低分子研究・非臨床安全性

光毒性試験:光と薬が重なると起きるリスクをどう評価するか

日光の下でいつもより強く肌が赤くなる。日の当たる場所にいただけで、その部分がかぶれたようになる。原因を薬だけに帰せない、こうした反応の一部は、薬と光が皮膚や眼の上で重なったときに初めて成立します。これを光毒性(こうどくせい、フォトトキシシティ光を吸収した薬剤が皮膚や眼で組織を傷つける、免疫を介さない毒性。光線過敏症のうち免疫が関与しない型を指す。、臨床の場では光線過敏症光を吸収した薬剤が皮膚や眼で組織を傷つける、免疫を介さない毒性。光線過敏症のうち免疫が関与しない型を指す。と呼びます。

UV-Vis分光光度計プレートリーダー#低分子#光毒性#光線過敏症#ICH S10
光毒性試験:光と薬が重なると起きるリスクをどう評価するか

光毒性のやっかいな点は、薬だけでも光だけでも起きないことです。両方がそろった皮膚や眼の表面で初めて反応が立ち上がる。仕組みの中心にあるのは、薬の分子が光のエネルギーを吸収して不安定な状態になり、その先で活性酸素種(かっせいさんそしゅ、ROS=Reactive Oxygen Species反応性が高く、細胞の成分を酸化して傷める酸素分子の総称。)などを生み出して周囲の細胞を傷つける、という流れです。ROS還元剤の存在下で活性酸素を生じ、タンパク質やアッセイ成分を乱してしまう性質。とは、反応性が高く細胞の成分を酸化して傷める酸素分子の総称です。

「目の前の候補物質に、どこまで光毒性の試験をやるべきか」。開発の現場でこの問いを迫られる場面は、想像より早く来ます。全部を測れば安全ですが、時間も動物も無駄にする。省きすぎればリスクを見落とす。本稿は、この「どこで止め、どこで先へ進むか」を分岐点ごとに追える形で組みました。ICH S10医薬品の光安全性評価について規制当局が合意した国際ガイドライン。が示す段階を、それぞれ「こういうときは次へ、こういうときは終えてよい」という判断として読み替えていきます。主眼は低分子医薬品化学合成によって製造される比較的分子量の小さな有機化合物の医薬品で、バイオ医薬品と区別される。ですが、他のモダリティとの対比が助けになる場面では適宜触れます。

この記事の要点
  • 光毒性(光線過敏症)は、薬と光が皮膚や眼で重なったときに活性酸素種などを介して細胞を傷つける反応で、主に低分子で問われます。
  • 評価は一律ではなく、ICH S10に沿って分岐点ごとに絞り込み、入口はMEC 1000 L·mol⁻¹·cm⁻¹という吸収の閾値です。
  • 閾値を越えたらROS assayで光反応性をふるい分け、陽性なら3T3 NRU試験で細胞レベルの光毒性を確かめ、分布と使われ方まで見て判断します。

まず問う:この分子は光を吸うか

最初の分岐点は「光を吸収するかどうか」です。ここでの判断が、先の試験に進む必要があるかどうかを決めます。

光毒性光を吸収した薬剤が皮膚や眼で組織を傷つける、免疫を介さない毒性。光線過敏症のうち免疫が関与しない型を指す。が成立するには、いくつかの条件が同時にそろわなければなりません。分子が光を吸収すること、吸収するのが実際に皮膚まで届く波長であること、そして光を吸った分子が化学反応を起こして周囲を傷つけること。裏を返せば、最初の条件が満たされなければ、後ろの条件を調べる意味は薄い。だから評価は「光を吸うかどうか」から始めます。

地表に届く太陽光のうち、生体に関わるのはおおむね290〜700nmの範囲です。290nmより短い紫外線は大気でほとんど遮られ、700nmより長い光は光化学反応をあまり起こしません。この範囲に薬の分子の吸収があるかどうかを、まず紫外可視吸収スペクトル分子が紫外・可視光のどの波長をどれだけ吸収するかを調べる測定。UV/Vis分子が紫外・可視光のどの波長をどれだけ吸収するかを調べる測定。)で確認します。

