用量を倍にしても曝露は倍にならない?非線形PKの見分け方
てんかんの薬フェニトインは、血中濃度がすでに治療域の上のほうにいる患者へ少し増量しただけで、濃度が大きく跳ね上がることがあります。添付文書にもそう書かれています。逆にガバペンチンは、1日900 mgなら約60%が吸収されるのに、4800 mgでは27%まで下がります。増やすほど、体に入る割合が減っていくのです。

どちらも「用量を2倍にすれば、曝露(体が実際に浴びた薬の量)も2倍」という前提が崩れた例で、非線形薬物動態投与した薬が体内で吸収・分布・代謝・排泄されていく挙動。ADCではDARが大きく影響する。詳しく →(nonlinear PK)と呼びます。原因はほとんどの場合、薬を処理する仕組みに上限があり、それが埋まる飽和(saturation)です。
増量の幅も、投与間隔も、毒性試験の安全域も、この比例の前提の上で組み立てられています。どこで前提が崩れやすいかを知っておくと、増量して危険になる薬と、増量しても効かなくなる薬を、早い段階で見分けられます。
比例が崩れる2つの向き ― 跳ね上がる型と伸びない型
非線形には、曝露が用量以上に増える型と、用量ほど増えない型があります。
跳ね上がる型は、薬を体から消す側が飽和したときに起きます。出口が一つしかない通路のようなものです。人が少ないうちは、増えた分だけ出口を通れます。ところが出口が満員になると、増えた分は通れずに体にたまります。フェニトインの代謝酵素がこの状態で、濃度が高いほど消える速さが頭打ちになり、半減期薬の血中濃度が半分に下がるまでの時間。抗体フラグメントでは短く、延長の工夫が要る。詳しく →も延びます。アルコールが一定のペースでしか分解されないのも、同じ代謝の飽和です。
この型には落とし穴があります。半減期が延びると、定常状態増殖と引き抜きが釣り合い、細胞密度や代謝の指標が時間で大きく動かない状態。詳しく →(投与と消失が釣り合って濃度が落ち着いた状態)に着くまでの時間も延びます。フェニトインの添付文書は、定常状態まで7〜10日かかることがあるため、用量の変更はそれより短い間隔で行わないよう求めています。増量の直後に測った濃度は、最終的な濃度より低く出ます。
伸びない型は、吸収する側が飽和したときに起きます。ガバペンチンは小腸の上部にある、アミノ酸を運ぶ仕組み(トランスポーター)で吸収されます。この運び屋が満員になると、飲んだ量を増やしても取り込まれる量が増えません。添付文書では、1日900、1200、2400、3600、4800 mg(3回に分けて服用)でバイオアベイラビリティ投与した薬のうち、未変化のまま全身循環に到達する割合。静脈内投与を100%として比較する。詳しく →が約60%、47%、34%、33%、27%と下がります。

もう一つ、用量ではなく時間で変わる型があります。薬が自分を分解する酵素を増やしてしまう自己誘導(オートインダクション大腸菌などで目的タンパク質の発現スイッチを入れる試薬で、培養の適切な時点で加えて生産を開始させます。詳しく →)では、飲み続けるうちに消える速さが上がり、曝露が当初より下がっていきます。
表の3行目と4行目は、少し説明が要ります。薬は血中でアルブミン血漿タンパクの約6割を占め、結合容量は大きいが親和性は高くない受け皿。詳しく →などに結合し、結合していない遊離型だけが効いたり処理されたりします。この結合の席が埋まると遊離型の割合が上がるので、総濃度だけを測っていると、実際に働く量の増え方を見落とします。遊離型分率の見かたは別の記事にまとめています。抗体の場合は、飽和する相手が標的そのものです。標的に結合して消える経路(標的介在性クリアランス、TMDD)が低用量では大きく効き、用量を上げて標的が埋まると効かなくなります。詳しくは抗体のFcRnとTMDDで扱っています。
曝露が用量以上に増えるのは「消す側」の飽和、用量ほど増えないのは「入れる側」の飽和です。まず、どちら側の上限にぶつかっているのかを疑います。
現場で困る場面 ― 増量、蓄積、毒性試験
非線形が実務で効いてくるのは、次の3つの場面です。
1つ目は、増量の一歩です。跳ね上がる型の薬では、予定していた増量の幅が、思っていた以上の濃度上昇につながります。フェニトインの有効な血中濃度は総濃度で10〜20 µg/mLとされ、この幅の中に収まる用量が人によって大きく異なるうえ、少しの増量で上端を超えやすくなります。治療域が狭い薬と非線形が重なると、最も管理が難しくなります。治療域の考え方は治療係数と治療域で整理しています。
2つ目は、蓄積の見積もりです。単回投与の結果を足し合わせれば反復投与の濃度が分かる、という計算は線形のときだけ使えます。消失が飽和する薬は、反復すると単回よりも多くたまり、自己誘導培地成分(乳糖など)で発現を自動的に誘導し、誘導剤の添加操作を省く方法。詳しく →のある薬は逆に下がります。第I相の単回投与と反復投与で、半減期やクリアランスが食い違っていないかを見る理由はここにあります。
3つ目は、毒性試験の読み方です。毒性試験では、わざと高い用量まで投与します。すると吸収が飽和して、用量を2倍にしても曝露が増えない、ということが起きます。ICH M3(R2)臨床試験を支える非臨床安全性試験の実施時期や内容の全体像を示すICHガイドライン。詳しく →も、毒性試験の最高用量を決める根拠として、最大耐量動物が耐えられる最大の投与量。近年は曝露マージンを踏まえ、機械的に最大耐量まで上げない考え方が重視される。詳しく →や投与できる最大量と並べて、曝露の飽和(吸収の飽和を含む)を挙げています。つまり曝露が頭打ちになった用量は、それ以上に上げても意味がないので、そこを最高用量にしてよいという考え方です。
