低分子研究・創薬スクリーニング

PAINSフィルターとは? 偽陽性化合物の除外を考える

ハイスループットスクリーニング(HTS)で拾ったヒット化合物のなかには、標的に効いているように見えて、実は測定系そのものを乱しているだけのものが混じります。こうした「見かけのヒット」を早く見分けたいという要求から広まったのが、PAINS(pan-assay interference compounds=多アッセイ干渉化合物)というフィルターです。

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PAINSフィルターとは? 偽陽性化合物の除外を考える

PAINSは、特定の部分構造(サブストラクチャ)を持つ化合物が、標的を問わず多くのアッセイでヒットしやすい、という経験則を構造アラートに落とし込んだものです。反応性が高い、凝集する、金属を奪う、レドックスで活性酸素を出すなど、干渉の理由はさまざまですが、共通して「標的への特異的な結合ではない」点が問題になります。

一方で、PAINSに当たったからといって、その化合物を機械的に捨ててよいわけではありません。承認薬のなかにもPAINS部分構造を持つものが少なくなく、フィルターはあくまで「注意して確かめる対象」を示す標識です。本稿では、PAINSの由来と偽陽性の機序、RDKitでの適用、そして構造アラートの実務的な扱い方を整理します。

PAINSの由来:AlphaScreenの頻出ヒッターから

PAINSという概念は、2010年にJonathan B. BaellとGeorgina A. Hollowayが発表した論文で定式化されました。彼らは6件のAlphaScreenアッセイのデータを分析し、標的にかかわらず繰り返しヒットとして現れる化合物(頻出ヒッター)に共通する部分構造を抽出しました。

このとき定義されたのが、概ね480種類とされる部分構造フィルターです。もっとも、480すべてが均等に使われるわけではありません。ごく一部の部分構造が多数の化合物をカバーし、残りの多くは該当する化合物が数個から十数個という、偏った分布になっています。つまり実際の除外に効いているのは、限られた数の頻出モチーフです。

由来を踏まえると、PAINSは特定の検出系(AlphaScreen)由来の経験則であり、あらゆるアッセイ形式にそのまま一般化できるものではない という点を押さえておく必要があります。この前提は、後述する「即除外ではない」という扱いの根拠にもなります。

POINT

PAINSは、6件のAlphaScreenアッセイの頻出ヒッターから抽出された約480の部分構造フィルターです。特定の検出系に由来する経験則である、という出自を忘れないことが実務の出発点になります。

偽陽性を生む主な機序

PAINSが問題視されるのは、標的への特異的結合ではない理由でシグナルを動かすからです。代表的な機序を整理します。

機序何が起きるか見かけの結果
反応性(共有結合)求電子性の部分構造がタンパク質を非特異的に修飾する多くの標的で活性が出る
コロイド凝集分子が凝集体を作りタンパク質を非特異的に取り込む阻害しているように見える
金属キレート金属イオンを奪い、金属依存の酵素を止める阻害と区別しにくい
レドックス活性還元剤存在下で活性酸素(ROS)を生じるタンパク質やアッセイ成分を乱す
蛍光・光学干渉検出波長で自家蛍光したり、シグナルを吸収・消光する読み値が真の活性とずれる

これらは互いに排他的ではなく、一つの化合物が複数の機序を同時に持つこともあります。共通するのは、標的を変えても似た挙動が出る、つまり「特異性がない」ことです。逆にいえば、標的を変えたり検出形式を変えたりすると化けの皮がはがれます。ここが後述の直交(オルソゴナル)確認につながります。

なお、凝集は界面活性剤の添加で崩れることが多く、レドックス活性は還元剤や触媒(カタラーゼ)を加えると挙動が変わります。機序ごとに切り分ける簡単な対照実験が、偽陽性の正体を突き止める近道 になります。

RDKitなどでの適用

PAINSフィルターは、部分構造検索として計算機上で適用します。もともとの定義はSLNという記法でしたが、SMARTS(部分構造を表す文字列パターン)に変換されて広まり、いまはオープンソースのRDKitに組み込まれています。

