低分子研究・非臨床安全性

Ames試験の菌株選択と判定基準:TA98・TA100・S9の読み方

医薬品開発の現場で遺伝毒性の懸念が浮上したとき、最初に手が伸びるのがAmes試験——正式には細菌復帰突然変異試験壊した遺伝子が変異で元に戻る回数を数え、化合物の変異原性を細菌で手早く調べる試験。です。動物やヒトで試す前に、ある化合物が遺伝子を傷つけて突然変異を引き起こす力があるかどうかを、細菌を使って手早く見極める試験です。「復帰突然変異一度働かなくなった遺伝子が別の変異で再び働くようになること。生じたコロニー(revertant)を数える。」とは、いったん壊れて働かなくなった遺伝子が、別の変異によってまた働くようになることを指します。

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Ames試験の菌株選択と判定基準:TA98・TA100・S9の読み方

仕組みは整理するとシンプルです。あるアミノ酸を自力で作れないよう遺伝子を壊した菌を用意し、そのアミノ酸を抜いた培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。に置きます。通常、この菌は増えません。ここに調べたい化合物を加えます。化合物が遺伝子に変異を起こし、壊れた合成能力が回復すれば、菌は増えてコロニー(菌のかたまり)を作る。増えたコロニーを数えれば、変異がどれくらい起きたかがわかる——という発想です。

この試験が開発現場で選ばれるのは、新しい医薬品や不純物がヒトの遺伝子を傷つけて発がんにつながらないかを、動物やヒトで試す前に安く速く見極められるからです。ただし、結果の解釈は三つの選択次第で大きく変わります。どの菌を選ぶか、代謝を再現する試薬(S9 mix)を入れるか入れないか、増えたコロニーをどこから「陽性」と見るか。この三つを外すと、本当は危ない化合物を「陰性に見えるだけ」で見逃しかねません。標準で使う5つの菌、±S9の意味、陽性判定の考え方、そしてOECD TG471細菌復帰突然変異試験(Ames試験)の実施方法を定めた国際的な試験ガイドライン。やICH M7・S2(R1)といったガイドラインのなかでのAmes試験壊した遺伝子が変異で元に戻る回数を数え、化合物の変異原性を細菌で手早く調べる試験。の位置づけ——この四つが、この記事の読みどころです。

この記事の要点
  • Ames試験は、壊した遺伝子が元に戻る復帰突然変異の回数を数えて点突然変異を見る、遺伝毒性評価の入り口です。
  • 塩基置換型とフレームシフト型を両方カバーする標準5菌株を、S9の有無の両条件で走らせます。
  • 陽性判定は「一定倍以上の増加・用量依存・再現性」を合わせて見て、境界域は繰り返し試験で確かめます。

何を測っているのか:復帰突然変異という仕組み

Ames試験で使う菌は、あらかじめアミノ酸を作る遺伝子を壊してあります。サルモネラ菌ではヒスチジン弱酸性域で緩衝能を持ちつつ抗体の安定化にも寄与し、抗体製剤で広く使われるアミノ酸。を作る遺伝子(his)、大腸菌ではトリプトファンを作る遺伝子(trp)です。どちらもアミノ酸の一種。これらの菌は、該当するアミノ酸を抜いた培地では増えることができません。

ここに調べたい化合物を加えます。壊れた遺伝子に変異が入り、アミノ酸を作る能力が戻ると、菌はアミノ酸なしの培地でも増えてコロニーを作ります。この「機能が戻った菌のコロニー(復帰コロニー、revertant一度働かなくなった遺伝子が別の変異で再び働くようになること。生じたコロニー(revertant)を数える。)」を数える。化合物を入れない溶媒のみの対照(自然にわずかに復帰する分)と比べることで、化合物が変異をどれだけ増やしたかを判断します。

菌には、わずかな変異原でも捕まえられるよう感度を上げる工夫が組み込まれています。細胞壁を弱めて大きな分子を通しやすくする仕掛け(rfa)、DNAの傷を修復する働きをわざと欠かせて傷を残りやすくする仕掛け(uvrB)、変異を起こしやすくするプラスミド大腸菌の中で複製・増幅させる環状DNA。核酸医薬やベクター製造の伝統的な出発材料。(一部の菌が持つ小さなDNAの輪、pKM101)——これらのおかげで、ごく微量の変異原でも検出しやすくなっています。 Ames試験は、壊した遺伝子が元に戻る回数を数えて変異原性化合物が遺伝子に突然変異を起こす性質。発がんにつながりうるため非臨床で早期に評価する。を見る試験 です。

