CDMOの Lonza と、ナノポアシーケンシングの Oxford Nanopore Technologies が、GMP グレードの mRNA 品質管理(QC)を対象にした新しい試験のやり方を発表しました。業界メディア(Technology Networks ほか)の報道によると2026年5月に公表されたもので、ダイレクトRNAシーケンシングを QC に持ち込む取り組みです。開発プログラム自体は2024年初頭に始まったとされています。
以下、性能・優位性は各社の公表値(第三者検証ではない自己申告)です。
mRNAの品質は「5つの顔」を別々に測ってきた
mRNA医薬の品質は、一つの数字では語れません。少なくとも次のような重要品質特性(CQA)を、それぞれ確認する必要があります。
- 同一性:狙った配列になっているか。設計どおりのタンパク質を作るための前提です。
- 完全性:途中で切れていないか。mRNA は壊れやすく、断片化した分子は目的タンパク質を最後まで作れません。
- 長さの分布:想定どおりの長さの分子がそろっているか。
- ポリA尾の長さ:mRNA の3′末端に付く A の連なりで、安定性や翻訳効率に影響します。
- キャッピング効率:5′末端のキャップがどれだけ付いているか。キャップは翻訳に必要で、付いていないと自然免疫を刺激しうるため、有効性と安全性の両面に関わります。
問題は、これらを従来は別々の分析法で測ってきたことです。方法が増えれば、必要な試料も、時間も、手順の管理も積み上がります。今回のアプローチは、この「バラバラに測る」を一本化しにいったものです。
ダイレクトRNAシーケンシング——RNAを変換せず「そのまま」読む
土台になっているのが、Oxford Nanopore のダイレクトRNAシーケンシングです。ナノポアシーケンシングは、膜に空いた微小な孔(ナノポア)に核酸分子を通し、通過するときに変化する電流のパターンから塩基配列を読み取る方式です。今回はこの読み取りに、専用の機械学習ベースの解析とカスタムソフトウェアを組み合わせています。
ポイントは、RNA を DNA に変換せず、ネイティブの分子のまま読む点です。多くの配列解析は RNA をいったん相補的な DNA(cDNA)に写してから読みますが、その過程では化学修飾やポリA尾の情報が失われがちです。ダイレクトに読めば、mRNA医薬で広く使われる N1-メチルシュードウリジンのような修飾ヌクレオチドや、ポリA尾の長さを直接とらえられる、と両社は説明しています。
1回の読み取りから、複数の答えを取り出す
この方式の妙は、1本の RNA を最後まで読むと、その1回の測定の中に複数の情報が含まれていることです。読んだ配列は同一性に、読み切れた長さは完全性と長さ分布に、末尾の A の連なりはポリA尾長に対応します。機械学習がこれらを束ねて解釈することで、複数の CQA を単一のワークフローで評価できる、という組み立てです。
報道によれば、Oxford Nanopore の GridION プラットフォームをベースに、規制対応の製造環境で使えるマルチアトリビュートな mRNA QC 法として市販されるのは今回が初めてだと位置づけられています。従来は複数の試験を組み合わせて数週間かかっていた「試料から結果まで」を、同じ製造拠点で1日未満に縮めうる、というのが訴求点です。
位置づけと留意点
キャッピングやポリA尾の評価は、それぞれキャッピング効率の測定やポリA尾の解析といった個別の観点で語られてきた領域で、核酸医薬の品質管理全体は核酸医薬のQCの側から見ると全体像がつかみやすくなります。今回のソリューションは、それらを1つの読み取りに束ねようとする点が新しく、既存の各分析を完全に置き換えるというより、QC の組み立て方に選択肢を増やすものと捉えるのが実態に近いはずです。
「1日未満」「初の市販」といった表現は各社の公表・報道に基づくもので、実際の適用範囲・分解能や、規制当局への受け入れ実績は、対象 mRNA の性質や運用条件によって変わります。導入時には自社の要件に照らした確認が前提になります。