難溶性化合物の製剤化:溶けない薬をどう体に吸収させるか
低分子の後期開発でBCS ClassIIやIVの難溶性化合物に当たると、可溶化技術をどれにするかで足が止まります。スクリーニングは通っても、経口では血中にほとんど出てこない化合物は珍しくありません。標的への効き目と、体への入りやすさは、まったく別の話だからです。スプレードライヤー液を細かい霧にして熱風中に噴き、瞬時に乾かして粉末にする装置です。連続的に粉体を得られるのが特徴です。詳しく →やナノミルの仕様書を開くと、並んでいるのは蒸発能力や到達粒子径という装置の数字です。どれが一番よく溶かせるかは、この数字だけでは決まりません。仕様書は、選ぶための地図にはなりません。

核心にあるのは一点、化合物の溶けにくさが疎水性分子が水と親和せず、油脂や非極性溶媒と相互作用しやすい性質で、二本鎖RNAと一本鎖RNAではその程度が異なり分離の指標となる。詳しく →から来ているのか、それとも結晶格子の強さから来ているのかです。原因が違えば、崩す道具が変わります。いったん持ち上げた濃度をどれだけ長く保てるかという二つ目の軸も、原因によってまるで違ってきます。軸は、この二つしかありません。ほかの数字は、この二つを補う材料に過ぎないのです。
本稿では、溶けにくさの正体を疎水性と結晶格子の二つに分けます。そこから、ASD・ナノ結晶・脂質製剤(SEDDS薬物を油や界面活性剤に溶かし、消化管で自発的にエマルションを作る製剤。)・シクロデキストリン・塩や共結晶薬物と中性の相手分子を一定比率で同じ結晶格子に組み込んだ結晶。までを整理します。承認された製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →の実例と実数を、それぞれの技術に添えます。最後に、どの技術から検討するかという選ぶ順番を示します。
- 溶けにくさが疎水性由来か結晶格子由来かで、効く可溶化技術は違います。ここを取り違えると技術選択が的外れです。
- ASDが作る過飽和は放っておくと沈殿に崩れ、ポリマーが担うパラシュート機能が製剤の成否を左右します。
- ナノ結晶は溶ける速さを、ASDは溶ける総量を動かします。TriCorやKaletraの実例が、この違いをそのまま示しています。
溶けにくさの正体 ― 疎水性か結晶格子か
溶解度が低いという結果には、原因が二つあります。疎水性が強いか、結晶格子が強いかです。
たとえばフェノフィブラート(TriCor)は、疎水性が強く溶ける速さが遅い化合物です。平衡溶解度その物質が本来溶けきれる上限の濃度。そのものは、極端には低くありません。一方でポサコナゾール(Noxafil)は結晶格子が強く、絶対量そのものが足りません。格子を崩さない限り、溶ける量は増えないのです。原因が疎水性なら、表面積を稼いで速さを上げる道具が効きます。原因が格子なら、格子ごと壊して見かけの溶解度を作る道具が要ります。ここを取り違えると、選んだ技術は的外れです。溶解性と腸管透過性を見るBCS分類も、出発点は同じ発想です。
溶けにくさの原因を疎水性と結晶格子のどちらに置くかが、可溶化大腸菌内で不溶性の塊(封入体)になったタンパク質を可溶化し、正しい立体構造へ巻き戻して活性を回復させる操作です。詳しく →技術を選ぶ最初の分かれ道です。
非晶質固体分散体(ASD)― 結晶を壊して作る見かけの溶解度
ASD薬物を非晶質にしてポリマー中に分散させ、見かけの溶解度を高めた製剤。詳しく →は、結晶格子を壊して薬物を非晶質結晶格子を持たないエネルギーの高い状態で、溶けやすいが結晶に戻りやすい。詳しく →のままポリマーに閉じ込める技術です。
結晶という安定な状態を捨てる分、平衡溶解度を一時的に超える濃度を作れます。量産の入口は二つに分かれます。一つはスプレードライです。GEAのPHARMA-SD Spray Dryerは、溶液を噴霧して瞬時に乾かす機種です。バイオアベイラビリティ投与した薬のうち、未変化のまま全身循環に到達する割合。静脈内投与を100%として比較する。詳しく →向上や徐放化に向け、医薬用途として設計されています。もう一つの入口が、溶媒を使わないホットメルト押出薬物とポリマーを加熱溶融して混練し、押し出して固める溶媒不要の製法。(HME薬物とポリマーを加熱溶融して混練し、押し出して固める溶媒不要の製法。)です。抗HIV薬のカレトラ(Kaletra)はロピナビル133.3mgとリトナビル33.3mgを含みます。当初はソフトゲルカプセルで発売されました。冷蔵保管が必須で、1日6錠を要する薬でした。BASFのコポビドンKollidon VA64を処方の約7割に使うMeltrex型HMEで、錠剤に作り直しています。冷蔵は不要になり、錠数は1日4錠まで減りました。