ただし、読む側の注意が一つ要ります。動物の安全域は、与えた用量ではなく、実際に浴びた曝露(AUC遠心中の試料の沈み方を光で測り、分子の大きさや会合状態を調べる分析装置です。純度や凝集の評価に使います。詳しく →など)で人と比べます。用量が10倍違っても曝露が数倍しか違わないなら、用量で語った安全域は、実際より大きく見積もった値です。逆に、消失が飽和する薬では、用量の段を広くとると、毒性が出始める境目を飛び越えることがあります。この曝露の測り方はトキシコキネティクスとICH S3Aで解説しています。
比例が崩れた薬では、「何 mg 投与したか」より「どれだけ体が浴びたか」で判断します。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる見分け方 ― 用量あたりの曝露と、単回・反復の比較
見分ける基本は、用量を変えて曝露を測り、用量あたりの曝露を並べることです。
3つ以上の用量でAUCとCmax投与後に達する最も高い血中濃度。薬がどれくらいの速さで届くかの指標。詳しく →を測り、それぞれを用量で割ります。値がほぼ同じなら比例しています。用量が上がるほど大きくなれば跳ね上がる型、小さくなれば伸びない型です。統計の解析では、用量と曝露の関係の傾きを推定して1に近いかを見る方法(べき乗モデル、パワーモデル)がよく使われます。判定の基準は、評価の目的で変わります。用量依存性(用量比例性)とはに、基準の違いをまとめています。
もう一つの手がかりは、単回と反復の食い違いです。単回投与のデータから予測した定常状態の濃度が、実測と合わないときは、濃度に依存する非線形か、時間に依存する非線形(自己誘導など)を疑います。
見分けるときに混ざりやすいのが、併用薬の影響です。ほかの薬が代謝酵素を阻害したり誘導したりしても、曝露は用量と切り離されて動きます。見かけは似ていますが、原因は飽和ではなく相互作用で、対処も違います(CYP阻害・誘導と薬物相互作用)。
言葉の紛らわしさにも注意が要ります。母集団PKで使う「非線形混合効果モデル」の「非線形」は、モデルの数式の形を指す言葉で、用量と曝露が比例しないという意味ではありません(母集団薬物動態)。
よくある失敗 ― 用量の幅、総濃度、単回からの推定
失敗の多くは、見た範囲が狭いことから起きます。
1つ目は、用量の幅が狭いまま「比例している」と結論することです。2倍の幅の中で比例していても、その上で飽和するかどうかは分かりません。臨床で使う用量と、増量の上限をまたいで測ってあるかを確かめます。
2つ目は、総濃度だけを見ることです。タンパク結合が強い薬で結合の席が埋まると、総濃度の動きと遊離型の動きがずれます。
3つ目は、単回の結果で反復を語ることです。自己誘導や、消失の飽和による半減期の延びは、単回では見えません。
4つ目は、動物の高用量で曝露が頭打ちなのに、用量で安全域を計算することです。報告書の表に用量しか載っていなければ、曝露の表を求めます。
明日から確かめられること ― PK報告書とTK報告書
PKやTK(毒性試験での曝露測定)の報告書を開いたら、次の点を見てください。
- 用量が3段階以上あり、臨床で使う範囲と増量の上限をまたいでいるか
- 用量で割ったAUCとCmaxの表か図があり、比例の判定に使った基準が書かれているか
- 単回と反復の両方で、半減期とクリアランスが比べられているか
- タンパク結合が強い薬で、総濃度のほかに遊離型を評価しているか
- 毒性試験で、高用量群の曝露が頭打ちになっていないか。なっているなら、安全域を曝露で計算しているか
- 治療域の狭い薬で、増量の幅と、濃度を測る時期が定常状態に届いているか
曝露の指標そのものはAUC・Cmax・Tmaxとは、消える速さの考え方は半減期とクリアランス、吸収の上限はバイオアベイラビリティと初回通過効果で読めます。抗体や生物学的製剤抗体など生き物由来の医薬品で、NOAEL起点の換算だけでは危ういことがある。詳しく →の濃度測定を外部に頼むときは、PK/免疫原性バイオアナリシスの製品ガイドが出発点です。
参考文献
- Pfizer, DILANTIN (phenytoin) prescribing information(飽和性の代謝、少しの増量による濃度の上昇、有効な血中濃度、定常状態までの時間と用量変更の間隔)
- Neurontin (gabapentin) prescribing information, Clinical Pharmacology(1日量ごとのバイオアベイラビリティ)
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → M3(R2), Nonclinical Safety Studies for the Conduct of Human Clinical Trials and Marketing Authorization for Pharmaceuticals(毒性試験の最高用量の根拠に曝露の飽和を含めること)
- Smith BP, et al. Confidence interval criteria for assessment of dose proportionality. Pharm Res. 2000;17(10):1278-1283.
- Derendorf H, Schmidt S. Rowland and Tozer's Clinical Pharmacokinetics and Pharmacodynamics: Concepts and Applications. 5th ed. Wolters Kluwer, 2019.(飽和型の代謝、タンパク結合の飽和)
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