動物実験代替(NAMs)とは?いま決まったことと残る試験

動物実験代替(NAMs、New Approach Methodologies:新規アプローチ法)は、細胞、臓器チップ微小流路を組み合わせ、血流や複数臓器の連携を模す培養デバイス。詳しく →、コンピューターモデルなどで、動物を使わずに安全性を調べる新しい手法の総称です。米国では法律が変わり、新薬の治験を始めるための条件から、動物試験を求める書きぶりが外れました。
ただし、FDAに出される申請書から動物試験が消えたわけではありません。法律が外したのは「動物でなければならない」という縛りだけで、代わりに何を出せば当局が納得するかは、試験の種類ごとに決めている最中だからです。
この記事では、法律・ロードマップ・指針案の違い、動物を使わない方法へ移った試験、動物試験が残る領域、日本のPMDAの動きと当局相談の順番を順に説明し、最後に計画書で確かめる点を挙げます。
1. 法律・ロードマップ・指針案 ― FDA Modernization Act 2.0
動物試験を減らす動きは、重さの違う3つの層が重なっています。
| 層 | 時期 | 中身 | 縛りの強さ |
|---|---|---|---|
| 法律(FDA Modernization Act 2.0) | 2022年末 | 治験の前に求める試験の書きぶりを「動物試験」から「非臨床試験」に変更 | 法律。動物試験は禁止されていない |
| ロードマップ | 2025年4月 | 前臨床の安全性試験で動物を「例外」にする計画。最初の対象は抗体医薬 | 計画。規則ではない |
| 指針案(ガイダンスの草案) | 2025年12月、2026年3月 | 抗体医薬の試験の簡素化、NAMsを使うときの一般的な考え方 | 草案。最終版ではない |
2022年末の法律が変えたのは書きぶりで、FDA Modernization Act 2.0は、動物試験を求めていた文言を「非臨床試験」に改め、細胞を使う試験、臓器チップ、コンピューターモデルなども含むと定めました。動物試験が禁止されたのではなく、どの試験をFDAが受け入れるかは、個別の審査と指針で決まります。
ロードマップは、2025年4月10日にFDAが公表した計画です。前臨床の安全性試験で動物を使うことを「原則」から「例外」へ移すのが長期の目標で、最初の対象は抗体医薬でした。
最初の一歩として示されたのは、サルを使う6か月の毒性試験を、1か月の試験などで懸念が見つからなければ3か月に縮める案です。動物を主に使わない試験計画を、一部の抗体医薬の開発者がFDAと相談しながら進める試行も、あわせて予告されています。
指針案は、その計画を文書にしたものです。2025年12月に出た「Monoclonal Antibodies: Streamlined Nonclinical Safety Studies」は、単一の標的に結合する抗体について、サルなど非げっ歯類での3か月を超える試験は、根拠を示せれば通常は求めないとしています。
ただし草案のままで、最終版ではありません。詳しくはICH S6(R1)の記事にあります。
NAMsのデータを出せば受け入れられる、とはまだ言えません。受け入れの範囲は、最終版の指針が出るまで、FDAとの相談で確かめます。
2. 動物を使わない方法へ移った試験 ― 遺伝毒性・hERG・rFC
置き換えが先に進んだのは、見たい現象を1か所に絞れる試験です。
- 遺伝毒性化合物が遺伝子や染色体を傷つける性質。点突然変異や染色体損傷を含み、複数の試験で分担して調べる。詳しく →:遺伝子の傷を調べる遺伝毒性の標準の組み合わせでは、細菌を使うエームス試験壊した遺伝子が変異で元に戻る回数を数え、化合物の変異原性を細菌で手早く調べる試験。詳しく →や培養細胞の試験が中心で、動物の試験は一部に残っています(遺伝毒性の標準バッテリー)。
- QT延長:心臓のカリウムの通り道(hERG)をふさぐかどうかを細胞で調べる試験が、ICH S7B医薬品のQT延長・心室再分極遅延を非臨床で評価する指針。hERG試験をin vitroの中核と位置づける。詳しく →の中心となる試験の一つです。
- エンドトキシン試験微生物そのものでなく、グラム陰性菌由来の発熱性物質エンドトキシンの量を測る試験。詳しく →:注射剤の品質試験では、カブトガニ由来のLAL試薬から、遺伝子組換えで作る組換えC因子(rFC)へ移る動きがあります。欧州薬局方欧州医薬品品質局(EDQM)が発行する、医薬品の品質基準を定めた公定書で、署名国・加盟国の規制に法的効力を持つ。詳しく →は2021年1月から、米国薬局方米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →は2025年5月から、組換え試薬を使う方法を正式な試験法として載せました(rFCの記事)。
- 皮膚感作性:化学物質の皮膚感作性では、OECDが動物を使わない試験法を正式なテストガイドラインに採用しています。
心臓は、動物を使わない評価で最も議論が進んだ領域です。hERG一つに頼らず、複数のイオンの通り道、計算モデル、iPS細胞体細胞を初期化して作る多能性幹細胞。同一株から繰り返し分化・製造でき均質性を高めやすい。詳しく →由来の心筋を組み合わせて不整脈の起こしやすさを見積もるCiPAhERG単独に頼らず、複数のイオンチャネルへの作用を統合してTdPリスクを予測する枠組み。詳しく →が提案され、2022年のICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → E14/S7B Q&Aで、非臨床のデータを臨床の判断に活かす道筋が示されました。何が測れて何が残るかはQT延長リスクの非臨床評価で読めます。
発生毒性では、ヒト幹細胞を使うReproTrackerについて、Charles RiverとToxysが2025年10月に、NAMとしての活用を検証する協業を発表しました(ニュース)。動物試験の置き換えとして認められたものではなく、検証の途中です。
3. 動物試験が残る領域
臓器チップやオルガノイドは、特定の臓器の細胞が薬にどう反応するかをよく再現します。ただ、薬が全身をめぐって複数の臓器に及ぼす影響、免疫系全体の反応、数か月に及ぶ長期投与の毒性は、今のNAMsでまるごと再現するのが難しい領域です。