溶媒を飛ばして固めるか、熱で溶かして固めるか。化合物の熱安定性抗体が熱に対して立体構造を保つ性質。融解温度(Tm)などで評価する。詳しく →が、この入口選びをほぼ決めます。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる過飽和をどう保つか ― スプリングとパラシュート
ASDが持ち上げた濃度は、放っておくと沈殿に崩れます。
持ち上げる働きを「スプリング」、保つ働きを「パラシュート」と呼びます。ポサコナゾール(Noxafil)の腸溶錠は、胃で溶けず腸で溶けるHPMCASというポリマーを使います。HMEで練り込んだ100mg錠として承認されました。胃酸で早く溶けて結晶化するのを避け、腸まで運んでから放出する設計です。この工夫で経口懸濁液より血中濃度が安定しました。食事の影響も、ほとんど消えています。非晶質のまま届いているかは、見た目では分かりません。Malvern PanalyticalのXRPD装置Empyreanが使われます。Mettler-ToledoのDSCでガラス転移温度これを下回ると分子運動が止まり氷の再結晶が進みにくくなる温度。凍結保管温度の目安。詳しく →を測る手もあります。そうして結晶化溶液中の目的物質を固体の結晶として析出・単離する精製操作で、不純物の除去にも利用される。詳しく →していないことを確かめるのです。
過飽和はいつか沈殿に戻る一過性の状態です。ポリマーのパラシュート機能を消化管を模した溶出試験で確かめない限り、ASDの効果は保証できません。
パラシュートが働かなければ、スプリングでどれだけ濃度を跳ね上げても、吸収に届く前に沈殿で失われます。
ナノ結晶 ― 表面積を稼ぐ道
ナノ結晶薬物結晶を数百ナノメートルまで微細化し、表面積を増やして溶解速度を上げたもの。は、結晶のまま粒子だけを小さくする技術です。
土台にあるのは、溶ける速さが表面積に比例するというNoyes-Whitney式溶解速度が固体の表面積に比例することを示す関係式。の関係です。結晶構造は保つので、ASDのような過飽和は作れません。それでもフェノフィブラート(TriCor)は好例です。従来の54mg・160mg錠を、D50が500nm未満のナノ結晶を使う48mg・145mg錠に置き換えました。すると5分で41.7%が溶け出しました。従来の微粉砕製剤は、同じ5分で10%にとどまっています。食事の影響も、この置き換えでほぼ消えました。量産では湿式ボールミルのほか、高圧ホモジナイザー高い圧力で試料を細い隙間に通し、その力で細胞や菌体を壊す装置です。中の目的物を取り出す破砕工程に使います。詳しく →で結晶を繰り返し通す方法も使われます。AvestinのEmulsiFlexやGEAのAriete/PandaPLUS、SPX FLOWのAPVがその代表です。溶ける速さは変わっても、平衡溶解度そのものは動きません。もともとの溶解度が極端に低い化合物には、ナノ結晶だけでは足りないのです。
ナノ結晶が動かすのは溶ける速さで、溶ける総量ではありません。原因が結晶格子の強さにあるなら、ASDに戻る必要があります。
脂質製剤とシクロデキストリン ― 溶かしたまま、包んだまま
脂溶性分子が脂に溶けやすい性質。高いほど細胞膜を通り組織へ分配されやすく、分布容積が大きくなりやすい。詳しく →がきわめて高い化合物には、あらかじめ油に溶かしておく道もあります。
シクロスポリンの最初の製剤サンジミュン(Sandimmune)は、乳化を胆汁に頼る薬でした。そのため患者ごとの吸収のばらつきが大きくなっていました。自己乳化型のネオーラル(Neoral)に作り替えると、胆汁が少なくても自発的に微細な乳濁液を作ります。吸収のばらつきは、目に見えて縮まりました。界面活性剤には、BASFのKolliphor P188やCroda Pharmaの高純度ポリソルベートが選ばれます。酸化不純物を抑えたグレードです。結晶のまま溶かす道もあります。ボリコナゾールの注射剤ヴィーエンド(Vfend)は主薬200mgを含みます。これにシクロデキストリン内側が疎水的な環状オリゴ糖で、難溶性分子を空洞に取り込み溶解度を上げる。(SBECD)3200mgを組み合わせています。ただしシクロデキストリンは腎臓から排出されます。クレアチニンクリアランスが50mL/min未満の患者への静注は推奨されません。
