ADCのPK/ADMEとは?体内で姿を変える薬を三つに分けて測る
ADC標的を選ぶ抗体に、細胞傷害性の薬物(ペイロード)をリンカーでつないだ分子。詳しく →の血中濃度を測るなら、何を測ればよいのか。抗体医薬なら、血中の抗体を測れば足ります。ADCでは、抗体が残っていても、薬物が外れていれば、薬としては働きません。
測るのは三つです。抗体全体の量(総抗体)、薬物が付いたままのADCの量、外れた薬物(遊離ペイロード抗体薬物複合体(ADC)で抗体に結合させる強力な細胞毒(薬物)です。抗体によって標的の細胞まで運ばれ、そこで細胞を殺す作用を担います。詳しく →)の量です。濃度の桁も違います。Kadcyla では、ADCの血中濃度のピークが1 mLあたり約83マイクログラムなのに対して、遊離のDM1は約4.6ナノグラムで、1万倍以上の開きがあります。桁が違えば測り方も違い、1つの方法ではまとめて測れません。

この記事は、ADCが体内でどう姿を変え、どう消えて、どこを測るかに絞ります。ペイロードの毒性はADCの非臨床安全性とペイロード毒性、ペイロードとリンカーADCで抗体とペイロードをつなぐ部分。両者の結合や体内での薬物放出の性質を左右する。詳しく →の調達はADCのペイロード・リンカー供給で扱います。
血の中の三つの姿 ― 総抗体、ADC、遊離ペイロード
ADCは投与した瞬間から、中身が変わり続ける混合物です。
抗体をトラック、ペイロードを荷物にたとえると分かりやすくなります。投与直後は、荷物を積んだトラックだけが走っています。時間がたつと、途中で荷物が外れ、荷物を降ろした空のトラックと、降ろされた荷物が増えていきます。空のトラックは「総抗体」には数えられますが、「ADC」には数えられません。降ろされた荷物が、遊離ペイロードです。
三つの測定は、それぞれ別の問いに答えます。総抗体は、抗体がどれだけ残っているか。ADCは、薬として働く形がどれだけ残っているか。遊離ペイロードは、外れた薬がどれだけ血中に出ているか。総抗体とADCの差は、投与直後はほぼゼロですが、時間がたつほど広がります。この広がり方が、薬物が外れる反応(脱抱合)がどれだけ進んだかを表します。

だから、カタログや添付文書にある平均DAR抗体薬物複合体(ADC)で、抗体1分子に結合した薬物の平均数です。効果と安全性を左右するため測定する指標です。詳しく →は、出荷時の分析値であって、血中で運ばれている今の値ではありません。血中では、薬物が外れていくうえ、付いている薬物の多い分子ほど速く消える傾向もあるので、循環中の平均DARは時間とともに下がります(ADCのコンジュゲーションとDAR)。
ADCのPKは1つの濃度では語れず、総抗体、ADC、遊離ペイロードの3本の曲線を並べて読みます。
リンカーの化学 ― Kadcyla、Adcetris、Enhertuの外れ方
薬物が外れる速さを決めるのは、DARの数字ではなく、リンカーの化学です。
非切断型の Kadcyla は、リンカー自体が血中で切れません。DM1が外れるのは、抗体ごと標的の細胞に入ったあとで、血中の遊離DM1は低く保たれます。1回目の投与後の最高濃度の平均は、約4.6 ng/mLです。その代わり、抗体が分解されるまで薬物は出ないので、標的の抗原が少ない腫瘍には届きにくいとされます。
切断型は、標的の細胞の中で薬物を出す設計ですが、細胞の外でも切れる危険を抱えます。標的にたどり着く前に血中で切れれば、遊離ペイロードが増えて、全身の毒性につながります。一方、切断型のペイロードが膜を通りやすければ、抗原を持たない隣の細胞にも効く、バイスタンダー効果が働きます。
どちらが優れているという話ではありません。腫瘍の抗原の出方がまだらなら切断型が、全身への遊離薬物を抑えたいなら非切断型が、それぞれ有利に働きます。DARを高くするかどうかも同じで、設計の選択です。
リンカーが非切断型か切断型かで、遊離ペイロードの出方も、効く範囲も変わります。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる消える速さ ― 抗体より速いADCと、桁違いに薄い遊離ペイロード
