抗体医薬研究・抗体創出

抗体の一次スクリーニング:結合・発現・多様性で候補を絞る

免疫やライブラリー由来のクローンが数百から数千、方法によってはそれ以上の規模で手元に集まる。そのとき実務者が最初に直面するのは「この山の中に、本当に使えるものがどれだけあるか」という問いです。狙った標的にきちんとくっつき、量が取れて、しかも互いに性質の異なる候補をどう見きわめるか——それが一次スクリーニング(primary screening多数の抗体クローンから、次段に進める候補を結合・発現・多様性で手早く絞り込む初期の選抜作業。=初期選抜)の仕事です。

ELISAプレートリーダーBLI/SPRSPR#抗体医薬#一次スクリーニング#ELISA#多反応性
研究・非臨床 基準工程マップ|探索・設計このトピックを、モダリティ横断で見る
抗体の一次スクリーニング:結合・発現・多様性で候補を絞る

一次スクリーニング多数の抗体クローンから、次段に進める候補を結合・発現・多様性で手早く絞り込む初期の選抜作業。に求められるのは、精密な順位づけではありません。次の段階に進める候補を手早く残すこと、それだけです。見るべき軸は主に三つ。標的に結合するか(結合)、抗体そのものがどれだけ取れるか(発現量細胞が目的のタンパク質を作る量。低いと必要量の確保に手間がかかり、製造コストが上がる。)、そして残った候補が配列として散らばっているか(多様性)。この三軸で大きくふるいにかけ、有望なクローンだけを精密評価へ橋渡しします。

ただし、結合・発現・多様性で絞るだけでは足りない部分があります。「くっついているように見えて実は違う」偽陽性や、あちこちに反応してしまう多反応性(ポリスペシフィシティ抗体が標的以外の多くの分子にも弱く結合してしまう性質。体内動態の乱れにつながり早期に除外する。)が混じっているからです。これらを早めに外しておかないと、後工程で手戻りが生じます。望ましくないクローンをどう振り落とし、親和性・機能評価結合ではなく標的の働きを止める・動かすといった生物学的効果のほうを測る評価。へどうつなぐか——以下、実務の流れに沿って見ていきます。結合の強さや速さを精密に測る次段の手法は結合活性・相互作用解析とは?を参照してください。

この記事の要点
  • 一次スクリーニングは精密な順位づけではなく、次段に進める候補を手早く残すふるい分けです。
  • 結合(ELISA・ハイスループット結合)・発現量・配列多様性の三つの軸で大きく絞り込みます。
  • 偽陽性や多反応性を早めに外し、親和性・機能の精密評価へ情報を添えて橋渡しします。

一次スクリーニングが担う役割

一次スクリーニングは「次に進める候補を残す」ためのふるい分けであり、精密な順位づけは後の仕事です。抗体創出では、免疫動物のB細胞やファージ・酵母などのライブラリーから多数のクローンが得られます。そのすべてを精密に評価するのは時間もコストも見合わない。だからこそ、まず処理量(スループット一定時間に処理できる検体数。自動パッチクランプはマニュアル法より桁違いに多くの化合物を測れる。)を優先して大きく絞り込むのが現実的な進め方です。

この段階で重視されるのは、一つ一つの正確さよりも取りこぼさないことです。多少の誤差があっても、明らかに劣るものを外し、見込みのあるものを次段へ送れれば役割を果たします。逆に、有望な候補をここで誤って捨ててしまうと、後から取り戻せません。判定の閾値は「残す側に寄せる」のが基本的な考え方です。

  • 処理量を優先⁠:多検体を並列で一気に測れる形式を選ぶ。
  • 相対比較で十分⁠:候補間の優劣がつかめればよく、絶対値の精度は次段に委ねる。
  • 取りこぼしを避ける⁠:判定の閾値は、有望な候補を残す側に寄せて設定することが多い。
POINT
一次スクリーニングの合否は「絶対的な優秀さ」ではなく「次段に進める価値があるか」で決めます。精密な順位づけは、候補が絞れてから改めて行います。

