局所刺激性・皮膚感作性試験とは?投与部位と接触の安全性
同じ有効成分でも、注射剤の溶かし方しだいで、注射した部位の被害が大きく変わります。抗てんかん薬フェニトインの注射剤は、溶かすために水酸化ナトリウム、プロピレングリコール、エタノールを使い、液のpHは約12の強いアルカリです。血管の外へ漏れれば、組織が刺激されて炎症を起こします。注射した先に腫れ、変色、痛みが出る「パープルグローブ症候群」は、漏れていなくても起こることがあり、重い場合は皮膚が壊死します。水に溶けるプロドラッグ体内で代謝されて初めて活性を示す形にした薬。膜透過性を高めて吸収させる工夫などに使う。詳しく →のホスフェニトインが1996年に承認され、いまは注射でよく使われます。

こうした「薬が最初に触れた場所」の問題を扱うのが、局所の安全性評価です。仕組みの違う2つがあります。刺激(局所忍容性患者が薬や投与に伴う痛み・刺激などをどれだけ耐えられるかの度合い。高張の製剤などで評価される。詳しく →)は、薬や製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →が組織を直接傷つける反応で、初回から量に応じて起こります。感作は、免疫が相手を覚えたあとの二度目以降に、アレルギーとして出る反応です。
製剤の処方を決める人にも、工場で化合物を扱う人の安全を預かる人にも、申請資料を読む人にも関わる話です。動物を使わない評価法の現状は、動物実験代替(NAMs)の記事に譲ります。
刺激とアレルギー ― 局所の反応は2系統
全身の毒性は、薬が体を回って、どの臓器がどの量から傷むかを問います(非臨床の毒性試験・安全性薬理)。局所の評価が問うのは、別のことです。薬や製剤が最初に触れる場所、つまり注射部位、皮膚、眼、粘膜で、その組織を傷めないか、アレルギーの引き金にならないか。全身では安全な薬でも、注射のたびに強い痛みや壊死が出る製剤は、実用になりません。
2つの反応は、起こり方がまるで違います。
| 刺激(局所忍容性) | 感作(アレルギー) | |
|---|---|---|
| 仕組み | 薬や製剤が組織を直接傷つける | 免疫が相手を覚え、二度目以降に反応する |
| 初回から起きるか | 起きる | 起きない。初回は症状が出ないまま覚えさせる(誘導) |
| 量との関係 | 量が多く濃いほど強い | 成立すると、ごく少量でも反応する(惹起) |
| 主な場面 | 注射部位、皮膚、眼、粘膜 | 外用薬、貼付剤、製造現場の作業者 |
刺激はやけどに近く、量に素直に従います。感作は、一度顔を覚えられた相手には、少し触れただけで警報が鳴る状態です。
刺激は量で読み、感作は「覚えさせたかどうか」で読みます。評価の設計は、ここで分かれます。
注射剤の投与部位 ― 有効成分より処方が効く場合
飲み薬は消化管で薄まってから吸収されますが、注射では製剤がそのまま組織に届きます。投与部位の反応を左右するのは、有効成分だけではありません。製剤のpH、浸透圧溶液中の溶質濃度で決まる、水を引き込む圧。培養では上昇が細胞ストレスになる管理項目。詳しく →(張度)、緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →、溶解補助剤、そして体内で薬が析出するかどうかまで効きます。冒頭のフェニトインは、強いアルカリと溶解補助剤が反応の背景にある例です。水に溶けるプロドラッグに替えても、ホスフェニトインの添付文書には、同じ種類の局所の反応が警告として載っています。処方で反応を減らせても、なくせるとは限りません。
抗体医薬の皮下注皮膚の下に注射する投与経路。一度に入れられる液量が小さく、抗体の高濃度化が求められる。詳しく →射にも、同じことが起きます。アダリムマブには、クエン酸を含まない製剤があり、従来の製剤より注射時の痛みが少ないと報告されています。40 mgを0.8 mLから0.4 mLに減らした高濃度の製剤も出ました。痛みは、クエン酸だけでなく、液量や針の太さにも左右されます。しかも痛みは動物の病理標本には写りにくい反応なので、人が感じる痛みは、処方を決める段階で見越しておく必要があります。
評価の基本は、臨床で想定する投与経路(静脈内、皮下、筋肉内など)で動物に投与し、投与部位を病理組織学的に調べることです。ヒトへの初回投与の前に済ませるのが原則です。ICH M3(R2)臨床試験を支える非臨床安全性試験の実施時期や内容の全体像を示すICHガイドライン。詳しく →は、局所忍容性を独立した試験にせず、反復投与毒性試験薬を繰り返し与え、どの臓器がどの量から傷むか、回復するかを調べる中核の毒性試験。詳しく →の中に組み込んで評価してよいとしています。試験の数と動物の数を抑える工夫です。特別な事情があるとき、たとえば静脈内に投与する薬で血管の外に漏れた場合を想定するときは、別に試験を組むことがあります。
このとき最初に確かめたいのは、試験に使った処方が、臨床で使う処方と同じかどうかです。処方を後から変えると、投与部位の反応の根拠も変わりえます。
注射部位の反応は有効成分だけでなく処方で決まるので、評価は臨床で使う処方と経路で組みます。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる感作性 ― 患者の肌と、工場で働く人
感作性が問われる場面は2つあります。1つは患者の側で、外用薬や貼付剤、点眼剤のように、皮膚や眼に触れる製品です。貼付剤では、有効成分だけでなく、粘着剤や添加剤もかぶれの原因になりえます。
