局所刺激性・皮膚感作性試験とは?(投与部位と接触の安全性)
注射を受けた腕が、その場所だけ赤く腫れて熱を持つ。あるいは、貼り薬を貼った皮膚が、数日たってからかゆみを伴うかぶれになる。こうした反応は、薬が全身に回って起こす毒性とは別の、薬が触れた「その場所」で起きる問題です。投与部位や接触部位の安全性を扱うのが、局所刺激性・皮膚感作性の評価です。

局所の反応には、性質の異なる二つの系統があります。ひとつは、薬や製剤が組織を直接刺激して起こす反応(局所忍容性患者が薬や投与に伴う痛み・刺激などをどれだけ耐えられるかの度合い。高張の製剤などで評価される。、投与部位反応)。もうひとつは、免疫が関与して、繰り返し触れるうちにアレルギーとして立ち上がる反応(皮膚感作性)。前者は初回から量に応じて起こり、後者は一度「覚え込ませて」から二度目以降に強く出る、という違いがあります。
この分野は、近年の動きが大きい領域でもあります。皮膚感作性や刺激性の評価は長らく動物試験に頼ってきましたが、いまは有害性発現経路(AOP)の理解を土台に、細胞や試験管の反応で置き換える代替法が国際的に整いつつあります。本稿は、局所忍容性と皮膚感作性の違いを軸に、注射剤の投与部位評価、感作性の代替法、眼を含む局所刺激性、そして開発段階での位置づけまでを見取り図として整理します。主眼は低分子ですが、考え方の多くはモダリティ抗体・低分子・核酸・細胞治療など、医薬品の種類・創薬手法の区分。を問わず通じます。
全身の毒性とは別に、「触れた場所」を見る
新薬の非臨床安全性というと、繰り返し投与してどの臓器が傷むかを見る反復投与毒性や、心臓・脳・肺への急な影響を見る安全性薬理心血管・中枢神経・呼吸への急な影響を、臓器毒性とは別枠で見る評価(コア・バッテリー)。が中心に語られます。これらは「薬が全身に回って、どれだけの量からどこを傷めるか」を問うものです(この全体像は 非臨床の毒性試験・安全性薬理 で整理しています)。局所の評価は、これとは別の問いを立てます。薬や製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。が最初に触れる場所——注射部位、皮膚、眼、粘膜——で、その組織そのものを傷めないか、あるいはアレルギーの引き金にならないか、という問いです。
全身では安全な薬でも、触れた場所での反応がひどければ実用になりません。注射のたびに強い痛みや壊死を起こす製剤や、扱う人がかぶれてしまう化合物は、いくら全身毒性が軽くても使いにくい。だから局所の安全性は、全身毒性とは切り離して、別の軸で確かめる必要があります。
局所忍容性と皮膚感作性はどう違うか
局所の反応には、仕組みの異なる二系統があります。
ひとつは局所忍容性の問題、すなわち投与部位反応です。薬や添加剤、あるいは製剤のpHや浸透圧溶液中の溶質濃度で決まる、水を引き込む圧。培養では上昇が細胞ストレスになる管理項目。が組織を直接刺激して、赤み・腫れ・痛み・組織傷害を起こします。免疫は主役ではなく、刺激の強さ(濃度や量)に応じて初回から起こるのが特徴です。刺激性・腐食性と呼ばれる反応も、この系統に属します。
もうひとつが皮膚感作性で、こちらは免疫が関与するアレルギー性接触反応(遅延型過敏反応)です。ここには二つの段階があります。最初に化合物に触れたとき、症状は出ないまま免疫が相手を「覚え込む」感作(誘導)の段階。そして次に触れたとき、覚えた免疫が反応してかぶれを起こす惹起の段階です。いったん感作が成立すると、ごく少量の接触でも反応が立ち上がるようになります。刺激が量に素直なのに対し、感作は「覚えたか、覚えていないか」で様相が変わる——ここが本質的な違いです。
局所忍容性(刺激性)は免疫を介さず、量に応じて初回から起こる直接の組織反応です。皮膚感作性は免疫を介したアレルギーで、まず感作(誘導)で覚え込ませ、次の接触(惹起)で反応が出る二段構えになります。評価の設計思想も、この違いに沿って分かれます。
注射剤で投与部位を評価する意義
注射剤(非経口製剤)では、投与部位の評価がとりわけ重くなります。飲み薬なら消化管で薄まってから吸収されますが、注射では製剤がそのまま組織に届くからです。薬の性質だけでなく、pH、浸透圧(張度)、緩衝剤や溶解補助剤、あるいは体内で薬が析出することまでが、その場の組織傷害につながりえます。
評価の基本は、想定する臨床の投与経路(静脈内・皮下・筋肉内など)で実際に動物へ投与し、投与部位を病理組織学的に調べることです。ICH M3(R2)臨床試験を支える非臨床安全性試験の実施時期や内容の全体像を示すICHガイドライン。は、こうした局所忍容性の評価を独立した試験として組むのではなく、一般毒性試験(反復投与毒性試験薬を繰り返し与え、どの臓器がどの量から傷むか、回復するかを調べる中核の毒性試験。)の中に組み込んで評価してよいとしています。試験数と動物数を抑える実務的な工夫です。加えて、静脈内投与での血管周囲への漏れ(血管外漏出)を模した投与など、想定される誤投与に備えた単独の局所忍容性試験が組まれることもあります。
皮膚感作性をどう調べるか:AOPと代替法
皮膚感作性の評価は、近年もっとも大きく姿を変えた領域です。背景にあるのが、有害性発現経路(AOP、Adverse Outcome Pathway)という考え方です。これは「最初の分子レベルのきっかけから、最終的な有害事象に至るまで」を一連の鍵となる事象(キーイベント)の連鎖として描く枠組みで、皮膚感作性については次の四つが知られています。
