低分子研究・DMPK

血漿タンパク質結合と遊離型分率(fu)とは?

薬を投与した後、血中の総濃度が十分に見えているのに、なぜ期待どおりの効果が出ないのか——DMPK薬物動態・代謝の研究領域。吸収・分布・代謝・排泄と体内濃度の動きを扱う。の実務でこの問いに直面したとき、見落としがちなのが「遊離型」と「結合型」の区別です。血漿タンパク質にくっついた「結合型」は血流に乗って全身を巡りますが、その場ではほとんど動けません。どこにも結合していない「遊離型(free)」だけが血管の壁を越えて組織へ移り、標的に届き、あるいは肝臓や腎臓で処理される。同じ血中にありながら、両者の運命はまったく異なります。

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血漿タンパク質結合と遊離型分率(fu)とは?

「結合していない薬だけが仕事をする」——この見方は遊離薬物仮説(free drug hypothesis結合していない遊離型の薬だけが組織へ移り作用や消失を担う、という考え方。)と呼ばれ、DMPK(薬物動態・薬物代謝)の土台になっている考え方です。血中の総濃度が同じでも、遊離している割合が違えば、効き方も消え方も変わってきます。その割合を数値化したものが遊離型分率fu(fraction unbound血漿中の全薬物のうち、どこにも結合せず遊離している割合。)で、たとえばfu = 0.01なら、血漿中の薬の99%が結合していて、遊離しているのは1%だけという意味になります。

問題は、この1%という数字が「効いていない99%」の陰に見えなくなりやすいことです。総濃度のグラフだけを眺めていても、実際に組織へ届き、代謝され、標的を動かしている当の量は映し出されません。fuという「比率」と遊離型「濃度」は似て非なる量であり、高結合薬ではこの取り違えが解釈の誤りに直結します。

この記事の要点
  • 血中では遊離型だけが組織へ移り標的に届き代謝・排泄される、という遊離薬物仮説がDMPKの土台になっています。
  • 遊離型分率fuは「割合」であって「量」ではなく、効果や消失を動かすのは遊離型の濃度そのものである点に注意します。
  • fuは平衡透析や限外ろ過で測り、IVIVE・種差外挿・DDI予測の補正項として使い、高結合薬では取り違えが誤解を生みます。

二つの結合相手:高容量のアルブミンと高親和のAAG

血漿タンパク質への結合は、共有結合のような固定的なものではありません。ゆるく可逆的なくっつき方で、結合した分子とはずれた分子は絶えず入れ替わっています。遊離型が組織へ移って減れば、結合型の一部がはずれて遊離型を補う——この速い平衡が、両者を常に行き来させています。

主な結合相手は、性格の異なる二つのタンパク質です。アルブミンは血漿タンパク質の約6割を占め、結合容量が大きい一方で親和性はそれほど高くありません。酸性・中性の薬を広く受け止める、いわば「間口の広い受け皿」です。一方、α1酸性糖タンパク(AAG、α1-acid glycoprotein量は少ないが親和性が高く、塩基性の薬を選択的に結合する血漿タンパク。)は量としては血漿タンパク質の1%前後とごくわずかながら、親和性が高く、塩基性の薬(リドカイン、プロプラノロールなど)を選択的に結合します。「高容量・低親和のアルブミン血漿タンパクの約6割を占め、結合容量は大きいが親和性は高くない受け皿。」対「低容量・高親和のAAG量は少ないが親和性が高く、塩基性の薬を選択的に結合する血漿タンパク。」——対照的なこの役割分担を踏まえると、薬の物性によって主たる結合相手がどちらになるかが見えてきます。

濃度の安定性という点でも、両者の挙動は分かれます。AAGは急性期反応物質(acute-phase protein炎症・手術・がんなどで血中濃度が上がるタンパク質。)であり、炎症・手術・がんなどで血中濃度が上昇します。塩基性薬ではこの変動が結合の程度を左右しうるため、後述する解釈の落とし穴とも直接つながります。

「割合」と「量」の違い:fuが表すもの、表さないもの

遊離型分率fuの定義はシンプルで、fu =(遊離型濃度)÷(総濃度)です。血漿中の全薬物のうち、どこにも結合せず遊離している割合を示し、0から1の値をとります。fu = 0.3なら遊離が30%、fu = 0.005なら0.5%。低分子医薬品化学合成によって製造される比較的分子量の小さな有機化合物の医薬品で、バイオ医薬品と区別される。では、fuが0.01を下回る(結合率99%超)高結合薬も珍しくありません。

ここで欠かせないのが、fuは「割合」であって「量」ではないという区別です。総濃度が高ければ、fuが小さくても遊離型の絶対濃度は相応にあり得ます。効果や消失を実際に動かすのは遊離型の濃度そのものであり、fuという比率単独ではない。比率と濃度——この二つを取り違えることが、後半で触れる誤解の多くの出発点になります。

