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抗体医薬研究・非臨床安全性

ADCの非臨床安全性とは?毒性はペイロードで大きく決まる

Proglenth 編集部公開 2026-07-17更新 2026-10-09約6分で読めます

血小板のもとになる細胞(巨核球)を試験管内で調べると、抗体のトラスツズマブは成熟を妨げませんでした。ところが、同じ抗体に DM1抗体薬物複合体(ADC)で抗体に結合させる強力な細胞毒(薬物)です。抗体によって標的の細胞まで運ばれ、そこで細胞を殺す作用を担います。詳しく → という薬をつないだ T-DM1(製品名 Kadcyla)は、成熟を止めました。しかも巨核球は、標的の HER2 に頼らずに、この抗体を取り込みます。

毒性・安全性薬理 ↗ADCペイロード ↗ADCリンカー ↗PK・免疫原性測定 ↗#ADC#非臨床安全性#ペイロード#オフターゲット毒性
ADCの非臨床安全性とは?毒性はペイロードで大きく決まる

抗体薬物複合体(ADC)抗体に細胞傷害性の薬物(ペイロード)を結合させた医薬。標的へ薬物を運んで作用させる。は、標的を選ぶ抗体に、細胞を殺す力の強い薬(ペイロード)を、リンカーADCで抗体とペイロードをつなぐ部分。両者の結合や体内での薬物放出の性質を左右する。詳しく →という化学的なつなぎでつけた薬です。毒性には、抗体が結合する標的で説明できるものと、標的と無関係にペイロードが決めるものがあります。臨床で用量を縛る副作用は、後者であることが少なくありません。

抗体としての非臨床試験の組み方は、バイオ医薬品の非臨床安全性試験はどの順で組むかに任せます。この記事は、ADC標的を選ぶ抗体に、細胞傷害性の薬物(ペイロード)をリンカーでつないだ分子。詳しく →で加わるペイロードの毒性に絞ります。体内で何がどう動くかはADCのPK/ADME、ペイロードとリンカーの調達はADCのペイロード・リンカー供給で扱っています。

毒性の出どころ ― 標的に依存する毒性としない毒性

ADCの副作用は、出どころで二つに分けて考えます。

一つめは、標的に依存する毒性です。標的の抗原が腫瘍以外の正常な組織にも出ていれば、そこにADCが集まって、ペイロードが効いてしまいます。抗体医薬と同じ見方で、組織交差反応性試験などで見当をつけます。

二つめが、標的に依存しない毒性です。ADCは、抗原を持たない細胞にも少しずつ取り込まれます。細胞が周りの液ごと分子を飲み込む取り込み(ピノサイトーシス細胞が周囲の液体を少しずつ飲み込んで取り込む働き。血中タンパク質が細胞内に入る経路の一つ。)や、抗体の Fc 部分を介した取り込みなど、抗原を使わない道がいくつもあるからです。さらに、リンカーが血中で少しずつ外れると、遊離したペイロードが全身をめぐります。こうなると、抗体が標的を選ぶ働きは及びません。

Kadcyla の血小板減少は、この二つめの典型です。巨核球が DM1 のついた抗体を取り込み、DM1 が成熟を止めて、血小板が作られにくくなると考えられています。取り込みの経路には、いまも議論が残っています。臨床で問題になる毒性が標的の発現量細胞が目的のタンパク質を作る量。低いと必要量の確保に手間がかかり、製造コストが上がる。詳しく →とうまく相関しないのは、こうした経路があるためです。

ADCの毒性は、標的の分布だけでは読めません。標的に依存しない取り込みと、血中で外れたペイロードを、別に見る必要があります。

ペイロードの系統と、出やすい毒性

ペイロードの系統が分かれば、出やすい毒性のおよその見当がつきます。

微小管(細胞分裂に要る細い管)の働きを止める系統には、MMAE と DM1 があります。MMAE を使う Adcetris(ブレンツキシマブ ベドチン)は、添付文書で末梢神経障害と好中球減少が警告されています。標的が違う他の MMAE 系ADCにも、末梢神経障害は共通して見られます。DM1 を使う Kadcyla では、肝毒性(枠囲みの警告)と血小板減少が警告に挙げられています。

DNAを傷つける系統の代表が、カリケアマイシンです。Mylotarg(ゲムツズマブ オゾガマイシン)と Besponsa(イノツズマブ オゾガマイシン)は、どちらも肝臓の細い血管がふさがる肝類洞閉塞症候群(VOD)が、重い毒性として警告されています。標的が違う二つの薬に同じ毒性が出ることは、ペイロードの影響をうかがわせます。

DNAの複製に要る酵素トポイソメラーゼIを止める系統が、Enhertu(トラスツズマブ デルクステカン)の DXd です。Enhertu では、間質性肺疾患が重い副作用として警告されています。どの毒性がどこまでペイロード由来かは、薬ごとに議論があります。

ペイロードの系統は、非臨床でまず丁寧に見る臓器を教えてくれます。骨髄、神経、肝臓は、標的が何であっても見ます。

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事例 ― 用量の分け方で毒性が動いた Mylotarg

Mylotarg は、ペイロードの毒性が用量の組み立てで動くことを示した薬です。

2000年に米国で、再発した高齢の急性骨髄性白血病向けに承認されました。しかし、確認のための試験で臨床上の利益が示されず、早い時期の死亡が多いという安全性の懸念も重なって、2010年に米国の市場から引き上げられました。2017年9月1日に FDA が再び承認したとき、投与の組み立てが変わっていました。ピーク濃度が高いほど VOD が起きやすいという薬物動態投与した薬が体内で吸収・分布・代謝・排泄されていく挙動。ADCではDARが大きく影響する。詳しく →の解析から、1回の量を減らして数回に分ける形にしたのです。分けても、標的を飽和させる効き目は保てるという見立てでした。