たとえばヒトへの初回投与量は、動物で毒性が出なかった最大の量(NOAEL無毒性量。毒性試験で有害な影響が認められなかった最大の用量。PDE算出の出発点になる。詳しく →)を出発点に決める枠組みが、今も基本です(NOAELからHED・MRSDへ)。
検証がいちばん進んでいるのは、肝臓のチップです。Emulateが報告した盲検試験では、ヒトで肝障害を起こす薬の87%を陽性と判定し、無毒な薬を誤って陽性とした例はありませんでした。それでも、FDAのISTAND(新しい評価手法を、どの判断に使えるかごとに認める枠組み)で適格と認められた臓器チップは、まだありません(臓器チップの記事)。
動物が万能というのでもありません。2006年に英国で行われたTGN1412初回ヒト投与でサイトカイン放出の重篤な反応を起こした抗CD28抗体で、MABEL普及の契機。詳しく →という抗体の初めてのヒト試験では、サルで有害な影響が出なかった量の500分の1を投与された志願者6人の全員が、命に関わる全身の炎症反応を起こしました。
サルの記憶型のT細胞には、この抗体が結合するCD28という分子が出ていなかったためです。人の血液細胞に抗体を溶かして加える試験管内の方法も、この反応を拾えませんでした(サイトカイン放出試験)。
動物試験にもNAMsにも見逃しがあります。動物かどうかではなく、何を見たい試験なのかで選びます。
4. PMDAの動きと当局相談の順番
日本でも、PMDAが2025年9月にNAMsを検討するワーキンググループを置いたと報じられ、同年11月には、複数のデータを総合して動物試験の要否を考える非臨床安全性評価ヒトへの初回投与前に、動物や試験管の実験で毒性や作用を調べる一連の評価のこと。詳しく →の見解が出たと伝えられています。バイオ医薬品でサルを使う生殖発生毒性薬が受胎・胚胎児の発生・出生後の発育など次世代に及ぼす影響を調べる非臨床安全性試験。詳しく →試験が不要になる場合を例に挙げた点が、特徴です。
ただし、国際的な基準は変わっていません。ICH S6(R1)バイオ医薬品の非臨床安全性評価の考え方を示すICHガイドライン。種選択などの枠組みを定める。詳しく →は2011年の追補を含む版が現行のままで、FDAの動きが日本の審査にそのまま通じるとは限りません。
動物試験を減らす案を作るときは、米国向けならFDAの治験前相談(pre-IND meeting)、日本向けならPMDAの対面助言で、試験を始める前に見解を確かめます。始めてから確かめたのでは、やり直しになるおそれがあります。
5. 計画書と見積もりの確認点
計画書や受託先の見積もりに、動物を使わない試験が入っていたら、次の点を確かめます。
- 置き換えか追加か:その試験が動物試験の置き換えか、追加かを確かめます。置き換えなら、どの判断に使う前提かを見ます。
- 根拠の文書:根拠が確定した指針か、草案か、受託先の社内資料かを確かめます。
- 検証のデータ:検証のデータが何かを確かめます。何種類の薬で、盲検で行ったか、ほかの施設で再現したかを見ます。
- 当局への相談:動物試験を省く案について、試験を始める前に当局へ相談して、見解を得ているかを確かめます。
- 費用の二重化:動物試験は残したまま、NAMsを追加しているだけで、費用が二重になっていないかを確かめます。
動物の数を減らす工夫は、NAMsだけではありません。少量の血液で血中濃度を測る方法はトキシコキネティクス、手持ちのデータを総合して試験の要否を考える方法はがん原性試験で扱っています。受託先は毒性病理・安全性薬理、細胞を使う評価は細胞生存率・細胞毒性アッセイとオルガノイド培養キットの製品ページから比べられます。
参考文献
- U.S. Congress, S.5002, FDA Modernization Act 2.0 (117th Congress)(動物試験の代替法を認めた2022年の法改正。規定はConsolidated Appropriations Act, 2023/Public Law 117-328として成立)
- FDA, Roadmap to Reducing Animal Testing in Preclinical Safety Studies(2025年4月10日。抗体医薬を最初の対象とする計画の本文)
- FDA, FDA Announces Plan to Phase Out Animal Testing Requirement for Monoclonal Antibodies and Other Drugs(ロードマップ公表のプレスリリース)
- FDA, Monoclonal Antibodies: Streamlined Nonclinical Safety Studies(ガイダンス草案、2025年12月2日公表)
- FDA, General Considerations for the Use of New Approach Methodologies in Drug Development(ガイダンス草案、2026年3月)(NAMsを医薬品開発で使うときの検証の枠組みと一般的な推奨。草案)
- FDA, New Approach Methodologies (NAMs)(NAMsに関するFDAの解説ページ)
- USP, Expert Committee approves endotoxin testing using non-animal derived reagents(USP〈86〉。2025年5月に正式)
- Suntharalingam G, et al. Cytokine storm in a phase 1 trial of the anti-CD28 monoclonal antibody TGN1412. N Engl J Med. 2006;355(10):1018-1028.
- PMDAのNAMs検討ワーキンググループ設置(2025年9月)と、非臨床安全性評価での証拠の重みの見解(2025年11月)は、薬事日報などの報道による
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