標準5菌株の担当:塩基置換型とフレームシフト型

遺伝子の突然変異には、大きく二つの型があります。一つは、DNAの文字(塩基)が別の文字に入れ替わる 塩基置換型DNAの塩基が別の塩基に入れ替わる型の突然変異。Ames試験ではTA100などが主に検出する。 。もう一つは、文字が余分に入ったり抜けたりして、そこから先の読み方が全部ずれてしまう フレームシフト型塩基の挿入や欠失で読み枠がずれる型の突然変異。Ames試験ではTA98などが主に検出する。 です。文章に一文字入り込むと意味がめちゃくちゃになるのに似ています。

菌はこの型ごとに得意・不得意が分かれています。塩基置換に強い菌、フレームシフトに強い菌がある。両方を取りこぼさないよう、複数の菌株を組み合わせて使います。

OECD TG471(試験のやり方を定めた国際ガイドライン)が推奨する標準の組み合わせは、サルモネラ菌4株と大腸菌1株です。

菌株菌種主に検出する変異型
TA98サルモネラ菌フレームシフト型
TA100サルモネラ菌塩基置換型(一部フレームシフトも)
TA1535サルモネラ菌塩基置換型
TA1537サルモネラ菌フレームシフト型
WP2 uvrA大腸菌塩基置換型(TA102の代替)

TA1537の代わりにTA97やTA97a、WP2 uvrAの代わりにTA102を使う構成も認められています。組み方が変わっても、狙いは同じです。 塩基置換型とフレームシフト型の両方をカバーする5株を組む のが基本。1〜2株だけでは、検出できる変異の型が偏ってしまいます。

POINT

TA98はフレームシフト、TA100・TA1535は塩基置換が主担当です。1〜2株だけでは見える変異の型が偏るため、両方をカバーする5株の組み合わせで走らせます。

代謝活性化(±S9 mix)の意味

化合物のなかには、そのままでは無害でも、体内で分解・変換(代謝)されて初めて変異原性を持つものがあります。しかし試験管のなかの細菌には、ヒトの肝臓のような代謝の働きがない。そのギャップを埋めるために用意するのがS9 mix肝臓由来の酵素画分(S9)に補酵素を加えた試薬。細菌の系に代謝を再現し、代謝で生じる変異原を捕まえる。です。

S9とは、肝臓をすりつぶして遠心分離したときの上澄み(9,000×gという強さで回した上清)のことです。薬を分解する酵素(P450など)を含みます。実務では、Aroclor 1254やフェノバルビタール/β-ナフトフラボンといった物質で酵素の働きを高めたラットの肝臓から作ったものがよく使われます。これに、酵素を動かすためのエネルギー源となる補酵素(グルコース微生物発酵でエネルギー源となる糖類などの炭素源と、目的遺伝子の発現を促す誘導物質のことです。詳しく →-6-リン酸やNADPなど、NADPHを供給する系)を加えて代謝反応を起こします。

試験は S9ありとS9なしの両方の条件 で行います。両方やるのは、次を切り分けるためです。

陽性が出た条件解釈の方向
S9なしで陽性化合物そのものが変異原性を持つ
S9ありで陽性代謝でできた物質が変異原性を持つ
両条件で陽性もとの化合物・代謝物のどちらも関わりうる

つまりS9の有無は、「効いたのはもとの分子か、それとも代謝でできた物質か」を読み分ける鍵です。 ±S9の両条件を置くことで、代謝されて初めて変異原になる化合物の見落としを防げます

なお、化合物を先に菌とS9に接触させてから寒天にまくやり方(前培養法、preincubation)と、最初から寒天に一緒に混ぜるやり方(平板法、plate incorporation化合物を最初から寒天に一緒に混ぜて培養するAmes試験の実施法。)があります。代謝を要する一部の化合物では、前培養法化合物を菌とS9に先に接触させてから寒天にまくAmes試験の方法。代謝を要する化合物で感度が高いことがある。のほうが感度が高いとされます。

