アロメトリックスケーリングとは?人のPK予測が当たる薬・外れる薬
体重20 gほどのマウスと70 kgの人では、体の大きさが3,000倍以上違います。それでも、何種類かの動物のデータを体重に沿った1本の線でつなぐと、人で薬が体から消える速さ(クリアランス)をかなりの確度で言い当てられる薬があります。同じやり方で大きく外れる薬もあります。違いはどこにあるのでしょうか。

答えの多くは、薬がどこから体の外へ出ていくかにあります。腎臓からそのまま尿へ出る薬は、動物と人で出ていく仕組みが似ているので、体重から予測しやすい。肝臓の酵素で分解される薬は、酵素のはたらきが動物種ごとに違うため、体重だけでは読めません。動物のデータを体重の関係に沿って人へ引き延ばすこの方法を、アロメトリックスケーリング(allometric scaling)と呼びます。
予測した人のクリアランスは、効く量の見積もり、1日に何回飲む薬にできるか、初回投与からどこまで増やすかの計画に使われます。報告書で予測値を見たら、どの動物の、どんな消え方をする薬を、どう引き延ばした数字かを確かめるのが第一歩です。
体の大きさと薬の消え方 ― アロメトリックスケーリングの考え方
小さな動物ほど、体重のわりに薬を速く処理します。心臓の拍動も血流も速く、体重1 kgあたりで見ると、肝臓や腎臓を通る血液の量が人よりずっと多いからです。
この関係を使うのがアロメトリックスケーリングです。マウス、ラット、イヌ、サルのように体重の離れた動物でクリアランスを測り、体重に対して並べると、多くの薬で1本のなだらかな線に乗ります。その線を人の体重まで延ばせば、人での値の見当がつきます。体重が増えれば処理する力も増えますが、体重ほどには増えません。教科書でよく見る0.75という指数は、この「体重ほどには増えない」度合いを、たくさんの薬で平均した目安です。
薬が体のどこまで広がるかを示す分布容積薬が体内でどれだけ広い範囲に分布しているかを表す見かけの容積。抗体は小さく血漿周辺にとどまる。詳しく →(Vd)は、体重にほぼ比例して大きくなります(分布容積とは)。クリアランスと分布容積の両方を予測できれば、半減期薬の血中濃度が半分に下がるまでの時間。抗体フラグメントでは短く、延長の工夫が要る。詳しく →の見当もつきます(半減期とクリアランス)。
ここで大事なのは、0.75がどの薬にも当てはまる定数ではないことです。実際に薬ごとに線を引くと、傾きはばらつきます。その傾きのばらつきこそが、その薬の消え方が体格に沿っているかどうかの手がかりです。
アロメトリックスケーリングは体格の違いを直す方法で、動物と人で消え方の仕組みそのものが違うときには、その違いを映しません。
当たる薬と外れる薬 ― 腎臓から出るか、肝臓で分解されるか
腎臓でのろ過は、血流や血管の面積といった体の大きさに沿って変わる仕組みです。だから腎臓からそのまま出る薬は、動物1種でも数種でも、人のクリアランスがよく当たると報告されています。
肝臓で分解される薬は事情が違います。分解を担う酵素は、量だけでなく、はたらきの強さや好む相手が種ごとに違います。低分子の薬をまとめて調べた研究では、肝臓を1回通るあいだに分解される割合が低い薬ほど予測が外れやすく、その群では平均で4倍以上外れていました。
種差で開発が止まった例もあります。アステラス製薬の候補化合物FK3453は、ラットでもイヌでも飲んだあとの吸収が良好だったのに、人では血中の濃度が極端に低く、開発が中断されました。原因として指摘されたのは、人の肝臓でよくはたらくアルデヒドオキシダーゼ(AO)という酵素による、人に特有の代謝です。体重の線をどれだけ丁寧に引いても、ラットとイヌのデータには人のこの酵素のはたらきが映りません。
そこで、肝臓で分解される薬では、補正を加えたり別の方法で裏を取ったりします。MahmoodとBalianは、引いた線の傾きが大きく出すぎた薬ほど単純な延長では人の値を高く見積もりやすいとして、傾きの大きさで補正の方法を選ぶ経験則を示しました。動物の寿命や脳の重さを使う補正がそれにあたります。ただしこれも経験則で、個々の薬の代謝の中身を保証するものではありません。
肝臓で分解される薬では、体重の線を引く前に、動物と人で同じ酵素が同じように分解しているかを確かめます。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる抗体医薬では別の物差し ― サル1種のほうが当たった理由
動物の種類を増やせば予測は良くなりそうに見えますが、抗体医薬では逆の結果が出ています。
体内での動き方が用量に比例する抗体を調べたDengらの研究では、サル1種のデータに決まった傾きを当てる方法のほうが、マウス、ラット、サルの3種で線を引く方法より、人の実測によく合いました。
抗体は低分子のように肝臓の薬物代謝酵素で分解されるのではなく、標的への結合や、抗体を分解から守って血中に戻す受容体FcRnIgGを細胞内でリサイクルして血中半減期を延ばす受容体。サイレンシング設計でも結合を残すことが多い。詳しく →との関係で消え方が決まります。標的への反応や体の仕組みが人に近いサルのデータが効くのは、そのためと考えられます。詳しくは抗体のPK/PDで解説しています。
低分子の常識で「種の数が多いほど安心」と読まず、薬の消え方に合った動物を選んだ予測かどうかを見ます。
予測値が開発の判断を変える場面 ― 投与回数と初回量
予測した人のクリアランスと半減期は、薬の設計そのものを左右します。
半減期が短すぎると予測されれば、1日1回の飲み薬にするのは難しくなり、製剤の工夫や化合物の見直しが議題に上がります。効く量が大きく見積もられれば、臨床試験で使う原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →の量や錠剤の大きさにも響きます。
初回投与量とのつながりも見逃せません。動物で毒性が出なかった量から初回投与量の上限を決める手順(NOAELからHED・MRSDへ)に、予測した人の血中濃度を重ねると、その量で人にどれだけ薬が入るか、毒性試験での濃度とどれだけ離れているかを見積もれます。
