抗体医薬研究・抗体創出

抗体医薬の取得法:ハイブリドーマ・ファージ・B細胞クローニング

抗体医薬の開発で最初につまずく場面がある。標的(抗原)は決まった、さて、それに結合する抗体の配列はどこから手に入れるのか——という問いに対して、誰も最初から答えを持っていません。無数にありうる抗体の候補の中から、狙った標的にうまく結合するものを探し出す。この最初の一歩を担うのが、抗体の取得法です。

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抗体医薬の取得法:ハイブリドーマ・ファージ・B細胞クローニング

代表的なやり方は大きく3つ。動物に抗原を打って免疫応答を利用するハイブリドーマ、試験管の中で人工的にスクリーニングするファージディスプレイ、そして免疫した動物やヒトのB細胞(抗体を作る免疫細胞)を1個ずつ拾って配列を読む単一B細胞クローニング抗体を作るB細胞を1個ずつ分取し、その抗体遺伝子を直接読み取って抗体を再構築する手法。です。どれか一つが常に正解というわけではなく、標的の性質・欲しい抗体のタイプ・スピード・設備によって向き不向きが変わります。

3法の違いを整理するには、「ヒト由来にどこまで近づけられるか」「一度にどれだけの候補を探せるか(スループット)」「どんな標的が得意か」という軸で並べてみると見通しがよくなります。免疫動物として使われるトランスジェニックマウス抗体遺伝子をヒトのものに置き換えたマウス。免疫して完全ヒト抗体を取得するのに使う。や、「完全ヒト抗体配列がほぼ全てヒト由来の抗体。ファージディスプレイやトランスジェニックマウスで取得する。」という言葉の中身も、その流れの中で位置づけられます。抗体医薬の製造全体の中でこの工程がどこに当たるかは、抗体医薬の製造工程もあわせてご覧ください。

この記事の要点
  • 抗体の取得法は、動物の免疫に探させる方法と、試験管内で釣り上げる方法に大別されます。
  • ハイブリドーマ・ファージディスプレイ・単一B細胞クローニングは、ヒト由来度・スループット・得意な標的で使い分けます。
  • 「完全ヒト抗体」は特定の手法名ではなく、配列がヒト由来という結果を指す言葉です。

そもそも抗体を「取得する」とは何をしているのか

抗体取得とは、標的に結合する抗体の「配列」を特定する作業です。

抗体はY字型のタンパク質で、Y字の先端(可変領域抗体の抗原を認識する先端部分。CDRとフレームワーク領域からなり、標的にフィットするかで結合が決まる。)のかたちで標的を認識します。先端のアミノ酸配列は抗体ごとに異なり、そこが標的にフィットするかどうかで結合の強さ(親和性抗体が抗原に結合する強さ。解離定数などで表し、値が小さいほど強く結合することを示す。)が決まる。取得法がやっていることを突き詰めれば、「膨大な配列の候補集団(ライブラリ、あるいは免疫でできた抗体の集まり)」から「標的にちゃんと結合する配列」を選び出すことです。

やり方は2つの発想に分かれます。ひとつは、生き物の免疫システムに探させる方法。動物に抗原を打てば、体が自前で標的に合う抗体を増やしてくれます(ハイブリドーマ、単一B細胞クローニング)。もうひとつは、生き物を介さず試験管の中で選ぶ方法——あらかじめ多様な配列を並べた人工ライブラリを作り、標的に結合するものだけを機械的に釣り上げます(ファージディスプレイ抗体断片をファージ表面に提示し、標的に結合するものを試験管内で選び出す抗体取得の手法。)。

「体に探させる」か「試験管で釣る」か。この根本的な違いが、ヒト由来かどうか・スループット・得意な標的の差として後から効いてきます。

ハイブリドーマ ― 動物の免疫を「不死化」して固定する

ハイブリドーマ免疫でできた抗体産生B細胞と骨髄腫細胞を融合し、単一の抗体を安定に作らせ続ける細胞。は、免疫でできた抗体産生細胞を不死化し、単一の抗体を安定に作らせ続ける古典的な方法です。