陽性判定の考え方:2倍法・用量依存・再現性

コロニーが少し増えたからといって、即「陽性」とはしません。判定では主に三つの観点を組み合わせて見ます。

  • 一定倍以上の増加⁠:溶媒だけの対照に比べて、復帰コロニー一度働かなくなった遺伝子が別の変異で再び働くようになること。生じたコロニー(revertant)を数える。が決められた倍率以上に増えているか。菌株によって、おおむね2倍または3倍が目安です。もともと自然に増える数が多いTA100などは2倍、少ない菌株は3倍を使う運用が一般的です。
  • 用量依存性化合物の量を増やすほど反応も増える関係。Ames試験では陽性と判定する根拠の一つになる。⁠:化合物の量を増やすほどコロニーも増えていく傾向があるか。1点だけぽつんと跳ねた値は、菌へのダメージや実験のばらつきと区別がつきにくいためです。
  • 再現性⁠:同じ結果がもう一度出るか。増加が弱いときや、2〜3倍あたりの微妙な境界域(equivocal、判定が割れる領域)では、別に組んだ試験でもう一度確かめます。

これらを満たし、量に応じて増え、かつ再現する明確な増加があれば「陽性」です。逆に、最高用量まで増加がなければ「陰性」と判断します。ただし陰性と言い切るには、一つ確認が必要です。化合物が菌にとって毒すぎて菌が死に、そのせいでコロニーが増えていないだけ、という状況を除かなければなりません。 陽性判定は「一定倍以上の増加・用量依存・再現性」を合わせて見るのが基本 です。

最高用量の決め方にも目安があります。原則は、菌に毒性が出る量まで、あるいは化合物が溶けきらず沈殿し始める限界まで上げること。毒性も溶解の限界もなければ、おおむね5,000μg/plate(1枚の寒天皿あたり5,000マイクログラム)程度を上限の目安とする運用が知られています。用量の刻み方が粗いと、増加のピークをまたいで取り逃すことがあります。

ガイドラインでの位置づけ:OECD TG471とICH

Ames試験は、遺伝毒性を評価するときの「入り口」として各ガイドラインに組み込まれています。試験のやり方そのものは、OECD TG471(細菌復帰突然変異試験細菌の復帰突然変異を見る、低分子で基本になる遺伝毒性の試験。)が標準です。

医薬品では、ICH S2(R1)医薬品の遺伝毒性試験の標準的な組み合わせと、そのデータ解釈を定めたガイドライン。遺伝毒性試験の標準的な組み合わせを定めており、Ames試験はその中で必ず実施する1試験に位置づけられます。全菌株を±S9で走らせ、適切な用量範囲と対照を置いた「十分な試験計画(protocol治験の目的・デザイン・方法・統計解析・実施条件などを規定した文書で、治験の実施根拠となる。)」で、はっきり陰性または陽性が出れば、細菌を使った変異の評価はこの1試験で原則足ります。染色体レベルの大きな損傷は小核試験(in vitro CBMN法)などが担当し、Ames試験は遺伝子(点突然変異)レベルを受け持つ——役割分担がある、ということです。

不純物の管理では、ICH M7医薬品中のDNA反応性(変異原性)不純物を評価・管理し、発がんリスクを抑えるためのガイドライン。がDNAに反応する(変異原性のある)不純物の評価を定めています。構造アラート(化合物の構造から「変異原性が疑わしい」と見抜く目印)による(Q)SAR化学構造から毒性などの性質を予測する手法。構造アラートによる変異原性の評価に使う。評価(構造から毒性を予測する手法)と、Ames試験による実測を組み合わせる形です。構造から懸念があっても、適切に実施したAmes試験が陰性なら懸念を打ち消せる、という位置づけになっています。ただしニトロソアミンのような不純物では、S9をどこから採るかや前培養法を使うかなど、試験の設計によって結果が大きく変わることが指摘されています。条件しだいで見え方が変わる点には注意が必要です。

Ames試験が捉えるのは、変異という「もう元に戻らない結果」です。DNAの鎖が切れるといった傷そのものを見たいときは、コメットアッセイなどの別の試験が補いに使われます。目的に応じて試験を選び分けるのが、実務の勘どころです。

まとめ

Ames試験は、壊した遺伝子が元に戻る回数を数えて点突然変異を見る、遺伝毒性化合物が遺伝子や染色体を傷つける性質。点突然変異や染色体損傷を含み、複数の試験で分担して調べる。評価の入り口です。TA98(フレームシフト型)とTA100・TA1535(塩基置換型)を軸にした5菌株で両方の変異型をカバーし、S9の有無でもとの化合物と代謝物のどちらが効いたかを読み分けます。判定は「一定倍以上の増加・用量依存・再現性」を合わせて見て、微妙な境界域は繰り返し試験で確かめる。ガイドライン上は、試験法の標準がOECD TG471、ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。 S2(R1)では必ず行う1試験、ICH M7では不純物評価の実測、とそれぞれの文脈で使われます。菌株の選択とS9の設計を外さないことが、見落としのない評価の前提です。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、低分子に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。