- 化合物が皮膚のタンパク質と共有結合する(ハプテン化=分子起始イベント)
- ケラチノサイト(表皮の細胞)が活性化する
- 樹状細胞(免疫の見張り役)が活性化する
- T細胞が増殖・活性化する
この各段階を、動物を使わずに一つずつ測る代替法が国際的に整備されました。OECDのテストガイドラインでは、タンパク質反応性をペプチドとの結合で見るin chemico試験(DPRA、直接ペプチド反応性試験)、ケラチノサイトの活性化をNrf2経路の応答で見るin vitro試験試験管・培養皿などを用いて生体外で行う試験で、細胞や細菌などを使って物質の影響を評価する。(KeratinoSensやLuSens)、樹状細胞の活性化を細胞表面マーカーで見るin vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。試験(h-CLAT、ヒト細胞株活性化試験)が、それぞれ標準化されています。
ただし、どれか一つの試験で感作性の有無を言い切ることはできません。各試験はAOPの一部しか見ていないからです。そこで、複数の試験結果を決められた規則で束ねて判定する統合的な評価(定義されたアプローチ、Defined Approaches)がOECDで採択され、「三つのうち二つ」といった組み合わせで結論を出す運用が広がっています。動物試験も残っており、リンパ節でのT細胞増殖を測る局所リンパ節試験(LLNA)は動物数を減らした試験として、モルモットを使う最大化試験(GPMT)やBuehler試験は古典的な全身レベルの試験として位置づけられます。
皮膚感作性は、AOPの各キーイベント(タンパク質結合・ケラチノサイト活性化・樹状細胞活性化・T細胞増殖)に対応する代替法へと分解されました。単独の試験では決めきれないため、複数の非動物試験を規則で束ねる「定義されたアプローチ」で判定するのが、いまの主流です。
皮膚・眼の刺激性をどう見るか
刺激性・腐食性の評価でも、代替法への移行シリコーンなどが容器側から薬液側へ移り出ること。が進んでいます。皮膚については、再構築ヒト表皮(培養したヒト細胞で作る三次元の皮膚モデル)を使い、腐食性と刺激性を段階的に判定するin vitro試験がOECDで標準化されています。強い腐食性から先にふるい分け、残りを刺激性の試験にかける、という順で組むのが一般的です。動物を使う古典的な皮膚刺激性試験(ウサギを用いるDraize法)は、こうした代替法で置き換えが進んでいます。
眼刺激性も同じ流れにあります。かつては家兎の眼に被験物質を入れて観察するDraize眼刺激性試験が基準でしたが、いまはウシの摘出角膜を使うBCOP(角膜混濁・透過性試験)、摘出鶏眼を使う試験、再構築ヒト角膜様上皮を使う試験など、複数のin vitro法が用途に応じて使い分けられます。強い刺激と弱い刺激を別々の試験で切り分け、動物試験の使用を最小限にするのが狙いです。
なお、局所の反応の中には、光が加わって初めて起こるものもあります。光の当たった皮膚で薬が反応して組織を傷める光毒性薬と光が重なった皮膚や眼で反応が立ち上がる毒性で、臨床では光線過敏症と呼ばれる。や、光の関与するアレルギー(光アレルギー)がそれで、これらは通常の刺激性・感作性とは別の枠組みで評価します。詳しくは 光毒性試験 を参照してください。
開発段階での位置づけ
局所の安全性をどこまで、いつ調べるかは、その薬の使われ方で決まります。
投与部位の局所忍容性は、原則としてヒトに初めて投与する前に、想定する臨床経路で確かめておきます。前述のとおり、多くは一般毒性試験に組み込む形で評価され、独立した試験が必要になるのは特別な事情があるときに限られます。皮膚感作性は、皮膚に触れる製品——外用薬や貼付剤——でとくに重要になるほか、製造や取り扱いに関わる作業者の安全という観点からも問われます。眼刺激性は、点眼剤など眼に用いる製品で中心的な評価項目になります。
全体として、この領域は3R(動物実験の削減・洗練・置換)の理念が最も浸透した分野のひとつです。AOPに基づく代替法や定義されたアプローチが規制の場で受け入れられ、必要な情報を、できるだけ動物を使わずに得る方向へと進んでいます。局所の安全性評価は、全身毒性とは別の軸で「触れた場所」を見張りながら、その手段を大きく更新し続けている領域だといえます。
参考文献
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。 M3(R2), 医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験(局所忍容性を一般毒性試験に組み込む考え方を含む)/ICH 多分野ガイドライン
- OECD Guidelines for the Testing of Chemicals(皮膚感作性のDPRA・KeratinoSens・h-CLAT、統合的な定義されたアプローチ、皮膚刺激性・腐食性、眼刺激性の各テストガイドライン)/OECD Assessment of Chemicals
- FDA, Guidance Documents(非臨床安全性および製剤の局所評価に関する各ガイダンス)/FDA Guidance Documents