薬物代謝の第I相・第II相とは?代謝の結果が開発の判断を変える場面
コデインは、そのままでは鎮痛薬としてほとんど働きません。肝臓の酵素CYP2D6に代謝されてモルヒネに変わって、はじめて効きます。この酵素の働きが極端に強い体質の人がいて、扁桃摘出術などの後にコデインを飲んだ小児が、通常の量で亡くなる例が報告されました。米国FDAは2013年2月、こうした手術の後の痛みに小児へコデインを使うことを禁忌とし、最も強い警告であるボックス警告を添付文書に加えました。亡くなった子どもの一部では、この酵素の働きが極端に強い体質(超迅速代謝者)の兆候が確認されています。

薬が体の中でどう作り替えられるかは、薬効や副作用だけでなく、開発の判断そのものを動かします。構造を直すか、候補をやめるか、用量をどう決めるか、併用を禁じるかといった判断です。薬物代謝は、その判断の材料を最初に出す分野です。研究や開発の担当だけでなく、受託先から代謝の報告書を受け取る人、添付文書の注意書きを読む人、DMPK薬物動態・代謝の研究領域。吸収・分布・代謝・排泄と体内濃度の動きを扱う。詳しく →(薬物代謝・動態)の受託サービスを案内する営業にも関わります。
第I相と第II相の違い
多くの低分子薬は脂溶性分子が脂に溶けやすい性質。高いほど細胞膜を通り組織へ分配されやすく、分布容積が大きくなりやすい。詳しく →が高く、そのままでは尿にも胆汁にも溶けにくいため、体の外へ出られません。肝臓などの酵素が分子を作り替えて、水になじみやすい形に変えます。これが薬物代謝で、基本は二段階です。
二段そろって進むとは限りません。第I相だけで排泄できる薬も、もともと足がかりを持っていて第II相だけで済む薬もあります。酵素は肝臓に多く、腸の上皮にもあるため、飲んだ薬は吸収される途中でも代謝を受けます(初回通過効果吸収された薬が全身に回る前に腸壁や肝臓で最初に代謝され、量が削られる現象。詳しく →。バイオアベイラビリティと初回通過効果を参照)。
多くの場合、代謝は薬の働きを止めて排泄を助けます。ただし、代謝されて初めて効く薬(プロドラッグ体内で代謝されて初めて活性を示す形にした薬。膜透過性を高めて吸収させる工夫などに使う。詳しく →)や、代謝で毒性のある分子に変わる薬もあります。
第I相か第II相かという区別より、どの酵素がその薬の代謝を担うかが、開発の判断を左右します。
創薬初期の代謝安定性
代謝が速すぎる化合物は、候補のまま進めると行き詰まります。血中にとどまる時間が短ければ、1日に何度も飲まなければならなくなりますし、経口で飲んでも肝臓を通る間に壊れて、全身に届く割合が下がります。
そこで、創薬の初期に肝ミクロソーム肝細胞をすりつぶして得た小胞体由来の画分。CYPなどの代謝酵素が濃縮され、代謝安定性の評価に使う。詳しく →や肝細胞で壊れやすさを測り、化合物を並べて順位をつけます。壊れやすい部位が分かれば、その部分の構造を直せます。脂溶性の高い化合物は代謝されやすい傾向があるため、脂溶性(logP、logD)の見直しが構造変更の入口になることもあります。測り方と、ミクロソームに入っていない酵素で見落とす落とし穴は肝ミクロソームの代謝安定性試験にまとめています。
逆に、代謝を使う設計もあります。プロドラッグは、体内で代謝されて活性のある形に変わるように作った薬です。アビラテロン酢酸エステルや、冒頭のコデインがその例です。便利な反面、代謝の個人差は、そのまま効き目の個人差として表れます。
試験管で壊れやすいと分かった化合物は、構造を直すか、やめるかを早く決められます。後ろへ進むほど、その判断は高くつきます。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる代謝の個人差 ― 遺伝子多型と用量
代謝酵素の働きには、生まれつきの個人差があります。主な酵素に遺伝子の型の違いがあると、同じ量を飲んでも血中濃度が人によって大きく変わり、用量の決め方や注意書きに響きます。
冒頭のコデインでは、CYP2D6の働きが強い人が、通常の量でも多くのモルヒネを作ります。FDAは2017年に、12歳未満の小児へ痛みや咳でコデインを使うことを禁じました。欧州と英国では、この酵素の働きが極端に強い超迅速代謝者と分かっている患者に、年齢を問わず使わないことになっています。
第II相の酵素にも同じ話があります。抗がん薬イリノテカンは、体内でSN-38という強い活性体に変わり、これをUGT1A1がグルクロン酸で包んで無毒化します。UGT1A1の遺伝子に*28という型を二つ持つ人は、この酵素の量が少なく、SN-38が体に残って好中球の減少などの副作用が強く出やすくなります。FDAは2005年、この型を二つ持つ患者には、投与開始量を減らすことを検討するよう添付文書に加えました。日本の添付文書も、UGT1A1の遺伝子多型に注意を促しています。
ただし、減量すれば副作用が減るのかどうかは、研究によって結論が分かれています。減らしすぎれば、効き目が下がる心配もあります。代謝の知見が添付文書に載ることと、その対処が正解と確かめられていることは別です。
クロピドグレルがCYP2C19の働きの弱い人で効きにくいという同じ構図は、AUC・Cmax・Tmaxの記事で扱っています。
