大腸菌のコドン最適化と発現:なぜ配列を変えると量が変わるのか
大腸菌で組換えタンパク質遺伝子組換えで微生物や細胞に作らせた目的タンパク質。宿主により折りたたみやコスト、糖鎖が異なる。をつくるとき、目的のアミノ酸配列は決まっているのに「思ったほど量が出ない」という場面は珍しくありません。このとき、配列に手を入れるべきか、株を替えるべきか、あるいは発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。条件を見直すべきか——打ち手はいくつもあって、どれを選ぶかは状況によります。

鍵になるのは、同じアミノ酸を指定する複数の三塩基(コドン)のうち、どれを選ぶかという設計です。アミノ酸配列を一切変えずにDNA配列だけを組み替える操作を「コドン最適化アミノ酸配列を変えずにDNAのコドンの並べ方だけを組み替え、発現量を高める設計操作。」と呼びます。タンパク質の一次構造タンパク質のアミノ酸の並び順のことで、設計配列との一致が同一性の基本的な保証になる。が同じでも、コドンの並べ方次第で発現量細胞が目的のタンパク質を作る量。低いと必要量の確保に手間がかかり、製造コストが上がる。は数倍から時に桁が変わることがあります。
ただ、その背後には別々のメカニズムが複数あって、原因がどこにあるかで正しい打ち手は変わります。ひとつは、大腸菌が持つ運搬役のtRNAの量にコドンごとの偏りがあること。もうひとつは、遺伝子のはじまり付近でmRNAが折りたたまれる構造(二次構造)が、翻訳の出だしを左右すること。「レアコドンその生物があまり使わず対応tRNAも少ないコドン。連続すると翻訳の伸長が停滞する。さえ避ければよい」という単純な話にはなりません。
この記事は、「こういうときはこう考える」という判断の分岐に沿って組み立てます。まず前提となるコドンの偏りを押さえ、そのうえで発現が伸びないときの見立て方、配列を触るか株で補うか、そして最適化しすぎたときにどう気づくか、という順で進めます。
- 大腸菌ではアミノ酸配列が同じでもコドンの並べ方(コドン最適化)で発現量が大きく変わり、コドンは冗長で偏っています。
- 発現が伸びない原因は、レアコドンによる伸長の停滞か、5'領域のmRNA二次構造による開始効率の低下かを切り分けます。
- CAIは目安にとどまり、Rosettaなどの補完株はtRNAを供給し、最適化しすぎは封入体や誤った折りたたみを招く点に注意します。
まず押さえる前提:コドンは冗長で偏っている
判断に入る前に、なぜ「同じアミノ酸なのに選択肢がある」のかを確認しておきます。タンパク質をつくる遺伝暗号では、20種類のアミノ酸を61個のセンスコドンが指定するため、メチオニンとトリプトファンを除くほとんどのアミノ酸が2〜6個の同義コドン同じアミノ酸を指定する複数の三塩基。多くのアミノ酸が2〜6通りを持つ。を持ちます。たとえばアルギニン分子どうしの会合による凝集を抑え、高濃度処方では粘度を下げる働きも知られるアミノ酸。は6通りのコドンで指定できます。
同義コドンは「同じアミノ酸を入れる」という意味では等価ですが、実際に生物がどれを好んで使うかには強い偏り(コドン使用頻度の偏り、codon usage bias同義コドンのうち特定のものが好んで使われる偏り。強く発現する遺伝子ほど顕著になる。)があります。大腸菌でよく発現する遺伝子ほど、特定の「好まれるコドン」に集中する傾向が知られています。
逆に言えば、ヒトやウイルス由来の遺伝子をそのまま大腸菌に入れると、大腸菌があまり使わないコドン(レアコドン)が多く含まれることがあり、これが発現の足かせになり得ます。ここが、以降の設計判断すべての出発点になります。外来遺伝子を扱っているなら、まずこの偏りを疑う価値があります。
発現が伸びないとき、原因は「伸長」か「開始」か
発現量が上がらないとき、最初に切り分けたいのは、問題が翻訳の伸長にあるのか開始にあるのか、という点です。両者は別のメカニズムなので、見当違いの打ち手に時間を使わないためにここを分けて考えます。
レアコドンが連続しているなら、伸長のボトルネックを疑う
コドンを読み取るのは、対応するアンチコドンとアミノ酸を運ぶtRNAコドンに対応するアミノ酸を運ぶRNA。細胞内の量はコドンごとに偏り、伸長速度を左右する。です。細胞内のtRNAはコドンごとに量が違い、大まかに言えば、その生物がよく使うコドンほど対応するtRNAも多く用意されています。リボソームが伸長中にレアコドンへ差しかかると、対応するtRNAを待つあいだ足踏みが生じます。