抗体の骨格は、FcRnIgGを細胞内でリサイクルして血中半減期を延ばす受容体。サイレンシング設計でも結合を残すことが多い。詳しく →という仕組みで回収されて再利用されるので、血中に長く残ります(抗体の半減期とFcRn)。ADCも同じ骨格を持ちますが、薬物を付けると消え方が変わります。
トラスツズマブ単独の半減期は、欧州医薬品庁(EMA)の声明で、進行中の臨床試験の予備的な結果をもとに約25日と見積もられています。同じトラスツズマブに DM1 を付けた Kadcyla は、添付文書で消失半減期が約4日です。骨格が同じでも、半減期はざっくり6分の1です。Adcetris も、ADC自体の終末半減期は4〜6日です。標的に結合した複合体が細胞に取り込まれて消える、標的介在性の消失薬が標的に結合すること自体が薬の消失に関わり、PKとPDが一体で動く現象。抗体で重要。詳しく →も加わります。
遊離ペイロードは、ADCとは別の世界です。小さな分子で、血漿のタンパク質にも結合します。DM1は試験管内で93%、Adcetris から放出される MMAE は68〜82%が結合します。測りたい遊離形はごく一部です。しかも、ADCから放出され続けている間は、遊離ペイロードの血中での見かけの消え方は、消える速さより放出される速さに引きずられます。濃度が薄いうえ、時間の経過の読み方も、ADCとは違います。
ADCの消え方は、骨格の抗体の半減期薬の血中濃度が半分に下がるまでの時間。抗体フラグメントでは短く、延長の工夫が要る。詳しく →から類推せず、ADCそのものを測って読みます。
動物のPKを読むときの落とし穴 ― マウスの血漿で切れるリンカー
非臨床のPKでは、種の違いにも注意が要ります。
Adcetris と同じバリン-シトルリン型のリンカーは、ヒトの血漿では安定ですが、マウスの血漿では、カルボキシルエステラーゼのCes1cという酵素が切ります。つまり、マウスのPKは、薬物が標的に着く前に外れる分だけ、ヒトより不安定に出ます。この酵素の影響を避けるには、Ces1cを欠いたマウスを使う方法があります。リンカーの側では、バリン-シトルリンの手前にグルタミン細胞のエネルギー源・窒素源となるアミノ酸。細胞の代謝でも培地中の化学分解でもアンモニアを放出する。詳しく →酸を足すと、マウスの血漿でも切れにくくなり、マウスの腫瘍モデルでは薬の効きも高まりました(Anami ら、2018年)。
だから、マウスの結果をそのままヒトの脱抱合の速さの見積もりに使いません。リンカーの種類が切断型なら、動物種ごとの血漿での安定性を、試験管内で比べておくのが安全です。血漿に浸して遊離薬物の放出量を測る受託サービスもあります。受託先の比較は、PK/免疫原性バイオアナリシス(受託)の製品ページが入口です。
切断型リンカーのADCは、マウスのPKが「実際より不安定」に出ることを前提に、結果を読みます。
どこを測るか ― LBAとLC-MS/MSの使い分け
総抗体、ADC、遊離ペイロードは、大きさも濃度も違うので、測り方を使い分けます。
抗体系の総抗体とADCは、リガンド担体ビーズ表面に結合させた官能基やタンパク質で、目的物や不純物と相互作用して分離を担う部分。詳しく →結合アッセイ(LBA)で測ります(LBAのバリデーション)。遊離ペイロードは、液体クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →質量分析(LC-MS/MS液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせ、断片を一つずつ読んで配列や修飾部位を特定する手法。詳しく →)で測り、重水素などで標識した同じ薬物を内標準に使います。いちばん難しいのは、薬物が付いた抗体だけを選んで測るADCの定量です。免疫沈降で抗体を捕まえてからLC-MS液体クロマトグラフで成分を分離したうえで質量分析計にかけ、分子量を測って物質の同定や定量を行う手法です。詳しく →/MSで読む、ハイブリッド法が使われます。時間ごとにDARの変化を追えば、体内で薬物が外れる速さを評価できます。