脂質製剤とシクロデキストリンは結晶を壊さないので、保存中の安定性で有利です。その代わり脂溶性の高さや腎機能という制約を、処方の外側から持ち込みます。
結晶を壊さない分だけ安定性は稼げますが、化合物の脂溶性や患者の腎機能という、製剤の外側にある制約と引き換えです。
仕様書の数字が語らないこと
ナノ結晶のカタログに並ぶD50や粒度分布は、均一性の指標です。
そこだけを見て「小さいほど溶ける」と読むのは早計です。TriCorが示すとおり、ナノ結晶が動かすのは速さで、総量ではありません。ASDでも同じ誤読が起きます。噴霧乾燥やHMEの仕様書に載る到達粒子径や蒸発能力は装置の性能で、非晶質がどれだけ保つかとは別の話です。メーカーに聞くべきは「どこまで小さくできるか」ではなく、「消化管を模した溶出試験錠剤やカプセルなど固形の医薬品が規格どおりかを確かめる試験で、成分が溶け出す速さ(溶出)、1錠ごとの含量のばらつき、錠剤の硬さなどを調べます。詳しく →で、過飽和平衡溶解度を一時的に超えた不安定な高濃度状態。詳しく →が何時間保たれるか」です。粉末や押出物が固まっても、それだけでは製品になりません。KorschのXLやFette CompactingのFE/iのような打錠機で、圧縮できて初めて製品です。ASDとナノ結晶とSEDDSのどれが優れているかという話ではないのです。溶けにくさの原因が疎水性か結晶格子かで、選ぶべき技術はもう半分決まっています。
技術を選ぶ順番 ― 原因の切り分けから製法まで
選ぶ順番は、原因の切り分けから始まります。
先に決めるのは、溶けにくさが疎水性から来ているか、結晶格子から来ているかです。次に、必要な溶解度の上げ幅を、溶出試験で数字にします。上げ幅が小さいなら、結晶を保ったまま溶かす塩形成やシクロデキストリンで足ります。上げ幅が大きく、原因が結晶格子にあるなら、ASDが本命です。そのうえで、化合物の熱安定性と投与量を見ます。スプレードライ薬物とポリマーの溶液を微細な液滴にして急速乾燥し、非晶質のまま固める製法。詳しく →か、HMEかは、ここで決まります。脂溶性が高い化合物だけは、この並びの外でSEDDSを検討する価値があります。最後に、非晶質がどれだけ保つかをXRPD粉末試料にX線を当て、その回折パターンから結晶構造を調べる装置です。原薬の結晶多形(ポリモルフ)の同定や確認に使います。詳しく →とDSC試料を加熱しながら熱の出入り(DSC)や重量の変化(TGA)を測り、融点・結晶性・水分や分解の挙動を調べる装置です。詳しく →で確かめ、打錠機で製品の形にできるかを見ます。溶けにくさの原因を取り違えたまま製法だけを選ぶと、後工程でやり直しが生じます。
溶けにくさの原因、必要な上げ幅、製造性の三つをこの順で決めれば、技術選定での手戻りは減ります。
参考文献
- FDA, KALETRA (lopinavir and ritonavir) Tablets, Oral Solution Prescribing Information
- FDA, VFEND (voriconazole) Prescribing Information
- Zhang J, et al., Absence of a food effect with a 145 mg nanoparticle fenofibrate tablet formulation, Int J Clin Pharmacol Ther
- Pharmacokinetics and safety of posaconazole delayed-release tablets for invasive fungal infections, Clin Pharmacol. 2016;8:1-8
- Trull AK, et al., Comparison of pharmacokinetics of Neoral and Sandimmune in stable pediatric liver transplant recipients, Ther Drug Monit
- Comparative Bioavailability of Two Formulations of Biopharmaceutical Classification System (BCS) Class IV Drugs: A Case Study of Lopinavir/Ritonavir, J Pharm Sci
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