POINT

fuは「遊離している割合」を示す比率です。薬理作用を直接動かすのは遊離型の「濃度」であり、比率が小さいこと自体が「効きにくい」を意味するわけではありません。総濃度とセットで考える必要があります。

結合型と遊離型、どちらが仕事をするのか

細胞膜を越えて標的に届き、代謝・排泄の入り口に入れるのは遊離型だけです。ここが結合型との決定的な違いになります。タンパク質と結合した大きな複合体は、原則として血管内皮や細胞膜を通り抜けられません。組織へ移行し、受容体や酵素といった標的に結合できるのは遊離型に限られ、したがって効果と最も相関するのは標的の周囲に存在する遊離型濃度だと考えられています。

クリアランス(消失)も同じ論理で、両者の運命が分かれます。腎臓の糸球体でろ過されるのは遊離型で、結合型はろ過されずに残ります。肝臓での代謝や取り込みも、まず遊離型が細胞内に入ることが前提です。ここから、消失能力の違いによってfuの効き方が変わるという古典的な整理が導かれます。消失能力が高くない(肝抽出率の低い)薬では、fuの変化が肝クリアランス肝臓が血液から薬物を除去する能力。固有クリアランス・肝血流量・タンパク結合から予測する。にほぼ比例して効いてくる一方、抽出率の高い薬では血流律速となり、fuの影響は相対的に小さくなります。分布容積も、組織側の結合と血漿側のfuのバランスで決まります。

ただし、この「遊離型が律速」という枠組みはモダリティによって前提が変わり、低分子とそれ以外を同列には扱えません。抗体医薬はアルブミンやAAGへの古典的な結合の議論の対象ではなく、FcRnを介したリサイクリングが半減期を規定します。siRNA/ASOでは血漿タンパクとの相互作用に加え、GalNAc抱合核酸医薬に糖を付け、肝細胞へ能動的に取り込ませる修飾。による肝細胞への能動的な取り込みが分布を左右します。低分子で確立した直感を、他モダリティ抗体・低分子・核酸・細胞治療など、医薬品の種類・創薬手法の区分。にそのまま持ち込まないことが大切です。

平衡透析か限外ろ過か:測定法の一長一短

fuを測る代表的な手法は二つあり、原理も長所も注意点も対照的です。

平衡透析(equilibrium dialysis半透膜で血漿と緩衝液を仕切り、遊離型だけが通れる条件で平衡させfuを求める測定法。)は、半透膜水は通すが溶質は通しにくい膜。細胞膜がこれにあたり、浸透圧による水の移動の舞台になる。で仕切った二つのチャンバーの片側に血漿、もう片側に緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。を入れ、遊離型だけが膜を通れる条件で平衡に達するまで待つ方法です。平衡後の緩衝液側の濃度が遊離型濃度に相当し、血漿側の総濃度と比べてfuを求めます。標準的で信頼性が高い一方、平衡到達に時間がかかり、非特異吸着や膜への貼り付きの補正が課題になります。近年はRED(rapid equilibrium dialysis)デバイスで所要時間を短縮する運用が広がっています。

限外ろ過半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →(ultrafiltration)は、圧力や遠心力でフィルターを通し、通過した遊離型を回収する方法です。短時間で済むのが平衡透析半透膜で血漿と緩衝液を仕切り、遊離型だけが通れる条件で平衡させfuを求める測定法。にない利点ですが、装置やフィルター材への非特異吸着の影響を受けやすく、ろ過中に平衡がずれる可能性にも注意が必要です。速さを取るか、平衡の確実さを取るか——両者はこのトレードオフの上に立っています。

どちらの方法でも共通するのは、LC-MS/MS液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせ、断片を一つずつ読んで配列や修飾部位を特定する手法。など感度の高い定量とセットで、回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。・吸着・安定性を確認しておくことが前提になる点です。とりわけ高結合薬(結合率98%超)では遊離型が極めて低濃度になるため、定量の難度が上がる。手法を問わずついて回る悩みです。

fuを使う三つの場面:IVIVE・種差・DDI予測

fuは単独で意味を持つ数字というより、いくつかの予測の「補正項」として働きます。使われる文脈ごとに、注意すべき比較の対象が変わります。

in vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。の値からin vivo生きた動物の体内で試験を行うこと。物質が吸収・代謝を受けた実際の状態での影響を見られる。を予測するIVIVEin vitroで得た代謝などのデータを、ヒトの体内での挙動へ外挿すること。(in vitro-in vivo extrapolation)では、肝ミクロソームや肝細胞で測った内因性クリアランス血流の影響を除いた、肝細胞そのものが持つ薬物処理能力。からヒトの肝クリアランス薬が血中から取り除かれる速さ。ADCでは薬物が多く付いた高DAR種ほど速まりやすい。を予測する際に、血漿のfuや、in vitro系内での非結合分率血液や反応液中で、タンパクに結合せず自由に存在する薬物の割合。代謝や作用に関わるのはこの分。(fu,inc)を用いた補正を行います。ここを無視すると、高結合薬で予測が大きくずれることがあります。血漿のfuとin vitro系内のfu——どちらを使う場面なのかを取り違えないことが鍵です。

