光毒性試験:光と薬が重なると起きるリスクをどう評価するか
日光を浴びた肌が、ある薬を飲んだ日だけ、いつもより強く赤くなる。あるいは、日の当たる場所にいただけで、その部分がかぶれたようになる。こうした反応の一部は、薬そのものというより、薬と光が重なったときに起きます。これを光毒性(こうどくせい、フォトトキシシティ)、臨床の場では光線過敏症と呼びます。

光毒性は、少し変わった性質を持っています。薬が体内にあるだけでも、光が当たるだけでも起きないのに、両方がそろった皮膚や眼の表面で初めて反応が立ち上がるからです。仕組みの中心は、薬の分子が光のエネルギーを吸収して不安定な状態になり、その先で活性酸素種(かっせいさんそしゅ、ROS=Reactive Oxygen Species)などを生み出して周囲の細胞を傷つける、という流れにあります。ROSとは、反応性が高く細胞の成分を酸化して傷める酸素分子の総称です。
本稿では、なぜ「光を吸うかどうか」が出発点になるのかを起点に、国際ガイドラインICH S10が示す段階を踏んだ評価の考え方、光反応性を測るROS assay、培養細胞で光毒性そのものを見る3T3 NRU光毒性試験、そして皮膚や眼への分布や臨床判断、光遺伝毒性までを順に整理します。主眼は低分子医薬品ですが、他のモダリティとの対比が助けになる場面では適宜触れます。
なぜ「光を吸うか」から始めるのか:MECという入口
光毒性は、薬の分子が皮膚や眼に届く波長の光を吸収しなければ、そもそも起こりにくいという性質があります。
光毒性が成立するには、いくつかの条件が同時にそろう必要があります。分子が光を吸収すること、吸収するのが実際に皮膚まで届く波長であること、そして光を吸った分子が化学反応を起こして周囲を傷つけること。この最初の関門が「光を吸うかどうか」です。
地表に届く太陽光のうち、生体に関わるのはおおむね290〜700nmの範囲です。290nmより短い紫外線は大気でほとんど遮られ、700nmより長い光は光化学反応をあまり起こしません。そこで、この範囲に薬の分子の吸収があるかどうかを、まず紫外可視吸収スペクトル(UV/Vis)で調べます。
吸収の強さを表す指標がMEC(モル吸光係数、Molar Extinction Coefficient)です。MECは、その分子が特定の波長の光をどれだけ効率よく吸収するかを示す値で、単位はL·mol⁻¹·cm⁻¹で表されます。ICH S10では、290〜700nmのいずれかの波長でMECが1000 L·mol⁻¹·cm⁻¹を超えなければ、光反応性を持つ可能性は低いと考えてよい、という目安が示されています。逆にこの値を上回るなら、光毒性を起こしうる分子として次の段階に進みます。
MEC 1000 L·mol⁻¹·cm⁻¹という閾値は、「光を吸わない分子は光毒性を起こしにくい」という考えを数値にしたものです。この値を下回れば、それ以上の光毒性試験は原則不要と判断できる場合があり、無駄な試験を省く出発点になります。
この「吸収がなければ先に進まない」という考え方は、低分子に特徴的です。抗体やmRNA-LNP、AAV、siRNA/ASO、細胞治療といった大きな分子や粒子は、この290〜700nmの範囲に強い吸収を持つことが一般に少なく、光毒性が主要な懸念になりにくいと考えられています。光毒性は、この波長域に吸収を持ちやすい低分子でとくに問われるテーマです。
ICH S10:段階を踏んで判断する
ICH S10は、光を吸うかの確認から始め、必要な物質だけを次の試験へ進める、階層的な評価の枠組みを示しています。
ICH S10は、医薬品の光安全性評価に関する国際的なガイドラインで、日米欧の規制当局が合意した内容です。中心にあるのは、すべての候補物質に一律の試験を課すのではなく、リスクの高そうなものだけを段階的に絞り込む、という考え方です。
大まかな流れは次のようになります。
- 吸収スペクトルの確認:まずUV/Visで290〜700nmの吸収とMECを調べます。MECが1000 L·mol⁻¹·cm⁻¹を超えなければ、さらなる光毒性試験は原則不要とされます。
- 組織への分布の考慮:吸収があっても、光の当たる組織(皮膚や眼)に薬がどれだけ届き、留まるかを併せて考えます。
- 非臨床の光毒性評価:懸念が残る場合に、in vitroやin vivoの試験で光毒性の有無を確かめます。