流れを追うと、まずマウスなどの動物に抗原を注射し、免疫応答を起こさせます。体内では標的に反応するB細胞が増えるので、その脾臓からB細胞を回収する。ただし、B細胞はそのままでは長く培養できず、いずれ死んでしまいます。そこで、無限に増える性質を持つ骨髄腫細胞無限に増える性質を持つがん細胞。B細胞と融合させてハイブリドーマを作る。ミエローマ無限に増える性質を持つがん細胞。B細胞と融合させてハイブリドーマを作る。)と細胞融合させ、「抗体を作る能力」と「増え続ける能力」を併せ持つ雑種細胞をつくります。これがハイブリドーマ(hybrid=雑種+‑oma)です。

融合させた細胞集団の中から、狙った標的に結合する抗体を作る1クローンを選び、単一細胞に由来する系統として増やせば、同じ抗体(モノクローナル抗体単一のクローンに由来し、同じ標的部位を認識する均一な抗体。)を安定して得られます。1975年に確立されて以来の定番で、実績と再現性が大きな強みです。

弱点は2つあります。ひとつは、免疫応答という生物のプロセスに乗るため時間がかかること——動物が免疫寛容免疫系が特定の抗原に反応しない状態。自己抗原に近い標的では動物から抗体が取りにくくなる。を示すような標的(自己抗原に近いものなど)では抗体が取りにくい。もうひとつは、できあがるのがマウス由来の抗体である点です。マウス抗体をそのままヒトに投与すると、異物と見なされて免疫反応(抗マウス抗体の産生)が起きやすくなります。この課題への対処が、次のヒト化マウス抗体の抗原認識部だけを残し、それ以外をヒト配列に置き換えて免疫原性を下げる工程。・完全ヒト化の話につながります。

マウス抗体からヒトへ ― キメラ・ヒト化・完全ヒト抗体

「ヒトにどれだけ近いか」で抗体は分類され、名前の接尾辞にも表れます。

ハイブリドーマで得たマウス抗体を医薬品にするには、ヒトの体になじませる工夫が要ります。歴史的には段階的に進みました。

種類どこまでヒト配列かざっくりした作り方
マウス抗体ほぼゼロマウスの抗体そのまま
キメラ抗体マウスの可変領域にヒトの定常領域をつないだ抗体。作りやすいが可変領域全体がマウス由来で免疫原性が残る。可変領域以外がヒトマウスの可変領域+ヒトの定常領域抗体の可変領域以外の、配列がほぼ一定な領域。抗原認識には関わらずクラスや機能・血中半減期を担い、ヒト化では早期にヒト配列へ置き換える。をつなぐ
ヒト化抗体CDRをマウス由来のまま残し、フレームワークと定常領域をヒト化した抗体。マウスより免疫原性が下がる傾向。標的認識部を除きほぼヒト標的に触れる最小限(CDR=相補性決定領域抗体可変領域のうち抗原と直接接触するループ状の領域。重鎖・軽鎖に3本ずつあり、標的にはまり込む。)だけマウス由来を残す
完全ヒト抗体ほぼ全てヒト最初からヒト配列で取得する

一般名の語尾もこれに対応してきました。歴史的には ‑ximab(キメラ)、‑zumab(ヒト化)、‑umab(完全ヒト)といった慣習があり、抗体の由来を名前から推測する手がかりになっていました(近年は命名規則が改定されています)。

ここで重要な問いが立ちます。「完全ヒト抗体をどう取得するか」——ヒトに直接抗原を打って免疫するわけにはいきません。そこで登場するのが次の2つの技術です。ひとつは試験管内でヒト配列のライブラリから選ぶファージディスプレイ。もうひとつは、抗体遺伝子をヒトのものに置き換えたトランスジェニックマウスを免疫し、その動物からハイブリドーマや単一B細胞クローニングで取得する方法です。

