低分子研究・非臨床安全性

in vitro 小核試験(CBMN法)とは? サイトカラシンBと判定の基礎

候補物質の染色体毒性を確かめる場面で、試験担当者がまず手に取る選択肢の一つがin vitro小核試験培養細胞で染色体レベルの傷を、分裂後に残る小核の頻度として検出する遺伝毒性試験。です。生きた動物ではなく培養皿の細胞を使い、遺伝情報の入れ物である染色体が傷ついているかどうかを判定する。「in vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。(イン・ビトロ)」とは「試験管の中で」を意味し、細胞レベルでの評価であることを示す言葉です。

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in vitro 小核試験(CBMN法)とは? サイトカラシンBと判定の基礎

この試験の主役が小核(しょうかく、マイクロニュークレウス)⁠です。細胞が分裂するとき、本来の核(主核)へ戻り損ねた染色体のかけらや、丸ごと1本取り残された染色体が、細胞質細胞内部の区画。大腸菌では還元的で、そのままではジスルフィド結合ができにくい。の中に小さな核として残ったもの——それが小核です。分裂のときにこぼれ落ちた核の落とし物、とも言えます。この落とし物を数えることで、染色体レベルの傷を間接的に、しかもかなり確かに読み取れます。

医薬品開発では、この小核試験染色体レベルの損傷を、細胞内に生じる小核の頻度で調べる遺伝毒性試験。Ames試験(細菌を使った遺伝子突然変異の試験)と組み合わせて使います。両者は標準的な遺伝毒性の検査セット(バッテリー)を構成し、小核試験が「染色体の傷」を担当する。国際的なガイドラインICH S2(R1)医薬品の遺伝毒性試験の標準的な組み合わせと、そのデータ解釈を定めたガイドライン。でも、小核試験は染色体異常を見つける選択肢のひとつとして位置づけられています。

では、なぜ小核を数えるのにサイトカラシンBという薬剤で「二核細胞」をわざわざ作るのか。数え方や細胞毒性の補正の仕方、OECD TG487in vitro哺乳類細胞小核試験の実施方法・計数・陽性判定の基準を定めたOECDの試験ガイドライン。での陽性判定の考え方まで整理していくと、昔からある染色体異常試験分裂中期の細胞で染色体の形を観察し、切断や交換など構造異常の型まで調べる遺伝毒性試験。CBMN法サイトカラシンBで細胞質分裂を止め、二核細胞に絞って小核を数える小核試験の方式。をどう使い分けるかも自然と見えてきます。

この記事の要点
  • in vitro小核試験(CBMN法)は培養細胞の小核を数え、染色体の構造異常と数的異常を1つの指標でまとめて評価します。
  • サイトカラシンBで細胞質分裂だけを止めて二核細胞を作り、一度分裂した細胞に絞って小核を計数します。
  • CBPIやRIで細胞毒性を補正し、OECD TG487に沿って有意性・濃度依存性・背景データとの比較から陽性を判定します。

小核が語ること:2種類の異常をまとめて拾う

小核試験のいちばんの強みは何か。性質のちがう2種類の異常を、1回の数え上げでまとめて拾えること——この一点です。

  • 構造異常(クラストゲン染色体を切断する物質。生じた動原体のないかけらが小核として現れる構造異常を起こす。作用):クラストゲンとは「染色体を切断する物質」のことです。染色体が切れると、動原体分裂時に染色体を引っぱるための取っ手にあたる部分。これを欠くかけらが小核として取り残される。(染色体を分裂時に引っぱるための取っ手のような部分)を持たないかけらができます。このかけらは次の分裂で娘の核に引き込まれず、小核として取り残されます。
  • 数的異常(アニュージェン染色体の分配を乱し本数を狂わせる物質。染色体が1本まるごと小核になる数的異常を起こす。作用):アニュージェンとは「染色体の本数を狂わせる物質」のことです。染色体を引っぱる仕組みが乱れると、染色体が1本まるごと分配に失敗します。この染色体も小核になります。

つまり小核は、「切る(クラストゲン)」と「配り損ねる(アニュージェン)」という別々のしくみの結果を、どちらも目に見える形で残してくれます。染色体を1本ずつ観察する染色体異常試験と比べ、小核は数えるだけで済むため判定が客観的。多くの細胞をまとめて評価しやすいのも実務上の利点です。 小核試験は構造異常と数的異常の両方を1つの指標でつかめる点に価値があります

小核が「かけら由来(クラストゲン)」なのか「染色体まるごと由来(アニュージェン)」なのかは、必要なら見分けられます。動原体やセントロメア(染色体の中央付近の目印になる領域)だけを染め分ける方法があるからです。抗キネトコア抗体動原体を染め分ける染色法。小核内に信号があるかで、クラストゲンとアニュージェンのどちらかを切り分ける。(CRESTと呼ばれる染色法)やセントロメア染色体上にある目印となる領域で、動原体が組み立てられる土台。小核内にあるかで、かけら由来か染色体丸ごと由来かを見分ける。FISH(特定の場所を光らせて見る手法)で小核内に信号があるかを確認すれば、どちらのしくみで起きたかを切り分けられます。