- 臨床評価:非臨床の結果と、実際の使われ方(投与量・経路・日光曝露の程度)を総合し、必要ならヒトでの評価に進みます。
重要なのは、この各段階が「次に進むかどうかの分岐点」になっていることです。ある段階で懸念が十分低いと判断できれば、そこで評価を終えられます。ICH S10は、動物実験を含む試験を最小限にしながら、光毒性のリスクを見落とさないための道筋を示しているといえます。
光反応性を測る:ROS assay
ROS assayは、薬が光を浴びたときに活性酸素種をどれだけ生み出すかを試験管内で測り、光反応性の有無を早い段階でふるい分ける試験です。
MECで「光を吸う」ことが分かっても、それだけでは細胞を傷つけるとは限りません。光を吸った分子が、実際に反応性の高い化学種を生むかどうかが次の問いです。これを細胞を使わずに評価するのがROS assay(活性酸素種アッセイ)です。
光毒性の分子は、光を吸って励起状態になったあと、大きく2つの経路でROSを生みます。ひとつは周囲の分子と直接電子をやり取りしてスーパーオキシド(O₂⁻)などを生む経路(タイプI反応)、もうひとつはエネルギーを酸素に渡して一重項酸素(¹O₂)を生む経路(タイプII反応)です。ROS assayは、この2種類の生成を別々の指示薬で捉えます。一重項酸素はp-ニトロソジメチルアニリン(RNO)の退色として、スーパーオキシドはニトロブルーテトラゾリウム(NBT)の還元として測ります。試料に紫外可視光(UVA域を含む擬似太陽光)を当て、指示薬の変化量から光反応性を判定します。
この方法は、静岡県立大学のOnoueらのグループを中心に開発・標準化され、ICH S10に組み込まれるとともに、OECD TG495としても手法が定められています。判定の目安として、一重項酸素・スーパーオキシドそれぞれに一定の生成量の基準が置かれ、それを下回れば光反応性は低いと見なせます。ROS assayは、感度が高い一方で、光反応性がなくても陽性に出ること(偽陽性)が比較的多い試験として知られています。そのため「陰性なら安心材料として強く効く」試験と位置づけ、陽性の場合は次の細胞試験で確かめる、という使い方をします。
培養細胞で見る:3T3 NRU光毒性試験
3T3 NRU光毒性試験は、同じ細胞を光ありと光なしで薬にさらし、生存率の差から光毒性の強さを数値化する、in vitroの中心的な試験です。
ROS assayが「光反応性という化学的な性質」を見るのに対し、3T3 NRU光毒性試験は「細胞が実際に光と薬で傷つくか」を見ます。in vitro(試験管内・培養細胞での)光毒性試験として最も広く使われ、OECD TG432として標準化されています。
原理はシンプルです。マウス由来のBALB/c 3T3という線維芽細胞(皮膚などに多い細胞の一種)を培養し、同じ薬を段階的な濃度でさらします。用意した2枚のプレートのうち、一方にはUVA(315〜400nmの紫外線)を照射し、もう一方は暗所に置きます。その後、細胞の生存率をニュートラルレッド取り込み(NRU=Neutral Red Uptake)で測ります。ニュートラルレッドは生きた細胞に取り込まれる色素で、その量は生存細胞数を反映するため、生存率の指標になります。
光ありと光なしで生存率の曲線を比べ、2つの指標で評価します。
| 指標 | 意味 | 判定の目安 |
|---|---|---|
| PIF(光刺激係数、Photo-Irritancy Factor) | 光なしと光ありでのIC₅₀(生存が半分になる濃度)の比 | 5以上で光毒性ありと判定 |
| MPE(平均光効果、Mean Photo Effect) | 光あり・光なしの用量反応曲線全体の差を1つの値にまとめたもの | 0.15以上で光毒性ありと判定 |
PIFは、光を当てるとどれだけ少ない濃度で細胞が傷つくようになるかを表します。光なしのIC₅₀が光ありの5倍以上、つまり光があると5分の1以下の濃度で毒性が出るなら、光毒性ありと判断します。MPEは、片方の濃度だけでなく曲線全体の隔たりを見る指標で、両者を併せて判定に使います。この試験は、ヒトの光毒性との対応でみて感度が高い(見落としが少ない)一方、特異度はやや劣り、実際には問題にならない物質を陽性と拾うことがある点に注意が要ります。
組織への分布と臨床での判断
