低分子研究・DMPK

アロメトリックスケーリングとは?動物データからヒトのPKを予測する

新しい低分子の開発では、いつか必ず「ヒトに初めて投与する」場面が来ます。しかしその一歩を踏み出す前、手元にあるのはマウスやラット、イヌ、サルといった動物での薬物動態(PK)投与した薬が体内でどう吸収・分布・代謝・排泄されるか、その濃度推移を扱う考え方。データだけです。ヒトでどれくらいの血中濃度になり、どれくらいの速さで薬が抜けていくのか——それを動物の数字からあらかじめ描いておかなければ、初回投与量も採血のタイミングも決められません。

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アロメトリックスケーリングとは?動物データからヒトのPKを予測する

この「動物からヒトへ」の橋渡しでもっとも古くから使われてきた手がかりが、体の大きさ(体重)と生理機能のあいだにある規則的な関係、すなわちアロメトリー(相対成長)です。心拍数や基礎代謝、血流量、そして薬を処理する能力までもが、体重に対しておおよそ一定のべき乗の形で変化していく——この経験則を薬物動態投与した薬が体内で吸収・分布・代謝・排泄されていく挙動。ADCではDARが大きく影響する。に応用したものが、アロメトリックスケーリングです。

ただし、この方法は万能ではありません。腎排泄のように薬をそのまま体外へ運び出す消失では驚くほどよく当たる一方、肝代謝が主役になると予測は途端に外れやすくなります。基本の考え方から、複数種を使う実際の手順、代謝が絡むときの限界と補正、そしてPBPKやin vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。外挿との使い分け、初回投与量への活かし方まで、順にたどっていきます。

なぜ動物データからヒトのPKを予測するのか

ヒトでの臨床試験は、実際に人へ投与しない限りデータが得られません。ところがその最初の一回を安全に、かつ意味のある用量で行うには、投与前に「ヒトでどう振る舞うか」の見取り図が要ります。予測すべき中心は、単位時間あたりに薬をきれいにする血液量であるクリアランス(CL)と、血中濃度から体内量を推し量る分布容積(Vd)の2つです。この2つが決まれば、血中濃度が時間とともにどう推移し、どれくらいの半減期薬の血中濃度が半分に下がるまでの時間。抗体フラグメントでは短く、延長の工夫が要る。で抜けるかの骨格が描けます。

裏を返せば、非臨床段階で得られるのは動物のPKと安全性のデータだけであり、そこからヒトの姿を外挿するほかに術がありません。動物実験を無駄にせず、初回投与を過大にも過小にもしないための、いわば翻訳作業が種間スケーリングです。アロメトリックスケーリングは、その翻訳をもっとも簡便な形で担ってきた古典的な手法です。

アロメトリーの基本:体重とべき乗の関係

アロメトリーの中心にあるのは、ある生理パラメータYが体重Wのべき乗に比例する、という関係です。式で書けば「Y = a × W の b 乗」で、aは比例の係数、bはべき指数(アロメトリー指数)と呼ばれます。両辺の対数をとると、logYはlogWの一次式になり、複数の動物種の点が対数—対数のグラフ上でほぼ直線に並びます。この直線の傾きがべき指数b、切片がaに対応します。

薬物動態のパラメータでは、指数bに経験的な代表値があります。クリアランス薬が血中から取り除かれる速さ。ADCでは薬物が多く付いた高DAR種ほど速まりやすい。は体表面積や代謝速度に近い挙動を示し、指数はおおむね0.75前後とされます。分布容積薬が体内でどれだけ広い範囲に分布しているかを表す見かけの容積。抗体は小さく血漿周辺にとどまる。は体液量とともに増える量なので、指数はほぼ1.0に近く、体重に比例的に大きくなります。時間の次元をもつ半減期のようなパラメータは、逆に指数が小さく(0.25前後)、体が大きいほど緩やかに間延びする傾向があります。

POINT

クリアランスの指数は0.75前後、分布容積は1.0前後というのが古典的な目安です。分布容積が体重にほぼ比例するため、Vdのアロメトリー予測はクリアランスよりも当たりやすいとされます。半減期はVdをCLで割った比(半減期 ≒ 0.693 × Vd ÷ CL)として、両者の予測値から間接的に見積もれます。

複数の動物種でスケーリングする

もっとも標準的な進め方は、性質の異なる複数の動物種でPKを測り、対数—対数のグラフにクリアランスや分布容積を体重に対してプロットして、直線を当てはめる方法です。よく使われるのはマウス、ラット、イヌ、サルなどで、体重が数十グラムから十数キログラムまで大きく離れているほど、外挿の足場が安定します。得られた直線を体重70 kg前後のヒトまで延長し、その点を予測値として読み取ります。

種の数が限られる場合には、1種のデータに固定した指数(クリアランスなら0.75など)を当てはめてヒトへ拡大する単一種スケーリングも用いられます。手軽な半面、指数を仮定で決めるため不確かさは大きくなります。いずれの方法でも、種ごとにタンパク結合や消失経路が食い違えば直線から外れる点が出るため、当てはまりの良さ(相関の強さ)と外れ値の有無を必ず確認します。何種を使い、どの指数を採ったかは、予測値とセットで記録しておくのが実務の基本です。