種差の外挿では、ヒトと動物の比較が問題になります。両者ではアルブミンやAAGのアミノ酸配列・発現量・結合親和性抗体と抗原の結合の強さのことで、解離定数KDが小さいほど強く結合する。が異なり、同じ薬でもfuが数倍違うことがあります。前臨床の曝露量をヒトへ外挿するときは、総濃度どうしで比べるより、遊離型濃度ベースでそろえる考え方(動物とヒトで遊離型濃度を比較する)のほうが整合しやすくなります。

規制の観点では、薬物間相互作用併用薬が代謝酵素を阻害・誘導し合い、血中濃度が変動する現象。fmはこのリスク評価の土台になる。DDI併用薬が代謝酵素を阻害・誘導し合い、血中濃度が変動する現象。fmはこのリスク評価の土台になる。)の予測にfuが用いられます。FDAやEMAのin vitro DDIガイダンスでは、極端に小さいfuを扱う際の実務上の下限が意識されており、たとえば実測fuが0.01未満のときにfu = 0.01として計算に用いる運用が知られています。高結合薬でDDIの見積もりが過大になりうることへの配慮であり、詳細は各ガイダンス本文の確認をおすすめします。

POINT

fuは単独で使う数字というより、IVIVE・種差外挿・DDI予測といった具体的な計算の「補正項」として機能します。どの文脈で使うfuなのか(血漿fuか、in vitro系内のfuか)を取り違えないことが正確な予測の鍵になります。

直感と実際が食い違うとき:高結合薬の落とし穴

高結合薬をめぐっては、素朴な直感と実際の挙動が食い違う場面が二つ知られています。どちらも「比率(fu)」と「濃度」を混同するところから生まれます。

ひとつめは、「fuを上げる(結合を弱める)方向に分子を最適化すれば効果が上がる」という創薬現場で長く語られてきた見方です。実際には、効果を決めるのは標的周囲の遊離型濃度であって、fuという比率ではありません。総濃度が平衡で追随して調整される定常状態増殖と引き抜きが釣り合い、細胞密度や代謝の指標が時間で大きく動かない状態。では、fuを変えても遊離型濃度が自動的に上がるわけではなく、fuだけを指標に化合物を選別すると、かえって筋の悪い判断になりうる——これはSmithらのレビューが明確に指摘した論点です。

ふたつめは、「結合置換(displacementある薬が別の薬をタンパクからはじき出し、遊離型を一時的に増やす現象。)による相互作用」です。ある高結合薬が別の薬をタンパクからはじき出して遊離型を増やし、毒性を招く、という説明はよく引かれます。ところが多くのケースでは代償的に消失が進み、遊離型濃度は一過性の変化にとどまることが知られています。結合置換ある薬が別の薬をタンパクからはじき出し、遊離型を一時的に増やす現象。それ自体が臨床的に重大な相互作用の主因となる例は、実際には限られます。むしろ代謝や輸送体を介した相互作用のほうが、臨床上の影響が大きいことが多いという理解が現在では一般的です。

高結合薬を扱うときほど、比率ではなく遊離型の絶対濃度に立ち返り、低濃度域の定量精度という測定の不確かさも踏まえて解釈する——これが、直感に足をすくわれないための勘所になります。

参考文献

  • Smith DA, Di L, Kerns EH. The effect of plasma protein binding on in vivo efficacy: misconceptions in drug discovery. Nat Rev Drug Discov. 2010. PubMed
  • Di L, et al. Industry Perspective on Contemporary Protein-Binding Methodologies: Considerations for Regulatory Drug-Drug Interaction and Related Guidelines on Highly Bound Drugs. J Pharm Sci. 2017. PubMed
  • Bteich M, et al. Pharmacokinetic and Pharmacodynamic Considerations for Drugs Binding to Alpha-1-Acid Glycoprotein. Pharm Res. 2018. PubMed
  • Bteich M. An overview of albumin and alpha-1-acid glycoprotein main characteristics: highlighting the roles of amino acids in binding kinetics and molecular interactions. Heliyon. 2019. ScienceDirect
  • FDA, In Vitro Drug Interaction Studies — Cytochrome P450 Enzyme- and Transporter-Mediated Drug Interactions: Guidance for Industry(2020)
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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、低分子に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。