吸収の強さを表す指標がMEC(モル吸光係数、Molar Extinction Coefficientその分子が特定の波長の光をどれだけ効率よく吸収するかを示す値。)⁠です。その分子が特定の波長の光をどれだけ効率よく吸収するかを示す値で、単位はL·mol⁻¹·cm⁻¹。判断の基準は明快です。

  • 290〜700nmのどの波長でもMECその分子が特定の波長の光をどれだけ効率よく吸収するかを示す値。が1000 L·mol⁻¹·cm⁻¹を超えないとき⁠:光反応性を持つ可能性は低いと考えてよく、それ以上の光毒性試験は原則不要と判断できる場合があります。ここで評価を終えられます。
  • いずれかの波長でこの値を上回るとき⁠:光毒性を起こしうる分子として、次の段階へ進みます。
POINT

MEC 1000 L·mol⁻¹·cm⁻¹という閾値は、「光を吸わない分子は光毒性を起こしにくい」という考えを数値に落としたものです。この一点を確かめるだけで、多くの物質を早期に「先へ進まなくてよい」側に振り分けられる。無駄な試験を省く出発点として、まずここを見ます。

この「吸収がなければ先に進まない」という考え方は、低分子に特徴的です。抗体やmRNA-LNP試験管内転写(IVT)でmRNAを作り、脂質ナノ粒子(LNP)に封入して製剤化する一連の工程です。詳しく →、AAV、siRNA二本鎖の短いRNAで、RISC(Ago2)を介して標的mRNAを分解する核酸医薬。ASOと製造基盤を共有する。/ASO、細胞治療生きた細胞そのものを有効成分とする医薬。CAR-Tなどが代表。といった大きな分子や粒子は、この290〜700nmの範囲に強い吸収を持つことが一般に少なく、光毒性が主要な懸念になりにくいと考えられています。光毒性は、この波長域に吸収を持ちやすい低分子でとくに問われるテーマです。

進むと決めたら:ICH S10のどこにいるか

MECの関門を越えて「先へ進む」と判断した物質は、次にどの試験を、どの順で当てるかを選ぶことになります。その道筋を示すのがICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。 S10です。

ICH S10は、医薬品の光安全性評価に関する国際的なガイドラインで、日米欧の規制当局が合意した内容です。すべての候補物質に一律の試験を課すのではなく、リスクの高そうなものだけを段階的に絞り込む、という考え方が中心にあります。裏返せば、各段階が「次に進むか、ここで終えるか」の分岐点になっているということです。

全体の流れを、判断の順に並べると次のようになります。

  • 吸収スペクトルの確認⁠:まずUV/Visで290〜700nmの吸収とMECを調べます。MECが1000 L·mol⁻¹·cm⁻¹を超えなければ、さらなる光毒性試験は原則不要とされます。
  • 組織への分布の考慮⁠:吸収があっても、光の当たる組織(皮膚や眼)に薬がどれだけ届き、留まるかを併せて考えます。
  • 非臨床の光毒性評価⁠:懸念が残る場合に、in vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。in vivo生きた動物の体内で試験を行うこと。物質が吸収・代謝を受けた実際の状態での影響を見られる。の試験で光毒性の有無を確かめます。
  • 臨床評価⁠:非臨床の結果と、実際の使われ方(投与量・経路・日光曝露の程度)を総合し、必要ならヒトでの評価に進みます。

どの段階でも「懸念が十分低い」と判断できれば、そこで評価を終えられます。これが大事な点です。ICH S10は、動物実験を含む試験を最小限にしながら光毒性のリスクを見落とさないための道筋を示しているといえます。以下では、非臨床の光毒性評価の段階で選べる2つの試験を、どちらを、どう使い分けるかという視点で見ていきます。

光反応性を早くふるい分けたいなら:ROS assay

非臨床評価に進んだ物質にまず当てる候補になるのがROS assay細胞を使わず、光を当てた分子が活性酸素種を生む力を測る光反応性の試験。です。細胞を使わず、光反応性という化学的な性質だけを早い段階で見られるのが特徴です。

MECで「光を吸う」ことが分かっても、それだけでは細胞を傷つけるとは限りません。光を吸った分子が、実際に反応性の高い化学種を生むかどうかが次の問いです。これを細胞を使わずに評価するのがROS assay(活性酸素種アッセイ細胞を使わず、光を当てた分子が活性酸素種を生む力を測る光反応性の試験。)です。