結合で絞る:ELISAとハイスループット結合

結合スクリーニングは、標的への反応の有無と大まかな強さを多検体で一気に見る、最初のふるいです。最も広く使われるのがELISA抗原と抗体の結合を酵素反応による発色などで検出し、目的の物質の有無や量を測る手法です。不純物や力価の測定に広く使われます。詳しく →(酵素結合免疫吸着測定=抗原を固定して抗体の結合を発色などで検出する方法)。マイクロプレートの各ウェルに抗原を固定し、培養上清などをそのまま加えて、結合したものだけを検出します。プレート単位で並列に測れるため、初期の大量選抜に向いています。

ELISAに加えて、ラベルフリー(標識を付けずに結合をリアルタイムで捉える方式)のハイスループット結合測定も選択肢になります。バイオレイヤー干渉(BLI)センサー先端の膜厚変化を光の干渉で捉え、分子の結合・解離をラベルなしにリアルタイム測定する方式。のように多数のセンサーを並列に動かせる装置では、上清レベルの多検体を比較的短時間でスクリーニングし、相対的な結合の強さやおおまかな解離薬分子が水溶液中で電荷を帯びたイオン型と電荷を持たない非イオン型に分かれる現象で、体内のpH環境によって割合が変化する。の速さの傾向をつかめます。

方式主な特徴一次スクリーニングでの位置づけ
ELISA抗原固定・発色検出、プレート並列結合の有無を大量に判定する定番
ハイスループット結合(BLIセンサー先端に結合した分子の膜厚変化を光の干渉で捉え、抗体などの結合・解離のしやすさ(親和性)をリアルタイムで測る手法です。詳しく →等)ラベルフリー蛍光や酵素などの標識を付けずに、分子の結合をそのまま検出する方式。標識による活性への影響を避けられる。、多センサー並列相対的な強さ・傾向まで含めて選別

ただし、ここで得られる値はあくまで大まかな指標です。培養上清は抗体濃度がまちまちなので、シグナルの高さがそのまま親和性の高さを意味するわけではありません。この段階の結合データは「順位づけの当たりをつける材料」と割り切り、精密な親和性は次段のSPR金属薄膜表面での光の共鳴変化を利用し、分子同士の結合と解離をリアルタイムに測る手法です。抗体などの親和性評価に広く使われます。詳しく →/BLI測定に委ねる——それが実務の流れです。厳密な速度定数・親和性抗体が抗原に結合する強さ。解離定数などで表し、値が小さいほど強く結合することを示す。の測り方は結合活性・相互作用解析とは?で扱っています。

発現量で絞る:作りやすさという現実

どれだけ結合が良くても、十分な量が取れなければ開発は前に進みません。発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。量は、早い段階から候補選びの現実的な条件です。抗体は最終的に細胞で大量生産することを見据えるため、細胞がその配列をうまく作れるか(発現しやすさ)は無視できない要素。上清中の抗体量が少ないクローンは、後工程で生産性の壁にぶつかりやすい傾向があります。

一次スクリーニングでは、結合と並行して上清中のおおよその抗体量を把握し、極端に発現が低いものを候補から外していきます。使う定量法は、抗体濃度を簡便に見積もれるもので十分です。ここでも狙いは精密な定量ではなく、明らかに作りにくいものを早めに落とすこと——その一点に絞られます。

  • 結合が良くても発現が極端に低い候補は、生産性の観点から優先度を下げる。
  • 逆に発現は十分でも結合が弱いものは、結合側の基準で判断する。
  • 結合と発現の両方が一定水準を満たすものを、優先的に次段へ残す。

