CYP阻害・誘導による薬物相互作用(DDI)とは?予測の考え方
多くの低分子薬は、肝臓のシトクロムP450(CYP)という酵素で代謝され、体から消えていきます。ここで二つの薬が同じCYP分子種を共有すると、一方の薬がその酵素の働きを変え、もう一方の薬の血中濃度を押し上げたり押し下げたりすることがあります。これがCYPを介した薬物相互作用(DDI=drug-drug interactionある薬がトランスポーターや酵素を阻害・誘導し、併用薬の濃度を変える薬物相互作用。)です。濃度が上がりすぎれば副作用に、下がりすぎれば効果不足につながります。

やっかいなのは、酵素の働きの変え方が一通りではないことです。酵素を邪魔する阻害には、すぐ効いてすぐ戻る可逆的阻害と、酵素そのものを壊してしまう時間依存性阻害があり、効き方の時間経過がまるで違います。さらに逆方向として、酵素の量そのものを増やして代謝を速める誘導もあります。同じ「CYPのDDI併用薬が代謝酵素を阻害・誘導し合い、血中濃度が変動する現象。fmはこのリスク評価の土台になる。」でも、どの機序かによって濃度の動く向きも、現れるまでの時間も変わります。
開発では、これらをまず試験管内(in vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。)で調べ、簡便な指標でふるいにかけ、必要なら精緻なモデルで詰め、最後に臨床試験の要否を判断します。本稿では、CYP肝臓に多く存在する代表的な薬物代謝酵素群。多くの低分子医薬の代謝を担う。阻害・誘導がDDIを起こす仕組みと、in vitroから臨床へつなぐ段階的な予測の考え方を整理します。
CYPを介したDDIの仕組み:加害薬と被害薬
CYP(シトクロムP450肝臓に多く存在する代表的な薬物代謝酵素群。多くの低分子医薬の代謝を担う。)は、低分子薬の第I相代謝を担う中心的な酵素群です。第I相・第II相を通じた代謝の全体像は薬物代謝の第I相・第II相で扱っています。DDIを考えるときは、関わる二つの薬を役割で分けて見ると整理しやすくなります。
一方が加害薬(perpetrator)で、CYPの働きを変える側、つまり阻害薬か誘導薬です。もう一方が被害薬(victim)で、そのCYPで代謝される基質であり、血中濃度が動かされる側です。加害薬がCYPを阻害すれば被害薬の代謝が滞って濃度が上がり、誘導すれば代謝が速まって濃度が下がります。
相互作用の大きさは、被害薬側の事情で決まります。被害薬の消失に占める代謝の割合と、その代謝のうち当該CYP分子種CYP3AやCYP2D6など、薬物代謝を担うシトクロムP450の個々の酵素種。基質ごとに寄与が異なる。が担う寄与率(fm)が大きいほど、その分子種を止められたときの濃度変化は大きくなります。寄与率fmある分子種がその化合物の代謝のうち何割を担うかを表す割合。全分子種の合計が1になるよう定義する。の求め方はCYP reaction phenotypingで、代謝クリアランス薬が血中から取り除かれる速さ。ADCでは薬物が多く付いた高DAR種ほど速まりやすい。の測り方は肝ミクロソーム固有クリアランスで詳しく扱っています。なお、一つの薬が加害薬と被害薬の両方の顔を持つこともあります。CYPではなくトランスポーター細胞膜にあり薬を細胞外へ汲み出したり内へ引き込んだりして、体内濃度を左右するタンパク質。を介したDDIもあり、そちらは薬物トランスポーターとDDIで整理しています。
阻害の二つの止め方:可逆的阻害と時間依存性阻害
阻害には、効き方の時間経過が大きく異なる二つの型があります。どちらの型かを取り違えると、相互作用の見積もりが狂います。
可逆的阻害:すぐ効いてすぐ戻る
