微生物・発酵基礎知識・製造工程

抗体フラグメント(Fab・scFv)の微生物生産:全長抗体との使い分け

候補となる抗体フラグメント全長抗体から抗原認識に必要な部分だけを取り出した分子。Fcを持たず小さく、微生物でも作れる。詳しく →を大腸菌で作れるかを検討していると、最初に目に入るのは分子量の数字です。全長IgGの約150 kDaに対し、Fabは約50 kDa、scFv重鎖と軽鎖の可変ドメインを短いペプチドリンカーでつないだ1本鎖の抗体フラグメント。多価化しやすい。詳しく →は約25 kDa、VHHラクダ科の重鎖抗体に由来し、単一ドメインで抗原を認識する小さなフラグメント。対合ミスが起きず安定。詳しく →は約15 kDa分子の質量を表す単位。水素原子1個ぶんの重さをおおよそ1とし、抗体は約15万ダルトンの大きな分子。詳しく →しかありません。1桁小さいのだから大腸菌でも作れるのだろう、と読みたくなります。実務では、この読み方がそのまま開発の順番を誤らせます。分子設計を決めた直後に、精製の資材選びでつまずく開発は珍しくありません。数字の桁だけを見て、設計の中身を見ずに進めてしまうからです。

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抗体フラグメント(Fab・scFv)の微生物生産:全長抗体との使い分け

大きさそのものは、生産の可否をほとんど決めていません。効いているのは2つです。Fc由来の糖鎖修飾が要らないという構造と、ジスルフィド結合システイン残基どうしが作るS-S結合。タンパク質の立体構造を留める橋になる。詳しく →をどの区画で組み立てるかという設計です。ここを見誤ると、発現量細胞が目的のタンパク質を作る量。低いと必要量の確保に手間がかかり、製造コストが上がる。詳しく →は出ているのに活性のあるタンパク質が取れないという壁にぶつかります。捕捉に使う資材の選び方を誤っても、同じように収量を失います。核心は、構造とジスルフィド結合というこの一点に絞られます。

本稿では、折りたたみの経路をペリプラズムか細胞質かで選ぶところから整理します。続けて発現誘導、封入体からの回収、Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく →が使えない捕捉戦略、半減期薬の血中濃度が半分に下がるまでの時間。抗体フラグメントでは短く、延長の工夫が要る。詳しく →の設計まで、開発の実務で迷う順にたどります。

この記事の要点
  • 抗体フラグメントが大腸菌で作れるかどうかを決めるのは分子量ではなく、Fc糖鎖の要否とジスルフィド結合の組み方です。
  • 折りたたみの経路(ペリプラズムか細胞質か)、発現誘導(IPTGか自己誘導か)、捕捉レジン(κ鎖かλ鎖か)を、この順に開発初期で決めます。
  • Protein Aはフラグメントに効かず、Protein L系のレジンも軽鎖のアイソタイプ次第で選び分けが要ります。

抗体フラグメントが大腸菌で作れる理由

抗体フラグメント薬の起点となる分子量およそ300以下の非常に小さな有機分子。弱くても確かに結合するものを探す。詳しく →のカタログを見ていると、まず並ぶのは分子量です。フラグメントは、全長IgGの3分の1から10分の1ほどしかありません。

大腸菌が苦手にしているのは、実は分子量ではありません。Fc領域抗体の定常部にあたる「足」の部分。FcγRや補体、FcRnと相互作用し、機能や血中半減期を担う。詳しく →の糖鎖と、立体構造を保ったまま分泌する仕組みの2つです。抗体フラグメントはFcを持たないか使わないため、糖鎖修飾タンパク質に糖の鎖を付ける翻訳後修飾。全長抗体のFc機能に重要だが、抗体フラグメントには不要。詳しく →機構のない大腸菌でも成立します。抗VEGF Fab重鎖の一部と軽鎖がジスルフィドで連結した約50kDaの抗体フラグメント。2本鎖で折りたたみがやや複雑。詳しく →のラニビズマブが好例です。残る課題はジスルフィド結合で、この橋を正しく組めなければ抗原に結合しません。大腸菌の細胞質細胞内部の区画。大腸菌では還元的で、そのままではジスルフィド結合ができにくい。詳しく →は還元的で、S-S結合ができにくい場所です。難しさは、この一点に集約されます。