発現しやすさは、後の細胞株構築目的タンパク質を安定して高く産生する細胞のクローンを選び出し、製造に使える産生細胞株として確立する工程です。詳しく →や工程開発での製造適性にも直結します。早い段階で発現の観点を織り込んでおくと、後になって「効くけれど作れない」候補に開発資源を注ぎ込む事態を避けやすくなります。

多様性で絞る:配列がかたよらないように

残った候補が配列として散らばっていることは、後段でつまずいたときの逃げ道を確保するうえで重要です。結合と発現でふるいをかけると有望なクローンが残りますが、それらが互いによく似た配列ばかりなら問題があります。実は少数の「もと」から派生したクローンを重複して数えているだけかもしれない。似た配列は似た弱点を抱えやすいため、後で凝集や安定性などの問題が出たとき、候補群がまとめて脱落する危険があります。

そこで、残した候補の配列を調べ、どれくらい多様かを確認します。可変領域(抗原に結合する部分)の配列、とくに結合の中心となる相補性決定領域抗体可変領域のうち抗原と直接接触するループ状の領域。重鎖・軽鎖に3本ずつあり、標的にはまり込む。(CDR)のパターンでグループ分け(クラスタリング似た配列どうしをグループ分けする解析。各グループから代表を選び、多様な候補を残すのに使う。)し、異なるグループから代表を選ぶ——そうした進め方で、性質の異なる候補を幅広く残せます。

見る観点目的
配列クラスターの数どれだけ独立した系統が取れているか
CDR抗体可変領域のうち抗原と直接接触するループ状の領域。重鎖・軽鎖に3本ずつあり、標的にはまり込む。のパターン結合様式のバリエーションを確保できているか
重複クローンの整理同一起源の重複を数え違えないため

多様性を確保しておくと、後の親和性成熟や改変で問題が出ても、別系統の候補に切り替える余地が残ります。合成ライブラリ天然の配列に頼らず、可変部を人工的に多様化して設計した抗体集団。ー設計の分野でも、枠組み(フレームワーク)を工夫して多様性と作りやすさを両立させる取り組みが報告されており、多様性は初期選抜の重要な設計変数の一つと位置づけられています。

偽陽性と多反応性を外す

「くっついて見えるが実は違う」偽陽性実際には結合や活性がないのに、計算や試験で当たりに見えてしまう候補。上位ヒットに必ず混じる前提で扱う。と、あちこちに反応する多反応性を早めに外す。後段の無駄打ちを減らすための、もう一つの重要な作業です。結合スクリーニングで陽性に見えても、その中には注意すべきものが混じります。代表的なのが次の二つです。

一つは偽陽性です。抗原を固定するプレートやブロッキング剤、検出試薬そのものに反応してしまい、標的に結合していないのに信号が出ることがあります。これを見分けるため、抗原を入れないウェルや無関係なタンパク質を置いた対照と比べ、標的特異的な結合かどうかを確認します。

もう一つが多反応性(ポリスペシフィシティ)です。標的以外の多くの分子にも弱くくっついてしまう抗体は、体内で狙わない場所に取り込まれやすく、血中からの消失が速まったり、思わぬ挙動につながったりする懸念があります。初期に無関係な複数の分子(たとえば各種タンパク質やDNAなど)への結合を調べる非特異結合アッセイでこうした候補を選り分ける取り組みが、抗体の作りやすさ(ディベロッパビリティ抗体が製造や製剤化に耐え、安定して作れるかという開発のしやすさ。凝集や発現量なども含む。)評価の一環として報告されています。

  • 偽陽性⁠:対照との比較で、標的への特異的結合かを確認する。
  • 多反応性⁠:無関係な分子への広い結合をチェックし、選り分ける。
  • どちらも早い段階で外すほど、後段の精密評価を有望な候補に集中できます。

ここで完全に判定しきる必要はありません。明らかに疑わしいものを早めに除き、判断に迷うものは注意対象として次段に情報を引き継ぐ——それが現実的な運用です。

次段:親和性・機能への橋渡し

一次スクリーニングの出口は、絞り込んだ候補に「なぜ残したか」の情報を添えて次段へ渡すことです。結合・発現・多様性でふるいにかけ、偽陽性と多反応性を外した候補群は、ここから精密評価に入ります。次に待つのは主に二つの評価です。