可逆的阻害では、阻害薬が酵素の活性部位などに結合して基質の代謝を妨げますが、その結合はほどけます。基質と同じ場所を奪い合う競合阻害が代表で、ほかに非競合的な型もあります。強さは阻害定数Ki(や半数阻害濃度IC50対象の働きを半分に抑えるのに必要な薬物濃度で、値が小さいほど強く阻害する。hERG阻害の強さを表す。)で表します。特徴は、阻害薬が体内にある間だけ効き、薬が消えれば酵素活性が戻ることです。したがって併用開始から比較的早く現れ、加害薬の濃度に追随します。CYP3Aを強く可逆的に阻害する薬としてケトコナゾールやイトラコナゾールが知られています。
時間依存性阻害(TDI):酵素そのものを止める
時間依存性阻害(TDI)は、機序に基づく阻害(mechanism-based inhibition)とも呼ばれます。阻害薬がCYPで代謝される過程で反応性の高い中間体ゲノムを途中までしか積んでいないAAVカプシド。空でも実でもない中間的な粒子で、測定時にどちらへ数えるかで比率が動く。になり、それが酵素のヘムやタンパク部分に強く結合して、酵素を作動不能にします。結合が実質的に戻らないため、活性の回復には新しい酵素が作られるのを待つしかありません。
この違いは実務で効いてきます。TDIでは、加害薬が体から消えた後も阻害が残り、反復投与で酵素が消耗して阻害が深まっていきます。可逆的阻害のつもりで単回・瞬間的なデータだけから見積もると、相互作用を過小評価しかねません。TDIの強さは、不活性化の最大速度kinactと、その半分の速さを与える濃度KIで表します。CYP3AのTDIを起こす例としては、クラリスロマイシンやエリスロマイシン、グレープフルーツジュース中の成分(腸管CYP3Aを不活性化)が知られています。
可逆的阻害は加害薬の濃度に追随してすぐ効き、薬が消えれば戻ります。一方、時間依存性阻害(TDI)は酵素そのものを止めるため、加害薬が消えた後も阻害が残り、反復投与で深まります。同じ「阻害」でも時間経過が違うため、どちらの型かを見極めることが予測の出発点になります。
酵素誘導:量を増やして効きを弱める
誘導は、阻害とは逆に酵素の量そのものを増やす現象です。多くは核内受容体(CYP3A4腸と肝に多く存在し多くの薬を代謝する酵素。その基質は初回通過で削られやすい。やCYP2B6、CYP2C系ではPXRやCAR特定の抗原を認識するよう設計し、細胞に導入して指向性を与える人工の受容体。、CYP1A2ではAhR)を介して遺伝子の転写が促され、酵素タンパクの産生が底上げされます。リファンピシンがPXRを介したCYP3A4誘導の代表例です。
誘導の特徴は時間のかかり方です。酵素タンパクが増えるまで数日を要し、加害薬をやめた後もタンパクが入れ替わるまで効果が続きます。量が増えれば被害薬の代謝が速まり、血中濃度が下がって効果不足に傾きます。活性代謝物が主な薬効を担う薬では、逆に代謝物が増える方向にも働きえます。in vitroの評価では、ヒト肝細胞を加害薬にさらし、mRNA量や酵素活性の変化を、陽性対照(リファンピシンなど)と比べて見積もります。
注意したいのは、一つの薬が阻害と誘導の両方の性質を持つ場合があることです。投与条件によって正味の向きが変わるため、どの条件で見た相互作用かを区別する必要があります。
誘導は酵素の量を増やして代謝を速め、被害薬の濃度を下げる方向に働きます。効果が現れるまで、また消えるまでに数日かかる点が、すぐ効いてすぐ戻る阻害と大きく異なります。阻害と誘導を併せ持つ薬もあるため、単回か反復かなど条件を明示して評価します。
in vitroから予測へ:段階的なアプローチ
in vitroの結果は、それだけで臨床のリスクを断定するものではなく、臨床試験が要るかどうかを判断する入口です。予測は、まず簡便で保守的な指標でふるいにかけ、引っかかったものだけを精緻なモデルで詰める、という段階を踏みます。
最初の段階が基本モデル(basic model)です。可逆的阻害では、加害薬の濃度とKiから阻害の程度を見積もる指標(1に、阻害剤トランスポーターの働きをふさぐ薬。他の基質薬の輸送を妨げ、短期間で濃度を変える。の非結合形濃度をKiで割った比を足したかたち)を計算します。TDIや誘導にもそれぞれ対応する簡便な指標があります。これらは安全側に振った閾値で、超えなければリスクは小さいと判断し、超えたものを次の段階へ回します。閾値の具体値は機序やCYP分子種、当局のガイダンスで異なるため、適用時にはその時点のガイダンス本文を確認します。