抗体フラグメントが大腸菌で作れるかは分子量ではなく、糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。詳しく →の要否とジスルフィド結合の組み方で決まります。

折りたたみ経路の選択 ― ペリプラズムと細胞質

ジスルフィド結合を組む場所は、大きく2つに分かれます。ペリプラズム大腸菌の内膜と外膜の間の区画。細胞質より酸化的で、ジスルフィド結合が形成されやすい。詳しく →へ送るか、細胞質で組むかです。

王道はペリプラズム発現シグナル配列でタンパク質を大腸菌のペリプラズムへ送り、そこでジスルフィド結合を形成させる発現法。です。大腸菌の内膜と外膜の間にあるこの区画は、細胞質より酸化的で、DsbA・DsbBという結合形成酵素系とDsbCを備えています。実務では、N末端にPelBやOmpAのシグナル配列タンパク質をペリプラズムへ送るためN末端に付ける、宛先ラベルに相当する配列。詳しく →を付け、翻訳と同時にペリプラズムへ運びます。ただし容積が小さく、発現量を上げすぎると折りたたみが追いつかず封入体として溜まります。もう一つの経路が、細胞質でのジスルフィド結合形成です。New England BiolabsのSHuffle系統は、還元酵素の遺伝子を欠損させ、DsbCペリプラズムでジスルフィド結合の形成と組み直しを担う酵素群。DsbAが導入しDsbCが誤対合を直す。詳しく →を常時発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。詳しく →させることでペリプラズムを介さず折りたたみを成立させます。scFvのようにS-S結合が2本で済む分子で有効です。

どちらの経路が正しいという話ではありません。ペリプラズムには実績があります。ただし移行容量に上限があります。細胞質発現株は専用株への切り替えと条件検討が要ります。どちらの失敗が自社の開発スケジュールで重いかで、選ぶ経路が決まります。

折りたたみの経路は、ペリプラズムの移行容量か、細胞質発現株での条件検討か、どちらの制約を引き受けるかという選択です。

POINT

抗体フラグメントが大腸菌で作れるのは、Fcの糖鎖が要らないからです。残るジスルフィド結合は、酸化的なペリプラズムへ送るか、細胞質を酸化的に変えた専用株を使うかで解きます。

発現誘導の設計 ― IPTGと自己誘導の得失

折りたたみの経路を決めたら、次は発現をどう起こすかです。標準はIPTG誘導ですが、自己誘導培地培地成分(乳糖など)で発現を自動的に誘導し、誘導剤の添加操作を省く方法。詳しく →という選択肢もあります。

IPTGはlacオペロン系のプロモーターRNAポリメラーゼが結合して転写を開始するDNA上の特定の塩基配列領域。詳しく →を外れさせる誘導物質です。MerckのI6758やThermo Fisher ScientificのJ17886が代表的です。対数増殖期に1 mM前後を添加し、16時間から20時間ほど発現させます。封入体が出やすい分子では、誘導温度を37℃から20℃前後まで下げ発現速度を落とせます。もう一方が自己誘導培地です。Merck(Novagen)のOvernight ExpressやThermo Fisher ScientificのMagicMediaは、グルコース微生物発酵でエネルギー源となる糖類などの炭素源と、目的遺伝子の発現を促す誘導物質のことです。詳しく →とラクトースの比率を設計してあり、使い切った時点で自動的に発現が始まります。添加も監視も要りません。並行スクリーニングでは、この手間の少なさが効きます。

どちらが正しいという話ではありません。IPTG大腸菌などで目的タンパク質の発現スイッチを入れる試薬で、培養の適切な時点で加えて生産を開始させます。詳しく →は条件を追い込みやすく、自己誘導は手離れがよい代わりに発現の瞬間を選べません。多数の候補を振るう初期段階か、条件を詰める最適化の段階かで、選ぶべき側が入れ替わります。

