薬物代謝の第I相・第II相とは?酸化と抱合で薬が体から消える仕組み
薬は効いたあと、いつまでも体内にとどまるわけではありません。多くの低分子薬は脂溶性分子が脂に溶けやすい性質。高いほど細胞膜を通り組織へ分配されやすく、分布容積が大きくなりやすい。(油になじみやすい性質)が高く、そのままでは尿にも胆汁にも溶け出しにくいため、体外へ出ていくことができません。そこで肝臓などの代謝酵素が化学構造に手を加え、水になじみやすい形へ変えることで、排泄の口を開きます。この一連の化学変換が薬物代謝(drug metabolism)です。

代謝反応は、大きく二段階に分けて理解されます。前半の第I相反応で分子に反応の足がかり(官能基)を作り、後半の第II相反応でそこへ水溶性の基を付けて仕上げる、という流れです。ただし、必ず二段そろって進むわけではなく、どちらか一方だけで排泄まで到達する薬も少なくありません。この二相を軸に代謝を眺めると、薬が体からどう消えていくかの全体像が見通しやすくなります。
この記事では、代謝が果たす役割、第I相と第II相の違い、酵素がどこにあるか、そして代謝が思わぬ毒性の入り口になる場合(代謝的活性化)と、動物とヒトの種差まで、基礎を一通り整理します。CYP肝臓に多く存在する代表的な薬物代謝酵素群。多くの低分子医薬の代謝を担う。の寄与や代謝物の同定といった各論は、それぞれの専門記事に譲ります。
代謝は何のためにあるか:親水性を上げて排泄する
薬が体外へ出る主な経路は、腎臓からの尿中排泄と、肝臓から胆汁を経た糞中排泄です。腎臓は水溶性の高い物質を尿へ排出するのは得意ですが、脂溶性の高い分子は尿細管で再び吸収されて血中へ戻ってしまい、なかなか出ていきません。そこで代謝の出番です。分子に極性の高い部分を導入して水になじみやすくすれば、再吸収されにくくなり、排泄経路に乗せられます。
つまり代謝の第一の役割は、脂溶性の分子を親水性へ変えて排泄しやすくすることにあります。多くの場合、代謝によって薬理活性も失われる(不活性化される)ため、代謝は薬効の終わりと消失の両方に関わります。ただし、代謝物が活性や反応性を帯びる場合もあり、「代謝=解毒」と単純には言い切れません。
代謝の基本的な役割は、脂溶性の分子を親水性へ変えて尿・胆汁から排泄しやすくすることです。多くは薬理活性も失われますが、活性や反応性を帯びた代謝物が生じることもあり、必ずしも「解毒」だけとは限りません。
第I相反応:酸化・還元・加水分解
第I相反応は、分子に官能基(水酸基やアミノ基など)を新たに導入するか、隠れていた官能基を露出させる反応です。代表は酸化で、ほかに還元と加水分解が含まれます。ここで作られた極性基が、続く第II相で抱合を受ける取っ手になります。第I相だけで十分に親水性が上がれば、そのまま排泄まで進むこともあります。
第I相の酸化反応で中心的な役割を担うのが、シトクロムP450肝臓に多く存在する代表的な薬物代謝酵素群。多くの低分子医薬の代謝を担う。(CYP、チトクロームP450)と総称される酵素群です。CYPは水酸化、N‑脱アルキル化やO‑脱アルキル化、酸化的脱アミノ化など、幅広い酸化反応を触媒します。多様な化学構造を受け入れられる基質特異性の広さが特徴で、多くの薬物代謝の入り口を担っています。CYP以外にも、フラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMO)、モノアミン酸化酵素(MAO)、アルデヒドオキシダーゼ、エステルやアミドを切る加水分解酵素(エステラーゼ、アミダーゼ)などが第I相に関与します。
