クリアランスと投与量です。クリアランスが半分の患者では、同じ量を飲み続けると、定常状態増殖と引き抜きが釣り合い、細胞密度や代謝の指標が時間で大きく動かない状態。詳しく →の平均濃度はおよそ2倍に上がります。投与量を増やしても、定常状態に届くまでの時間は縮みません。
半減期を延ばして投与間隔を広げた例もあります。補体 C5 を抑える抗体医薬のエクリズマブは、成人の維持投与が2週間ごとの点滴です。これをもとに、細胞の中で標的から離れ、FcRnIgGを細胞内でリサイクルして血中半減期を延ばす受容体。サイレンシング設計でも結合を残すことが多い。詳しく →(抗体を分解から救って血中へ戻す受容体)に乗り換えやすくする改変を加えたラブリズマブは、同じく成人で8週間ごとです。点滴の回数は4分の1に減ります。FcRn と抗体の半減期の関係は抗体のPK/PDで解説しています。
半減期は到達の速さと山谷の幅を決め、定常状態の高さを決めるのはクリアランスと投与量です。
飽和と個人差
ここまでの話は、除去の仕組みが一定の力で働き続ける「線形」が前提です。
除去を担う酵素などが満杯になる薬では、濃度が上がるほど除去の力が頭打ちになり、用量を増やすほど半減期が延びます。抗てんかん薬のフェニトインが代表例として古くから知られています。この場合、半減期は一つの固定値では語れず、用量ごとに確かめる必要があります。仕組みは非線形薬物動態で解説しています。
個人差も大きな要因です。アミオダロンの終末相の半減期は、健康な12人に1回だけ投与した試験でも15〜142日と大きな幅がありました。報告書は平均値だけでなく、範囲やばらつきまで読みます。患者ごとのばらつきを統計モデルで扱う方法は、母集団薬物動態にまとめています。
用量を変えると半減期が動く薬では、一つの数字を別の用量や別の患者にそのまま当てはめません。
明日から確かめられること
手元の開発報告書か添付文書の薬物動態の欄を開き、半減期の数字より先に、次の点を読みます。
- 半減期は終末相の値か。何点から、どの時間帯の採血で求めたか
- 測定の下限は十分に低く、採血は濃度が十分に下がるまで続いているか
- 静脈内投与か経口か。経口なら、CL/F のような見かけの値として区別されているか
- 誰の値か(健康な成人か患者か)。平均だけでなく、範囲もあるか
- 用量を変えた試験で、半減期が動いていないか(動くなら非線形)
- 定常状態に届くまでの期間(半減期の4〜5倍)が、試験の長さに収まっているか
- 濃度を測った分析法は、遊離型か総量か。試験をまたいで同じ定義か
濃度の測定そのものを信頼してよいかはバイオアナリシスのバリデーションで、AUC や Cmax投与後に達する最も高い血中濃度。薬がどれくらいの速さで届くかの指標。詳しく → の読み方はAUC・Cmax・Tmaxとは?で解説しています。受託先の候補は、PK/免疫原性バイオアナリシス(受託)でまとめて比べられます。
参考文献
- Rowland M, Tozer TN. Rowland and Tozer's Clinical Pharmacokinetics and Pharmacodynamics: Concepts and Applications. 5th ed. Wolters Kluwer, 2019.(クリアランス・半減期・分布容積の定義と相互関係) https://shop.lww.com/Rowland-and-Tozer-s-Clinical-Pharmacokinetics-and-Pharmacodynamics--Concepts-and-Applications/p/9781496385048
- Hallare J, Gerriets V. Elimination Half-Life of Drugs. StatPearls [Internet]. StatPearls Publishing.(半減期・消失速度定数基質濃度が一次反応で減る速さを表す定数。ln濃度と時間の直線の傾きから求め、半減期に換算する。・定常状態への到達) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK554498/
- Pacerone (amiodarone HCl) tablets, US Prescribing Information, Clinical Pharmacology(終末相の半減期、分布容積)
- ULTOMIRIS (ravulizumab), Australian Product Information, TGA(FcRn による再循環と半減期の延長、維持投与の間隔)
- Scottish Medicines Consortium, ravulizumab (Ultomiris) advice, January 2021(エクリズマブとの投与間隔の比較)
- ICH M4S: The Common Technical Document for the Registration of Pharmaceuticals for Human Use: Safety(2.6.4 薬物動態の記載)
- ICH M4E(R2): The Common Technical Document for the Registration of Pharmaceuticals for Human Use: Efficacy(2.7.2 臨床薬理の要約)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/half-life-clearance