受託先には、これらを一括で請け負うところがあります。たとえば住化分析センター(SCAS)は、免疫沈降の前処理とLC-MS/MS、LBAを組み合わせた測定系を、GLP非臨床試験の信頼性を担保するための基準。申請用のhERG試験などで求められる。詳しく →とICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → M10に対応して提供しています。Pharmaron も、免疫親和のハイブリッドLC-MS/MSで総抗体、ADC、遊離ペイロードを測っています。
ラボに聞くのは、「DARを測れますか」ではありません。「その遊離ペイロードの定量下限(LLOQ)は何ng/mLで、どう決めたか」です。遊離ペイロードはもともとの濃度が薄いので、定量下限が高いと、ほとんどの時点が「検出せず」になります。
測定法の優劣より先に、遊離ペイロードの定量下限が、実際の血中濃度より十分に低いかを確かめます。
明日から確かめられること ― PK計画と報告書
PK試験を計画するとき、報告書を受け取るときに、次の点を確かめます。
- 追うアナライト相互作用解析で溶液側に流す測定対象の分子。センサーに固定する側はリガンドと呼ぶ。詳しく →が、総抗体、ADC、遊離ペイロードの3つそろっているか。それぞれの測定法と、定量下限は何か
- 採血から凍結までの時間と温度が、ADCの値に影響しないことを確かめたデータがあるか
- 結合抗体を、消失相投与後、血中濃度が最終的に減っていく段階。この傾きからVareaや半減期を求める。詳しく →の後半まで測っているか。そこまで測らないと、脱抱合の速さが評価できない
- リンカーがバリン-シトルリン型なら、マウスの結果をどう読んでいるか。サルなど別の種のデータはあるか
- 内標準の同位体標識体を、入手できるか
- 受託先が、GLPとICH M10に対応し、LBAとハイブリッドLC-MS/MSの両方を持つか
- 報告された値が、Kadcyla など承認薬の公表値と比べて、極端に離れていないか
営業の立場なら、顧客のADCのリンカーが切断型か非切断型かを最初に聞くと、遊離ペイロードの測定の重さが見えます。
ペイロードを測る装置は、LC-MSの製品ページで比べられます。ADCの毒性の出方はADCの非臨床安全性とペイロード毒性、薬物リンカーの調達はADCのペイロード・リンカー供給で読めます。
参考文献
- FDA, KADCYLA (ado-trastuzumab emtansine) Highlights of Prescribing Information(平均DAR 3.5、クリアランス、半減期、DM1の濃度)
- FDA, ENHERTU (fam-trastuzumab deruxtecan-nxki) Highlights of Prescribing Information
- FDA, ADCETRIS (brentuximab vedotin) Highlights of Prescribing Information(平均DAR 4、ADCとMMAEの半減期、MMAEのタンパク結合)
- EMA, Public Statement on Herceptin (Trastuzumab): New Pharmacokinetic Data(トラスツズマブの半減期の見積もり約25日)
- Anami Y, et al. Glutamic acid-valine-citrulline linkers ensure stability and efficacy of antibody-drug conjugates in mice(Nat Commun. 2018;9:2512。マウスの血漿でのバリン-シトルリンの不安定さと改良)
- Senter PD, Sievers EL. The discovery and development of brentuximab vedotin for use in relapsed Hodgkin lymphoma and systemic anaplastic large-cell lymphoma. Nat Biotechnol. 2012;30(7):631-637.
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