POINT

「完全ヒト抗体」は、特定の1手法を指す言葉ではありません。「配列がヒト由来である抗体」という結果を指します。ファージディスプレイでも、ヒト抗体遺伝子を持つトランスジェニックマウスでも、到達できる。手法の名前と、できあがる抗体のヒト度は分けて理解しておくと、混乱を防げます。

ファージディスプレイ ― 試験管の中で釣り上げる

ファージディスプレイは、動物を使わずに膨大なヒト抗体ライブラリから結合体を選び出す方法です。

原理の核心は「表現型と遺伝子型その働きを生み出すもとになる遺伝子の配列情報。を1つの粒子で結びつける」ことにあります。バクテリオファージ(細菌に感染するウイルス)の表面に抗体断片を提示させ、その抗体をコードする遺伝子を同じファージ細菌に感染するウイルス。表面に抗体断片を提示させ、その設計図の遺伝子と一体で選抜に使う。粒子の中に入れておく。こうすると、「表面の抗体が標的に結合するかどうか」と「その抗体の設計図(遺伝子)」が、1つの粒子で一体になります。

選抜(パニングファージディスプレイで、標的に結合したファージだけを洗浄・回収し濃縮する選抜操作。と呼ばれます)の手順はシンプルです。多様な抗体を提示したファージの大集団を、標的抗原を固定した容器に流し込む。結合したファージだけが容器に残り、結合しなかったものは洗い流される。残ったファージを回収して増やし、また同じ操作を繰り返す——この「結合するものだけを濃縮する」サイクルを数回まわすと、標的に強く結合する抗体を提示するファージが選び取れます。あとはその遺伝子を読めば、抗体の配列がわかります。

強みは明快です。動物の免疫に依存しないため、免疫寛容で動物からは取りにくい標的や、毒性が強くて動物に打てない抗原にも使えます。ヒト由来の配列だけでライブラリを組めば、はじめから完全ヒト抗体を狙える。スループット一定時間に処理できる検体数。自動パッチクランプはマニュアル法より桁違いに多くの化合物を測れる。も高く、ライブラリの多様性は理論上きわめて大きく、多数の候補を短期間で探索できます。

一方、体内での親和性成熟(免疫応答の中で抗体が磨かれていく過程)を経ないため、そのままでは結合が弱い候補が出やすいという弱点があります。その場合は配列に変異を入れて再選抜し、親和性を人工的に高める工夫(親和性成熟)を追加することになります。また、in vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。で選ぶがゆえに、体内での挙動(発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。しやすさ・安定性など)とのギャップは別途詰める必要があります。

単一B細胞クローニング ― 1個ずつ拾って読む

単一B細胞クローニングは、抗体を作る細胞を1個単位で分取し、その抗体遺伝子を直接読み取る方法です。

ハイブリドーマが「B細胞を融合で不死化してから選ぶ」のとは対照的に、こちらは融合というステップを踏みません。免疫した動物、あるいは感染・ワクチン接種を経たヒトの血液から、標的に結合するB細胞を選んで1個ずつ回収します。そのうえで、その細胞が持つ重鎖抗体を構成する2種類のポリペプチド鎖のうち分子量が大きい方で、抗体の基本骨格と主要な機能領域を担う。軽鎖抗体を構成する2種類のポリペプチド鎖のうち分子量が小さい方で、重鎖と対になって抗原結合部位を形成する。の可変領域の遺伝子を増幅して読み取り、抗体を再構築します。

近年この方法が伸びた背景には、単一細胞を効率よく扱う技術(1個ずつの分取、微量からの遺伝子増幅、大量並列の配列解読)の進歩があります。融合効率という不確実な過程に頼らず、体内で親和性成熟変異を入れてより強く結合する抗体変異体を選び、落ちた結合を回復・向上させる工程。を終えた「すでに磨かれた抗体」を、由来の細胞ごと直接拾える——そこが実務上の魅力です。