代謝が主消失のときに崩れる前提と補正

アロメトリーがよく当たるのは、腎排泄や胆汁排泄のように、薬を化学的に変えずそのまま運び出す消失が主体のときです。こうした物理的な排泄は臓器血流や糸球体ろ過とともに体格に沿ってスケールするため、べき乗則になじみます。ところが肝臓での代謝が主消失になると話は変わります。CYP肝臓に多く存在する代表的な薬物代謝酵素群。多くの低分子医薬の代謝を担う。をはじめとする代謝酵素の量や活性は種ごとに大きく異なり、必ずしも体重に沿って増減しないため、単純な直線外挿ではヒトのクリアランスを系統的に外しやすくなります。

そこで、生理的な「時間」の種差を織り込む補正が考案されてきました。代表的なのが、種ごとの最大寿命(maximum lifespan potential、MLP)や脳重量をクリアランスに掛け合わせてからスケーリングする方法です。小動物ほど単位体重あたりの代謝が速い、という寿命・脳サイズと結びついた種差を補正項として持ち込み、ヒトへの外挿非臨床の結果がヒトにどれだけ当てはまるか(外挿しやすさ)。種差などでゼロにはできない。のずれを抑えようという発想です。実務では、まず補正なしの単純アロメトリーで得た指数の大きさを見て、その値に応じて補正なし・MLP補正・脳重量補正のどれを使うかを選び分ける、という経験的な指針(rule of exponents)も知られています。

POINT

単純アロメトリーは物理的な排泄(腎・胆汁)でよく当たり、肝代謝が主消失だと外れやすい、というのが実務的な勘所です。MLPや脳重量による補正はそのずれを抑える工夫ですが、いずれも経験則であり、代謝の種差そのものを機構から説明するものではない点に注意します。

PBPKやin vitro外挿との使い分け

代謝が主役で、しかも種差が読みにくい化合物では、体格のべき乗則に頼るアロメトリーより、消失の中身を組み立てて予測するアプローチが向きます。1つがin vitro外挿(IVIVE)で、ヒトの肝ミクロソームや肝細胞で測った固有クリアランス酵素そのものの代謝能力を表すクリアランス。組換えCYPで分子種ごとに測り、換算の元にする。を、酵素量や肝重量、タンパク結合の係数でヒト肝臓全体へ拡大します。動物を経由せず、ヒトの組織そのものの代謝能力から出発できるのが強みです。

もう1つが生理学的薬物動態(PBPK)モデリングで、臓器血流や組織容積といった生理パラメータの骨組みに、in vitroの代謝・透過・結合データを流し込み、全身の濃度推移を機構的に組み上げます。アロメトリーが体重という1変数の経験則で「答えの大きさ」を素早く当てにいくのに対し、PBPKやIVIVEin vitroで得た代謝などのデータを、ヒトの体内での挙動へ外挿すること。は消失の仕組みから積み上げる分、代謝の種差にも踏み込めます。実際の開発では、アロメトリーで大枠を掴み、IVIVEやPBPKで裏を取る、というように相互に補完させて使うのが一般的です。どれか1つに頼らず、複数の予測が近い値に収れんするかを確かめる姿勢が、外れを減らす近道になります。

初回投与量の設定にどう活かすか

予測したクリアランスと分布容積は、そのまま初回投与量の設計に流れ込みます。両者からヒトの血中濃度—時間曲線や半減期の見込みが立てば、ある投与量でどの程度の曝露(AUC遠心中の試料の沈み方を光で測り、分子の大きさや会合状態を調べる分析装置です。純度や凝集の評価に使います。詳しく →や最高濃度)になるかを前もって描け、採血スケジュールや投与間隔の設計に直結します。PKの予測は、いわば「入れた薬がヒトでどこまで上がるか」の物差しです。

もっとも、初回投与量は曝露予測だけで決まるものではありません。動物毒性試験の無毒性量(NOAEL)からヒト等価用量動物の用量を体表面積換算でヒトの用量に直した値(ヒト等価用量)のこと。を換算し、安全域を見込んで最大安全開始用量を導く、安全性側の枠組みと突き合わせて決めます(NOAEL・HEDと初回投与量)。作用が強く低用量でも過剰な薬理反応が懸念される化合物では、薬効・薬理から最小予測活性量(MABEL薬の作用がごくわずかに出始めると見込む用量で、抗体など高リスク薬の初回量設計に使う。)を軸に据えることもあります。アロメトリックスケーリングによるPK予測は、こうした安全性ベースの用量設定に、曝露という別の視点を重ねて全体の妥当性を確かめる役割を担います。

POINT

初回投与量は、安全性(NOAEL・HED、必要に応じてMABEL)を主軸に、PK予測による曝露見積もりを重ねて決めます。アロメトリーは万能ではなく不確かさを伴うため、複数の根拠が整合するかを確認しながら、保守的に用いるのが原則です。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、低分子に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。