併用と毒性 ― CYP阻害と反応性中間体
併用薬が代謝酵素の働きを止めたり増やしたりすると、薬の血中濃度は動きます。酵素を変える側と変えられる側に分けて考える手順はCYP阻害・誘導による薬物相互作用に、どの酵素がどれだけ頼られているかを調べる方法はCYP寄与率fmにあります。第II相の産物が主役になる例もあり、セリバスタチンでは、併用薬ゲムフィブロジルとそのグルクロン酸抱合体が、肝臓への取り込みと代謝の両方をふさぎ、試験管内では抱合体のほうが強い阻害剤トランスポーターの働きをふさぐ薬。他の基質薬の輸送を妨げ、短期間で濃度を変える。詳しく →でした(薬物トランスポーターDDI)。
毒性の入口になることもあります。アセトアミノフェンは、ふつうは大半がグルクロン酸や硫酸の抱合で処理され、5%ほどがCYPで反応性の高い中間体ゲノムを途中までしか積んでいないAAVカプシド。空でも実でもない中間的な粒子で、測定時にどちらへ数えるかで比率が動く。詳しく →(NAPQI)に変わります。NAPQIは、第II相のグルタチオン抱合で無毒化されます。ところが大量に飲むと、硫酸抱合が飽和し、NAPQIがグルタチオンを使い切って、肝細胞を傷つけます。解毒の余力には限りがあります。グルタチオンの材料を補うN-アセチルシステインが、解毒薬に使われます。
創薬では、このような中間体を作る構造を、早い段階で見つけておきます。薬をグルタチオンと酵素の液に加えて、反応性の中間体を捕まえる試験(グルタチオン捕捉)が使われます。ただし、捕捉試験で分かるのは、反応性の中間体ができるかどうかだけです。どれだけの量で害になるかは、別に評価します。
もう一つの落とし穴は、動物とヒトの違いです。動物には少なくて、ヒトで多く作られる代謝物があると、動物で確かめた安全域がヒトで足りなくなります。ヒトの血中で全体の10%を超える代謝物が、動物でも十分に調べてあるかを確かめる考え方がMISTで、調べ方は代謝物同定(MetID)とMISTにあります。
代謝の資料で確かめる点
候補化合物や導入を検討している薬について、次の点を見てみてください。
- 壊れやすさの試験に、ヒトと動物の肝細胞や肝ミクロソームを使ったか。第II相の酵素(UGTなど)は、試験の系に入っていたか
- その薬の代謝を主に担う酵素は何か。遺伝子型で働きが変わる酵素ではないか
- ヒトで主要な代謝物は、動物でも調べてあるか
- 反応性の中間体の検討(グルタチオン捕捉など)をしたか。見つかったとき、構造を直すかどうかの判断が記録されているか
- 併用の影響は、酵素とトランスポーター細胞膜にあり薬を細胞外へ汲み出したり内へ引き込んだりして、体内濃度を左右するタンパク質。詳しく →の両方で調べたか
受託先の報告書を読むときも、この順で数字の前提を確かめると、どこまで確かな結果かが分かります。代謝物の分析に使う装置はLC-MSのページで比べられます。
参考文献
- MHRA, Codeine for analgesia: restricted use in children because of reports of morphine toxicity(コデインとCYP2D6、小児での使用制限)
- MHRA, Codeine: restricted use as analgesic in children and adolescents after European safety review(欧州の安全性レビューを受けた使用制限、CYP2D6の働きが強い患者での禁忌)
- FDA, Drug Safety Communication: Safety review update of codeine use in children; new Boxed Warning and Contraindication on use after tonsillectomy and/or adenoidectomy(2013年2月20日)
- FDA, Drug Safety Communication: FDA restricts use of prescription codeine pain and cough medicines and tramadol pain medicines in children; recommends against use in breastfeeding women(2017年4月20日)
- EMA, Codeine-containing medicines - referral(欧州の再評価。CYP2D6の超迅速代謝者には年齢を問わず禁忌)
- Dose adjustment of irinotecan based on UGT1A1 polymorphisms in patients with colorectal cancer. PMC6373181(UGT1A1の型と減量の議論)
- Duke University, Acetaminophen(薬物代謝の教材ページ)(アセトアミノフェンの代謝とNAPQI、グルタチオン)
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