IPTGか自己誘導かは、誘導条件を自分で制御したいか手間を減らしたいかという、開発の段階によって答えが変わる選択です。

封入体からの回収 ― 可溶化とリフォールディング

折りたたみが追いつかなければ、フラグメントは不溶性の封入体として溜まります。ここから活性型を取り戻すのが、可溶化とリフォールディング大腸菌内で不溶性の塊(封入体)になったタンパク質を可溶化し、正しい立体構造へ巻き戻して活性を回復させる操作です。詳しく →の工程です。

封入体はまず、尿素や塩酸グアニジンタンパク質の立体構造を崩して変性させる試薬で、封入体の可溶化や巻き戻し前の展開などに使われます。詳しく →のような強い変性剤で可溶化します。Merckは変性剤から還元剤、アルギニン分子どうしの会合による凝集を抑え、高濃度処方では粘度を下げる働きも知られるアミノ酸。詳しく →までを一通り供給しています。可溶化した鎖を、透析や希釈で変性剤を抜きながら巻き戻すのがリフォールディングです。効くのはアルギニンによる凝集抑制と、酸化還元対還元型/酸化型グルタチオンなど、リフォールディング時にジスルフィド形成を助ける酸化還元系。詳しく →によるS-S結合の形成です。CytivaやThermo Fisher Scientific(Pierceブランド)がキットや試薬を供給しています。アルギニンはおよそ0.4 Mから1 M、グルタチオンの酸化型と還元型はおよそ5対1が出発点です。結合の数は分子で違い、Fabの方がscFvより多く当たり外れが出やすい分子です。

リフォールディングは、変性剤を抜く速さとアルギニン・酸化還元対の濃度で決まり、結合の多いFabほど手間が増えます。

捕捉クロマトグラフィーの設計 ― Protein Aが効かない領域

折りたたんだフラグメントを回収する段になって、多くの人がつまずくのがProtein Aです。この資材は全長抗体の定型精製を支えています。フラグメントにはそのままでは使えません。

Protein AはFc領域に結合します。フラグメントはFcを持たないか一部しか持たず、効きません。代わりに使われるのがProtein L抗体の軽鎖(L)やFc領域(G)に結合するリガンドを使った担体で、Protein Aでは捕まえにくい抗体断片やサブクラスの精製に使われます。詳しく →系のレジンです。ここに、よくある誤読があります。Protein Lなら軽鎖を持つ分子を何でも捕捉できると読むのは誤りです。CytivaのCapto Lは、κ軽鎖の可変部にだけ結合するよう設計されたアルカリ安定化レジンです。λ鎖を持つ分子には、実質的に効きません。そこが誤読です。λ鎖のフラグメントには、別の樹脂が要ります。Thermo Fisher ScientificのCaptureSelectは、ラクダ科由来リガンドでκ・λ・Fab領域に対応します。ほかにPuroliteのPraesto Protein L/GやTosoh BioscienceのTOYOPEARLもあり、基材の剛性やCIP耐性樹脂やリガンドが、CIPで使う水酸化ナトリウムなどの強アルカリ条件に繰り返し耐えられる性質。詳しく →が商用スケールで効きます。VHHには軽鎖抗体を構成する2種類のポリペプチド鎖のうち分子量が小さい方で、重鎖と対になって抗原結合部位を形成する。詳しく →がなく、Protein LもGも標的を持ちません。メーカーに聞くべきは「Protein Lで捕捉できるか」ではなく「軽鎖はκかλか」です。