光毒性の分子は、光を吸って励起状態になったあと、大きく2つの経路でROSを生みます。周囲の分子と直接電子をやり取りしてスーパーオキシド分子と酸素の電子のやり取りで生じる活性酸素種の一つ。(O₂⁻)などを生む経路(タイプI反応)と、エネルギーを酸素に渡して一重項酸素光で励起した分子が酸素にエネルギーを渡して生じる、反応性の高い酸素種。(¹O₂)を生む経路(タイプII反応)です。ROS assay医薬品中の有効成分が規格範囲内の量(含量)で存在するかを定量的に確認する試験。は、この2種類の生成を別々の指示薬で捉えます。一重項酸素はp-ニトロソジメチルアニリン(RNO)の退色として、スーパーオキシドはニトロブルーテトラゾリウム(NBT)の還元として測る。試料に紫外可視光(UVA域を含む擬似太陽光)を当て、指示薬の変化量から光反応性を判定します。

この方法は、静岡県立大学のOnoueらのグループを中心に開発・標準化され、ICH S10に組み込まれるとともに、OECD TG495としても手法が定められています。判定の目安として、一重項酸素・スーパーオキシドそれぞれに一定の生成量の基準が置かれており、それを下回れば光反応性は低いと見なせます。

ただし、結果の読み方には注意が要ります。ROS assayは感度が高い一方で、光反応性がなくても陽性に出ること(偽陽性実際には結合や活性がないのに、計算や試験で当たりに見えてしまう候補。上位ヒットに必ず混じる前提で扱う。)が比較的多い試験として知られています。この性質から、使い分けはこう整理できます。

  • 陰性が出たとき⁠:光反応性は低いと見てよく、安心材料として強く働きます。
  • 陽性が出たとき⁠:それだけでは光毒性の証明にならないため、次の細胞試験で確かめに進みます。

細胞が実際に傷つくか確かめるなら:3T3 NRU光毒性試験

ROS assayが陽性のとき、あるいは細胞レベルでの光毒性そのものを見たいときに選ぶのが、3T3 NRU光毒性試験培養細胞に薬を加え、光あり・なしで生存率を比べる標準化された光毒性試験。です。ROS assayが「光反応性という化学的な性質」を見るのに対し、こちらは「細胞が実際に光と薬で傷つくか」を見る。in vitro(試験管内・培養細胞での)光毒性試験として最も広く使われ、OECD TG432として標準化されています。

原理はシンプルです。マウス由来のBALB/c 3T3という線維芽細胞(皮膚などに多い細胞の一種)を培養し、同じ薬を段階的な濃度でさらします。用意した2枚のプレートのうち、一方にはUVA(315〜400nmの紫外線)を照射し、もう一方は暗所に置く。その後、細胞の生存率をニュートラルレッド取り込み(NRU=Neutral Red Uptake生きた細胞に取り込まれる色素の量から生存細胞数を測る方法。)で測ります。ニュートラルレッドは生きた細胞に取り込まれる色素で、その量は生存細胞数を反映するため、生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。の指標になります。

光ありと光なしで生存率の曲線を比べ、2つの指標で判定します。どちらの基準を超えたら光毒性ありと見るかを含めて整理すると、次のとおりです。

指標意味判定の目安
PIF(光刺激係数、Photo-Irritancy Factor光なしと光ありでの、生存が半分になる濃度の比。光毒性の判定に使う。光なしと光ありでのIC₅₀(生存が半分になる濃度)の比5以上で光毒性ありと判定
MPE(平均光効果、Mean Photo Effect光あり・なしの用量反応曲線全体の差を一つの値にまとめた光毒性の指標。光あり・光なしの用量反応曲線濃度を振ったときの応答の変化を表す曲線で、ここからIC50やEC50を導く。全体の差を1つの値にまとめたもの0.15以上で光毒性ありと判定

