再生誘導医薬とは?細胞を入れず幹細胞を呼ぶ薬と脳梗塞試験の結果

再生誘導医薬は、細胞を体に入れず、患者自身の幹細胞を薬で損傷部位へ呼び寄せて組織を治す薬です。細胞を製品にしないので、細胞医薬のような低温輸送や短い有効期間医薬品が規定の品質を保てると保証される期間。安定性データの経時変化から設定する。詳しく →の制約を避けられます。
ただし、体の中で起きる再生を試験でどう測り、どこまで確かめられたのかは、細胞医薬とは別の見方が要ります。開発の先頭にあるレダセムチドも、脳梗塞では国内とグローバルの第2相試験で結果が分かれました。
この記事では、再生誘導医薬の考え方、レダセムチドの仕組み、細胞医薬との製造・物流・評価の違い、脳梗塞などの試験の結果を順に説明します。
1. 細胞を入れずに、体の幹細胞を呼ぶ ― 再生誘導医薬の発想
従来の再生医療の多くは、細胞そのものを製品にします。患者や他人の細胞を採取し、体外で増やし、必要なら加工して体に戻します。
細胞は生きているので、自家か同種かを問わず、無菌を保った閉鎖系での製造、低温輸送、限られた有効期間という制約が伴います。
再生誘導医薬は、細胞を製品にしません。治すのに必要な幹細胞はもともと患者の体の中、特に骨髄にいるため、その幹細胞を損傷した場所へ呼び出す合図を、薬として与えるという考え方です。
損傷した組織を直接治すのは、呼び出された患者自身の幹細胞で、薬はその幹細胞を動員する役を担います。この「再生誘導医薬」という言葉を提唱したのはステムリムで、開発の先頭にあるのが、次の節で説明するレダセムチドです。
再生誘導医薬は、細胞ではなく、細胞が集まる合図を投与する薬です。製品の実体が変わるため、製造から評価まで、見るところが変わります。
2. レダセムチドの仕組み ― HMGB1の一部を合成したペプチド
レダセムチドのもとになったのは、HMGB1というタンパク質です。HMGB1は細胞が傷ついたときに放出され、組織の修復に関わる信号として働きます。ただし炎症を強く起こす領域も含むため、そのまま薬にするのは向きません。
そこでステムリムは、HMGB1の中から幹細胞の再生を誘導する活性ドメイン(生理活性を担う領域)だけを取り出し、化学合成したペプチドを開発しました。これがレダセムチド(開発コード S-005151)で、塩野義製薬へ導出(ライセンス提供)されています。
静脈内に投与すると、骨髄にある間葉系幹細胞(MSC、さまざまな組織に分化でき、修復を助ける幹細胞)が血液中へ動員され、損傷部位に集まるとされます。
集まったMSCは、移動する力、免疫の調整、栄養因子の分泌、線維化の調整といった複数の働きをもつため、ひとつの薬で幅広い疾患に使える可能性がある、というのがこの設計の考え方です。体外で培養したMSCを移植する治療は、間葉系幹細胞の製造で扱っています。
3. 細胞医薬とのちがい ― 製造、物流、そして評価
実務への影響がいちばん大きいのは、製品が細胞ではなく合成ペプチドであることです。
| 観点 | 従来の細胞医薬(移植型) | 再生誘導医薬(動員型) |
|---|---|---|
| 治療に使う細胞 | 体外で培養した細胞を移植 | 患者自身の幹細胞を動員 |
| 製品の実体 | 生きた細胞 | 合成ペプチド |
| 製造・物流 | 無菌培養、低温輸送、短い有効期間 | 一般的な医薬品と同様に扱える |
| 品質の見方 | 細胞の生存率、表現型、効力 | ペプチドの純度、不純物 |
日本の薬機法では、人の細胞を加工した製品は再生医療等製品、化学合成のペプチドは医薬品と、別の区分で扱われます。レダセムチドが受けたのも、希少疾病用医薬品の指定です。
そのため、製造と品質管理原料・資材・中間体・製品を規格に照らして試験し、使ってよいか、出荷してよいかの合否を決める仕事です。GMPでは製造部門から独立させます。詳しく →は、合成ペプチド複数のアミノ酸がペプチド結合でつながった中分子化合物で、タンパク質より鎖が短いものを指す。詳しく →の枠組みで進みます。ペプチド固相合成やペプチドの不純物プロファイルが、細胞医薬の無菌培養や生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。詳しく →の確認に代わる中心の話題です。バイオプロセスや物流を担う立場からは、この差は小さくありません。
ただし、細胞を製品にしない代わりに、効いたかどうかを確かめる難しさが残ります。動員される幹細胞の量や質は、患者の状態によって変わりうると考えられます。