次の段階が力学的静的モデル(mechanistic static model)です。可逆的阻害・TDI・誘導をひとつの式にまとめ、腸管と肝臓の両方での寄与を織り込んで、被害薬のAUC比(併用時と非併用時の曝露量の比)を見積もります。さらに詳しく見たいときは、時間とともに変わる濃度を扱う動的モデル、すなわちPBPK(生理学的薬物動態投与した薬が体内で吸収・分布・代謝・排泄されていく挙動。ADCではDARが大きく影響する。)モデルへ進みます。PBPKの考え方はPBPKモデリングで扱っています。
DDI予測は、簡便で保守的な指標でのスクリーニングから始め、必要に応じて力学的静的モデル、さらにPBPKへと精緻化していく段階的な手順です。最初を安全側に振るのは、本当のリスクを見落とさないためであり、不要な臨床試験を避けつつ、詰めるべきものを絞り込みます。
臨床DDI試験へつなぐ判断
モデルで詰めてもリスクが否定できないとき、臨床DDI試験に進みます。開発中の薬を加害薬として評価するなら、その薬を代表的な基質(index substrate)と併用し、被害薬側の曝露がどれだけ変わるかを測ります。逆に開発中の薬を被害薬として評価するなら、強力な標準的阻害薬・誘導薬(index inhibitorトランスポーターの働きをふさぐ薬。他の基質薬の輸送を妨げ、短期間で濃度を変える。/inducer核内受容体などを介してトランスポーターや酵素の発現量そのものを増やす薬。効果が薄れる方向に働く。)と併用して、最悪条件での曝露変化を見ます。
こうして得た臨床試験の結果や、検証されたPBPKモデルによる予測は、用量調節や併用の可否、禁忌といった添付文書の注意喚起につながります。in vitroから臨床までの判断基準は、日米欧で整合された国際整合ガイドラインICH M12薬物相互作用試験の判断基準を日米欧で揃えた国際整合ガイドライン。in vitroから臨床試験の要否を判断する。(薬物相互作用ある薬がトランスポーターや酵素を阻害・誘導し、併用薬の濃度を変える薬物相互作用。試験)に沿って進められ、FDA・EMA・PMDAが共通の土台として参照しています。
まとめ
CYPを介したDDIは、加害薬が被害薬の代謝酵素の働きを変えることで起こります。阻害には、すぐ効いてすぐ戻る可逆的阻害と、酵素そのものを止めて後を引く時間依存性阻害があり、さらに逆方向の誘導は量を増やして代謝を速めます。機序ごとに濃度の動く向きと時間経過が違うため、まずどの型かを見極めることが予測の起点になります。評価は、in vitroの簡便な指標でふるいにかけ、必要なら力学的静的モデルやPBPKへ精緻化し、否定できないリスクを臨床試験と添付文書へつなぐ、という段階を踏みます。
参考文献
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。 M12, Drug Interaction Studies
- FDA, In Vitro Drug Interaction Studies — Cytochrome P450 Enzyme- and Transporter-Mediated Drug Interactions Guidance for Industry
- FDA, Clinical Drug Interaction Studies — Cytochrome P450 Enzyme- and Transporter-Mediated Drug Interactions Guidance for Industry
- EMA, ICH M12 on drug interaction studies — Scientific guideline