Protein L系のレジンは万能の代替ではなく、軽鎖のアイソタイプに応じて選び分ける資材だと理解しておく必要があります。

POINT

Protein Aが結合するのはFc領域なので、フラグメントには使えません。代わりのProtein L系レジンも、軽鎖のκ・λで対応範囲が分かれます。

高密度培養とエンドトキシン管理

培養にも、フラグメント特有の事情があります。大腸菌の高密度発酵は、槽の性能がそのまま収量に跳ね返る工程です。

Sartoriusの Biostat Bは1 Lから10 Lのガラス槽で、Rushton翼と高散気構成を組みます。Eppendorfの SciVario twinは0.75 Lから3.7 Lの微生物専用槽で、強い撹拌と高い酸素移動を実現します。INFORS HTのLabfors 5は、CIPとSIPをベンチスケールに持ち込めます。高密度になるほど、輸送経路が律速になりペリプラズムへの移行が詰まりやすくなります。加えて大腸菌由来という点では、内毒素(エンドトキシン)の管理がダウンストリームの主題です。哺乳類細胞ではウイルスクリアランスが主題になるのに対し、微生物ではここが設計の重心です。

高密度培養は収量を押し上げますが、そのぶんペリプラズムへの移行とエンドトキシン管理という微生物特有の負担も一緒に増えます。

半減期という設計上の宿題

最大の弱点は、血中半減期の短さです。全長IgGが週単位で血中に留まるのに対し、フラグメントは腎臓から速やかにろ過されます。

Fc領域がFcRn(新生児型Fc受容体)に結合することで、全長IgGは長い半減期を保っています。フラグメントはFcを持たず、分子も小さいため腎クリアランスが速く進みます。答えは、承認された医薬品ごとに違います。抗VEGF Fabのラニビズマブは、分子量約48 kDaのまま、眼内投与に短い半減期を積極的に活かしています。抗TNFのFab'であるセルトリズマブ ペゴルは、約40 kDaのPEGを結合させ、全体で約91 kDaまで見かけを大きくして血中滞留を延ばしています。VHHを2つ連結したカプラシズマブは、分子量約28 kDaのまま、結合を二価にして効力を補っています。局所投与で活かす設計と、PEG化で延ばす設計と、二価化で補う設計と、3通りの答えが実在します。

半減期の短さは欠点そのものではなく、局所投与かPEG化か多価化かという、用途に応じた設計の選択肢です。

生産系を選ぶ順番

ここまでの軸を、決める順に並べ直します。

まず、分子設計を決めます。抗原への親和性が確保できているなら、FabかscFvかVHHかは輸送や多価化のしやすさで選びます。次に、折りたたみの経路を宿主株とシグナル配列とセットで決めます。ペリプラズム発現を王道としつつ、S-S結合が少ない分子ではSHuffle系統も検討に値します。後回しにすると、発現は出たのに活性が出ないという壁に、発現系を作り直してからぶつかります。そのうえで、捕捉戦略を配列から先に決めます。軽鎖がκかλかを確認し、Capto Lで足りるかCaptureSelectが要るかを固めます。最後に、半減期の設計を投与経路から逆算します。局所投与かPEG化かアルブミン結合かは、分子設計をやり直させるほど上流に効く決定です。

分子設計、折りたたみ経路、捕捉戦略、半減期設計という順番を守ると、後戻りが少なくなります。

参考文献

  • Frenzel A, Hust M, Schirrmann T. "Expression of recombinant antibodies." Frontiers in Immunology (2013). PMID: 23908655 — 組換え抗体発現の総説。
  • Nelson AL. "Antibody fragments: Hope and hype." mAbs (2010). PMID: 20093855 — Fab/scFv/VHHの特性の整理。
  • Berkmen M. "Production of disulfide-bonded proteins in Escherichia coli." Protein Expr Purif (2012). PMID: 22085722 — ジスルフィド結合形成の総説。
  • Lobstein J, et al. "SHuffle, a novel E. coli protein expression strain capable of correctly folding disulfide bonded proteins…" Microb Cell Fact (2012). PMID: 23046562 — SHuffle株の設計。
  • Bates A, Power CA. "David vs. Goliath: The Structure, Function, and Clinical Prospects of Antibody Fragments." Antibodies (2019). PMID: 31544834 — 半減期延長戦略の総説。
  • U.S. FDA. Cablivi (caplacizumab-yhdp) 承認情報 — VHH医薬品の承認例。
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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、微生物・発酵に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。