ここから見えてくるのは、ADCの毒性が、総量だけでなくピーク濃度にも左右されうることです。動物の試験でも、投与の間隔や1回量を変えたときに所見がどう動くかを見ておけば、臨床の用量の組み立てに使えます。

毒性は、総量だけでなくピークの高さにも左右されることがあります。投与スケジュールは、ADCの安全性を決める設計変数の一つです。

動物の選び方と測り方 ― 抗体の側とペイロードの側を分ける

抗体の部分は、バイオ医薬品と同じく、標的に結合する関連動物種(多くはサル)で見ます。ペイロードの毒性は、抗体が結合しない種でも出ます。そこでADCの試験では、関連種に加えて、抗体が結合しない種(げっ歯類など)でも見て、ペイロードに由来する毒性を押さえる設計が考えられます。抗がん剤の非臨床評価を扱う ICH S9進行がん治療薬に特化した非臨床評価に関する国際ガイドラインで、対象患者の状況を踏まえた安全性試験の実施範囲・時期を規定している。詳しく → の考え方も、ここに重なります。結合しない種で出た毒性は、標的に依存しない、ペイロード側の毒性を読む手がかりです。

測る対象も分けます。総抗体、ADC、遊離ペイロードの三つを別々に測らないと、毒性が出たときに、ペイロードが外れたのか、ADCのまま届いたのかが分かりません。

DAR(抗体1分子あたりの薬物数)も効きます。DAR が高いほどペイロードの総量は増えますが、毒性も体内動態も変わるので、高いほどよいとは言えません。平均だけでなく、薬が付きすぎた分子の割合(DAR分布DAR0/2/4/6/8などの構成比。平均が同じでも分布の形しだいで製品の性質が変わる。)が、毒性試験のロットと臨床用のロットでそろっているかを確かめます(ADCのコンジュゲーションとDAR)。リンカーの設計で血中での外れを減らす試みもあります(エキサテカン系ADCの凝集、リンカー設計でどう抑えたか)。

サルで見えた毒性のどこまでが抗体由来で、どこからがペイロード由来かを、種と測定で切り分けます。

明日から確かめられること ― ADCの非臨床資料を読むとき

毒性試験の報告書や、開発元・受託先の説明資料を開いて、次の点を確かめてください。

  • 毒性所見が、標的に依存するものと、しないものに分けて整理されているか
  • 抗体が結合する種と、結合しない種の両方で見ているか。どの所見がどちらで出たか
  • 総抗体、ADC、遊離ペイロードが別々に測られているか
  • 骨髄、神経、肝臓など、ペイロードの系統から予想される臓器が、病理で丁寧に見られているか
  • 投与間隔や1回量を変えたとき、所見がどう動いたか
  • 毒性試験に使ったロットの平均DAR抗体薬物複合体(ADC)で、抗体1分子に結合した薬物の平均数です。効果と安全性を左右するため測定する指標です。詳しく →とDAR分布が、臨床用と同じ範囲か

ペイロードやリンカーの供給元を探すときはADC薬物リンカー(ペイロード)、毒性試験の受託先は毒性病理・安全性薬理の製品ガイドにまとめています。抗体としての非臨床の全体像は非臨床の毒性試験・安全性薬理から読めます。

参考文献

  • ICH S6(R1)バイオ医薬品の非臨床安全性評価の考え方を示すICHガイドライン。種選択などの枠組みを定める。詳しく →, Preclinical Safety Evaluation of Biotechnology-Derived Pharmaceuticals(抗体部分の種の選び方)
  • ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → S9 およびその Q&A, Nonclinical Evaluation for Anticancer Pharmaceuticals(抗がん剤の非臨床評価。ADCへの適用を含む)
  • Uppal H, et al. Potential mechanisms for thrombocytopenia development with trastuzumab emtansine (T-DM1). Clin Cancer Res. 2015;21(1):123-133.(巨核球のHER2に依らない取り込みとDM1による成熟阻害)
  • Pfizer, Pfizer Receives FDA Approval for MYLOTARG (gemtuzumab ozogamicin)(2017年9月1日。再承認の経緯と投与法の変更)
  • FDA, KADCYLA Highlights of Prescribing Information
  • FDA, ENHERTU Highlights of Prescribing Information
  • FDA, ADCETRIS Highlights of Prescribing Information
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この記事の目次
  1. 毒性の出どころ ― 標的に依存する毒性としない毒性→
  2. ペイロードの系統と、出やすい毒性→
  3. 事例 ― 用量の分け方で毒性が動いた Mylotarg→
  4. 動物の選び方と測り方 ― 抗体の側とペイロードの側を分ける→
  5. 明日から確かめられること ― ADCの非臨床資料を読むとき→
  6. 参考文献→
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この記事の目次
  1. 毒性の出どころ ― 標的に依存する毒性としない毒性→
  2. ペイロードの系統と、出やすい毒性→
  3. 事例 ― 用量の分け方で毒性が動いた Mylotarg→
  4. 動物の選び方と測り方 ― 抗体の側とペイロードの側を分ける→
  5. 明日から確かめられること ― ADCの非臨床資料を読むとき→
  6. 参考文献→
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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。

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