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分泌シグナルペプチドと分泌発現:組換えタンパク質を菌体外へ出す

封入体になるか、うまく折りたたまれるか——大腸菌での組換えタンパク質生産で最初につまずくのは発現量よりも、発現後の「行き先」です。細胞質に大量に蓄積させると、正しく折りたたまれずに不溶性の塊(封入体)になってしまうことがあり、精製の前にほどいて巻き直す工程が必要になります。この手間を避ける選択肢として浮かぶのが、タンパク質を細胞質の外へ運び出す「分泌発現」です。目的タンパク質の先頭に短い道しるべ配列(シグナルペプチドタンパク質のN末端に付き、輸送経路と切断位置を指示する短い道しるべ配列。)を付けておくと、細胞はその目印を読み取って膜の外側へタンパク質を通していきます。

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分泌シグナルペプチドと分泌発現:組換えタンパク質を菌体外へ出す

いざ設計しようとすると、疑問は連鎖します。どこへ運ぶのか、どの経路を使うのか、どのシグナルを選ぶのか、そもそも分泌が向いているのか、酵母ではどう違うのか——。同じ「分泌」でも行き先も経路も宿主によってまるで別物で、うまくいくかどうかはたいてい設計の最初の一歩で決まります。

この記事の要点
  • 分泌発現は、シグナルペプチドを目印に目的タンパク質を細胞質の外へ運び、折りたたみや精製がしやすい環境に置く戦略です。
  • 大腸菌ではSec経路やTat経路でペリプラズムへ運ぶことが多く、PelB・OmpA・DsbAなどを並べて試すのが現実的です。
  • 酵母ではα因子のプレプロ型リーダーで培養上清まで分泌でき、上清から目的物を回収できる利点があります。

そもそも、どこへ、なぜ運ぶのですか?

分泌発現シグナルペプチドを目印に、目的タンパク質を細胞質の外へ輸送する発現戦略。とは、シグナルペプチドを目印にして目的タンパク質を細胞質細胞内部の区画。大腸菌では還元的で、そのままではジスルフィド結合ができにくい。の外へ運び、フォールディング(立体構造への折りたたみ)や精製がしやすい環境に置く発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。戦略。運ぶ先は宿主によって変わります。

大腸菌のようなグラム陰性菌には、内膜・ペリプラズム・外膜という層があります。分泌発現でまず狙うのは、多くの場合このペリプラズム(内膜と外膜のあいだ)です。細胞質と違って酸化的な環境で、後述するジスルフィド結合システイン残基どうしが作るS-S結合。タンパク質の立体構造を留める橋になる。形成の酵素がそろっているため、抗体断片(Fab、scFv重鎖と軽鎖の可変ドメインを短いペプチドリンカーでつないだ1本鎖の抗体フラグメント。多価化しやすい。)のようにジスルフィド結合を必要とするタンパク質と相性が良い場所です。一方、酵母(出芽酵母やPichia pastorisメタノールを炭素源にできる酵母。強力なAOX1誘導と分泌生産に向き、高密度培養で組換えタンパク質を作る。)では分泌経路が培養液まで通じているため、目的タンパク質を上清に直接回収できることがあります。

なぜ運ぶのか。実利は2つに絞れます。ひとつは「立体構造ができやすい環境に運ぶこと」、もうひとつは「宿主由来のタンパク質から分けやすくすること」。ペリプラズム大腸菌の内膜と外膜の間の区画。細胞質より酸化的で、ジスルフィド結合が形成されやすい。に含まれるタンパク質は細胞質全体より少ないため、そこから回収する目的物は相対的に純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →の高い出発点になります。

どの経路を通るのですか?Sec経路とTat経路はどう違うのですか?