とりわけ強いのが、ヒトの検体から直接ヒト抗体を取れることです。ある感染症から回復した人の血液には、その病原体に強く結合する抗体を作るB細胞が含まれます。そこから抗体を釣り上げれば、体内で実際に働いていた完全ヒト抗体を、免疫動物を介さずに取得できる。感染症やワクチン関連の抗体探索と相性が良い理由です。

課題は、目的のB細胞が検体中にごくわずかしかないことが多い点にあります。狙った標的に反応する細胞を効率よく選び分ける工夫が要り、微量の細胞から遺伝子を確実に回収・増幅する技術的なていねいさも求められます。

3法をどう選ぶか ― 対等に並べて比較する

単一の万能手法はなく、標的の性質・欲しいヒト度・スピード・設備で使い分けます。

同じ「抗体を取得する」目的でも、3法は得意な場面が違います。実務では複数を組み合わせることも珍しくありません(例:トランスジェニックマウスを免疫し、単一B細胞クローニングで拾う)。おおまかな整理は次のとおりです。

観点ハイブリドーマファージディスプレイ単一B細胞クローニング
発想動物の免疫を不死化して固定試験管内でライブラリから選抜免疫細胞を1個ずつ拾う
生き物への依存動物の免疫が必要不要(in vitro)免疫した動物/ヒト検体が必要
そのまま得られる由来通常はマウス(要ヒト化)ライブラリ次第でヒトも可検体次第でヒトも可
親和性成熟体内で自然に進む人工的に追加することが多い体内で完了した抗体を回収
スループットの傾向中程度高い(大規模ライブラリ)中〜高(単一細胞技術に依存)
相性の良い場面実績重視の定番用途免疫困難・毒性のある標的、完全ヒト志向感染症・ヒト由来抗体、磨かれた抗体の直接取得

判断の目安をいくつか挙げます。「動物では免疫が起きにくい標的(自己抗原に近い、毒性が強いなど)」なら、動物を介さないファージディスプレイが候補に上がります。「体内で磨かれたヒト抗体を、回復者やワクチン接種者から直接ほしい」なら単一B細胞クローニングが向く。「まずは確実に定番の流れで押さえたい」ならハイブリドーマにヒト化を重ねるという進め方も、依然として現役です。

いずれの方法で配列を得ても、その後は同じ下流に合流します。取得した抗体を発現細胞株にして安定に作らせ、精製・製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。・分析へと進めていく。抗体づくりの前半(設計・取得)から後半(製造・品質)へのつながりは、抗体医薬の製造工程で全体像として確認できます。取得段階での結合の強さ・特異性分析法において、共存する不純物・分解物・添加剤などが存在しても目的成分だけを正確に測定できる能力。の評価には、結合速度論の測定(SPR/BLIによる結合速度論)がよく使われます。

まとめ

抗体の取得法は、「動物の免疫に探させる」ハイブリドーマ・単一B細胞クローニングと、「試験管内で釣り上げる」ファージディスプレイに大別できます。ハイブリドーマは実績豊富な定番ですが通常はマウス由来で、ヒト化の工程が要ります。ファージディスプレイは動物に依存せず、免疫が難しい標的や完全ヒト抗体づくりに強みがある。単一B細胞クローニングは、体内で磨かれた抗体を細胞ごと直接拾える点が持ち味で、ヒト検体からの取得と相性が良い方法です。

「完全ヒト抗体」は特定の1手法の名前ではなく、配列がヒト由来という結果を指す言葉です。ファージディスプレイでも、抗体遺伝子をヒト化したトランスジェニックマウスの免疫でも到達できます。手法の名前と、できあがる抗体のヒト度を分けて捉えると、全体像が整理しやすくなります。

どの方法を選ぶかは、標的の性質・欲しいヒト度・スピード・手持ちの設備しだいです。実務では組み合わせることも多い——それが実情に近いところです。取得はあくまで抗体医薬づくりの入口であり、ここで得た配列がその後の細胞株構築目的タンパク質を安定して高く産生する細胞のクローンを選び出し、製造に使える産生細胞株として確立する工程です。詳しく →・製造・品質へとつながっていきます。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。