PIF光なしと光ありでの、生存が半分になる濃度の比。光毒性の判定に使う。は、光を当てるとどれだけ少ない濃度で細胞が傷つくようになるかを表します。光なしのIC₅₀が光ありの5倍以上、つまり光があると5分の1以下の濃度で毒性が出るなら、光毒性ありと判断します。MPEは片方の濃度だけでなく曲線全体の隔たりを見る指標で、両者を併せて判定に使います。この試験はヒトの光毒性との対応でみて感度が高い(見落としが少ない)一方、特異度はやや劣り、実際には問題にならない物質を陽性と拾うことがある点には注意が要ります。

in vitroで陽性でも即リスクとは限らない:分布と使われ方で決める

in vitroの試験で光毒性が示されたとき、開発を止めるべきか、注意喚起を添えて続けられるか。この最後の分岐は、薬が光の当たる組織に届くかどうかと、実際の使われ方で決まります。

光毒性が臨床で問題になるには、薬が光の当たる組織、すなわち皮膚と眼に意味のある量で分布している必要があります。試験管の中で光毒性を示す分子でも、その組織にほとんど届かなければ実際のリスクは小さくなります。逆に、皮膚や眼に長く留まる分子は、たとえ光反応性がそれほど強くなくても注意が要ります。

眼は皮膚とは事情が少し異なります。角膜・水晶体・網膜はそれぞれ届く光の波長が違い、水晶体にたまりやすい分子や網膜まで届く可視光で反応する分子では、皮膚とは別の観点での評価が要る場合があります。

臨床での判断は、非臨床の結果だけで決まるわけではありません。次のような条件を併せて考えます。

  • 実際の投与量
  • 投与経路(内服か外用か注射か)
  • 想定される日光曝露の程度
  • 患者に日光を避けてもらう注意喚起が現実的に効くか

非臨床で光毒性の可能性が示された薬でも、これらから見てリスクが管理できると判断されれば、注意喚起を添えて開発を続ける選択もあります。ICH S10は、こうした総合判断の材料をそろえるための枠組みでもあります。

別枠で問うべきもの:光遺伝毒性

ここまでは、光と薬が細胞を傷つけて生存率を下げる、という意味での光毒性を追ってきました。もうひとつ別に持っておくべき判断の軸が、光を浴びた薬がDNAに傷を与える可能性、すなわち光遺伝毒性(フォトジェノトキシシティ)です。光を吸った分子が生むROSがDNAを酸化したり、分子がDNAと結合した状態で光を受けて損傷を起こしたりする経路が、仕組みとして考えられます。

ただし、この項目をいつ調べるかの扱いは、通常の光毒性とは違います。光遺伝毒性の評価は、標準化された必須試験としては位置づけられていません。ICH S10でも光遺伝毒性試験をルーティンに求めることには慎重な立場がとられており、既存の遺伝毒性評価の枠組みや光毒性の結果を踏まえて、必要なときに個別に考えるという扱いが一般的です。過去には光遺伝毒性を評価する試験がいくつか検討されましたが、偽陽性の多さなどから一律の適用には課題が残るとされてきました。

つまり、光遺伝毒性は「常に測る項目」ではなく、「懸念の兆候があるときに状況に応じて検討する項目」です。まず通常の光毒性評価を進め、そこで気になる兆候が出たときにこの軸を持ち出すのが、実務上の判断の順です。

判断の勘所

光毒性の評価は、一律に全部を測る営みではありません。分岐点ごとに「ここで終えてよいか、先へ進むか」を選ぶ設計になっています。入口はMEC 1000 L·mol⁻¹·cm⁻¹という閾値。これを下回れば、多くの物質はそこで手を離せます。越えたら、光反応性を早くふるい分けたいならROS assayへ。その陰性は強い安心材料になり、陽性なら3T3 NRU光毒性試験で細胞レベルの光毒性を確かめます。in vitroで陽性でも、皮膚・眼への分布と実際の使われ方まで見て、止めるか注意喚起を添えて続けるかを判断する。光遺伝毒性は常設の項目ではなく、兆候があるときに別枠で検討します。必要な物質に必要な試験を、という選び分けの発想が、光毒性評価の背骨です。

参考文献

Newsletter

この分野の新着を、メールで受け取る

こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを月数回お届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。

登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。

次に読む

目次・関連閉じる
編集メモ:この記事はProglenth編集部が、低分子に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。