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大腸菌のコドン最適化と発現:なぜ配列を変えると量が変わるのか

大腸菌で組換えタンパク質をつくるとき、目的のアミノ酸配列は決まっているのに「思ったほど量が出ない」という場面は珍しくありません。ここで効いてくるのが、同じアミノ酸を指定する複数の三塩基(コドン)のうち、どれを選ぶかという設計です。アミノ酸配列を一切変えずにDNA配列だけを組み替える操作を「コドン最適化」と呼びます。不思議に聞こえるかもしれませんが、タンパク質の一次構造が同じでも、コドンの並べ方次第で発現量は数倍から時に桁が変わることがあります。

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大腸菌のコドン最適化と発現:なぜ配列を変えると量が変わるのか

理由はいくつかの層に分かれます。ひとつは、大腸菌が持つ運搬役のtRNAの量にコドンごとの偏りがあること。もうひとつは、遺伝子のはじまり付近でmRNAが折りたたまれる構造(二次構造)が、翻訳の出だしを左右すること。この二つは別々のメカニズムなので、「レアコドンさえ避ければよい」という単純な話にはなりません。

この記事では、コドン使用頻度とtRNA存在量の関係、翻訳効率の指標であるCAI、5'領域のmRNA二次構造、レアコドンを補うRosettaのような株、そして最適化がかえって裏目に出る落とし穴までを、一次資料をたどりながら順に見ていきます。

コドンは冗長で、使われ方に偏りがある

20種類のアミノ酸を61個のセンスコドンが指定するため、多くのアミノ酸は複数のコドンを持ち、その使われ方は生物ごとに偏っています。

タンパク質をつくる遺伝暗号では、メチオニンとトリプトファンを除くほとんどのアミノ酸が2〜6個の同義コドンを持ちます。たとえばアルギニンは6通りのコドンで指定できます。同義コドンは「同じアミノ酸を入れる」という意味では等価ですが、実際に生物がどれを好んで使うかには強い偏り(コドン使用頻度の偏り、codon usage bias)があります。

大腸菌でよく発現する遺伝子ほど、特定の「好まれるコドン」に集中する傾向が知られています。逆に言えば、ヒトやウイルス由来の遺伝子をそのまま大腸菌に入れると、大腸菌があまり使わないコドン(レアコドン)が多く含まれることがあり、これが発現の足かせになり得ます。この偏りをどう扱うかが、以降の設計判断の出発点になります。

tRNA存在量がボトルネックになる仕組み

好まれるコドンに対応するtRNAは細胞内に豊富にあり、レアコドンに対応するtRNAは少ないため、レアコドンが連続すると翻訳中のリボソームが待たされます。

コドンを読み取るのは、対応するアンチコドンとアミノ酸を運ぶtRNAです。細胞内のtRNAはコドンごとに量が違い、大まかに言えば、その生物がよく使うコドンほど対応するtRNAも多く用意されています。リボソームが伸長中にレアコドンへ差しかかると、対応するtRNAを待つあいだ足踏みが生じます。単発なら影響は小さくても、レアコドンが連続したり、翻訳の律速になる位置に集中したりすると、伸長の停滞、リボソームの脱落、途中終結、フレームシフトといった問題につながることがあります。

とりわけ大腸菌では、アルギニンのAGG/AGA、イソロイシンのAUA、ロイシンのCUA、プロリンのCCC、グリシンのGGAなどが少ないtRNAに対応するコドンとして扱われ、外来遺伝子の発現でしばしば問題になります。ヒト遺伝子にはこれらが自然と含まれるため、配列を見直す価値が出てきます。

POINT
レアコドンの影響は「含まれているか」よりも「どこに、どれだけ密集しているか」で決まりやすい傾向があります。N末端側や連続したレアコドンは、単に総数を数えるより注意して見る価値があります。

CAI:翻訳効率をどう数値化するか

CAI(コドン適応度指数)は、高発現遺伝子で好まれるコドンにどれだけ寄せているかを0〜1で表す代表的な指標です。

配列がどれくらい「大腸菌好み」かを一目で比べたいときに使われるのが、Sharp と Li が1987年に提案したCAI(Codon Adaptation Index)です。ある生物で強く発現する遺伝子群を参照セットにとり、コドンごとに「最も好まれるコドンに対する相対的な使われやすさ」を求め、遺伝子全体でそれらを掛け合わせて幾何平均をとります。値は0から1の範囲で、1に近いほど好まれるコドンに寄っていることを意味します。

CAIは設計の当たりをつけるうえで便利ですが、あくまで一つの目安です。CAIが高いことは発現量の高さとしばしば相関するものの、保証ではありません。実際、次に述べるmRNA二次構造のように、CAIが捉えていない要因が発現を左右する場面が数多く報告されています。CAIは「レアコドンの偏りを均す」ための指標であって、「発現量そのものを予測する式」ではない、と捉えておくと判断を誤りにくくなります。