単発なら影響は小さくても、レアコドンが連続したり、翻訳の律速になる位置に集中したりすると、伸長の停滞、リボソームの脱落、途中終結、フレームシフトといった問題につながることがあります。とりわけ大腸菌では、アルギニンのAGG/AGA、イソロイシンのAUA、ロイシンのCUA、プロリンのCCC、グリシン結晶性が高く、凍結乾燥品でしっかりした形のケーキをつくる増量剤として使われるアミノ酸。のGGAなどが少ないtRNAに対応するコドンとして扱われ、外来遺伝子の発現でしばしば問題になります。ヒト遺伝子にはこれらが自然と含まれるため、配列を見直す価値が出てきます。
そもそも量が乗らないなら、5'領域の二次構造を疑う
tRNAの話は主に翻訳の「伸長」に関わりますが、発現量にはもう一つ大きな軸があります。翻訳の「開始」です。大腸菌ではリボソーム結合部位翻訳開始のためリボソームが取りつくmRNA上の領域。周辺の二次構造が開始効率を左右する。(RBS)と開始コドン周辺にリボソームが取りつく必要があり、この5'領域でmRNAが安定な二次構造αヘリックスやβシートなど、主鎖が局所的に取る規則的な折りたたみ様式。遠紫外CDで割合を推定する。(ヘアピンなど)をつくると、リボソームの結合が妨げられて開始効率が落ちます。
この点を印象づけたのが、Kudla らが2009年に Science で報告した研究です。彼らはGFPの同義コドンをさまざまに変えたライブラリを大腸菌で発現させ、発現量のばらつきをもっともよく説明したのはCAIではなく、遺伝子先頭付近のmRNA二次構造mRNAが折りたたんで作る立体構造。遺伝子先頭付近に強い構造ができると翻訳開始が妨げられる。の安定性だったと示しています。つまり、開始付近の折りたたみがゆるいほど翻訳されやすい、という関係です。生物種を越えて、翻訳開始点近傍のmRNAは折りたたまれにくい傾向があることも別の解析で示されています。
判断のうえで大事なのは、レアコドンを均してもこちらの問題は解決しないという点です。むしろ次の落とし穴につながります。
CAIをどう使い、どこで信用しないか
配列がどれくらい「大腸菌好み」かを一目で比べたいときに使われるのが、Sharp と Li が1987年に提案したCAI(Codon Adaptation Index配列がどれだけ「その生物好み」のコドンに寄っているかを0〜1で示す指標。発現量の目安になる。)です。ある生物で強く発現する遺伝子群を参照セットにとり、コドンごとに「最も好まれるコドンに対する相対的な使われやすさ」を求め、遺伝子全体でそれらを掛け合わせて幾何平均をとります。値は0から1の範囲で、1に近いほど好まれるコドンに寄っていることを意味します。
設計の当たりをつけたいときには、CAI配列がどれだけ「その生物好み」のコドンに寄っているかを0〜1で示す指標。発現量の目安になる。は便利な物差しです。ただし、あくまで一つの目安として扱うのが安全です。CAIが高いことは発現量の高さとしばしば相関するものの、保証ではありません。実際、先に述べたmRNA二次構造のように、CAIが捉えていない要因が発現を左右する場面が数多く報告されています。
使い分けの勘所はこうです。CAIは「レアコドンの偏りを均す」ための指標であって、「発現量そのものを予測する式」ではない。CAIが高いのに量が乗らないなら、それは指標の外側——二次構造や次に述べる過剰発現の副作用——を見に行くべきサインだ、と捉えておくと判断を誤りにくくなります。
配列を触らずに済ませたいなら:Rosettaのような補完株
配列を組み替える以外の手として、宿主株そのものを工夫する方法があります。配列を触りたくない場合や、コドン最適化だけでは足りない場合に、この選択肢が生きます。
代表例が Novagen の Rosetta不足しがちなレアコドン用tRNA遺伝子を補ったプラスミドを持つ大腸菌発現株。配列を変えずレアコドン問題を緩和する。 系統です。これはタンパク質発現でよく使われるBL21由来の株に、大腸菌で不足しがちなレアコドン用のtRNA遺伝子を載せたプラスミド(pRARE不足しがちなレアコドン用tRNA遺伝子を補ったプラスミドを持つ大腸菌発現株。配列を変えずレアコドン問題を緩和する。、クロラムフェニコール耐性)を持たせたものです。オリジナルのRosettaはAUA・AGG・AGA・CUA・CCC・GGAといったコドンに対応するtRNAを補い、Rosetta 2ではArgのCGGなどが加わったpRARE2が使われます。株側にレアコドン用のtRNAを追加で供給することで、配列を変えずにレアコドン問題を緩和できるわけです。
ただし万能ではありません。tRNAを足しても、5'領域の二次構造や、封入体大腸菌内で不溶性の塊(封入体)になったタンパク質を可溶化し、正しい立体構造へ巻き戻して活性を回復させる操作です。詳しく →の形成、翻訳後の折りたたみといった別の要因は解決しないため、あくまで打ち手の一つとして位置づけるのが現実的です。レアコドンの連続が主因だと見立てられるなら有力ですが、量そのものが乗らないケースには効きにくい、という線引きで選ぶとよいでしょう。