RDKitでは、PAINSは扱いやすさのためにPAINS_A・PAINS_B・PAINS_Cの三つのセットに分けて提供されています。使い方は、フィルターカタログを構成し、化合物が該当するかどうかを判定するだけです。おおまかな流れは次のとおりです。

手順内容
カタログ構成PAINS_A/B/Cなど使うセットを指定してカタログを作る
一致判定化合物ごとに、いずれかの部分構造に当たるかを調べる
該当箇所の取得どのアラートに当たったか(部分構造名)を取り出す
記録ヒット/非ヒットと該当アラートをリストに残す

大切なのは、判定結果を「除外リスト」ではなく「要確認リスト」として扱うことです。どのアラートに当たったかまで記録しておくと、後で機序を推定したり、対照実験の設計を考えたりするときに役立ちます。単に何個フラグが立ったかを数えるより、内訳を見るほうが実務的です。

創薬初期のヒット評価では、PAINSだけでなく、結合効率の指標もあわせて眺めることが多いです。効率の考え方はリガンド効率(LE/LLE)で整理しています。

構造アラート=即除外ではない

ここが本稿の要です。PAINSに当たった化合物を、内容を確かめずに捨ててしまうのは行き過ぎです。理由は二つあります。

一つめは、フラグが立った化合物の多くが、実際には干渉を示さないという報告があることです。大規模なスクリーニングデータの解析では、PAINSアラートを持つ化合物の多くが特段の頻出ヒッター傾向を示さなかった、とされています。アラートは干渉の「可能性」を示すだけで、干渉そのものの証拠ではありません。

二つめは、承認薬のなかにPAINS部分構造を持つものが実在することです。報告では、FDA承認薬のうち相当数がPAINSアラートに該当し、そのなかには世界保健機関(WHO)の必須医薬品リスト収載品も含まれるとされています。部分構造が当たること自体は、薬になれないことを意味しません。

では実務でどう扱うか。基本は「捨てる」ではなく「確かめる」です。

  • 直交確認:検出形式の異なる第二のアッセイで活性を再現できるか見る。形式を変えると、干渉由来のシグナルは落ちやすくなります。
  • 対照実験:界面活性剤の添加(凝集)、還元剤やカタラーゼ(レドックス)など、機序を切り分ける実験を組む。
  • 濃度依存性・SAR:構造活性相関(SAR)がなだらかに追えるか。干渉由来のヒットは、構造を少し変えても活性が保たれる/急に消えるなど、SARが不自然になりがちです。

主要な医薬化学系のジャーナルでも、PAINSに該当する化合物を報告する際は、性質の異なる二種類以上のアッセイで特異的な活性を示す実験的証拠を添えることが求められます。これは「アラート=即除外」ではなく「アラート=立証責任」という運用そのものです。

POINT

PAINSアラートは除外の判定ではなく、追加検証の引き金です。直交アッセイ・機序別の対照実験・SARの三点で確かめてから、活かすか外すかを決めます。

アッセイ側の作り込みも忘れてはいけません。そもそも干渉に強い測定系を設計し、シグナルのばらつきや偽陽性・偽陰性を抑えることが前提になります。アッセイ品質の評価軸はZ因子とアッセイ品質で扱っています。フィルターは万能ではなく、良いアッセイ設計と組み合わせて初めて意味を持ちます。

まとめ

PAINSは、AlphaScreenの頻出ヒッターから抽出された約480の部分構造フィルターで、反応性・凝集・金属キレート・レドックス・光学干渉といった機序で偽陽性を生む化合物を早めに見分けるための標識です。RDKitなどで手軽に適用できますが、判定結果は除外リストではなく要確認リストとして扱うのが実務です。

承認薬にもPAINS部分構造を持つものがある以上、アラートは可能性の指摘にとどまります。直交アッセイ・機序別の対照実験・SARの三点で確かめ、良いアッセイ設計と併用することで、フィルターは本来の価値を発揮します。捨てるための道具ではなく、確かめるための道具として使うのが要点です。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、低分子に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。
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