サイトカラシンBで二核細胞を作る意味

小核は、「分裂を一度終えた細胞」で数える必要があります。分裂前の細胞に核の異常があっても、それが今回の処理で新しくできたものとは断定できないからです。この問題を解決するために登場するのが、サイトカラシンB細胞質分裂に必要なアクチン繊維の働きを止める薬剤。核は分かれるが体は分かれず二核細胞を作る。という薬剤です。

細胞が2つに分かれるときは、まず核が2つに分かれ(核分裂)、次に細胞そのものがくびれて2つに分かれます(細胞質分裂=サイトカイネシス)。サイトカラシンBは、この後半のくびれに必要なアクチン繊維(細胞の骨組みの一種)の働きだけを止めます。核は2つに分かれるのに、体は分かれない——その結果、分裂を一度終えた細胞は、核を2つ持ったまま二核細胞核を2つ持つ細胞。サイトカラシンBで細胞質分裂を止めた結果生じ、一度分裂した細胞の目印になる。として残ります。

この二核細胞だけを選んで小核を数えることで、対象を「処理の間か直後に、たしかに一度分裂した細胞」に絞り込めます。まだ分裂していない単核細胞や、2回以上分裂した多核細胞と明確に見分けられるため、小核の頻度を読み解きやすくなる。この「細胞質分裂を止めて数える」やり方を使う小核試験を、CBMN法(Cytokinesis-Block MicronucleusサイトカラシンBで細胞質分裂を止め、二核細胞に絞って小核を数える小核試験の方式。細胞質分裂ブロック小核法サイトカラシンBで細胞質分裂を止め、二核細胞に絞って小核を数える小核試験の方式。)と呼びます。

POINT

サイトカラシンBは、核分裂は止めず、体の分裂(細胞質分裂)だけを止めます。できあがる二核細胞は「ちょうど一度だけ分裂した細胞」の目印となり、小核を数える対象をそこに絞り込めます。

サイトカラシンBを使わないやり方(非CBMN培養細胞で染色体レベルの傷を、分裂後に残る小核の頻度として検出する遺伝毒性試験。法)も認められています。ただしこの場合、二核細胞という分かりやすい目印がありません。細胞がきちんと増えたことを別の指標で示す必要があり、増殖の確認方法により注意が要ります。

二核細胞の計数と、細胞毒性の補正

CBMN法では、二核細胞を対象に小核の有無を観察します。OECD TG487in vitro哺乳類細胞小核試験の実施方法・計数・陽性判定の基準を定めたOECDの試験ガイドライン。では、CBMN法の場合、各濃度・対照ごとに少なくとも2000個の二核細胞で小核を数えることが目安です。1つの二核細胞に小核が複数見えることもあるため、「小核を持つ細胞の割合」としてまとめるのが一般的です。

注意が必要なのが、細胞毒性物質が細胞の生存や増殖を障害する性質のことで、過剰な細胞毒性条件下では偽陽性の遺伝毒性シグナルが生じやすくなる。が強い濃度での評価です。毒性で増殖が抑えられた集団では、傷ついた細胞が分裂まで進めず脱落してしまい、見かけの小核頻度が実態からずれることがあります。逆に、細胞毒性そのものが二次的に小核を生むしくみもある。そのため、「どこまでの毒性なら試験として成立とみなすか」をあらかじめ決めておく必要があります。この判断に使うのが細胞増殖の指標です。CBMN法では主に次の2つが使われます。

指標定義計算式(概略)
CBPI(細胞質分裂ブロック増殖指数単核・二核・多核細胞の割合から分裂回数を反映する指数。細胞毒性の補正に使い、1に近いほど分裂していない。分裂回数を反映する指数。1に近いほど分裂していないCBPI単核・二核・多核細胞の割合から分裂回数を反映する指数。細胞毒性の補正に使い、1に近いほど分裂していない。 = {単核細胞数 + 2 × 二核細胞数 + 3 × 多核細胞数} ÷ 全細胞数
RI(複製指数処理群と対照群の分裂サイクル数を比べた相対値。CBPIとともに細胞毒性の指標として用いる。対照と比べた分裂サイクル数樹脂を負荷から洗浄・溶出・再生まで1回使うごとに数える回数。寿命管理の基本単位になる。の相対値二核・多核の重み付け和を、処理群と対照群で比較して算出

これらから細胞毒性(=細胞増殖の抑えられ具合、cytostasis)を求めます。CBPIを使う場合、細胞増殖抑制率はおおむね次の式で表されます。

細胞増殖抑制率(%) = 100 - 100 × (処理群のCBPI - 1) ÷ (対照群のCBPI - 1)