CYPには多くの分子種(アイソフォーム)があり、どの分子種がその薬の代謝にどれだけ寄与するかは、化合物ごとに異なります。ある薬の代謝を主に担うCYP分子種CYP3AやCYP2D6など、薬物代謝を担うシトクロムP450の個々の酵素種。基質ごとに寄与が異なる。を見きわめる作業は反応フェノタイピング(fm)と呼ばれます。また、CYPは他剤によって働きが強められたり弱められたりするため、CYPの阻害・誘導による薬物相互作用(DDI)は臨床上の重要な関心事です。これらの各論は個別記事にまとめています。
第II相反応:抱合で水溶性を仕上げる
第II相反応は抱合(conjugation)とも呼ばれ、体内にある水溶性の高い基を分子へ付け足す反応です。第I相で作られた(あるいはもともと分子が持っていた)官能基を足がかりに、極性の高い基を結合させて、一気に水溶性を高めます。抱合を受けた代謝物は多くの場合、薬理活性を失って排泄されやすくなります。
主な抱合反応には、次のようなものがあります。
| 抱合の種類 | 担う酵素 | 特徴 |
|---|---|---|
| グルクロン酸抱合 | UGT(UDP‑グルクロン酸転移酵素) | もっとも一般的。容量が大きく幅広い基質に働く |
| 硫酸抱合 | SULT(硫酸転移酵素) | 低濃度で働きやすいが、補酵素が枯れると飽和しやすい |
| グルタチオン抱合 | GST(グルタチオン転移酵素) | 反応性の高い中間体ゲノムを途中までしか積んでいないAAVカプシド。空でも実でもない中間的な粒子で、測定時にどちらへ数えるかで比率が動く。を捕まえる解毒に関与 |
| アセチル抱合・メチル抱合 | NAT標的の核酸を増幅して検出する手法。マイコプラズマなどの迅速な検出に使われる。・メチル転移酵素 | 特定の官能基を持つ化合物に働く |
抱合反応には、それぞれ専用の補酵素(コファクター)が必要です。たとえばグルクロン酸抱合はUDP‑グルクロン酸を、硫酸抱合はPAPSと呼ばれる活性硫酸を消費します。硫酸抱合はこの補酵素の供給が限られるため、投与量が多いと飽和しやすいのが特徴です。抱合は総じて解毒方向に働きますが、一部のアシルグルクロン酸抱合体のように、生じた抱合体が反応性を帯びる例も知られています。
第I相は官能基を作る・露出させる反応(酸化・還元・加水分解、CYPが主役)、第II相はその官能基へ水溶性の基を付け足す抱合反応(グルクロン酸抱合・硫酸抱合など)です。第I相で足がかりを作り、第II相で仕上げるのが典型ですが、どちらか一方だけで排泄まで進む薬もあります。
代謝酵素はどこにあるか:肝が中心
薬物代謝酵素は全身に分布しますが、量・活性ともに中心となるのは肝臓です。CYPやUGT、FMOは主に肝細胞の小胞体(ミクロソーム画分)に、SULTやGST、NATは細胞質(サイトゾル)に多く存在します。肝臓は血流を介して全身から薬物を集めやすい位置にあり、代謝の主戦場になります。創薬の初期に代謝安定性を評価する際、肝ミクロソーム肝細胞をすりつぶして得た小胞体由来の画分。CYPなどの代謝酵素が濃縮され、代謝安定性の評価に使う。や肝細胞が広く使われるのはこのためです。ミクロソームを使った代謝速度の測り方は肝ミクロソームの固有クリアランス(CLint)で扱っています。
肝以外にも、腸管、腎臓、肺などに代謝酵素は分布します。とくに腸管上皮はCYPやUGTを持ち、経口投与された薬が吸収される途上で代謝を受けます。消化管と肝臓で吸収時に代謝される分だけ、全身循環に到達する薬の割合が下がる現象が初回通過効果です。この影響がバイオアベイラビリティ投与した薬のうち、未変化のまま全身循環に到達する割合。静脈内投与を100%として比較する。(生物学的利用能投与した薬のうち、未変化のまま全身循環に到達する割合。静脈内投与を100%として比較する。)をどう左右するかはバイオアベイラビリティと初回通過効果で整理しています。
代謝的活性化:代謝が毒性の入り口になるとき