もう1つは、工場で化合物を扱う人の側です。感作は一度成立すると少量でも反応が出るため、微量の混入が問題です。代表がペニシリンなどのβ-ラクタム系の抗生物質です。EU GMP欧州の医薬品製造・品質管理の基準。第1章の品質システムのなかでPQRの実施を求めている。詳しく →の第3章は、リスクを運用や設備で十分に管理できない製品、たとえば感作を起こさない量の境目を科学的に示しにくい感作性物質には、専用の施設を求めています。β-ラクタムが、その例として挙げられています。米国の21 CFR 211.42(d)も、ペニシリンの製造を他と分けた施設で行うよう定めています。感作性の有無は、封じ込めや専用設備を決める判断材料です(交差汚染と段取り替え、封じ込めとOEB・OEL)。
感作性の調べ方は、この数年で大きく変わりました。皮膚感作性は、化合物が皮膚のタンパク質に結合し、表皮の細胞が反応し、免疫の見張り役である樹状細胞が活性化T細胞を抗原刺激や人工的な刺激試薬で活性化し、増殖・機能発揮できる状態に誘導する操作。詳しく →し、T細胞が増える、という4段階の連鎖で起こります。この各段階を、動物を使わずに細胞や試験管で測る試験がOECDで標準化されました。どれか1つでは言い切れないので、複数の結果を決められた規則で束ねて判定する方法(定義されたアプローチ)が採択されています。局所リンパ節試験(LLNA)やモルモットの試験も、動物を使う方法として残っています。皮膚と眼の刺激性も、再構築ヒト表皮やウシの摘出角膜などの試験管内法で置き換えが進んでいます。現状は動物実験代替(NAMs)に、FDAの方針はロードマップのニュースにあります。
光が加わって初めて起こる反応(光毒性光を吸収した薬剤が皮膚や眼で組織を傷つける、免疫を介さない毒性。光線過敏症のうち免疫が関与しない型を指す。詳しく →、光アレルギー)は、別の枠組みです(光毒性試験)。
感作性は、製品のかぶれやすさだけでなく、工場の設備や動線を決める材料にもなる性質です。
明日から確かめられること ― 処方と試験計画
局所の評価を依頼するとき、報告書を受け取るときに、次の点を確認します。
- 評価に使った処方は、臨床で使う処方と同じか。処方を変えたとき、評価を取り直す計画があるか
- 投与経路は臨床と同じか。静脈内なら、血管の外に漏れた場合の評価があるか
- 投与部位の病理が、反復投与毒性試験の中で見られているか。別の試験が計画されているか
- pH、浸透圧、添加剤の濃度が、報告書に載っているか
- 皮膚や眼に触れる製品なら、刺激性と感作性の評価がそろっているか。光が関わる反応の要否は検討したか
- 感作性が疑われる化合物について、取り扱い区分と専用設備の要否を、製造の側と決めているか
- 動物を使わない試験を採用するなら、当局に事前に相談して使い方を確かめたか
受託先を探すときは、毒性病理・安全性薬理の製品ガイドが入口です。
局所の評価は、処方が固まってからでは遅いので、処方を決める段階で、投与部位の反応を見る計画を入れておきます。
参考文献
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → M3(R2), Non-clinical Safety Studies for the Conduct of Human Clinical Trials and Marketing Authorization for Pharmaceuticals(局所忍容性を反復投与毒性試験に組み込む考え方)
- OECD, Guidelines for the Testing of Chemicals(皮膚感作性の TG 442C・442D・442E と定義されたアプローチ TG 497、皮膚刺激性 TG 439、眼刺激性 TG 437・492)
- European Commission, EudraLex Volume 4, EU Guidelines for Good Manufacturing Practice医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく →, Part I, Chapter 3 Premises and Equipment(2015年改訂。感作性物質など、リスクを十分に管理できない製品に専用施設を求める規定)
- 21 CFR 211.42(d)(ペニシリンの製造に分けた施設を求める規定)
- Fosphenytoin sodium injection prescribing information(警告:パープルグローブ症候群を含む局所毒性)
- Changes in Patient Reported Pain Measures With the Citrate-free Adalimumab Formulation in Pediatric Inflammatory Bowel Disease Patients(クエン酸を含まないアダリムマブ製剤の注射時の痛み)
次に読む
低分子この分野の解説記事を、まとめて見る(89本)この記事に関連する工程
この分野の新着を、メールで受け取る
こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを毎週水曜の朝にお届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。
登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。
Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/local-tolerance-sensitization