大腸菌の主要な輸送経路はSec経路折りたたむ前の紐状の状態でタンパク質を内膜に通す輸送経路。分泌タンパク質の多くが使う。Tat経路細胞質で折りたたみ終えたタンパク質をそのまま膜に通す輸送経路。輸送容量が小さい。の2つです。両者の違いは一点に集約されます——「折りたたむ前に通すか、折りたたんでから通すか」。

Sec経路は最もよく使われる輸送路です。タンパク質はまだ折りたたまれていない伸びた状態のまま、SecYEGと呼ばれる膜のトンネル(トランスロコンタンパク質が膜を通り抜ける通路となる膜タンパク質複合体(SecYEG)。)を通ってペリプラズム側へ送られ、通り抜けてから折りたたまれます。運ばれ方には2種類あり、翻訳がだいたい終わってから運ぶ後翻訳型(SecBというシャペロンタンパク質の折りたたみを助ける分子。共発現させると折りたたみ効率が上がり凝集が減ることがある。が伸びた状態を保ちます)と、翻訳しながら運ぶ共翻訳型翻訳しながら並行してタンパク質を膜へ輸送する様式。SRP翻訳しながら膜へ運ぶ共翻訳型の輸送に関わる因子。という因子が関わります)があります。細胞質での早すぎるフォールディングを防ぎたい場合は、後者の共翻訳型が向くことがあります。

Tat経路(twin-arginine translocation細胞質で折りたたみ終えたタンパク質をそのまま膜に通す輸送経路。輸送容量が小さい。)は、シグナルペプチド中に2つ並んだアルギニン分子どうしの会合による凝集を抑え、高濃度処方では粘度を下げる働きも知られるアミノ酸。(twin-arginine)という特徴的な目印を持ちます。Sec折りたたむ前の紐状の状態でタンパク質を内膜に通す輸送経路。分泌タンパク質の多くが使う。経路と根本的に異なるのは、「すでに折りたたまれたタンパク質」を通せる点です。細胞質で補因子を取り込んで完成させる必要があるタンパク質などで意味を持ちますが、通せる量は一般にSec経路より控えめとされ、使いどころを選びます。

その「道しるべ」であるシグナルペプチドは、どんな形をしているのですか?

シグナルペプチドはN領域・H領域・C領域という3部構成をとります。短い配列ながら、共通した骨格を持っています。

正電荷を帯びやすいN末端側のN領域、疎水性のアミノ酸が7〜15残基ほど並ぶ中央のH領域、切断部位を決める短いC領域——この3つに分かれます。H領域の疎水性が膜を通る手がかりになり、C領域の並びがシグナルペプチダーゼ(切断酵素)の認識点になります。切断部位の近辺では、−1と−3の位置に小さく中性のアミノ酸が来る「(−3, −1)ルールシグナル切断部位の−1と−3の位置に小さく中性のアミノ酸が来るという経験則。」が経験則として知られています。

輸送が終わったシグナルペプチドがどうなるかも、設計上は見落とせない点です。役目を終えると切り離され、目的タンパク質は余分な配列を残さずに成熟型になります。細胞質発現でしばしば問題になる開始メチオニンの扱いに悩まずにすむ設計にしやすい——これも分泌発現の利点の一つです。

POINT

シグナルペプチドは「経路の選択」と「切断の正確さ」を同時に担います。目的タンパク質のN末端配列との相性で切断効率が変わることがあり、配列を1種類に決め打ちせず複数を試す価値があります。

ペリプラズム分泌では、どのシグナルを選べばよいですか?

大腸菌のペリプラズム分泌ではPelBタンパク質をペリプラズムへ送るためN末端に付ける、宛先ラベルに相当する配列。OmpAタンパク質をペリプラズムへ送るためN末端に付ける、宛先ラベルに相当する配列。DsbAペリプラズムでジスルフィド結合の形成と組み直しを担う酵素群。DsbAが導入しDsbCが誤対合を直す。がよく使われます。それぞれ通る経路と得意な相手が異なるので、順に見ましょう。