代謝はふつう薬を無害化する方向に働きますが、逆に、代謝によって反応性の高い分子が生まれてしまう場合があります。これを代謝的活性化(生物学的活性化、bioactivation)と呼びます。第I相の酸化で生じるエポキシドやキノン、キノンイミンといった求電子的な中間体が典型で、これらはタンパク質やDNAといった生体分子と共有結合を作りやすい性質を持ちます。この共有結合が、用量からは予測しにくい重い副作用(特異体質性の肝毒性など)の一因になり得ると考えられています。
体内には、こうした反応性中間体に備える仕組みもあります。グルタチオン(GSH酸化還元系に使う還元型のチオール試薬。酸化型と組み合わせ、誤対合ジスルフィドの再編成を助ける。)は求電子的な中間体を捕まえて安定な抱合体へ変え、解毒に働きます。第II相の抱合が防御として機能する一例です。ただし、反応性中間体の生成量が解毒の余力を上回ると、共有結合が進んで毒性につながり得ます。反応性代謝物の検出方法や安全性評価上の扱い(トラップ剤による捕捉、共有結合量の評価など)は代謝物同定(MetID)とMISTで詳しく解説しています。
代謝は解毒だけでなく、反応性の高い中間体を生む「代謝的活性化」を起こすことがあります。生じた反応性代謝物が生体分子と共有結合すると毒性の一因になり得るため、創薬の早い段階でその有無を把握することが重視されます。
種差:動物とヒトで代謝は同じではない
薬物代謝の仕組みは生物種に共通する部分が多い一方で、細部は種によって異なります。CYPをはじめとする酵素は、種によって分子種の顔ぶれや発現量細胞が目的のタンパク質を作る量。低いと必要量の確保に手間がかかり、製造コストが上がる。、基質への働き方が違い、その結果、同じ薬でも動物とヒトで主要な代謝経路や代謝速度がずれることがあります。抱合反応にも種差があり、特定の抱合が乏しい種と盛んな種があることが知られています。
この種差は、非臨床試験の結果をヒトへ外挿するうえで無視できません。動物では出ないのにヒトでだけ多く生じる代謝物があれば、動物実験で確かめたはずの安全域が、ヒトでは十分にカバーされていない可能性が出てきます。だからこそ、開発の要所ではヒトと動物の代謝プロファイルを突き合わせ、ヒト特有の(あるいは動物で不足している)代謝物がないかを確認します。この考え方の中核が、前述のMISTです。種差を前提に置くことは、代謝を「安全性評価の土台」として捉えるうえでの出発点になります。
まとめ
薬物代謝は、脂溶性の高い分子を親水性へ変えて排泄しやすくする一連の化学変換です。第I相反応(酸化・還元・加水分解、CYPが主役)で官能基という足がかりを作り、第II相反応(グルクロン酸抱合・硫酸抱合などの抱合)で水溶性の基を付けて仕上げる——この二段構えが基本の骨格になります。酵素の中心は肝臓にあり、腸管などでの代謝は初回通過効果として吸収に影響します。多くの代謝は解毒方向ですが、反応性代謝物を生む代謝的活性化や、動物とヒトの種差といった注意点も伴います。まずこの全体像を押さえておくと、CLintの測定や反応フェノタイピングどの代謝酵素が化合物の代謝を担うかを調べること。予測の外れ値の原因切り分けに役立つ。、DDI併用薬が代謝酵素を阻害・誘導し合い、血中濃度が変動する現象。fmはこのリスク評価の土台になる。、代謝物同定といった各論の位置づけが見通しやすくなります。
参考文献
- FDA, Search for FDA Guidance Documents
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。, Multidisciplinary Guidelines
- PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構), ウェブサイト