これは、処理していない対照群を基準(増殖抑制ゼロ)としたとき、薬剤を加えた群でどれだけ増殖が鈍ったかを割合で示すものです。処理群のCBPIが対照群と同じなら抑制率は0%、まったく増えていなければ100%に近づく。RIを使う場合は、処理群と対照群の複製指数の比から抑制率を出します。OECD TG487では、いちばん高い濃度での細胞毒性の目安として、これらの指標でおおむね55 ± 5%程度の細胞増殖抑制にあたる濃度を上限とするよう推奨しています。細胞が半分ちょっと増えにくくなるあたりまでを試験の上限とする、という目安です。 CBPIやRIで細胞毒性を数値にして規定の範囲に収めることが、小核頻度を正しく読むための前提になります

OECD TG487での陽性判定

判定は、「小核を持つ二核細胞の割合が、濃度に応じて意味のある増え方をするか」で行います。OECD TG487の考え方では、次のいずれも満たすときに陽性とみなすのが一般的です。

  • 少なくとも1つの濃度で、同時に置いた対照とくらべ、小核頻度が統計的に有意に増えている(偶然では説明しにくいレベルで増えている)
  • 適切な傾向検定濃度を上げるほど応答が増えるという流れの有無を調べる統計手法。小核頻度の濃度依存性の判定に使う。(濃度を上げると増えるという流れを調べる統計手法)で、濃度に応じた増加が認められる
  • 得られた値が、その施設でふだん出る陰性対照(背景)のばらつきの範囲を超えている

これらを満たさず、どの濃度でも増加が見られなければ陰性と判断します。判定が微妙なときは、条件を変えた追試で確かめます。試験そのものが信頼できるかどうかは、陰性・陽性・溶媒(薬剤を溶かす液)の各対照が想定どおりに振る舞ったか、そして代謝活性化系肝臓の代謝酵素を含む画分。代謝を受けて初めて毒性を示す物質を検出するため、添加した条件で評価する。(S9)の有無を含めた成立条件を満たしたかで担保します。

代謝活性化肝臓由来の酵素画分(S9)に補酵素を加えた試薬。細菌の系に代謝を再現し、代謝で生じる変異原を捕まえる。について補足します。物質のなかには、そのままでは無害でも、体内で代謝(分解・変換)を受けてはじめて遺伝毒性化合物が遺伝子や染色体を傷つける性質。点突然変異や染色体損傷を含み、複数の試験で分担して調べる。を示すものがあります。そのため、肝臓の代謝酵素を含む画分であるS9を加えた条件(S9あり)と加えない条件(S9なし)の両方で評価するのが基本です。この考え方はAmes試験と共通しています。

染色体異常試験との使い分け

小核試験と、昔からある染色体異常試験(OECD TG473分裂中期の細胞で染色体の形を観察し、切断や交換など構造異常の型まで調べる遺伝毒性試験。)⁠は、どちらも染色体レベルの傷を見る点で近い試験です。ただし、見えるものと得意分野はちがいます。

観点in vitro小核試験(TG487)染色体異常試験(TG473分裂中期の細胞で染色体の形を観察し、切断や交換など構造異常の型まで調べる遺伝毒性試験。
何を見るか分裂後の細胞に残る小核の頻度分裂中期の細胞での染色体の形
構造異常検出できる(かけらが小核に)型まで詳しく観察できる
数的異常検出しやすい(染色体まるごとの小核)検出しにくい場合がある
判定小核の有無で客観的・省力的熟練した観察者による解析が必要
標準OECD TG487OECD TG473

小核試験は、数的異常(アニュージェン)を拾いやすく、多数の細胞を効率よく評価できるのが強みです。一方の染色体異常試験は、切断や交換(染色体どうしがつなぎ変わること)といった構造異常のまで細かく観察できます。ICH S2(R1)の遺伝毒性バッテリーでは、in vitroの染色体の傷を見る試験として、小核試験か染色体異常試験のどちらかを選べるとされています。目的や運用に応じて選ぶことになります。

しくみをさらに追いたい場合は、DNAの鎖の切断そのものを1細胞ずつ見るコメット試験を組み合わせる手もあります。小核試験が「分裂を経た結果として現れる染色体異常」を見るのに対し、コメット試験は「切れた鎖が今そこにあること」を直接見ます。見ている段階がちがうため、両者は補い合う関係にあります。

まとめ

in vitro小核試験(CBMN法)は、サイトカラシンBで細胞質分裂だけを止めて二核細胞を作り、その細胞に残る小核を数える試験です。染色体の構造異常(クラストゲン)と数的異常(アニュージェン)をまとめて評価できる。CBPIやRIで細胞毒性を数値にし、おおむね55 ± 5%程度の細胞増殖抑制を上限の目安に収めたうえで、統計的な有意性・濃度依存性・背景データとの比較から陽性・陰性を判定します。染色体異常試験とは得意分野がちがうので、目的に応じて選び分けたり、コメット試験と組み合わせたりしながら、遺伝毒性の全体像を少しずつ組み立てていくことになります。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、低分子に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。