最適化がうまくいったときこそ疑う:量と質のバランス
コドン最適化がうまくいって発現が跳ね上がると、今度は別の問題が顔を出すことがあります。ここで見るべきは「量」から「使えるタンパク質かどうか」へと軸が移ります。発現量を最大化する設計が、そのまま活性型の最大化にはならないからです。
細胞質細胞内部の区画。大腸菌では還元的で、そのままではジスルフィド結合ができにくい。に大量のタンパク質が一気に合成されると、正しく折りたためないまま凝集し、不溶性の封入体(inclusion body)を形成しやすくなります。封入体は回収しやすい反面、多くの場合、変性・巻き戻し(リフォールディング)の工程が必要になり、活性型を得る手間が増えます。
さらに、伸長のリズムそのものが折りたたみに関わるという見方もあります。適度な「間」がドメインの折りたたみを助けている場合、レアコドンを一律に消してリズムを速めると、収量は上がっても正しく折りたためる割合が下がることがあります。また、コドン最適化ツールが同義置換の過程で意図しない制限酵素DNAの特定の塩基配列を認識して切る酵素です。クローニングやベクター作製でDNAを狙った位置で切るために使います。詳しく →部位・内部Shine-Dalgarno様配列・反復配列・偏ったGC含量製品にどれだけの目的物質が含まれるか(含量)や、その生物学的な効き目の強さ(活性)を示す指標です。培養液中の産生量を指す場合もあります。詳しく →をつくり込むリスクもあります。「最適化したのに可溶性が落ちた」ときは、これらを疑う番です。
結局のところ、実務では単一の正解を探すより、CAIを整えつつ5'領域の二次構造を強くしすぎない、必要なら発現温度や誘導条件、あるいは可溶性を助ける融合タグや宿主株の選択と組み合わせる、という多面的な調整に落ち着きます。抗体やその断片、ワクチン抗原の産生でも同じ論点は繰り返し現れ、mRNAワクチンにおける配列設計(コドン最適化やmRNA構造の調整)とも問題意識が地続きです。ただしそれぞれ最適解は文脈依存で、一律の正解はありません。だからこそ、原因を切り分けてから打ち手を選ぶ、という順序が効いてきます。
参考文献
- Sharp PM, Li WH. "The codon adaptation index—a measure of directional synonymous codon usage bias, and its potential applications." Nucleic Acids Research. 1987;15(3):1281–1295. PMID: 3547335. Oxford Academic
- Kudla G, Murray AW, Tollervey D, Plotkin JB. "Coding-sequence determinants of gene expression目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。 in Escherichia coli." Science. 2009;324(5924):255–258. PMID: 19359587. Science
- Gu W, Zhou T, Wilke CO. "A universal trend of reduced mRNA stability near the translation-initiation site in prokaryotes and eukaryotes." PLoS Computational Biology. 2010;6(2):e1000664. PMID: 20140241. PMC
- Rosetta(DE3) Competent Cells / pRARE 製品情報(レアコドン補完tRNAの供給コドン). Merck(Novagen). Sigma-Aldrich
- Nieuwkoop T, Claassens NJ, van der Oost J. "Improved protein production and codon optimization analyses in Escherichia coli by bicistronic design." Microbial Biotechnology. 2019;12(1):173–179. PMID: 30484964. PMC
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