問題は、体の中で起きる再生を試験でどう測るか、つまり細胞医薬の効力(ポテンシー)に当たる指標を、薬を受けた体の側にどう置くかです。
細胞医薬が抱える製造と物流の難しさは減りますが、効果の評価の難しさは、形を変えて残ります。
4. 開発の状況 ― 国内で達成、グローバルで未達
レダセムチドの脳梗塞の試験は、2021年から2026年にかけて、結果が分かれました。
2021年12月、塩野義製薬は国内の第2相試験で主要評価項目を達成したと発表しました。対象は、発症から4.5時間から24時間で、血栓を溶かす治療や、血管を再開通させる治療の対象にならない患者です。
2023年4月には、規制当局との相談を受けて計画を一部見直し、グローバルの後期第2相試験として進めると発表しました。この試験は、発症から25時間以内の急性期脳梗塞の成人を対象に、用量を変えた2群とプラセボ有効成分を含まないが外観・剤形などを実薬と同一に見せた製剤で、対照群への投与や盲検維持のために用いられる。詳しく →を比べる二重盲検の設計で、登録情報では627人の規模です。血栓を溶かす治療や血管を再開通させる治療の対象にならない患者と、対象になる患者の、2つの集団を含みます。
2026年9月9日、塩野義製薬はこの試験の結果を速報で明らかにしました。主要評価項目の90日時点の修正Rankin尺度(mRS、障害の程度を0の症状なしから6の死亡までで表す指標)は、プラセボとの間に統計的に有意な差を示せませんでした。
レダセムチドの安全性上の懸念は認められず、忍容性は良好だったとされています。
国内の試験とは、発症からの時間や、再開通療法の対象になる患者を含むかどうかなど、対象の条件が違うため、国内の結果と並べて単純には比べられません。詳しい解析は、今後の発表を待つ段階です(塩野義製薬の発表)。
栄養障害型表皮水疱症(皮膚が非常にもろくなる遺伝性の希少疾患)では、2023年に日本で希少疾病用医薬品の指定を受けています。同じ日の速報では、追加の第2相試験で主要評価項目の難治性潰瘍の閉鎖が4例中3例で達成され、一部の症例では、全身の潰瘍の面積など、ほかの症状にも良い結果がみられたとされています。
ただし、単群で非盲検、症例数は4例と少なく、脳梗塞の試験とは証拠としての重みが違います。
小さな試験の結果が、次の試験でも同じ方向に出るとは限りません。症例数、盲検の有無、対象患者の違いを分けて読むことが、この領域の記事や発表を読む基本です。
5. 読むときに確かめること
再生誘導医薬の記事や発表に出会ったとき、次の点を確かめます。
- 製品の実体:製品の実体が細胞なのか、薬(ペプチド)なのかを確かめます。あわせて、細胞医薬の制約がそのまま当てはまるかを考えます。
- 「効く」の根拠:根拠がどの試験かを確かめます。症例数は何人で、盲検か、プラセボと比べているかを見ます。
- 対象患者:試験の対象患者が、発症からの時間や前の治療で絞られていないかを確かめます。次の試験の対象と同じかも見ます。
- 動員の仕組みの根拠:動員の仕組みの説明が、動物や試験管の結果か、患者での確認かを確かめます。
- 発表の時点:開発段階と適応がどの時点の発表かを確かめます。塩野義製薬とステムリムの最新の発表で更新されていないかも見ます。
製造と品質を知りたい人は、ペプチドの合成ルートの記事が入口です。細胞を扱う側の製品は、MSC用の培地の製品ページで比べられます。
参考文献
- 株式会社ステムリム, 再生誘導医薬
- 株式会社ステムリム, 開発パイプライン
- Shionogi, Topline results of two clinical studies of redasemtide (S-005151)(2026年9月9日)
- 塩野義製薬, 再生誘導医薬候補S-005151(レダセムチド)の急性期脳梗塞患者を対象とした第2相臨床試験の良好な結果について(2021)
- 塩野義製薬, レダセムチドの急性期脳梗塞を対象としたグローバル後期第2相試験開始について(2023)
- ClinicalTrials.gov, NCT05953480: A Phase 2b, Randomized, Double-blind Study of Redasemtide (S-005151) in Adult Participants With Acute Ischemic Stroke
- 日経バイオテク, 塩野義、レダセムチドの栄養障害型表皮水疱症に対する希少疾病用医薬品の指定について(2023)
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