PelBはErwinia由来のペクチン酸リアーゼに由来する22残基ほどのリーダー配列で、抗体断片全長抗体から抗原認識に必要な部分だけを取り出した分子。Fcを持たず小さく、微生物でも作れる。の分泌などで広く使われてきた定番です。OmpAは大腸菌自身の外膜タンパク質に由来する配列で、安定した実績を持ちます。この2つはおもにSec経路の後翻訳型翻訳がほぼ終わってからタンパク質を膜へ輸送する様式。で運ばれます。

DsbA由来のシグナルは、共翻訳型のSRP経路を使う点で性格が異なります。翻訳しながら運ぶため、細胞質で先に折りたたまれると通しにくい相手や、細胞質での凝集を避けたい相手で選ばれることがあります。

結局どれを選ぶのか。実務では「この目的タンパク質にはこのシグナルが正解」と一意に決まることは少なく、PelB・OmpA・DsbAなどを並べて試し、収量と正しい切断が両立するものを選ぶのが現実的な進め方です。

そもそも、この目的タンパク質に分泌は向いていますか?

分泌はジスルフィド結合形成や精製の面で有利ですが、輸送容量やペリプラズムでの過負荷という限界も抱えます。向き不向きは、この両面を天秤にかけて決めることになります。

ペリプラズムが分泌先として好まれる最大の理由は、ジスルフィド結合を正しく形成する仕組みがそろっていることです。ペリプラズムではDsbAという酵素がシステイン残基のあいだに結合を導入し、DsbCペリプラズムでジスルフィド結合の形成と組み直しを担う酵素群。DsbAが導入しDsbCが誤対合を直す。が誤った組み合わせを組み替えます。細胞質は通常還元的でジスルフィド結合ができにくいため、抗体断片やジスルフィドの多いタンパク質では分泌の恩恵が大きくなります。精製の面でも、ペリプラズムに含まれるタンパク質種が細胞質全体より少ないぶん、出発点がきれいになりやすい。

一方で限界もあります。トランスロコンを通せる量には上限があり、細胞質発現ほどの高い蓄積量は望みにくい場面があります。運びきれないと目的タンパク質が前駆体のまま細胞質側に溜まったり、ペリプラズムで折りたたみが追いつかずに凝集したりします。分泌を選ぶかどうかは、目的タンパク質がジスルフィドや酸化的環境をどれだけ必要とするか、量と品質のどちらを優先するかで判断することになります。

酵母では何が違うのですか?培養上清まで運べるというのは本当ですか?

本当です。酵母ではα因子のプレプロ型リーダープレ配列とプロ配列からなり、段階的に切断される分泌リーダー配列。を使うと分泌経路を通って培養上清まで運ばれ、複数段階の切断を経て成熟型になります。

出芽酵母やPichia pastorisでは、出芽酵母のα接合因子(α-mating factor出芽酵母のα接合因子に由来する、酵母の分泌発現で定番のプレプロ型リーダー。)に由来するプレプロ型リーダーが分泌シグナルの定番です。このリーダーはおよそ19残基のプレ配列(signal)と、それに続く67残基ほどのプロ配列からなります。処理は段階的で、まず小胞体でプレ配列がシグナルペプチダーゼによって外され、次にゴルジ体でKex2エンドペプチダーゼゴルジ体でプロ配列を切断する酵母のプロテアーゼ。がプロ配列を切り、最後にSte13α因子リーダーのGlu-Ala繰り返し部分を削り取る酵母の酵素。がGlu-Alaの繰り返し部分を削り取って成熟タンパク質が現れます。

酵母の魅力は、分泌経路が培養液まで通じているため目的物を上清から回収でき、糖鎖付加のような真核生物特有の修飾も行える点にあります。ただし手放しで使えるわけではありません。Kex2ゴルジ体でプロ配列を切断する酵母のプロテアーゼ。による切断が不完全だとN末端に余分な配列が残ることがあり、切断部位の設計を調整して改善する報告もあります。菌体を壊さずに回収できる手軽さと、切断・修飾の作り込みが求められる面の両方を把握しておくと、宿主選びの判断がしやすくなります。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、微生物・発酵に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。