予測は1つの方法に頼らないのが基本です。人の肝細胞や肝ミクロソームで分解の速さを測って肝臓全体へ広げるin vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。詳しく →外挿(IVIVEin vitroで得た代謝などのデータを、ヒトの体内での挙動へ外挿すること。)は、種差を飛び越えて人の酵素を直接見られます(肝ミクロソームのCLint、手元の数字は肝クリアランス予測ツールで試せます)。臓器の血流や大きさを組み込んで全身の濃度の動きを組み立てるPBPKモデルもあります。アロメトリーで大枠をつかみ、IVIVEやPBPKで裏を取るのが一般的な進め方です。
アロメトリーとIVIVEの予測が大きくずれたら、どちらかを捨てる前に、消え方の仕組みを見落としていないかを疑います。FK3453のような酵素の種差は、このずれとして表に出ることがあります。
予測は実測の2倍以内に入れば当たりとみなすのが一般的なので、計画は1つの値ではなく幅で立てます。
報告書で確かめること ― よくある読み違いとチェックリスト
受託試験機関(CRO)の報告書や社内の予測資料では、予測値が1つの数字で書かれていても、その裏の条件はさまざまです。
よくある読み違いは、0.75という教科書の傾きを当てはめただけの予測と、実際に数種のデータから線を引いた予測を、同じ重みで読むことです。体重の近いマウスとラットだけで引いた線は、少しのばらつきで傾きが大きく変わります。経口投与で得た見かけのクリアランス(CL/F)と、静脈内投与で得た値が混ざっていないかも要注意です。
血中の薬のうちタンパク質にくっついていない割合(遊離型分率血漿中の全薬物のうち、どこにも結合せず遊離している割合。詳しく →)は動物種で違うことがあり、補正したかどうかで予測が動きます。この読み方は血漿タンパク質結合と遊離型分率で解説しています。
予測資料を受け取ったら、次の点を確かめてください。
- 何種の、どの体重の幅の動物で、静脈内投与のデータを使ったか
- 傾きは実データから求めたか、0.75などの決まった値を当てたか
- 主な消え方は腎臓か肝臓か。肝臓なら、動物と人の代謝物を比べたか
- 遊離型の補正をしたか。血漿と血液のどちらの濃度か
- IVIVEやPBPKなど別の方法の予測と並べ、ずれの理由が書かれているか
- 予測が幅で示され、その幅で投与回数や初回量を検討したか
種ごとの代謝物を比べる試験は代謝物同定(MetID)で、血中濃度の測定を外部に頼むときの受託先はPK/免疫原性バイオアナリシス(受託)やLC-MSの製品ページで比べられます。
参考文献
- Huh Y, Smith DE, Feng MR. Interspecies scaling and prediction of human clearance: comparison of small- and macro-molecule drugs. Xenobiotica. 2011;41(11):972-987.(腎排泄の薬はよく当たり、肝臓で分解される低抽出肝臓での除去率が低い化合物の性質。クリアランスがフリー分率と酵素能力にそのまま依存する。の薬で誤差が大きい)
- Sanoh S, Nozaki K, Murai H, Terashita S, Teramura T, Ohta S. Prediction of human metabolism of FK3453 by aldehyde oxidase using chimeric mice transplanted with human or rat hepatocytes. Drug Metab Dispos. 2012;40(1):76-82.(FK3453の開発中止の経緯とAOによる代謝)
- Mahmood I, Balian JD. Interspecies scaling: predicting clearance of drugs in humans. Three different approaches. Xenobiotica. 1996;26(9):887-895. https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.3109/00498259609052491(傾きの大きさで補正法を選ぶ経験則)
- Boxenbaum H. Interspecies scaling, allometry, physiological time, and the ground plan of pharmacokinetics. J Pharmacokinet Biopharm. 1982;10(2):201-227. https://link.springer.com/article/10.1007/BF01062336(寿命による補正)
- Deng R, Iyer S, Theil FP, Mortensen DL, Fielder PJ, Prabhu S. Projecting human pharmacokinetics of therapeutic antibodies from nonclinical data: what have we learned? MAbs. 2011;3(1):61-66. https://www.tandfonline.com/doi/full/10.4161/mabs.3.1.13799(抗体13品目、サル1種による予測)
次に読む
低分子この分野の解説記事を、まとめて見る(89本)この記事に関連する工程
この分野の新着を、メールで受け取る
こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを毎週水曜の朝にお届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。
登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。
目次・関連閉じる
Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/allometric-scaling-human-pk