5'領域のmRNA二次構造という別の軸

遺伝子のはじまり付近でmRNAが強く折りたたまれると、リボソームが結合しづらくなり、翻訳の開始そのものが妨げられます。

tRNAの話は主に翻訳の「伸長」に関わりますが、発現量にはもう一つ大きな軸があります。翻訳の「開始」です。大腸菌ではリボソーム結合部位(RBS)と開始コドン周辺にリボソームが取りつく必要があり、この5'領域でmRNAが安定な二次構造(ヘアピンなど)をつくると、リボソームの結合が妨げられて開始効率が落ちます。

Kudla らが2009年に Science で報告した研究は、この点を印象づけました。彼らはGFPの同義コドンをさまざまに変えたライブラリを大腸菌で発現させ、発現量のばらつきをもっともよく説明したのはCAIではなく、遺伝子先頭付近のmRNA二次構造の安定性だったと示しています。つまり、開始付近の折りたたみがゆるいほど翻訳されやすい、という関係です。生物種を越えて、翻訳開始点近傍のmRNAは折りたたまれにくい傾向があることも別の解析で示されています。

POINT
コドン最適化を「レアコドンの置換」だけで考えると、5'領域に意図せず強い二次構造をつくり込み、かえって発現を落とすことがあります。伸長(tRNA)と開始(二次構造)は別の軸として両方見る必要があります。

Rosettaのようなレアコドン補完株

株側にレアコドン用のtRNAを追加で供給することで、配列を変えずにレアコドン問題を緩和できます。

配列を組み替える以外の手として、宿主株そのものを工夫する方法があります。代表例が Novagen の Rosetta 系統です。これはタンパク質発現でよく使われるBL21由来の株に、大腸菌で不足しがちなレアコドン用のtRNA遺伝子を載せたプラスミド(pRARE、クロラムフェニコール耐性)を持たせたものです。オリジナルのRosettaはAUA・AGG・AGA・CUA・CCC・GGAといったコドンに対応するtRNAを補い、Rosetta 2ではArgのCGGなどが加わったpRARE2が使われます。

この方針は、配列を触りたくない場合や、コドン最適化だけでは足りない場合に有効です。一方で万能ではありません。tRNAを足しても、5'領域の二次構造や、封入体の形成、翻訳後の折りたたみといった別の要因は解決しないため、あくまで打ち手の一つとして位置づけるのが現実的です。

過剰発現・封入体・最適化の落とし穴

発現量を最大化する設計が、そのまま「使えるタンパク質」の最大化にはならないため、量と質の両面で見る必要があります。

コドン最適化がうまくいって発現が跳ね上がると、今度は別の問題が顔を出すことがあります。細胞質に大量のタンパク質が一気に合成されると、正しく折りたためないまま凝集し、不溶性の封入体(inclusion body)を形成しやすくなります。封入体は回収しやすい反面、多くの場合、変性・巻き戻し(リフォールディング)の工程が必要になり、活性型を得る手間が増えます。

さらに、伸長のリズムそのものが折りたたみに関わるという見方もあります。適度な「間」がドメインの折りたたみを助けている場合、レアコドンを一律に消してリズムを速めると、収量は上がっても正しく折りたためる割合が下がることがあります。また、コドン最適化ツールが同義置換の過程で意図しない制限酵素部位・内部Shine-Dalgarno様配列・反復配列・偏ったGC含量をつくり込むリスクもあります。

実務では、CAIを整えつつ5'領域の二次構造を強くしすぎない、必要なら発現温度や誘導条件、あるいは可溶性を助ける融合タグや宿主株の選択と組み合わせる、といった多面的な調整が現実的です。抗体やその断片、ワクチン抗原の産生でも同じ論点は繰り返し現れ、mRNAワクチンにおける配列設計(コドン最適化やmRNA構造の調整)とも問題意識が地続きです。ただしそれぞれ最適解は文脈依存で、一律の正解はありません。

参考文献

  • Sharp PM, Li WH. "The codon adaptation index—a measure of directional synonymous codon usage bias, and its potential applications." Nucleic Acids Research. 1987;15(3):1281–1295. PMID: 3547335. Oxford Academic
  • Kudla G, Murray AW, Tollervey D, Plotkin JB. "Coding-sequence determinants of gene expression in Escherichia coli." Science. 2009;324(5924):255–258. PMID: 19359587. Science
  • Gu W, Zhou T, Wilke CO. "A universal trend of reduced mRNA stability near the translation-initiation site in prokaryotes and eukaryotes." PLoS Computational Biology. 2010;6(2):e1000664. PMID: 20140241. PMC
  • Rosetta(DE3) Competent Cells / pRARE 製品情報(レアコドン補完tRNAの供給コドン). Merck(Novagen). Sigma-Aldrich
  • Nieuwkoop T, Claassens NJ, van der Oost J. "Improved protein production and codon optimization analyses in Escherichia coli by bicistronic design." Microbial Biotechnology. 2019;12(1):173–179. PMID: 30484964. PMC
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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、微生物・発酵に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。
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