一つは親和性の精密測定。培養上清レベルの大まかな比較から、精製した抗体を使ったSPRやBLIによる正確な速度定数・親和性(KD)の測定へと進みます。ここで初めて、候補間の強さを信頼できる数値で順位づけできます。もう一つは機能評価で、細胞を使ったバイオアッセイなどで、実際に狙った作用(中和・シグナル阻害・エフェクター機能抗体が免疫系を動かして標的細胞を排除する働き。ADCCやCDCなどがある。など)が出るかを確かめます。

  • 親和性(次段):精製品で正確なka・kd・KDを測り、精密に順位づけする。
  • 機能(次段):細胞レベルの作用があるかを確かめ、結合と効き目を切り分ける。
  • 一次スクリーニングからの申し送り⁠:発現の水準、多様性の系統、多反応性の注意点を添える。

この受け渡しがうまくいくと、次段は限られた有望候補に評価資源を集中できます。逆に、一次スクリーニングで多様性や多反応性の情報を残さないまま数だけ絞ると、次段で系統がかたよっていたり、注意すべき候補を精密評価してしまったりといった手戻りが起きやすくなります。親和性・速度の精密測定の中身は結合活性・相互作用解析とは?を参照してください。

まとめ

抗体の一次スクリーニングは、多数のクローンから次段に進める候補を手早く残すためのふるい分けです。精密な順位づけではなく、結合(ELISA・ハイスループット結合)・発現量・配列多様性残した抗体候補の配列がどれだけ散らばっているか。似た配列に偏ると弱点を共有し一斉に脱落する危険がある。という三つの軸で大きく絞り込むのが役割です。

  • 結合⁠:ELISAやラベルフリーの並列測定で、標的への反応と大まかな強さを多検体で見る。
  • 発現量⁠:作りやすさの現実的な条件として、極端に取れない候補を早めに外す。
  • 多様性⁠:残した候補の配列が散らばっているかを確認し、後段の逃げ道を確保する。

あわせて、偽陽性(標的以外への反応で信号が出る)と多反応性(あちこちに弱く結合する)を早めに外し、判断に迷うものは注意情報として次段に引き継ぎます。こうして絞り込んだ候補を、精製品での親和性測定と細胞ベースの機能評価へと橋渡しするのが、一次スクリーニングの出口です。ここでの絞り込みと情報の受け渡しが丁寧なほど、次段の親和性・機能評価を有望な候補に集中でき、開発全体の効率が上がります。

参考文献

  • ICH S6(R1)バイオ医薬品の非臨床安全性評価の考え方を示すICHガイドライン。種選択などの枠組みを定める。「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」 https://database.ich.org/sites/default/files/S6_R1_Guideline_0.pdf
  • Estep P, et al. High throughput solution-based measurement of antibody-antigen affinity and epitope binning. MAbs. 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23575269/
  • Liu Y, et al. High-throughput screening for developability抗体を医薬品として無理なく製造・製剤できる見込みの高さ。凝集・安定性・粘度などを早期に評価する。 during early-stage antibody discovery using self-interaction nanoparticle spectroscopy. mAbs. 2014. https://doi.org/10.4161/mabs.27431
  • Tiller T, et al. A fully synthetic human Fab重鎖の一部と軽鎖がジスルフィドで連結した約50kDaの抗体フラグメント。2本鎖で折りたたみがやや複雑。 antibody library based on fixed VH/VL framework pairings with favorable biophysical properties. mAbs. 2013. https://doi.org/10.4161/mabs.24218
Newsletter

この分野の新着を、メールで受け取る

こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを月数回お届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。

登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。

次に読む

目次・関連閉じる
編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。