in vitroで光毒性が示されても、薬が皮膚や眼に届いて留まらなければリスクにはつながらず、実際の使われ方まで含めた総合判断が欠かせません。
光毒性が臨床で問題になるには、薬が光の当たる組織、すなわち皮膚と眼に、意味のある量で分布している必要があります。試験管の中で光毒性を示す分子でも、その組織にほとんど届かなければ、実際のリスクは小さくなります。逆に、皮膚や眼に長く留まる分子は、たとえ光反応性がそれほど強くなくても注意が要ります。
眼は皮膚とは事情が少し異なります。角膜や水晶体、網膜はそれぞれ届く光の波長が違い、水晶体にたまりやすい分子や、網膜まで届く可視光で反応する分子では、皮膚とは別の観点での評価が要る場合があります。
臨床での判断は、非臨床の結果だけで決まるわけではありません。実際の投与量、投与経路(内服か外用か注射か)、想定される日光曝露の程度、そして患者に日光を避けてもらう注意喚起が現実的に効くか、といった条件を併せて考えます。非臨床で光毒性の可能性が示された薬でも、曝露量や使い方から見てリスクが管理できると判断されれば、注意喚起を添えて開発を続ける選択もあります。ICH S10は、こうした総合判断の材料をそろえるための枠組みでもあります。
光遺伝毒性という別の懸念
光と薬が重なったときに問われるのは細胞死だけではなく、DNAへの傷、すなわち光遺伝毒性という別の観点があります。
ここまでは、光と薬が細胞を傷つけて生存率を下げる、という意味での光毒性を見てきました。これとは別に、光を浴びた薬がDNAに傷を与える可能性を光遺伝毒性(フォトジェノトキシシティ)と呼びます。仕組みとしては、光を吸った分子が生むROSがDNAを酸化したり、分子がDNAと結合した状態で光を受けて損傷を起こしたりする経路が考えられます。
ただし、光遺伝毒性の評価は、通常の光毒性ほど標準化された必須試験としては位置づけられていません。ICH S10でも、光遺伝毒性試験をルーティンに求めることには慎重な立場がとられており、既存の遺伝毒性評価の枠組みや、光毒性の結果を踏まえて、必要なときに個別に考える、という扱いが一般的です。過去には光遺伝毒性を評価する試験がいくつか検討されましたが、偽陽性の多さなどから、一律の適用には課題が残るとされてきました。光遺伝毒性は「常に測る項目」ではなく、「懸念の兆候があるときに、状況に応じて検討する項目」と捉えておくのが実務的です。
まとめ
光毒性は、薬と光が皮膚や眼で重なったときに初めて立ち上がる、少し特殊なリスクです。だからこそ評価は「光を吸うか」という入口から始まります。MECが1000 L·mol⁻¹·cm⁻¹という閾値を下回れば先へ進まなくてよい、というICH S10の階層的な考え方が、無駄な試験を省きながら見落としを防ぎます。光反応性を試験管内で見るROS assay、細胞で光毒性そのものを見る3T3 NRU光毒性試験と、性質の違う試験を段階的に組み合わせ、そこに皮膚・眼への分布と実際の使われ方を重ねて臨床判断へつなげます。光遺伝毒性は別の観点として、必要に応じて検討します。一律に全部を測るのではなく、必要な物質に必要な試験を、という設計思想が、光毒性評価の背骨になっています。
参考文献
- ICH, S10 Photosafety Evaluation of Pharmaceuticals
- FDA, Guidance for Industry: S10 Photosafety Evaluation of Pharmaceuticals
- OECD, Test No. 432: In Vitro 3T3 NRU Phototoxicity Test
- OECD, Test No. 495: Ros (Reactive Oxygen Species) Assay for Photoreactivity
- Lee YS, et al. Phototoxicity Evaluation of Pharmaceutical Substances with a Reactive Oxygen Species Assay Using Ultraviolet A. PMID: 28133512
- Onoue S. [Establishment and International Harmonization of Photosafety Testing Strategy]. PMID: 34078785